Side 織斑 一夏
俺以外は女性しかいない、そんな環境でもいつかは慣れるものらしい。
幼馴染達と再会したり、ISでの実戦に明け暮れたり・・・。
そんな波乱づくしな学園生活だったが、ここ1週間は平穏そのものだ。
箒との同居生活も終わって精神的にも平和だ、男の子的に女子と同居はキツかった・・・。
先週末の休みには、弾の家に久しぶりに遊びに行ったしな。
ああ、ちなみに弾って言うのは俺の中学時代からの悪友で、五反田定食って言う定食屋が実家。
弾には蘭って言う妹がいるんだけど、まぁ、そこらへんはまた紹介するよ。
・・・って、誰に言ってんだろうな、ハハ。
「・・・てな具合に、平穏だったんだけどなぁ」
「え、何?」
「ああ、いやいや、独り言」
急に声を出したからか、教室の俺の隣の席の子が振り向いて来た。
その子に手を振って謝った俺の視界、そこには教壇の横に立つ2人の男女がいる。
・・・そう、「男」女だ。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
にこやかな顔でそう言うのは、ブロンドの髪が眩しい白人美少年。
礼儀正しい立ち居振る舞いと中性的な顔立ち、長い金髪を首の後ろで丁寧に束ねている。
本当に男かって思うくらい小柄で華奢なのが気になるけど・・・「男」だ。
正直に言おう。俺は今、猛烈に感動している・・・!!
入学から1ヵ月と少し、ようやく・・・ようやく!
ようやく、男が俺1人だけと言う苦しい状況から脱却できるんだからな!
いろいろと困ることもあるだろうから、先輩として、そして友人として助けてあげよう。
俺は固く心にそう決めた、本人の許可はまだ得ていないけど。
他の女子はシャルルの儚げな美少年ぶりに黄色い声を上げてるけど、それすら今は気にならない。
「・・・挨拶をしろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここでは織斑先生と呼べ。大体、私はもうお前の教官じゃない」
「了解しました」
そしてもう一人は、何と言うか特異だった。
教室に入ってからこっち、軍人然とした雰囲気で千冬姉に接してるし・・・今のやりとりの間も、ビシッとした敬礼の姿勢。
教官・・・そう言えば千冬姉は昔、1年だけドイツで軍の教官をしていたと聞いたことがある。
それ関係だろうか、その場合、あの子はドイツの軍関係者と言うことになるわけだが。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
以上、簡潔な自己紹介だった・・・って、俺も似たような物だったような気が。
腰近くまで下ろした長い輝くような銀髪、赤い右眼に、左眼は黒い眼帯で隠れている。
シャルルよりも小柄だけど、全身から放つ冷たい威圧感が彼女・・・ラウラを大きく見せている。
と、俺がそんなことを考えていると・・・。
パァンッ!
・・・今の音は、俺がラウラに顔をはたかれた音だ。
平手、しかも逆手打ち。
と、冷静に考えている場合じゃねぇよ!
「いきなり何しやがる!?」
「・・・貴様があの人の弟? 私は認めない、貴様など」
意味がわからない。
ラウラはラウラで、その後はスタスタと教室の後ろに用意された自分の席に歩いて行きやがるし。
・・・何なんだ、コミュニケーション障害か何かか?
「・・・以上でホームルームを終了する」
「え・・・あ、えと! では今日は2組と合同でIS模擬戦をします。全員、ISスーツに着替えて第2アリーナに集合、急いでください!」
そうこうしている内に千冬姉がホームルーム終了を宣言、山田先生が慌てて次の予定を告げる。
と言うか千冬姉、今のをスルーですか。
「織斑、デュノアの面倒を見てやれ・・・同じ男だろう」
「あ・・・ああ、はい! わかりました!」
よし、気持ちを切り替えよう。
何はともあれ、男の知り合いができるのは嬉しい。
いろいろと・・・うん、いろいろと苦労するだろうから。
俺が、面倒を見てやらないと・・・!
Side シャルル・デュノア
シャルル、それが僕に与えられた新しい名前。
まぁ、そのことについてとやかく言うつもりは、今さら無いのだけれど。
「よーし、到着だ! とにかく急げよシャルル、ここは俺達男には優しく無い作りになってるんだからな・・・!」
「う、うん」
挨拶もそこそこに、一夏(そう呼んで良いって)は僕を第2アリーナの更衣室にまで連れて来てくれた。
何でも、教室ではすぐに女子が着替え始めるからって・・・男は、使うアリーナのロッカールームで着替えるように言われてるんだって。
正直、最初はどうしていきなり手を引かれているのかわからなかったけど・・・。
・・・そっか、男の子は別の場所で着替えないと不味いよね。
それにしても、ここに来るまでにたくさんの女の子に追いかけられたけど、何でなんだろう・・・。
「そりゃ、男は俺達しかいないんだから、そうなるだろ?」
「え・・・あ、そっか、そうだよね! あはは・・・」
会話もそこそこに、一夏は来ていたシャツを一気に・・・って、わわわっ、わ・・・っ!?
