ネクロマンサーぷらす   作:すすりじた

1 / 9
後日談がやってくる

 地球に生命が誕生して以来、様々な種が滅亡を繰り返してきた。しかしその長い滅亡の歴史の中で人類ほど猛悪に滅びた種はないだろう。

 23世紀を目前として人類は滅亡した。

 大気を汚し空を赤く染めて。

 水を汚し海を漆黒に変えて。

 命を汚し大地に死者を蘇らせて。

 母なる地球が子である人類に凌辱されつくし、死に絶えるまでの哀れ苦痛に身を捩っている僅かな時間。人類にとってかわって地上を闊歩するのは蘇った無数の屍。純粋科学の結晶、ネクロマンシー技術によって作られたアンデッド達。生命を歪める事に情熱を傾けた人類によって生じた様々な異形と共に死人が踊るその日々は、語るまでもない、されど面白おかしい人類滅亡の後日談だ。

 

 しかしその語るまでもないはずの物語は長く長く、人類の歴史よりもなお永く続く。世界には死が溢れているけれど、地獄が溢れているのだから死んでも亡者は常世に沸き続ける。

 死人とそれを支配するネクロマンサーの織り成す後日談は未来永劫、地球の屍の上で続いていく。

 多くの自我を持つ屍がそう思っていた。

 

「ぷりーず、ぷりぃぃーず……。」

 

 かつての超大国が建設した巨大な地下軍事基地の最深部で少女が歌う。

 白く羽のようなドレスに身を包み黒く艶やかな毛髪が生える頭部には銀色のティアラが乗っている。

 

 美しく濡れた瞳はまばたきをせず、さえずるような声は肺の容量をはるかに超えて続く。歌姫のように技術を駆使して美しく歌う少女は当然の事ながら死んでいた。アンデッドなのだ。この後日談の世界、とりわけ長く時を重ねた現在においては生きているものは大変希少となっていた。

 ではありふれた死人である彼女はありふれた存在なのだろうか?答えは否だ。

 

「どうか、どうか、あぁお願いするわ。」

 

歌いながら哀願する彼女の周りには人体を切り刻むのに最適な工作機械やそれらを制御する大型コンピュータが威圧的なシルエットを浮かべている。それらの間には人間の少女が部品単位に分解された状態で放置されていた。

 物々しいシュレッダーを搭載したメカニカルが音もなく床を這いまわり一瞬の騒音と共に散らばった死体を内蔵されたダストボックスへと詰め込んだ。まだ目玉がギョロギョロと動いていた頭部をミンチにしたメカニカルは歌う少女の様子を窺うように無機質なカメラを向けると、彼女の邪魔をしないように静かに部屋の闇へと消えていった。

 このおぞましい部屋の主は間違いなくこの歌う少女だった。

 

「つまらないわ。退屈なのだわ。いっぱいたくさん遊んだけれど。」

 

 このような部屋の主人が一体どういう人物かなど決まり切っている。

 少女は死体を動かす技術ネクロマンシーを修めた者、この後日談の世界における死の支配者たる死人使い『ネクロマンサー』なのだ。

 それもただのネクロマンサーではない。この地球上で、たった一人残った自我を持つ最後のネクロマンサーなのである。

 

「あらあらまあまあ。どうやらとうとう。遊び尽くして、しまったみたい。」

 

 地球は現在、彼女の完全なる支配下に置かれていた。

 しかし、彼女は別に争って世界を征服したわけではない。ネクロマンサーは誰かと競う事などしない。お互い見て見ぬふりをして自分の王国に引きこもり支配者として君臨する。それがネクロマンサーという人種だ。

 ではなぜ、どうやって彼女が世界征服を成し遂げたかというと答えは簡単。他のネクロマンサーが皆自滅してしまったから。

 

 ネクロマンサーは人形遊びが大好きだ。

 自ら作り上げた自我を持つ屍少女を使っての人形劇は故意か否かは別としてどんなネクロマンサーであっても必ず行っている。

 往々にして『ドール』と呼ばれる屍少女達はネクロマンサーの掌の上で弄ばれてしまう。しかし永い時の中で事故が起こる事がある。時として支配者たるネクロマンサーが玩具であるはずのドールに滅ぼされてしまう事があったのだ。

 そういった事情により支配者を失った領地を自らの王国に組み込む事を嫌うネクロマンサーは殆どいない。長い長い時間、世紀を何度もまたぐ永い時間の果てについに彼女は全地球を王国としたのである。類いまれなる幸運の持ち主だった。

 

 もはや彼女は狭い箱庭の傲慢な女王ではない。まぎれもなく世界は彼女個人の所有物。広げた領地を吸収する際に無機物有機物を問わない各種資源、滅びたネクロマンサーの研究成果、様々な過去の遺産を手に入れた彼女は名実ともにこの広い世界に君臨する絶対支配者なのだ。

