インフィニット・ストラトス―黒き叡智―   作:竜華零

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第7話:「黒い雨」

Side 篠ノ之 束

 

・・・つまんなーい。

ゴロゴロゴロゴロ、束さんはあんまりにもつまらなくてゴロゴロするんだよ。

何と言うか、刺激が足りないんだよ。

 

 

「楓ちゃんは普通に学校に馴染んじゃってるし、箒ちゃんは電話してこないしなー」

 

 

楓ちゃんが専用機持ってるってわかったら、ぜったい電話してくると思ったのに。

うーむ、パンチ足りなかったのかなぁ?

やっぱ一号じゃダメかなぁ、普通に負けたしねぇ。

もうちょい粘らせれば良かったかな~無人機じゃ限界あるけど。

 

 

ISは、人が動かさないと完璧には動かない。

 

 

大体そうでないと、ちーちゃん達と遊べなかったしさぁ。

あー・・・暇、つまんない。

全くもって・・・つまらない。

まぁ、別に良いけどねー、いつものことだし。

 

 

「簡単過ぎて困るよね、生きるって」

 

 

ちゃららーんっ、と呼び出すのは空中投影ディスプレイ。

片手で箒ちゃんとダイレクトで繋がる携帯電話をポンポンしながら開くのは、楓ちゃんからのラブメール。

「あのね」から始まって「お姉ちゃん大好き」で終わるメール、まさにラヴ。

楓ちゃんは昔から可愛いかったもんねぇ・・・とと、これがこの間送って来たドイツの機体かぁ。

 

 

・・・ボロいね、これ。

束さん的には時代遅れだよ、他の国のもだけど。

・・・うん? うんん・・・?

ほほぉ・・・うわっ、ダサッ、今時こんな不細工な代物(システム)仕込んでるんだ?

 

 

「ふーん・・・・・・おおっ!」

 

 

来たよ来たよコレ、ピコンッと思いついちゃったよ流石私。

だよねだよね、いつまでものんびりしてちゃダメだよね。

つまんないなら、お姉ちゃんが面白くしてあげれば良いんじゃん?

 

 

だって見たいもんねぇ・・・もう一度。

体感したいもんね、もう一度。

あの「瞬間」を。

10年前の、楽しさを。

 

 

「・・・かーぇーでちゃん、あっそびーましょっ」

 

 

ふんふん、そうと決まれば善は急げだよね。

 

 

「・・・ほーぉーきちゃん、あっそびーましょっ」

 

 

大丈夫大丈夫、箒ちゃんと楓ちゃんは何も心配しなくても良いからね。

お姉ちゃんが、全部やっといてあげるから。

いっくんと一緒に、強くなれるから。

 

 

強くして、あげるから。

 

 

そしていつか、お姉ちゃんを楽しませてね。

――――「あのとき」みたいに。

・・・あは。

 

 

「うふふふ・・・」

 

 

まぁ、じゃあ・・・まずは楓ちゃんからかなぁ。

いつまでも、呑気に遊んでちゃダメだよー・・・っと。

うふふ・・・ちーちゃんがどんな顔するか、楽しみだよ。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

IS学園、第2整備室。

学年別個人トーナメントが近いからか、やたら賑やか。

金属を削る音や電子音、機体整備に関しての議論がBGMみたいに響く。

 

 

「うーん、この賑やかさは束お姉ちゃんの所には無かったよね」

「・・・何か・・・言った・・・?」

「あ、ううん。何でも無い、ごめんね」

 

 

構わない、と言って目の前のディスプレイに視線を戻すのは、更識(さらしき) 簪(かんざし)。

私は「簪ちゃん」って呼んでる、整備科志望の女の子。

簪ちゃんが乗っているのは『打鉄弐式』、まだ未完成の彼女の専用機。

 

 

元は倉持技研って企業が製作してたらしいんだけど、一夏さんの『白式(びゃくしき)』に人材を集中させたいからって放棄されたんだって、酷いよねー。

・・・あれ? 『白式(びゃくしき)』って結局お姉ちゃんが完成させたんじゃ無かったっけ?

データ取りと新武装開発に人材全部回すって、企業としてそれってどうなんだろうね。

そんなわけで、私は簪ちゃんの専用機開発(独力)を手伝ってる。

何でって・・・お友達だから?

 

 

「ごめ~ん、遅れたよ~」

 

 

その時、私が簪ちゃんとお友達になれた主要因、本音さんがドタドタと到着。

生徒会の会議(本人は「寝てる~」らしいけど)で遅れたんだって。

いつものようにのんびりとした口調と足の速さでやってくる本音さん、簪ちゃんは何となく嫌そうな顔。

 

 

「姉さんに言われてなら・・・いらないから・・・」

「えへへー、違うよー、私はかんちゃんの専属メイドさんだから、手伝うのは当たり前でーす」

「・・・その割に、あんまり・・・」

「ええっ、酷いよ~」

 

 

とか何とか言いつつ、『打鉄弐式』の装甲チェックを始める本音さん。

ちなみに簪ちゃんの「姉さん」は、何とこの学園の生徒会長さんだとか。

まだ会ったことは無いけど、本音さん曰く「凄い人」らしい。

・・・何が「凄い」んだろう?