僕が慌てて一夏から目を背けると、一夏は不思議そうに(上半身裸で)僕の方を見て来た。
わ、わわわ・・・っ。
「どうしたシャルル? 早く着替えないと・・・うん、本当に早くしないと、織斑先生に凄いことをされるぞ?」
「逆に聞くけど、凄いことって?」
「・・・世の中、知らない方が良いこともあるさ。なぁ?」
何故か、綺麗な笑顔でそう言われた。
その後、一夏は何か遠い目で何かを思い出して・・・あ、今の内にISスーツに着替えよう。
ISスーツはISを装着する際に基礎となる衣装で、肌にぴったりとくっつくスーツ。
まぁ、スポーツウェアみたいな物かな・・・たくさんの企業がこの製品を作っていて、僕のはデュノア社製のオリジナルのフルオーダー。
まぁ、個々人が気に入ったスーツを着るのが一番とされているね。
「うおっ、シャルル着替えるの早いな・・・何かコツでもあるのか?」
「いや、別に何も・・・」
「そうか・・・これ、肌に密着する分着辛いんだよな・・・引っかかって」
「・・・ひ、引っかかる・・・」
「おう」
その後、一夏の着替えが終わるのを待ってアリーナへ。
ここでも、僕は一夏に手を引かれて案内される。
・・・ど、どうして手を繋ぐのかな? 別に良いけど。
「・・・そう言えばさぁ、シャルルのファミリーネーム、どっかで聞いた覚えが」
「デュノア? うん、フランスで一番大きいIS関連企業だね。僕の実家、お父さんのね」
「へぇ、じゃあ社長の息子なんだ? どうりでこう・・・いいところの出! って感じの気品がすると思ったよ」
・・・いいところ、ね。
「・・・一夏こそ、あの織斑千冬さんの弟さんなんでしょう?」
「ハハハ、こやつめ!」
「・・・へ?」
探るように視線を向けると、一夏は快活に笑いながらそんなことを言って来た。
こや・・・え、何?
「い、いや、何でも無い。お互いに地雷を踏んだってことで・・・」
「・・・ふ、ふーん? 良いけどさ、別に」
お、男の子って、良く分からないな。
それとも、僕が変なのかな・・・?
男の子とこうして触れ合うの、初めてだからわからない。
・・・まぁ、ギャグセンスはどうかと思うけどね。
少しずつ、慣れていくしか無いかな・・・。
そして、僕達は第2アリーナに到着した。
Side 篠ノ之 楓
クラスの皆は学校指定の紺色のISスーツ、箒姉さんも同じ物。
でも私はすでに専用機持ちとして周知されてしまったので、自分用のISスーツを着てる。
まぁ、イメージとしては黒のレオタードにニーハイソックスでも思い浮かべてくれれば。
後は、翼を象った銀の模様が入ってるくらいで・・・。
でもコレ、身体にぴったりと張り付くから身体のラインがはっきりとわかってしまう。
箒姉さんと私、お揃いで無いのはスーツだけでは無くて・・・。
「な、何だ・・・?」
「ううん、何でも無い」
心無し胸を庇うように腕を汲む箒姉さんに、私はプルプルと首を横に振って見せた。
・・・牛乳味の飴、買おう。
効果があったことは、1度だって無いけど。
「これより、格闘・射撃を含む実戦訓練を開始する」
第2アリーナの中央、1組と2組の合同訓練(60人弱)。
それと、第2世代型量産ISが何機か。
広いアリーナの真ん中で、千冬姉様の声が響く。
「今日は戦闘を実演してもらうとしよう、ちょうど活力に溢れた10代女子がいるしな・・・凰! オルコット! いつまでも蹲って無いで前に出ろ!」
「うう・・・何かにつけて人の頭をポンポンと・・・」
「一夏のせい一夏のせい一夏の・・・」
なお、凰さんとオルコットさんは列の外で頭を押さえて蹲ってる。
一夏さんがシャルルさんを連れて来た後、教室でボーデヴィッヒさんに一夏さんが叩かれた件でお喋りしていたから、千冬姉様の出席簿が火を噴いたわけ。
・・・オルコットさんは親切で凰さんに教えてただけなのに、とばっちりかも。
「ほら、さっさとISを展開しろ、専用機持ちの方が早いんだ」
「な、なぜ私までもが・・・」
「・・・まぁ、一夏に良い所見せるチャンスとでも思えば」
オルコットさんと凰さんがブツブツ言いながらも、それぞれのISを展開。
赤みがかった黒のISと、蒼穹の色のISが2人の身体を包み込む。
どうやら、あの2人が模擬戦でもするようで・・・。
「ああああ――――っ、ど、どいてください――――っ!?」
「へ・・・え!? う、うおおおおおっ!?」
・・・その時、空から山田先生が落ちて来た。
ネイビーカラーのISに身を包んだ山田先生は、ヘロヘロした軌道で一夏さんに衝突した。
・・・今の、一夏さんが『白式(びゃくしき)』を展開するのが1秒遅かったら、凄いことになってたかも。
「な・・・い、一夏っ!?」
「大丈夫だよ姉さん、一夏さんだもん」
「それで全てが解決できると思うなよ!?」
一夏さんを心配する箒姉さんと、のんびりする私。
ISの展開さえ間に合ってれば、よほどのことが無い限り操縦者は死なない。
死ねない。
衝突した際、絡み合うように地面に穴をあけた一夏さんと山田先生はと言うと・・・。
煙が張れると、何と一夏さんが山田先生を押し倒していて・・・子供は見ちゃいけないような体勢に。
15歳だから、私も見ちゃいけない。
束お姉ちゃんとの、約束。
「いっつまで、先生に乗っかってんのよ!!」
むしろ私としては、凰さんが2本の青竜刀を連結させた武器『双天牙月』の方に興味が。
斬撃用の武器を投擲用の武器として用いるには、素材の強度を部品ごとに微妙に比率を変えて繋げる必要があって技術的にとても難しいわけで・・・。
短い間隔で、砲撃のような音が2発。
山田先生が、一夏さんを押しのけるような形でアサルトライフルを構えているのが見える。
甲高い音を立てて、空薬莢が地面に跳ねる。
一夏さんに向けて投擲された『双天牙月』を、撃ち落とした。