 ……しかし。

 

「あーきちゃった、飽きちゃった。新しいものがなんにもないの。」

 

 いくら領地が増えようと、どれほど玩具が増えようと。品をかえ遊び方をかえて大事に大事に遊んだとしても、やがて飽きる時が来る。なぜなら彼女に死というタイムリミットはないのだから。遊び足りないのに時間が足りない……何てことは起こり得ないのだ。

 

「……。」

 

 少女の歌が止まる。

 頤を上げ天井を見上げていた少女の頭部がうなだれる。

 

「楽しかったの。あんなに楽しかったのに。……もう、なにも楽しくない。」

 

 ネクロマンサーは退屈を何よりも嫌う。退屈は心を殺すからだ。心が死ねば自我も死ぬ。自我のないアンデッドなど動くか動かないかの違いだけでただの死体と大差はない。

 ネクロマンサーの多くが自分は死を思いのままにできる超越者だと己惚れているが、退屈によって自我が死ぬことにはみっともなく抵抗するものだ。その例に漏れず、この最後のネクロマンサーは己の心に退屈を紛らわせる新たな『何か』が触れてくることを切実に求めていた。

 しかし後日談の世界をしゃぶり尽した彼女にはもはや新しい何かなど存在しない。

 

「ぷりーず、ぷりぃぃーず……。」

 

 再び歌いだした彼女の黒髪が不自然に一本、ピンと立ち上がった。すると、部屋の闇から一本の機械触手が現れ彼女の首筋に吸い付いた。触手と少女の内部に存在する粘菌コンピューターが互いに結びつきネットワークを形成した。

 巨大な軍事施設とリンクした少女はそこから世界中に敷設した粘菌ネットワークを介して各地に存在する様々な兵器に指令を送る。

あまりにも永すぎた後日談に終止符を打つために。

 

「ぷりーず、ぷりぃぃーず……。」

 

 世界はどうせ終わっている。

 世界は所詮私のもの。

 なら私の我儘につき合わせて何が悪い?

 

 そんな彼女の考えに異論を挟むものは無く。歌う少女のなすがままにすべての準備は整っていく。

 やがて最後の一工程を前にして少女は歌を止め、祈るように、懇願するように純粋な乙女の声色で呟いた。

 

「誰か、いいえ、もうなんだっていいの。どうか私に、どうかこの心に。」

 

 少女の瞳が閉じられた。

 

「ぷりーず・たっち・みー。」

 

 そして地球は滅亡した。

 かつて日本と呼ばれた地域のアーコロジー跡最深部に安置されていた『人格シェルター構想』の成果と諸共に。

 

 

 

 

 

 

「戦士長。やはりこの村にも生存者はいませんでした。」

 

 副長による報告を受けて、リ・エスティーゼ王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは奥歯を噛みしめた。また、間に合わなかった。

 国境付近の村々を襲撃している賊を退治するように国王から命じられたガゼフだが、未だにその凶行を止めることも敵の正体を掴むことも出来ていなかった。

 

 いや、敵の予想はついている。一番最初にガゼフが駆け付けた村には僅かながらも生き残りの村民がおり、彼らが帝国の騎士に襲われたと証言したのだ。

 ならば敵の正体は王国と敵対する帝国の手の者……そう考えるのが自然だ。しかしその後の襲撃された村々での調査がその考えに疑問を投げかけ敵の正体をおぼろげなものに変えていた。

 

「戦闘の痕跡はどうか?」

「ありました。おびただしい量の血痕も。しかし襲撃者の死体はおろか、村民の死体も何処にも確認できませんでした。」

 

 これも、また同じだ。最初の村以外、ガゼフが駆け付けた村々にはただ一人の生存者も存在しない。

 残されているのは無残にも破壊され焼かれた村と戦闘の痕跡、人ひとりが死ぬには十分な量の無数の血だまり。

 そして――

 

「例の痕跡は?」

「他の村と同じです。村中の地面に小型の轍の無数に走っています。」

 

 ガゼフは馬を進ませ村の中へと進む。すると副長の報告通り、村の地面には無数の轍がはしり複雑な文様を描いていた。

 この轍は奇妙なものだった。通常の轍がシンプルな線として地面に残るのに対して、これは地面に蛇腹状の模様を刻んでいるのだ。またその深さも常と異なる。硬い地面を掘り返すように深く刻まれた轍は、これを刻んだ馬車、もしくは車輪をもつ何かの凄まじい重量を物語っている。とても人力で引けるものではないだろう。にもかかわらず地面には動力源になった動物の、例えば馬とか牛の蹄の後は残っていないのだ。残っているのは騎兵が残したであろう歩幅の広い馬の足跡だけだ。

 

「やはり何らかのマジックアイテムか。」

「恐らくは。轍は血痕を繋ぐように伸びていました。敵はマジックアイテムを使って村民の死体を集めているものと思われます。」

「一体なんのために?」

「それは……。」

 