 

 

と言うか、何で本音さんが簪ちゃんの「専属メイド」なんだろう。

2人とも教えてくれないんだよね、幼馴染ってことしか。

・・・ま、いっか。

ISの完成度には、関係無いもんね。

 

 

「・・・各駆動部の反応が悪い、どうして・・・?」

「えー? あ~、タイプ向いて無いのかも。ほら、コアから火器へのエネルギー供給にバラつきが・・・やっぱり全距離対応機にするのは難しいんじゃ?」

「でも・・・うーん・・・」

 

 

顔を合わせず、ディスプレイ上のデータのやり取りで会話する。

束お姉ちゃんの所にいた頃は、良くやってたんだけどね。

そもそも・・・操縦の安定性以外は第1世代と変わらない『打鉄』。

その後継機を全距離対応型のISに組み上げるって言うのは、『黒叡』に戦闘用の武装を積むくらい難しい話で・・・火器管制システムも組めて無い今の段階だと、かなり厳しいよね。

武装とか装甲、つまりハードの部分だってまだ4分の1くらい未完成だし。

 

 

独力でISを実用化すること自体が厳しいんだけど・・・簪ちゃんはそこは譲らない。

最初は、手伝わなくて良い的な空気だったんだけども。

でも私のお姉ちゃんが「篠ノ之 束」だって気付いてからは、何でか手伝わせてくれてる。

うーん、何でかはわからない。

とにかく、ハードもソフトも一から組み直さないと・・・。

 

 

「・・・でも・・・マルチ・ロックオン・システムは外せないし・・・」

「そこは外せないよね! うん、頑張ろう!」

「・・・う、うん・・・」

 

 

だってマルチ・ロックオン・システムだよ、マルチでロックオンができるシステムだよ?

技術的に第3世代型だと思うけど、でも多重同時標的指定とか凄くロマンだよね。

この機体だとミサイルにしか使わないけど、将来、別の分野に転用できるかもしれない。

そもそも束お姉ちゃんの作ったISは、それが目的なんだから。

 

 

その後は、ホームルーム直前までお互いの空中投影型ディスプレイをやり取りしながら相談したり。

同時にコア周りの動力部の回線を繋ぎ直したり、推進ユニット・システムの最適化方法をどうするか考えたり・・・朝は朝で6時からやるから、おかげで毎朝毎朝遅刻寸前だけど、楽しい。

 

 

「あ、そうそう~、かんちゃんと楓ちんは知ってる~?」

「・・・何・・・?」

「えっとねー、おりむーの噂なんだけど~」

「一夏さんの?」

 

 

ホームルームの時間が近くなってきた7時、機材の片付けをしながら取りとめのない会話をする。

簪ちゃんは一夏さんに特に興味は無いみたいだけど・・・ぷいっと顔を背けて機体の調整に戻っちゃった。

あ~・・・と、『白式(びゃくしき)』のことを気にしてるのかなぁ?

 

 

それはそれとして、一夏さんの噂には興味あるよ。

私がじゃなくて、ほら、箒姉さんのために。

でも、噂って・・・?

 

 

「えっとねー、今度の学年別トーナメントでねー、優勝したらね?」

「うん」

「おりむーのね、恋人さんになれるんだってー」

「へー、そうなん・・・・・・・・・ええぇぇえ!?」

 

 

学年別トーナメントって、アレだよね。

エントリーしたら誰でも出れる奴で、学年最強を決めるやつ?

私はどうせ出ないし・・・って、それは今はどうでも良いよね!

 

 

え、ちょ・・・何それ、本当?

でも本音さんが言うには、当の本人以外は皆が知ってる噂らしくて・・・。

・・・・・・ね、姉さん! 箒姉さ―――んっ!!

 

 

 

 

 

Side 凰 鈴音

 

「と言うわけでさぁ、最近、一夏ってば付き合い悪いのよね。どう言うつもりかしらアイツ」

「と言うよりも、それを私に言ってどうなさりたいんですの・・・?」

 

 

うっさいわね、アンタくらいしか愚痴を言える相手がいないのよ。

場所は放課後の第3アリーナ、今日は月末の学年別トーナメントに出る人間にだけ開放されてる。

ちなみに私の隣にいるのはセシリア、ここの所、そこそこ仲が良いかも。

箒ともそれなりに仲良いと思うけど、あの子は一夏を巡るライバルだから、ライバル。

 

 

強敵と書く方ね、もちろん。

ま、ISバトルは私の方が強いけど・・・でもそれって、恋愛的には役に立たないのよね。

むしろ女の子的に「彼氏より強い」って、ある意味でどうなのかしら・・・?

いくら世の中が女尊男卑って言っても、そう言うのはまた別だしね。

 

 

「食事にでもお誘いすれば良いのではなくて? 殿方の誘い方は良く知りませんけど」

「そんなことはもうやったわよ。でもこの間夕飯に誘ったらさぁ、『悪い、これからランニングなんだ』とか言ってさぁ、お前はどこの野球部だ!? って感じで」

「まぁ・・・レディの誘いを断るなんて、非紳士的ですわね」

「でしょー?」

 

 

ISを展開する前に念入りにストレッチしながら、セシリアとお喋り。

今度のトーナメントはセシリアも含めて専用機持ちが6人もいるから・・・ま、念のためにね。

それに優勝したら・・・い、一夏と付き合えるらしいし?

いや、別に噂を鵜呑みにするわけじゃないのよ?

でもほら、私と一夏が~みたいな噂が、出ちゃうわけじゃない・・・って、勝ったらの話だけど。

だから、負けられないってわけ。

 

 

で、せっかくだしセシリアに訓練に付き合って貰ってるってわけ。

セシリアは一夏にちょっかいあんまり出さないから、その分気楽だし。

あー・・・でも一夏の方が・・・って、それは無いか。

アイツ、超朴念仁だし。

 

 

「じゃ、とりあえず軽く模擬戦から・・・」

 

 

しようか、と言おうとしたその時。

『甲龍(シェンロン)』から緊急警告が飛んで、私はその場から大きく後ろに跳ぶ。

セシリアも自分のISから同じ警告を受けたのか、私とは反対側に跳んでる。

そしてほぼ同時に、お互いのISを緊急装着。

 

 

原因は、いきなり私達の間に撃ち込まれた超音速の砲弾。

 

 

それは私達から外れるとアリーナの地面に着弾、けして小さく無い爆発を起こした。

・・・挨拶にしては、随分とアグレッシヴよね。

『甲龍(シェンロン)』のセンサーには、撃ち込んだ犯人の名前が出てる。

機体名『シュヴァルツェア・レーゲン』、登録操縦者・・・。

 

 

「「ラウラ・ボーデヴィッヒ・・・」」

 

 

私とセシリアの声がハモる。

そこには、漆黒のISに身を包んだ銀髪の女の子・・・。

ドイツの、代表候補生。

 

 

「・・・何? いきなりぶっ放すとか、良い度胸してんじゃん」

 

 

『龍砲』を準戦闘態勢に移行、一発は一発よね?