五十一口径アサルトライフル「レッド・バレット」、米国クラウス社製。
「山田先生は日本の元代表候補生だ・・・何を驚くことがあるんだ?」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし・・・」
悪戯を成功させたような顔で笑う千冬姉様と、恥ずかしそうにはにかむ山田先生。
・・・入試の時も、私、普通に負けた。
「黒叡」は非戦闘用だから、別に戦闘で負けても良いもん・・・。
「な、何を泣いてる?」
「泣いて無い・・・」
隣に立っている箒姉さんが、少しうろたえたような声を出す。
最近は、近くに寄っても逃げない箒姉さん。
ちょっと、嬉しい。
「さて・・・では凰、オルコット。今から山田先生と模擬戦だ・・・何、心配するな、今のお前達ならすぐに負ける」
そんなわけで、授業開始。
千冬姉様の合図と同時に、3機のISが空を飛んだ。
Side 織斑 千冬
すぐに負ける―――私の言葉にプライドを刺激されたのか、凰とオルコットは血気盛んに山田先生に向かって行く。
しかしそこは腐っても代表候補生、無闇に飛び込むような真似はしない。
凰が前衛、オルコットが後衛と役割を決めた上で行動する。
「・・・ああ、そうだな。デュノア、せっかくだから山田先生が使用している機体について皆に教えてやれ」
「あっ、はい」
私の言葉に、デュノアがハキハキとした声で答える。
「世界で2番目にISを動かした男」との名目でここに来たデュノアは、空中の戦闘を見ながら山田先生の使用している機体について説明する。
篠ノ之妹でも良いが、何せデュノア社の人間だからな。
「山田先生の使用されているISは、デュノア社製の第2世代型『ラファール・リヴァイヴ』です。第2世代型最後期の機体で、現在12ヵ国で制式採用され、7ヵ国でライセンス生産が・・・」
デュノアの説明を耳にしながら、空中の戦闘をみやる。
山田先生が両手に持ったアサルトライフルで凰とオルコットを牽制しつつ、アリーナを広く使った高速移動で2人の連携を断とうとする。
もちろん、凰もオルコットも山田先生の意図を読んでいる。
オルコットはビットで山田先生の進路を塞ぎ、凰が青竜刀で斬りかかる。
しかし、山田先生は凰の接近を許さない。
両手のアサルトライフルを連射し、半月を描くように横滑りしながら凰を誘導する。
そして、ある地点で急に攻撃対象をオルコットに変更、射撃。
「そんな射撃、当たるわけ・・・へ!?」
「げ」
オルコットが回避した先に、近接戦闘を諦めて衝撃砲の発射態勢に入っていた凰がいた。
2人が空中で衝突した瞬間、山田先生の攻撃が2人を・・・。
「・・・特筆すべきはその操縦の簡易性と
「ああ、とりあえずそこまでで良い、もう終わる」
「・・・へ?」
私の弟が間抜けな声を上げた瞬間、山田先生が投げたグレネードが直撃した凰とオルコットの2人が、折り重なるようにして地表に落ちて来た。
2人ともシールドエネルギー残量は0、山田先生は無傷。
圧倒的だな。
「く、くうぅ・・・まさか、この私が・・・!」
「な、何で回避先が読まれんのよ・・・?」
山田先生と候補生では、経験(キャリア)が違うからな。
候補生は優秀かもしれないが、それはあくまで素質の上でだからな。
特に10代の場合、IS適正の高さで決まるが・・・20歳を過ぎれば、そうも言ってられない。
まぁ、それでもそれなりに頑張った方だろう・・・流石は現役候補生。
学生の中では、見所がある方かな。
せいぜい励めよ、10代女子。
「さて、これで皆にも教員の実力の程がわかったろう・・・以後は敬意をもって山田先生に接するように」
最近は山田先生のことを「山ピー」だの「マヤマヤ」だの呼ぶ奴もいたからな、これで意識を切り替えてくれると良いのだが。
それはそれとして、本格的な授業に入るとするか。
「専用機持ちは・・・6人か。では7人組になれ、グループリーダーは専用機持ちがすること」
「あ、あの~・・・私も?」
「当たり前だ、篠ノ之妹」
「あ、当たり前・・・当たり前なら、仕方無いですね」
溜息を吐きながら、篠ノ之妹がすごすごと列に戻る。
専用機と言っても、篠ノ之妹の機体は他のと少し勝手が違うが・・・。
・・・まぁ、良い。
用意してある『打鉄(うちがね)』と『ラファール・リヴァイヴ』は合計6機、班ごとに1機ずつだ。
午前中は、まぁ、動かす所までで良いだろう。
午後には、整備をさせて・・・静かに進められると良いが、無理だろうな。
Side 篠ノ之 箒
ま、まったく、一夏め・・・山田先生のその、か、身体ばかり気にしおって・・・。
わ、私と部屋を同じくしていた時は、別段意識していなかったでは無いか。
・・・まぁ、意識されても困るのだが・・・。
「箒・・・おい、箒!」
「・・・な、何だ?」
「次、お前の番だぞ」
ISをすでに展開している一夏が、自分の後ろを親指で示す。
そこには、訓練機『打鉄(うちがね)』が立ち上がった体勢のまま停止していた。
どうやら前に使用していた人間が立たせたままで装着を解除したらしく、操縦席に足が届かない状態のようだ。
「と言うわけで、織斑君にだっこして運んで貰ってくださいね」
とは、山田先生の談。
先程の模擬戦以降、いつもより5割増しで自信と言うか威厳が漂っている気がする。
・・・いや、いつもは威厳が無いと言うわけでは無く。
・・・・・・って、抱っこ!?
そ、そそ、それはもしや、伝説の「お姫様抱っこ」と言う奴なのでは・・・?
「箒姉さん箒姉さん」
「な、何だ?」
別の班のグループリーダーであるはずの楓が、黒いISに身を包んで―――正直、少し微妙な心地になるが―――私に対して親指を立ててウインク。
声こそ出さないが、唇が「が・ん・ば・れ」と・・・って、何を頑張れと!?
「ほう、リーダーなのに余所見か。随分と余裕があるようだな、篠ノ之妹」
「い・・・!?」
そしてその楓は、ISを展開しているにも関わらず生身の織斑先生に引き摺られていった。
ど、どうやれば生身でISを、流石は千冬さんだ・・・。
・・・まぁ、一応は無事を祈っておいてやろう。
「じゃ、運ぶぜ・・・よっと」
「きゃっ・・・」
口から漏れそうになる声を、必死で押さえる。
背中と膝裏に一夏の手を感じる、まさに「お姫様抱っこ」状態。
「ちゃんと掴まってろよ、落ちるぞ」
「う、うむ。危ないからな。一夏に掴まるのは仕方が無いな」
誰に対しての言い訳かはわからないが、私はそんなことを言いつつ一夏の身体に腕を回す。
ISスーツは肌に密着する作りになっているから、薄い生地の下に一夏の鍛えられた筋肉を直に感じる。
ま、まるで直接、肌に触れられているかのような・・・い、いやいや、何を考えているんだ私は!?
「箒、ISに乗り移って歩行訓練・・・って、おーい?」
「・・・う、うむっ、そうだな、乗り移らないと訓練にならないからな」
9割の安心と1割の物足りなさを感じつつ、私は一夏から離れて『打鉄(うちがね)』に乗り移る。
乗ったのは初めてでは無いし、むしろ一夏と模擬戦をしたこともある機体だ。
歩行するくらいは、問題無い・・・が。
「そ、そのだな、一夏・・・昼は何か予定があるのか・・・?」
「ん? いや、特に無いけど」
「そ、そうか! ならたまには、昼食を一緒に取るとしよう! せ、せっかくだし屋上で・・・あ、購買で何か買ってきたりするんじゃ無いぞ!」
「お、おう・・・別に良いけど」
良し・・・良し!
今朝早起きして用意した秘策もある・・・部屋をかわってから会話する機会も減ってしまったし。
今日は、一夏とたくさん話を・・・。
Side 織斑 一夏
「・・・どう言うことだ」
「え、何が?」
昼休み、屋上。
そこには俺と箒・・・の他に、鈴とセシリアと、あとシャルルがいる。
それと、楓もいるぞ。
「私としたことが・・・!」
箒に誘われたって話をした途端、屋上の地面に手をついて何か悔しがってるけど。
おーい、戻って来いよー。
IS学園の屋上には、綺麗な花壇と石造りの丸テーブルがあって、憩いの場として生徒に開放されてる。
うん、誘ってくれた箒に感謝だな。
飯は大勢で食べた方が美味いし、それにシャルルは転入したばかりで右も左もわからないだろ。
放っておくと女子に囲まれるし・・・シャルル本人は貴公子の微笑みと優しい言葉遣いで華麗に回避してたみたいだけど。
「そ、それは・・・そうかもしれんが・・・」
「だろ? じゃ箒はそっちな、楓の隣」
「・・・う、うむ」
ちなみに席順は、俺の両隣りにシャルルと鈴、向かいに右からセシリア、箒、楓。
楓は箒が自分の隣だと聞くと、機嫌を直して戻って来た。
箒の隣が嬉しいらしい、当の箒はちょっと表情が固い気がする。
でも、一緒に飯を食えば仲良くもなれるだろ・・・なぁ、シャルル?
「え、あ・・・うん、誘ってくれてありがとう。でも本当に僕が同席して良かったの?」
「良いって良いって、男同士なんだし、仲良くしようぜ。わからないこととか困ったことがあったら、何でも聞いてくれよ・・・IS以外で」
「アンタはもう少し勉強しなさいよ」
「うるせ・・・って、酢豚!? 鈴が作ったのか?」
「ふふん、アンタの分もあるわよ」
そう言って、隣にいるにも関わらず酢豚の入ったタッパーを投げて来る鈴。
投げるなよ、食べ物を。
だが、ご飯無しの酢豚オンリーとは・・・。
「・・・ほら」
「お・・・え、俺の分?」
「他に何がある」
「いや・・・うん、サンキュな」
すると、箒も俺の分の弁当を作って来てくれていたらしい。
何だこの幼馴染ズ、素晴らし過ぎるだろ。
「ちなみに私は何も作ってきていません! 何故なら箒姉さんの邪ぱっ!?」
元気を取り戻したらしい楓が何か言おうとしたらしいけど、箒に殴られて静かになった。
・・・な、仲良く、な?
「早く食べないと、お昼休みが終わってしまいますわよ」
「おお、そうだな・・・じゃ、頂きます」
どこか澄ました態度のセシリアの声に、皆がそれぞれ食事を始める。
鈴の酢豚も美味そうだが、箒の弁当も凄く手の込んでそうな作りだった。
特にこの唐揚げなんて、しかも隠し味におろしニンニクと大根おろしと言うコンボ。
今度、俺も真似して千冬姉に作ってみよう・・・って、アレ?
「どうして箒の弁当には、唐揚げが無いんだ?」
それ以外は、同じ物が入っているのに・・・。
「いや、それは上手くできたのがそれしか・・・」
「へ?」
「い、いや、私は・・・そう、ダイエット中なのだ! だから一品減らしたのだ」
「ダイエット・・・? いや、でも別に太って無いだろ、箒」
次の瞬間、俺は女子から猛攻撃を喰らうことになった。
「あー、男って何でダイエット=太ってるの構図なのかしらね」
「そうですわね、デリカシーがありませんわ」
「よ、良くないと思います、一夏さん」
鈴にセシリア・・・って、楓までもか!?