そしたら何? あのラウラって子、私達を見て鼻で笑ったのよ?

殴って、良いわよね?

 

 

「中国の『甲龍(シェンロン)』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か・・・データで見た方がまだ強そうではあったな」

「え、何? 私はマゾだから殴ってくださいって? OKOK、わざわざドイツのジャガイモ農場から出て来てご苦労なことね」

「うふふ、鈴さん、きっとこちらの方は言語をご存知で無いのですわ・・・犬ならワンと鳴くはずですもの」

「2人がかりで量産機に負けるような人間が代表候補とは・・・数が多いだけの国と古いだけの国の人材など、その程度か」

 

 

・・・何、コイツ。

言葉以上に、その上から目線が死ぬほどムカつく。

だけど同時に、意図が読めない。

 

 

私達2人を挑発して、どうしたいわけ?

私達個人と祖国を侮辱して、コイツにどんな得があるのか・・・目的が読めない。

セシリアも同じことを考えているのか・・・目を細めてラウラのことを観察してる。

ドイツの、代表候補生・・・か。

 

 

「・・・まぁ、何とかと言う種馬をどこぞの雌猫と取り合っているメスに専用機を与えるなど、それはそれで国の程度が知れると言う物だな」

「あ? 今なんつった? 私の耳には「どうぞ殴ってください」って言ってるように聞こえたけど?」

「この場にいない人間をも侮辱・・・品位が知れますわね。同じ欧州連合の候補生として、恥ずかしいですわ」

 

 

私とセシリアが、ISの安全装置(セーフティ)を解除する。

と言うよりラウラは最初からそんな物、かけて無いみたい。

つまりハナっから、私達と戦(や)り合うつもりでここに来てる。

 

 

一夏のことまで侮辱したのは、本気で許せない。

でもそれ以上に・・・それ以上の目的が、読めない。

頭の片隅が、急速に冷えて行くのを感じる。

 

 

「かかって、来い」

「「上等 (ですわ)!!」」

 

 

セシリアと2人、ラウラと対峙する。

なるべく、手の内は晒さない方が良いかも・・・そう思いながら。

 

 

 

 

 

Side セシリア・オルコット

 

ドイツの第3世代型『シュヴァルツェア・レーゲン』。

ドイツが、欧州連合の第3期イグニッション・プランの次期主力機として提案しているISですわ。

厳密には、レーゲン型(モデル)と呼称される機体の1機。

 

 

「・・・僥倖ですわ」

 

 

こんな所で、その機体との交戦経験を得られるなんて。

ここIS学園は国際協定に縛られずに機体・装備の実戦経験が詰める唯一の場所であり、そして同時に「他国のIS」の情報を収拾できる唯一の場所でもありますの。

日本に来てからと言う物、これほど他国の専用機を目にする機会に恵まれようとは。

 

 

ある意味において、ここに送られる代表候補生の任務の一つは「他国のISと交戦すること」なのですわ。

そうすることで「敵」軍の機体のデータを得れて、しかも「自」軍のISコアを成長させられる。

でもそれは・・・向こうも同じことですけど。

先程の挑発も、つまりはそう言うことの一環・・・と言うことでしょうか?

 

 

「ティアーズ!」

 

 

先行する鈴さんの機体の四方を囲むように、ビットを走らせる。

中国の・・・他国の機体との連携戦闘の経験値も、とても重要ですもの。

それに、個人的に敗北は趣味で無くてよ。

 

 

「でぇええええぇいっ!」

「ふん・・・!」

 

 

鈴さんが中国の実体剣(せいりゅうとう)を振り下ろすと、ラウラ・ボーデビッヒ・・・ラウラさんは、赤く輝く手刀を両手に展開、鈴さんのそれを受け止めましたわ。

あれは・・・ビーム状の刃、BT兵器!

ドイツのレーゲン型(モデル)も、BT兵器のサンプリングのためにここに送られてきたと言うことでしょうか?

 

 

「鈴さん!」

「・・・ちぇあっ!」

 

 

ごがぎんっ、と金属が打ち合う音が響いて、鈴さんが無理矢理に刃の面をズラして弾く。

同時に蹴りを放つと、ラウラさんが衝撃に耐えきれずに数メートル下がる。

流石はパワー型(タイプ)、近接での力比べなら負けはしませんわね。

鈴さんに離されたラウラさんに対して、ビットで四方から射撃。

 

 

「・・・イギリスのBT兵器か、だが」

 

 

しかしそれを、ラウラさんは機体を軽く翻すだけで悉くかわす。

連続で四方から射撃されるビームの弾丸を、いともたやすく。

幾度も機体を翻し、前に後ろにと機体を運動させて、ビームの雨の中を掻い潜る。

それは大規模な動きでは無く、最小限の動き。

こちらのビットの特性を・・・!