いやでも、実際ダイエットが必要なようには見え・・・。
すると、箒が俺の目から身体を隠すように自分の身体を抱き締めた。
「・・・! ど、どこを見ている、どこを!」
「何を堂々と女子の胸を見てんのよ、アンタは!」
「女性の身体を凝視するなんて・・・非紳士的ですわ!」
「よ、良くないと思いますよ、そう言うの」
まさに集中砲火状態、凄いな女子、何故に男に対しては無条件で共同戦線を組めるのだろうか。
ま、まぁ、とにかく・・・早く食べないと昼休みが終わっちまうぜ。
何しろ、俺とシャルルはアリーナの更衣室までダッシュしなきゃいけないんだからな。
「ああ、午後の授業は格納庫でのIS整備ですもんね・・・楽しみ」
にへら、と楓が嬉しそうに笑う。
そういや、そうだったな・・・まぁ、いずれにせよいちいち着替えるのが面倒なんだよな。
「何よアンタ、いちいち着替えてるわけ、ISスーツ?」
「女子の方々はほとんどが着たままですわよ、汗も吸収してくれますし・・・動きやすいので」
「え・・・そうなのか?」
まぁ、女子のは男子よりも簡単な造りだもんな・・・露出が多くて目のやり場に困るけど。
だって着たままズボンを履くとゴワゴワしそうだし・・・。
・・・ってことは、箒や鈴も楓も、着たままってことか?
箒・・・は不味そうなので、楓をじっと見つめてみる。
そうしたら、意外なことに箒が楓の前に手を出して俺の視界から隠した。
おお、何か姉っぽい行動だ。
「だから、どこを見ているんだ一夏!」
「意味がどうあれ、非紳士的ですわ!」
「そうよそうよ、このスケベ!」
「・・・!」
いやいや、だから何故に見てただけで集中砲火!?
と言うか楓、顔を赤くして箒の背中に隠れるのはやめてくれ、精神的にキツい。
・・・でも反論は無意味だと思う、だからシャルルの方を見ることにした。
「どうしたの、一夏?」
「いや・・・男同士って、良いなと思って」
いや、本気で。
この学園における頼もしい味方、それはシャルル・デュノア。
それとさっき聞いた話だと、フランスの代表候補生で・・・。
「そういえばさ、一夏は放課後にISの訓練をしてるんだよね?」
「あ、ああ、クラスの女子にでも聞いたのか? 俺は皆から遅れてるから・・・地道に訓練時間を重ねて行かないといけないんだ」
放課後、俺は箒や鈴、セシリアや楓に付き合って貰って『白式(びゃくしき)』の訓練をしてる。
千冬姉に課された訓練メニューは本当にキツいけど、まぁ、俺が弱いんだから仕方ない。
「僕も加わっても良いかな? 一応、専用機持ちだし・・・少しくらいは何か役に立てると思うんだ」
「マジで? そりゃ助かる・・・いやぁ、男同士って良いな、本当!」
うん、冗談抜きで仲間ができたのは嬉しい。
もしかしたら女子の反発でダメになった大浴場の使用許可も、下りるかもしれない。
「・・・男同士が良いって何よ・・・」
「灯台もと暗しに気付かぬ愚か者め・・・」
「ね、姉さん、頑張って・・・!」
鈴と箒と楓が何か言ってたけど、俺の視界にはもはやシャルルと言う心強い味方しかいない。
男同士・・・良いな、本当に、うん。
Side 篠ノ之 楓
シャルルさんの転校から5日が過ぎて、土曜日のアリーナ(自由に使用できる日)。
今日は皆で、一夏さんの訓練のお手伝い。
私の他には、一夏さん、シャルルさん、箒姉さんに鈴さんとセシリアさんがいる。
ちなみにあの昼食以来、女子グループは名前で呼び合うことになった。
これは、お友達が増えたと仮定しても・・・?
早速、オレンジ味の飴を配ろうと決意する私だった。
「ええと、一夏が凰さんやオルコットさんに勝てないのは、射撃武器の特性を把握してないからだよ」
「そ、そうなのか? 一応、理解しているつもりだったんだが・・・」
「うーん、知識として知ってるって感じかな。さっき僕と模擬戦した時も・・・」
その一夏さんは、シャルルさんによるIS戦闘の理論講習中。
一夏さんのIS『白式(びゃくしき)』は、射撃戦闘のプログラムがされていない格闘戦オンリーの機体。
その分、射撃の特性を把握していないと勝てない・・・らしい。
戦闘に関しては、私も細かいことはわからない。
私は模擬戦もあんまりしないし・・・興味無いし。
早く姉妹で宇宙に行きたいなぁ・・・。
「いや、シャルルの説明はわかりやすいな・・・今までのは、こう、ひたすら感覚の話だったから」
「あんなに親切に教えてやったのに・・・」
「私のアドバイスの何が不満なのだ?」
「私の理路整然とした説明が何か・・・?」
「い、いや、うん、何でも無い」
鈴さん、箒姉さん、セシリアさんの非難が込められた視線に、一夏さんがたじろぐ。
いや、まぁ・・・「くいって感じ」とかじゃ伝わらないと思うよ、箒姉さん・・・。
ここ数日、一夏さんが同性であるシャルルさんへの精神的な比重をどんどん強めている気がする。
それは困る、一夏さんには箒姉さんと仲良しになって貰わないと・・・。
「話を戻すけど、一夏のISには後付武装(イコライザ)が無いんだよね? 拡張領域(パススロット)に空きが無い・・・それはたぶん、唯一仕様特殊才能(ワン・オフ・アビリティ)の方に容量を振り向けてるからだよ」
「ワン・・・ああ、『零落白夜』か」
『零落白夜』・・・唯一仕様特殊能力(ワン・オフ・アビリティ)。
本来は第二移行(セカンドシフト)した後にISに目覚める、ISのコアが操縦者のために生み出す特殊技能。
一夏さんの場合は、『雪片』によるシールド無効化攻撃。
でも、むしろ目覚めるISの方が少ない・・・だから第3世代型の機体は、それが無くても特殊技能が使えるように設計されてる(例:セシリアさんの射撃ビット)。
後付武装(イコライザ)と言うのは、ISに装備の情報を量子変換(インストール)して使う武装。
一夏さんの場合は『雪片』しか無いけど、本当は銃とかいろいろ・・・使えるはずなのだけど。
でも『白式(びゃくしき)』には拡張領域(パススロット)・・・わかりやすく言うと、空き容量が無いパソコンみたいな物で、もう何もインストールできない状態。
まさに、近接格闘オンリー。
「お姉さんと同じ特殊技能(アビリティ)・・・それも一次移行(ファーストシフト)から使えるのは凄いよ、前例が無い。まぁ、それは今考えても仕方ないよね」
ちなみに、シャルルさんの機体は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。
山田先生の『ラファール・リヴァイヴ』をカスタムした専用機で、基本装備(プリセット)の一部を外して後付武装(イコライザ)の拡張領域(パススロット)を倍にした優れ物、機体色はオレンジ。
量子変換(インストール)した武装だけで20以上とは、本人の談。
まさに、歩く火薬庫。
「20・・・大した数ですわね」
「そうね、どんだけたくさん武装を積んでも、同時に使えるのは限度がある。それでも積んでるってことは・・・何か特殊なスキルを持ってるってことかしらね」
鈴さんとセシリアさんが、候補生の顔で一夏さんに「射撃を知る所から始めよう」とアサルトライフルの撃ち方を教えてるシャルルさんを見つめている。
・・・あ、私は私で、「黒叡」のディスプレイを開いてデータ収集中。
うーん、これだけ専用機が揃うと壮観だよね。
「ん・・・騒がしいな」
箒姉さんの声に振り向くと、アリーナの中央にもう1機、黒い専用機が。
アリーナの生徒の囁き声を聞く限りでは、ドイツの第3世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』。
ドイツ本国でもトライアル段階、欧州連合の中でセシリアさんの『ブルー・ティアーズ』と次期主力IS選定で競合するタイプなのだとか。
右肩の大型レールカノンが、「戦(や)るか?」な雰囲気をバリバリ醸し出してる。
「おい、貴様」
その操縦者にしてドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒさんがISのオープン・チャネルで私達に―――と言うか、一夏さんに―――話かけてきた。
転校してからと言う物、お友達を作ろうともしない奇跡の少女は、とても冷たい目で一夏さんを見ている。
「貴様も専用機持ちだそうだな・・・ならば、私と戦え」
「・・・理由が無い」
「貴様には無くても・・・私には、ある」
最初は冷たかったその目が、徐々にいろいろな感情で染まって行く。
何と言うか・・・怒ってる感じ?
「貴様さえいなければ・・・教官が大会2連覇という偉業を達成されただろうことは容易に想像できる。だから私は・・・貴様を認めない」
教官=たぶん、千冬姉様。
大会2連覇=ISの世界大会「モンド・グロッソ」のことかな。
千冬姉様は、2回目の大会の決勝戦で不戦敗と言うのが、現役最後の公式記録。
それのことを言っていると、思われ・・・。
「また今度な、学年別個人トーナメントもあるだろ」
「逃げる気か・・・なら、戦わざるを得ないようにしてやろう!」
宣言と同時に、「黒叡」が私に警告(アラート)を告げる。
たぶん、他のISにも・・・何故なら、ボーデヴィッヒさんのISのレールカノンにエネルギーが充填されたことに対する警告だから。
そして次の瞬間、現実にレールカノン発射・・・って、ええぇっ!?
ゴガギンッ!
金属がぶつかり合うような、鈍い音がアリーナに響く。
それはラウラさんのカノンを、シャルルさんが盾で弾いた音だった。
「・・・こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんて、ドイツの人は沸点が低いんだね。ビールだけじゃなく頭もホットってことなのかな?」
「・・・貴様、フランスの
「量産化の目途が立たないドイツの
おお・・・何だかよくわからないけど、独仏開戦?
あえて言わせてもらうと、専用機にも量産期にもそれぞれ良い所が。
私としては、シャルルさんの装備展開の速さとボーデヴィッヒさんの火力の強さに興味が・・・。
『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』
「・・・ふん、運が良いな。今日は退こう」
アリーナの先生の声を鬱陶しそうに聞き流しながら、ボーデヴィッヒさんがISを解除して背を向ける。
・・・って、えぇ~・・・やり逃げ?
まぁ、ドイツ製の武装のデータ取れたから良いけど。
あそこの機体、無意味に万能機だから・・・。
「一夏、大丈夫?」
「ああ、サンキュ、シャルル・・・」
一夏さんは、シャルルさんにお礼を言いながらも・・・ボーデヴィッヒさんの背中をじっと見つめてた。
・・・まさか、今ので興味が湧いたとか?
Side シャルル・デュノア
事情は良く知らないけど、驚いたよ。
実際、アリーナはたくさんの生徒がいたのにレールカノンを撃つとか。
隣国の候補生に対するイメージ、かなり悪くなったかも。
・・・それにしても、一夏はあの子と何かあったのかな?
必要になれば自分から言うだろうし、根掘り葉掘り聞くのも失礼だから、聞かないけど。
「本当にありがとな、シャルル。助けてくれて」
「え・・・ううん、何かあったら何でも言ってね」
「おう、シャルルも何かあったら言えよ」
そう言って笑う一夏、場所はアリーナの更衣室。
一夏は当然のように僕に遠慮無く着替え始めてるけど、僕はまだISスーツのまま。
うーん、これさえ無ければもう少し・・・。
男同士ってことで、一夏とは寮の同じ部屋で過ごしてる。
僕は気を付けているんだけど、一夏はシャワールームから平気で上半身裸で出てきたりする。
男同士だからって、いやでも、もっとちゃんとしてほしい。
「シャルル? 着替えないのか?」
「え? ああ、えーと・・・あはは、ちょっと用事があるから、先に行ってて良いよ?」
と言うわけで、更衣室での着替えはいつも一夏が先に終わる。
僕は1人になってから着替えるんだけど・・・って、アレ?