 

 

「本体(ライフル)との併用は不可能、そしてスカート部の隠しミサイル・・・種が割れてしまえば、いかにBT兵器と言えど大したことは無い」

「・・・っ、流石は」

 

 

流石は、イタリアのテンペスタを除けば欧州で我が国のティアーズ型(モデル)と競合できる唯一の機体と言った所でしょうか・・・。

ラウラさんは、空中で衝撃砲の構えを見せている鈴さんに視線を移します。

その目は、まるで何かを観察しているような・・・。

 

 

「・・・中国の第3世代。衝撃砲の理屈さえわかってしまえば防ぐのは容易い。そして近接攻撃は・・・私には、通じない」

「見た目の割に、良く喋るわねアンタ」

 

 

私と鈴さんに挟まれていながらも、ラウラさんは自信を崩しません。

その瞳に不敵な色を浮かべながら・・・そして実際、向こうの装備はほとんどわかりません。

私のISのセンサーの数値の変化は、先刻からずっと私に注意を喚起していますわ。

・・・プライドに賭けて、引き下がることはできません。

 

 

でも私は、ISコアのモードを戦闘から保護へと移行します。

おそらく、鈴さんも同じ措置を自分の機体に施しているはずですわ。

私のプライドと機体、どちらが大切かと言えば・・・言うまでもありませんわ。

さて、では・・・行きましょうか。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

学年別トーナメントで優勝すると、一夏と恋人になる権利が与えられる。

その噂を楓から聞いた時、私がどれほど動揺したかわかるか?

表情には出していないから、楓には悟られなかったろうが・・・。

 

 

「な、なななな、何故そんなことに!?」

「わ、わかんない、わかんないけど・・・何か、もう全校の女子に広まってるって」

「ぬ、ぬぬぬ・・・!」

 

 

放課後、第3アリーナへ続く道を足早に歩きながら、楓とそんな会話をする。

未だに接し方に悩む昨今だが、今はそんなことを気にしているべきでは無い。

何故なら・・・。

 

 

それは元々、私が言い出したことだからだ!

 

 

い、いや、一夏の部屋から引っ越すときに、私が一夏に言ったのは正確には少し違う。

あくまで「私が」学年別トーナメントで勝ったら、と言うことであって。

実の所、昔に同じような約束を・・・いや、昔の話は良い。

と、とにかく、一夏が言いふらしたはずも無い・・・から、どこかから漏れたのだろう。

 

 

「ど、どうしよう、箒姉さん」

「ど、どうするもこうするも・・・」

 

 

ちなみにどう言うわけか、楓は私と一夏のことをその・・・献身的に、応援してくれている。

どうにか私と一夏が2人きりになれない物かと考えてくれているようで・・・まぁ、今の所は功を奏したことが無いが。

・・・ま、まぁ、嬉しい・・・かな。

 

 

「・・・あ、一夏さん・・・と、シャルルさん」

「・・・む」

 

 

すると、前方にのんびりと歩いている2人の男子生徒を見つけた。

もちろん、一夏とシャルルだ。

2人はとても仲が良さそうで・・・ただ、何か引っかかる気がする。

 

 

ある時期から急速に距離が縮まったと言うか、何と言うか・・・。

シャルルの一夏を見る視線に、何かこう、妙な胸騒ぎを覚えるのは何故だ・・・?

い、いや、うん、気のせい・・・だな、うん。

考え過ぎだろう、流石に。

 

 

「・・・一夏、今日は何の訓練する?」

「そうだなぁ、やっぱ射撃かな・・・今日使えるアリーナは」

「第3アリーナだ」

「「うわぁっ!?」」

 

 

足早に近付いて、一夏の言葉に返答するように会話に割り込む。

・・・って、どうしてそんなに驚く・・・?

 

 

「い、いや、いきなりだったから・・・なぁ?」

「う、うん、急だったから・・・ごめんね?」

「い、いや、別に責めているわけでは・・・」

 

 

シャルルのように低姿勢で来られると、どうも気勢を削がれてしまう。

こほん、小さく咳払いをして空気を入れ替える。

と言うか楓、両手の拳を握り込んで「頑張れ」的な視線を送るのをやめろ。

 

 

「ま、まぁ、何だ。とにかく第3アリーナへ向かうぞ。今日は使用人数も少ないだろうから、模擬戦も可能だろう」

「今日は、トーナメントに出る人だけの使用日ですからね・・・あ、その場合、私ってどう言う扱いに・・・?」

「え、楓も出るんだろ? 専用機持ちって強制じゃなかったっけ?」

「いえ、私のISには戦闘用の装備が無いので・・・」

 

 

・・・非戦闘用のIS、だったな。

この前から何度か見ているが、どうにも良く分からない機体だな。

普通、ISとは戦闘用の武装がついている物だろう。

あの人が作った物は、そう言う機械なのだから。

とにかく、第3アリーナへ・・・何だ?

 

 

「どうしたんだろ、凄い人だね」

「ああ・・・おかしいな」

 

 

何か騒ぎでも起こっているのか、第3アリーナに近付くにつれて人が増え、慌ただしさが伝わってくる。

観客席から様子を見るかと言う話にもなったが・・・。

 

 

「観客席も人が一杯でしょう。それよりピットから入った方が人込みが無くて楽です」

「それもそうか」

 

 

楓の言葉に一夏が頷いて、ピットからアリーナに向かうことにした。

そして・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

ドサクサに紛れて、箒姉さん達についてピットからアリーナへ。

と言うか、誰にも突っ込まれなかったからそのままついてきちゃった・・・。

・・・まぁ、それはそれとして。

 

 

アリーナに行くと、第3アリーナの空で激しい戦闘が行われているのが見えた。

模擬戦じゃなくて、戦闘・・・そんな規模の戦いだった。

少なくとも、スポーツじゃないよねって感じの。

アリーナの中心で起こった爆煙の中から、3機のISが別々の方向に飛び出してくる。

 

 

「あれは・・・鈴、と・・・セシリア!?」

「・・・ボーデヴィッヒさんもいるね」

「何をしているんだ・・・?」

 

 

何・・・と言うか、何故・・・と言うか。

ブゥン・・・両目にハイパーセンサーを展開。

鈴さんとセシリアさんがお互いを攻撃せずにボーデヴィッヒさんを連携して攻めている所を見ると、2体1での戦闘の模様。

でも、機体のダメージはボーデヴィッヒさんの方が軽いように見える。

 