何か、一夏が物凄くじとっとした目で僕を見てる。
「何と言うか・・・距離を感じるんだが」
「ええ? いや、そ、そんなことは・・・」
「なぁシャルル・・・どうしていつも一緒に着替えないんだ? いや、この聞き方だと誤解を生むかもしれないが、流石に5日も続くと気になるんだが」
「え、ええと・・・その、は、恥ずかしい・・・から?」
う、うぅ・・・どうしてこう言う時だけ、勘が良いのかな?
その後、一夏は異様な熱意で僕を説得にかかった。
何でも日本では「裸の付き合い」という言葉があって、一緒にお風呂に入ったりして親睦を深める文化があるとか・・・でも。
「僕達、大浴場使えないよ」
「そ、そうだったな・・・男子の前後に風呂とかあり得ない! って不特定多数の女子が主張して使えないんだよな・・・風呂、好きなんだけど」
「はいはい・・・じゃ、この話はおしまいね」
とりあえずISスーツの上から制服を着て、僕の着替えも終了。
後でシャワー浴びる時にでも脱ごう、今までもそうしてきたし。
「あ、織斑君、デュノア君、ちょうど良い所に」
ロッカールームから外に出た時、廊下で山田先生に会った。
山田先生は、大浴場の男子使用の許可が出たってことを教えにわざわざ・・・ええ!?
「本当ですか! 嬉しいです! 助かります! ありがとうございます、山田先生!」
「い、いえ、先生ですから・・・」
山田先生の手を取って大喜びの一夏、そんな一夏を見て照れくさそうに笑う山田先生。
一方で僕は、ちょっと困ってた。
ええ・・・どうしよう・・・と言うか、いつまで手を握ってるの?
「あ、それとですね、織斑君。『白式(びゃくしき)』の正式な登録に関する書類があるので、一緒に来てほしいのですけども・・・少し、時間がかかるかもしれませんが、良いですか?」
「あ、はい、わかりました。じゃあシャルル、先に部屋に行っててくれよ」
「あ、うん」
ぱたぱたと手を振って、一夏と山田先生を見送る。
うーん・・・どうしよう。
まぁ、時間がかかるらしいし・・・部屋に帰って、シャワーでも浴びて気分を変えよう。
うん、それが良いよね。
Side 織斑 一夏
書類は名前を書くだけだったんで、すぐに終わった。
事務的な物だから、特に何かが今までと変わるわけじゃない。
でも一応、これで俺は正式に『白式(びゃくしき)』のマスターになったってわけだ。
「あー・・・今日はエラい目にあったな」
アリーナではラウラに絡まれるし・・・ドイツ、大会、千冬姉。
そのキーワードは、俺にとっては良い思い出が無い。
千冬姉が第1回の「モンド・グロッソ」優勝者であることは有名だけど・・・実は第2回大会でも、勝つのは千冬姉だと思われてたんだ。
でも、千冬姉は決勝戦で棄権した。
理由は、俺が「謎の組織」に誘拐されたからだ。
謎の組織って何だよ・・・って感じだが、実際に正体も目的も謎なんだから仕方が無い。
千冬姉は大会2連覇の名誉を蹴って、ISでまさに「飛んで来て」助けてくれたんだ、俺を。
暗闇に閉じ込められた俺、光を纏って現れた千冬姉(めがみ)・・・俺はあの光景を、たぶん一生忘れない。
・・・で、その時に千冬姉はドイツ軍に借りができたらしく、1年間ドイツでIS部隊の教官をやった。
たぶん、ラウラはその時に千冬姉と・・・。
「ただいま~・・・って、シャルル?」
部屋に戻ると、シャルルがいない・・・って、シャワーか、音がする。
そう言えば、ボディ-ソープ切れてたんだっけか。
シャルルが困ってるかもしれないと、俺は棚から替えのボディーソープを取って・・・。
その時、ちょうどシャワールームの扉が開いた。
ああ、シャルルか? はは、探しに来たのはこのボディー・・・ソー・・・。
「・・・ぷ?」
「へ? あ、え・・・い、いち、か・・・?」
シャワールームから出て来たのは、ブロンドの髪の女の子だった。
・・・・・・え?
俺とシャルル(?)は、数秒間黙って見つめ合うしかできなかった・・・。
「えーと・・・話をまとめると、こう言うことか?」
それから10分後、俺とシャルルはそれぞれの自分のベッドの上に座って向かい合っていた。
シャルルはジャージを着ているんだが、どう言うわけか今は「胸」がある。
今までは男のフリをするために特製コルセットで締めていたんだとか・・・発育に悪いだろそれ。
いや、それはともかく。
シャルル(女)は、男のフリをして入学してきた。
理由は、デュノア社の社長(父親)の命令だったから。
ただシャルルは愛人の子で、しかもIS適性がたまたま高かったから拾われたんだそうだ。
何だよそれって思うが、シャルル自身は何か諦観していて、もう気にしていないらしい。
「・・・で、今、デュノア社は経営危機、なんだよな? ISシェア第3位なのに」
「うん、第3世代型が開発できないから・・・欧州連合の事業からも除名されたし、下手すると今期でフランス政府からの助成金も無くなるから。ISを開発できるだけの資本力も無いし、後は潰れるのを待つばかり・・・って感じなんだ」
で、そこで起死回生とばかりに「ISを動かせる唯一の男」である俺に近付いた。
男のフリは、そのためだったらしい・・・いや、無理だろどう考えても。
何でも、『白式(びゃくしき)』のデータを盗んでくるように言われたらしいが・・・。
「その場合は、身体を使えって言われたよ」
「・・・何だよ、それ」
身体・・・この場合、それがどう言う意味なのかはガキの俺でもわかる。
俺も男だから、わかりたく無いがわかる。
それが、父親の言うことじゃ無いってことも。
正直に言って、俺は今、かなり頭にキてる。
そしてそれは、シャルルの親に対する怒りであると同時に・・・俺と千冬姉の親に対する物も混じってる。