 

鈴さんが『龍砲』を撃つ・・・でも、どう言うわけかそれはボーデヴィッヒさんに届かない。

ボーデヴィッヒさんが右手を掲げるだけで、見えない砲弾が相殺されて消える。

鈴さんが苦々しい顔で何か悪態を吐いた後、今度はボーデヴィッヒさんが攻める。

漆黒の機体の肩から飛び出した有線の刃・・・連結刃(ワイヤー・ブレード)?・・・が、鈴さんに襲いかかる。

 

 

「アレは・・・何?」

 

 

教えて、『黒叡(こくえい)』。

ヴンッ・・・私の前に空中投影型のディスプレイが展開、情報を集め始める。

身体に纏うのは黒の鎧、アレが何か教えて・・・。

攻撃と防御を複雑に交代させながら、空中の3人の戦闘は激しさを増していく。

押しているのは・・・2人の攻撃を何らかの手段で封殺している、ボーデヴィッヒさん。

 

 

それでも、鈴さんとセシリアさんも負けてない。

互いの死角からの攻撃を一つ一つ排除し合いながら、もう一度距離を詰めて行く。

鈴さんが弾いて、セシリアさんが撃ち抜く。

どう言うわけか直接効かない衝撃砲やビットも、牽制や防御に使って・・・。

縦に並んで接近する2人は、即席とは言え綺麗に息を合わせてる・・・山田先生の時とは、違う。

けど、ここ一番の攻撃が届かない。

 

 

「・・・複数のビットによる連続射撃だけは、避けてる・・・?」

 

 

単発の攻撃はほぼ完全に止められるけど、連続の攻撃は回避行動。

その微妙な違いに気付いているからか、鈴さんもセシリアさんも自分だけで攻撃しようとはしない。

連携して、連続して、たたみかける。

でも瞬間的な加速で回避するボーデヴィッヒさんは、連結刃と砲撃、そして例の防御で有利に戦闘を展開させる。

 

 

「・・・ヤバい!」

 

 

不意に一夏さんが叫ぶ、同時にISの警告音。

どうやら、流れ弾が・・・と言うか、ボーデヴィッヒさんのカノン砲だけど。

同時に前に出るのはオレンジ色の機体、ISを急速展開したシャルルさんが実体シールドを構えて・・・。

 

 

ゴガギンッ!

 

 

鈍い音と爆発音、砲弾が弾かれる。

でも弾いたのはシャルルさんの実体シールドじゃなくて、別の盾。

・・・円環状に並んだソード・ビットの、不可視の盾。

・・・あ、自動で防御したのか。

 

 

「・・・ほう、我が軍の電磁加速砲を避けるでも無く弾くのか。そう言えば貴様も専用機持ちか・・・」

 

 

上空から降りて来たボーデヴィッヒさんが、興味を引かれたように声をかけてくる。

・・・あれ?

何か、観察されてる気分なんですけどー・・・?

 

 

上空には、放置された形の鈴さんとセシリアさん。

2人とも、怪訝そうな顔でボーデヴィッヒさんの行動を見ている。

あれ、模擬戦してたんじゃ・・・。

 

 

「面白いな・・・もう一度、やってみせろ」

「なぁっ!?」

 

 

ギャランッ・・・ボーデヴィッヒさんの機体から6本の連結刃が射出される。

突然のことに、一夏さんが悲鳴を上げる。

・・・いや、悲鳴を上げたいのはこっちで・・・っ。

 

 

でも私が反応する前に、6基のソード・ビットが盾を解除して散開。

それぞれが連結刃の切っ先を貫いて、アリーナの床に縫い付ける。

・・・うん、優秀なシステムに感謝。

 

 

「なるほど、自動(オート)か・・・くだらない」

 

 

何か、勝手に失望された。

そりゃ、私の反応を見ていれば自動だってわかるよね・・・。

するとボーデヴィッヒさんは、連結刃を起動させたまま肩のレールカノンを構える。

え・・・いやいや、こっちには装備無しの箒姉さんがいるんだけど!?

 

 

「野郎!!」

「・・・一夏!?」

 

 

反応できない私の代わりに一夏さんがISを展開、『雪片』を構えて突撃する。

箒姉さんの声を尻目に、白い機体が一直線にボーデヴィッヒさんへ・・・。

 

 

・・・そして、止まる。

 

 

まるで時間が止まったかのように、白のISが空中で静止する。

でも、時間が止まるわけが無い。

何かの力場が、一夏さんの動きを止めてる・・・。

 

 

「「「一夏!」」」

 

 

シャルルさん、鈴さん、セシリアさんが一夏さんを援護する。

衝撃砲とビット、アサルトライフルの弾雨に、流石のボーデヴィッヒさんも一夏さんへの拘束を解いて後退する。

と言うか、専用機を一度に何機相手してるの・・・?

 

 

「・・・ふん。ちょうど良い、全員まとめて相手をしてやろう」

 

 

連結刃を戻しながら、ボーデヴィッヒさんが嘯く。

あれ、もしかしなくても「全員」って私も入ってる・・・?

・・・なんてこったい。

 

 

「一夏・・・」

「・・・なんてこったい・・・」

 

 

箒姉さんを庇える位置に立ちながら、腰部にソード・ビットを戻す。

武装が無いって、言ってるのに・・・。

ああ、もう・・・私、何すればいいのさ!