俺達の両親は、俺達を捨ててどこかに消えた・・・それで千冬姉がどれだけ苦労したか、俺は知ってる。
それでシャルルだ、正直、親と言う存在のイメージが最悪になりつつある。
「それで・・・シャルルはこれからどうする?」
「どうするもこうするも、バレちゃったし・・・フランス政府がデュノア社を詰問して、僕も良くて牢屋とかじゃない?」
「・・・良いのかよ、それで」
「良いも悪いも・・・世の中、自分の意思でどうにかなることの方が少ないよ」
それは、15歳の女の子が言う台詞じゃ無かった。
その表情は、15歳の女の子がする顔じゃ無かった。
・・・そしてそんな友達を助けられない、無力な自分が嫌だった。
「・・・だったら、ここにいろよ。特記事項21だ、この学園にいれば、国や企業に帰属しないしで済むし、そう言う勧誘は本人の意思で断れるんだろ?」
「・・・良く覚えたね、55もある特記事項」
「勤勉なんだよ、俺は・・・」
3年間、どんなに頑張っても3年間。
そして俺の言ってることだって、たぶん、かなりおめでたいことなんだろうと思う。
だけど・・・でも、良いのか、こんなことが許されてさ。
そんなの・・・違うだろ、何かが。
「・・・考えてみるよ、僕も。ありがとう、一夏」
だけど・・・そう言って微笑むシャルルは、とても綺麗だった。
俺は急に照れくさくて、そっぽを向く。
ま、まぁ、アレだな・・・当面は男のフリを続けないとな、うん。
その後、箒と鈴が晩飯を食いに行こうと誘いに来て・・・女の子状態なシャルルを隠すのに苦労したけど。
とにかく・・・本当に、今日はいろいろあった。
Side ラウラ・ボーデヴィッヒ
私にあてがわれた寮の部屋で、私は1人でベッドに寝ている。
同室者がいないのは良かった、いても邪魔だからな。
明かりはつけない、つけなくても全てが私の目には見える。
もし、この部屋に誰かがいたのなら。
闇の中でかすかに輝く私の瞳に気が付いたかもしれない。
この私の、呪われた左眼に。
「・・・教官」
意識が覚醒した時―――つまり、「生まれた」時―――私は、すでに闇の中にいた。
闇以外は知らなかったし、それ以外の何かを知る必要も無かった。
ラウラ・ボーデヴィッヒ。
それが自分の名前だと認識してはいるが、それに何か意味があるとは思えない。
意味があるとすれば、それは教官に・・・あの人に呼ばれる時だけだ。
あの人が私の名前を呼んでくれる時だけが・・・私に意味を与えてくれる。
「あの人の存在と、強さとが・・・私の目標、存在理由・・・」
初めて、自分を誰かに重ね合わせたいと思った。
この人のように、なりたいと。
歓喜と熱、それが私の全て。
それなのに、その完璧で完全な教官に・・・汚点を残させた奴がいる。
織斑一夏、教官の弟。
奴さえいなければ・・・教官は、世界大会2連覇と言う輝かしい功績を打ち立てていたはずなのに。
奴さえ、いなければ。
教官の人生に、汚点など残らなかっただろうに・・・。
「・・・排除する、力尽くでも」
そのために、私はここに来たのだから。
このようなISをファッションか何かと勘違いしているような連中の溜まり場に、どうして教官がいるのかはわからない。
それはもしかしたら、あの織斑一夏の存在があるのかもしれない。
ならば、余計に排除しなければならない。
アレは、教官の邪魔にしかならないはずだから。
「・・・眠ろう」
目を閉じて、闇の中に意識を鎮める。
夢など見たことは無いが、きちんと休息を取らなければ身体は十全に動かせない。
これも・・・教官が教えてくれたことだから。
「・・・」
イギリス製第3世代型『ブルー・ティアーズ』。
中国製第3世代型『甲龍(シェンロン)』。
フランス製第2世代『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。
・・・データで見た時の方が、まだ強そうではあったな。
あの篠ノ乃博士の妹の乗っていた機体は、一つはたかが量産機。
もう一つは、学園のデータベースによれば『黒叡(こくえい)』。
それと織斑一夏の『白式(びゃくしき)』・・・。
「・・・ふん・・・」
・・・どれも、これも、有象無象。
私と『シュヴァルツェア・レーゲン』の、敵では無い。
調査任務など、簡単に終わらせて・・・そして・・・。
篠ノ之 楓:
どうも楓です、専用機が増えてホクホクです。
データ盗・・・げふんげふん、参考にしましょうそうしましょう。
いやー、欧州の時期防衛計画の主力機候補をこんなに見れるなら、学園に帰って来た甲斐があるよね。
・・・おお、ではここでこの物語における「欧州時期防衛計画」をちょろっと解説、本編に登場するかは激しく微妙な設定ですけど。
ま、新聞記事みたいなレベルで聞き流すと良いよ~・・・おっと、良いですよ。
欧州連合のIS(オリジナル設定込み):
欧州連合は英仏独伊西など数カ国がISコアを所有、「メイルシュトローム(第2世代・イギリス)」「テンペスタ(第2世代・イタリア)」「ラファール・リヴァイヴ(第2世代・フランス)」などなど、多彩なラインナップが特徴です。なお、英仏独伊西など9カ国で共同開発した「ユーロ・トランシェ5」と言う第2世代型のISもあります、面白いですよね。
で、第3次イグニッション・プラン・・・まぁ、つまり上に並べたISの発展形で、どの機体を欧州連合の合同即応部隊の主力機として採用するかと言う話ですね。
英国、ドイツ、イタリアの次世代型が有力視されてますが、さてどうなりますかねー。
篠ノ之 束:
かーえーでーちゃーん・・・何コレ、プラモ?
篠ノ之 楓:
束お姉ちゃんだけはそれを言っちゃあダメだよ・・・!?