 

 

「行くぞ・・・!」

 

 

ラウラさんが『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』の体勢に入り・・・一気に加速。

そして・・・金属の、打ち合う音。

 

 

 

「・・・やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

 

 

金属が打ち合う音・・・ボーデヴィッヒさんの一撃を止めたのは、千冬姉様だった。

生身で、しかも片腕でISの近接ブレード(170センチ)を操って、ボーデヴィッヒさんの攻撃を叩き落とした。

・・・いや、人間がして良い行動じゃないですよ、千冬姉様。

 

 

「模擬戦をするのは勝手だ、怪我も自己責任で良い・・・が、アリーナを壊すな、そこは教員として言わせて貰うぞ。勝負の決着は月末のトーナメントでつけるが良い」

「教官が、そう仰るなら」

 

 

あっさり・・・本当にあっさり、千冬姉様の一言でボーデヴィッヒさんが下がる。

気が付けば確かに、アリーナはそこら中が戦闘の跡でボロボロで。

それで・・・とりあえず、騒動は収まった。

・・・形だけは。

 

 

 

 

 

Side 織斑 一夏

 

「まぁ・・・とにかく無事で良かったよ」

「ふ、ふん・・・別に助けなくても良かったのに・・・」

「お前な・・・と言うか、どっかで聞いたことある台詞だな」

 

 

寮の俺とシャルルの部屋、そこで鈴とセシリアとそんな会話をする。

別に「助けてやった」なんて言うつもりはないし、むしろ巻き込まれただけな気もするしな俺。

それにしたって、もう少し殊勝な態度でも良いと思うんだけどなぁ・・・。

 

 

まぁ、確かに俺なんかの助けはいらなかったかもしれないけどさ。

たぶん、まだ俺ってこの中で1番弱いしな。

でもなぁ、もう少し何かあるだろ。

 

 

「好きな人にカッコ悪い所を見られて、恥ずかしいんだよ」

「はぁ・・・鈴さんはそうでしょうけれど」

「ちょ・・・な、ななな何を言ってんのかしら!?」

 

 

シャルルが良くわからないことを言って、鈴がそれにめちゃくちゃ反応してた。

いや、まぁ・・・落ち着こうぜ、とりあえず終わったんだしさ。

それにしても、アイツ、強かったな。

俺達全員を同時に相手にしてアレとか、凄過ぎだろ。

 

 

俺がボコ負けする鈴とセシリアを同時に相手にして押しっぱなしとか、どんだけだよ。

つまり俺が3人いても普通に負けるってことじゃんか。

 

 

「まぁ、それはそれとしてよ・・・あのIS、って言うかラウラ・ボーデヴィッヒ、絶対におかしいわ」

「ですわね・・・いくらなんでも、専用機持ちが5人がかりでこうも一方的と言うのは・・・」

「あ、それなんだけどさ。あの時、こう・・・金縛りみたいになったんだけど、アレ何だ?」

 

 

俺が箒や楓達を守ろうとして―――結局、千冬姉が止めてくれたんだけど―――ラウラに向かって行った時、全身を何かに捕まえられたような感覚がした。

何と言うか、まさに金縛りみたいな感じでさ。

 

 

腕一本、指一本・・・全然、動かせなかった。

何か強い力で、押さえつけられてたみたいな。

誰かの手に掴まれたら、あんな感じなのかなってイメージでさ。

アレは、いったい・・・。

 

 

「アレは、『慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)』と思われます」

「・・・買ってきたぞ、ウーロン茶と紅茶で良かったか?」

 

 

その時、飲み物を買いに行ってくれていた箒と楓が戻って来た。

鈴とセシリアに飲み物を渡しながら、適当な場所に座る。

・・・おお、何か壮観な面子だな。

何と言うか、全員集合って感じ?

 

 

・・・で、楓、何だって?

えー、アクティブ・・・?

 

 

 

 

 

Side シャルル・デュノア

 

ISは1つの例外も無く、パッシブ・イナーシャル・キャンセラー・・・PICと言うシステムで浮遊・加減速などを行っているんだ。

楓さんの言ったアクティブ・イナーシャル・キャンセラー・・・AICはその発展形の第3世代型兵器。

 

 

有り体に言えば、ラウラ・ボーデヴィッヒさんの機体は他のISのPICに影響を与えることができる。

限定空間(範囲はわからないけど)での一対一でなら、ほぼ無敵じゃないかな。

まぁ、もちろんいろいろ弱点があると思うけど。

それは・・・これから研究する必要があるよね。

 

 

「AIC・・・我が国(イギリス)でも理論は完成していますが、あれ程の完成度の物は初めて見ますわ」

「えーと・・・理屈としては衝撃砲みたいな物なのか?」

「ちょっと違いますけど、空間に作用すると言う意味では同義です」

 

 

一夏の疑問に、空間投影型のディスプレイの文字列を追いながら楓さんが答える。

別のディスプレイには、さっきの模擬戦の様子が映し出されていて・・・『シュヴァルツェア・レーゲン』の周囲の空間の歪みやエネルギー濃度の値とかが映しだされている。

と言うか、3枚も4枚もディスプレイ広げてそれぞれ独立してデータ処理してるって、地味に凄いよね。

 

 

「言うのは簡単ですけど、技術的な問題は差し引いても・・・これ、普通の人間の集中力じゃ使えないと思うんですけど・・・」

「でも、ラウラは普通に使ってたぜ?」

「そうなんですよね・・・でも、これだけの情報じゃ弱点までは。たぶん複数の対象は同時には止められないんじゃないか、とか、一夏さんの『零落白夜』ならイケるんじゃないか、と言う希望的観測ぐらいしか・・・」

 

 

・・・むしろ、そこまで読み切れるだけでも十分だと思うけどね。

楓さんのISは篠ノ之博士お手製って聞くけど、戦闘能力は無いんだよね?

それってたぶん、情報収集とか、他の方面に特化してるからじゃないかな。

ある意味、一夏の『白式(びゃくしき)』とは逆みたい。

 

 

・・・その時、廊下の方からドドドドドッ・・・と、物凄い数の誰かが来る音がした。

それから扉がノックされて、返事をして出ると・・・。

良く分からないけど、たくさんの女生徒が並んでいた。

・・・へ?

 

 

「織斑君!」「デュノア君!」

「「「これ!!」」」

 

 

女の子達の一人が、学年別トーナメントの告知書類を見せてくれた。

それによると、トーナメントはペア・・・つまりタッグマッチになったらしくて。

で、僕と一夏とペアになりたいって・・・え、えーと、こ、困ったな。

一夏以外にはまだ、僕の性別のことはバレてないし・・・でもペアになると訓練とかで一緒になるわけで、バレるかも・・・。

 

 

「悪い、俺、シャルルと組むから」

 

 

僕が内心で焦っていると、あっさりと一夏がそう言った。

女の子達は「まぁ、他の女子と組まれるよりは・・・」って納得してくれた。

・・・幼馴染の箒さんは、ちょっとショックを受けてたみたいだけど。

楓さんは・・・どちらかと言うと、お姉さんが一夏さんと組めなくてショック、みたいな顔。

・・・いつか、謝ろう。

 

 

すると、一夏が僕のことを見ながら軽く片目を閉じて見せた。

それは、まるで悪戯の共犯者に向けるような顔で・・・。

・・・僕は、何だか胸の奥があったかくなった。

 

 

「見てろよ、鈴、セシリア。俺、頑張って2人の仇を取るからな!」

「か、仇・・・一夏さん? ちょっと大げさじゃなくて?」

「と言うか、アンタ私らより弱いんだから引っ込んでなさいよ。普通に私達がトーナメントでヤるからさ」

「・・・泣いて良いか?」

 

 

・・・一夏って、優しいな。

本人は違うって言うかもしれないけど、誰かのために自然に何かをできるって、素敵なことだと思う。

少なくとも、僕は・・・嬉しい。

 

 

本気で、ここに残ることを考えてみようかな。

・・・なんてことを、考えちゃうくらいには、ね。

 

 

 

 

 

Side 更識 簪

 

・・・6月の最終週の、月曜日。

今日からIS学園は全部の授業が休みになって、学年別トーナメント一色。

正直、あんまり居心地、良く無い。

 

 

「・・・はぁ・・・」

 

 

周りの喧騒から逃げるみたいに、アリーナの隅の方の席に座る。

私がいるアリーナは、1年生の試合が行われる場所だけど・・・凄い人。

学生は当たりまえだけど、政府の関係者とかIS関連企業のエージェントとか、研究所のスカウトとかもいる。

 

 

日本の代表候補生の監督官の人も・・・さっき、会って来た。

私、一応・・・日本の代表候補生、だから。

でも私の機体はやっぱり完成して無いから、今回もお休み。

クラス対抗戦も出れなかったし・・・こんなのじゃ。

こんな調子じゃ、いつまで経ってもあの人に・・・。

 

 

「・・・本音・・・と楓、遅いな・・・」

 

 

本当なら、2人も一緒に観戦するはずなのに。

と言うか、2人がチケット押しつけて来た癖に・・・。

・・・変な子達、どうして私と一緒にいたがるんだろう・・・。

 

 

私は・・・たぶん・・・2人とも、妹・・・だから。

勝手な思い込みだけど、たぶん、同じ・・・だと、思うから。

2人とも、優秀なお姉さんがいる・・・し・・・。

 

 

「・・・篠ノ之 束博士・・・」

 

 

ISの開発者の妹って、どんな気分・・・なんだろう。

楓も本音も明るいから、私みたいにウジウジしたり・・・しない、んだろうけど。

でも・・・。

 

 

「あ・・・」

 

 

その時、不意に携帯電話にメールが来た。

アドレス、数件しか無いから・・・たぶん・・・。

・・・やっぱり、本音・・・って、え・・・?

 

 

「・・・何?」

 

 

本音からのメールには、泣き顔マークがたっぷり付いてる。

・・・でも、肝心の内容が無い。

え、何コレ・・・?

 

 

首を傾げていると、今度は楓からメールが着た。

こっちはやたらに「っ」が語尾についてて・・・これはこれで読みにくい。

何で、普通に書かないんだろう・・・。

 

 

「・・・来れ、ない?」

 

 

要約すると、そんなことが書いてあった。

理由も書いてある、けど・・・でもコレ。

モニターに注目って・・・はい?

内容を確認した後、顔を上げる。

 

 

するとちょうど、アリーナの巨大モニターに対戦表が表示される所だった。

どうも、機械の不具合でギリギリまで決まらなかったらしくて・・・。

注目するのは、第2試合の組み合わせで・・・。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 楓

 

うわー・・・見てよアレ、姉さんってペアがラウラさんな上に1回戦第1試合で一夏さんとだって。

どんだけくじ運無いんだろうね、姉さん・・・。

ペア無しでエントリーしたのは「4人」だけど、抽選なんてあって無いような物だし。

つまりこれ、学園側で「組ませた」って言った方が良いのかな・・・。

 

 

はは、こんなことなら無理にでも箒姉さんと組めば良かった。

・・・あ、「いらない」って言われたんだよね、忘れてた。

ふふ、私もさぁ、出たら足引っ張るだけだってわかってたしさぁ・・・。

だって、戦闘とかできないもん。

 

 

「ねぇ、楓ちん。ここどこ?」

「・・・ここはね本音さん、選手用の更衣室だよ。ちなみにAピット側ね」

「何で私達がここにいるのー?」

「・・・それはね本音さん、私達も選手だからだよ」

 

 

傍で首を傾げてる本音さんに、私は気の無い声で返事をする。

私達の周りには、ISスーツ姿の凄く強そうな人がたくさんいる。

と言うか、私と本音さんもスーツだよ。

・・・だって選手だもん、大事なことだから二回言ったよ。

 

 

「・・・うえええええぇぇぇえぇぇっ!?」

「・・・うん、だよね。気持ちはわかるよ」

 

 

何せ、私もさっきまで出る気無かったから。

と言うか、出ると言う選択肢が無かったから。

でも千冬姉様がね、私達を捕まえてここに放りこんだんだよ。

 

 

『専用機持ちは、強制参加と言っただろう』

 

 

・・・そりゃ無いよ千冬姉様!

でも何も本音さんも巻き込まなくても良いじゃない!

人数の関係上、仕方無いとは言ってもさぁ!

ちなみに本音さんは『打鉄(うちがね)』でエントリー、箒姉さんとお揃いで羨ましいな。

 

 

「ど、どどどどど、どうしよう楓ちん! 私・・・IS上手く動かせたこと無いよー!?」

「お、おおお、落ち、落ち着いて本音さん・・・! 大丈夫、私なんて武器が無いから!」

 

 

3回に1回は転ぶのにー! っと、本音さんも大慌て。

うん、気持ちはわかるよ。

だって、対戦相手・・・1回戦、第2試合・・・。

 

 

セシリアさんと鈴さんのペアだもん。

 

 

射撃と斬撃と砲撃に蹂躙される未来が、垣間見えるよ。

知ってるよ、こう言うの死亡フラグって言うんだよね。

・・・た、助けて束お姉ちゃん! 箒姉さ―――んっ!!

 

 

「何を騒いでんのよ、アンタ達」

「そうですわ、少しは落ち着いたらいかが?」

「気を遣ってるように見せかけて・・・すでに2回戦で当たるボーデヴィッヒさんの機体データの復習してるってどうなのそれ!?」

 

 

でも私が鈴さん達でもそうする、だって私、攻撃手段無いもん。

鈴さんとセシリアさんは、今日までの2週間を対ボーデヴィッヒさん対策に費やしたみたい。

あ、あはは・・・・・・や、優しく、してください。

 

 

 

 

 

Side 篠ノ之 箒

 

・・・Bピットの更衣室で、私は自分のくじ運の悪さをここまで恨んでいた。

学年別トーナメントを一夏と組めなかった私は、諸々の事情で結局抽選になったんだが・・・。

だが、その相手があのラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

会話などあるはずも無い、私とて仲良く談笑するつもりは無い。

それでも一応、ペアとしての挨拶をしたが・・・「邪魔はするなよ」と返された。

これで、どうコミュニケーションを取れと言うのか。

 

 

しかも、初戦の相手が一夏・シャルルのペアとか・・・神は私が嫌いなのか。

最悪、そう、最悪だ。

ペア相手もそうだし、対戦の組み合わせ抽選も。

・・・私は、ここまでくじ運の悪い女だったろうか?

はぁ・・・と、『打鉄(うちがね)』を装着した自分の身体を見下ろしながら溜息を吐く。

 

 

「・・・はぁ」

 

 

特に・・・私は、ラウラ・ボーデヴィッヒと言う少女が苦手だった。

力が全てで、結果が全て・・・そう言う態度を、全身でとっている彼女が、苦手なんだ。

まるで、昔の・・・そして今の自分を見ているようで。

こう言うのを、近親憎悪と言うのだろうか・・・。

 

 

「・・・楓に頼めば、よ・・・」

 

 

かった、という言葉を直前で飲み込む。

深く息を吸って、吐く。

目を閉じて、視界を閉ざす。

 

 

・・・昔、「勝ったら付き合う」と言う約束を、実は一夏としたことがあった。

小学校4年生の頃の、剣道の全国大会。

実家が剣道の道場の私は・・・自慢では無いが、上級生を押しのけて優勝候補の筆頭だった。

だから、凄く・・・楽しみにしていた。

だけど姉さん(たばね)がISを発表して、日本政府に保護されるハメになった。

 

 

「・・・」

 

 

結果、私は全国大会に出場できず・・・各地を転々とさせられて、いつの間にか両親とも暮らせなくなった。

一夏との連絡も、第三者に居場所が知られると言う大人達の都合で、取れなくなった。

嫌だったし、悔しかった、でも仕方無いと思おうとした。

 

 

でも、元凶の姉さん(たばね)が失踪(にげだ)した。

 

 

しかも、身体の弱かった楓だけ連れて。

姉妹で唯一残された私は、政府から何度も聴取と監視を受けて・・・IS学園に、強制入学。

それでも剣道だけは続けた、これだけが一夏と、あの楽しい日々との繋がりだったから。

中学生の時に全国大会に出て、勝った。でも、それだけだった。

それは要するに「憂さ晴らし」で、私に負けて涙する相手を見て、私は・・・私は。

 

 

「・・・本物の、強さが欲しい・・・」

 

 

隣のペア相手にも聞こえないよう―――ISのセンサーが拾うかもしれないが―――囁きかける。

誰に対してでも無い、自分に対して。

楓に対してどう接するべきかわからないのは、きっと私が弱いせいだ。

 

 

姉さん(たばね)に対するそれを決められないのも、私が弱いせいだ。

 

 

私は、いつになったら・・・。

自分の足で、地に立っていられるようになるのだろうか。

 




篠ノ之 楓:
うわー・・・ヤバいですよあの人、箒姉さんが近付かないように・・・って、ペアだし!
箒姉さん、昔から変な所でくじ運悪かったもんねー。

篠ノ之 束:
商店街のくじ引きでも、決まって残念賞の一個上だったもんねー。

篠ノ之 楓:
そうそう、いつも変なタオルとかで・・・って、それは違う気がするよ束お姉ちゃん!

篠ノ之 束:
ええ~、そう?

篠ノ之 楓:
う、うん、たぶん・・・はぁ、箒姉さん、大丈夫だと良いけど・・・。

篠ノ之 束:
ねぇねぇ楓ちゃん、お姉ちゃんの出番はまだかい?

篠ノ之 楓:
知らないよ!?
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