困惑したように言いよどむ副長の気持ちがガゼフにはよくわかった。正確な事はわかるはずがないのだ。理由を考えても全て憶測に過ぎない。

 

「馬鹿な問いだったな。気にするな。このような行いの真意などわかるはずもない。わかるのは敵には何か良くない邪悪な思惑がある、それぐらいだ。」

 

 当初ガゼフはわざとらしく生存者を残す敵のやり口から、こちらの兵員を削ごうという戦術的意図を感じ取っていた。しかしその考えは次の村へ到着した時点で消えてなくなった。生存者無し。一体最初の村はなんだったというのだろうか?その後の村々の徹底された仕事ぶりからは信じられない事ではあるが、もしかして本当に意図的ではなく偶然奇跡的に見逃してしまったのだろうか?

戦士長として王宮に仕え、それなりに頭を使う事の増えたガゼフだったが、敵の思惑が全く読み取れず歯噛みするばかりだった。

 

「一体この村の民たちはどこへ消えてしまったんだ。」

 

 ガゼフの視線が轍をなぞり村の中心へと向かう。険しい視線の先には掘り返された地面があった。まるで巨大な穴を掘った後で埋めなおしたかのように耕かされた地面へと轍は伸びておりその痕跡を消失させている。これも最初の村以外必ず存在しているものだった。

 まるで地面の中へと消えたとでも言うような状況から、ガゼフは一度だけ兵士たちに地面を掘らせたことがある。しかし結果は湿った土が掘り返されるのみ。予想された村民の死体は出てこなかった。

 

「……憶測に過ぎませんが、帝国にはかの魔法詠唱者(マジックキャスター)フールーダ・パラダインがいます。魔法研究の進んだ帝国ならではの死体の使い道があるのではないでしょうか?」

「それは……。」

 

 ありえない話ではないとガゼフは思った。魔法の事には詳しくはないが、魔法という存在の何でもありな理不尽さは知識としても経験としても知っている。死体に何らかの魔法的価値があるとするならば自国の民をその材料にするより他国から持ってきた方が国内からの反発は少ないだろう。死体を使う魔法など邪悪なものでしかあるまい。そのような邪悪な行為を望むならば多少の苦労をしてでも他所から材料を持ってこようと思ってもおかしくはないのではないか。

 

(本当にそうか?かの鮮血帝ならば国内からでも人知れず死体を集める事など造作もないのでは?)

 

その方がリスクは少ないように思える。わざわざ王国の民を材料に使う必要はないはずだ。そこまで考えてガゼフは一端思考する事を止める。なんにせよやることは変わらないからだ。

 

「ありえない話ではないが正しいとも思えないな。しかし敵の狙いが何であれ我々の行うべき事は決まっている。行くぞ副長。無辜の民を凶賊の手から守るのだ。陛下はそれを望んでおられる。」

「はっ!」

 

 生存者がいないのであればもうこの村で行うべき事はない。早急に近隣の村へと向かい次の襲撃を未然に防ぐ事こそ肝要だ。

 ガゼフは馬を走らせる。その後ろには引き連れてきた兵士全員分の馬が立てる砂埃が続く。

 ガゼフは未だ姿を見ぬ敵に得体の知れなさを感じながらも、守るべき民のため馬を急がせた。

 

 

 

 

 

 

「取り逃がしたか……。」

 

 夕日に染まりだした草原に45人分の人影がにじみ出るかのように現れるとスレイン法国特殊部隊『六色聖典』が一つ『陽光聖典』の隊長ニグン・グリッド・ルーインは舌打ちした。

 

「奴ら部隊を分けませんでしたね。」

 

ニグンは部下の言葉に巌のごとき表情のまま鼻を鳴らした。

 

「ふん。どうやら理想ばかりを求める甘い男ではなかったらしいな。」

 

 ガゼフへの評価を改めるニグンだが、口にした言葉と裏腹に表情は侮蔑に歪んでいた。自分が罠にかけられている事に気づき、こちらがわざと残した生存者を見捨てるという道を選べるだけの知性があるというのに、愚かにもガゼフは腐敗した王国にしがみついている。

 彼の戦闘力と人望をもってすれば人類に対してもっと有意義な貢献ができて、もっと多くの人間を救えるはずなのに。

 

「……馬鹿な男だ。」

 

 ニグンは嘆かわしいとばかりに頭を振った。

 

「いかがいたしましょうか?」

「負傷者による戦力分断は望めないが奴らを走らせ疲労させる事には意義がある。囮にはこのまま村を襲ってもらおう。獣を疲れさせ檻に誘導してもらわねばならん。」

 

 ニグンはガゼフ達が去っていった方向を鋭く睨む。そしてふと、眉をしかめて顎に手を添えた。

 

「……囮はしっかり生存者を残しているんだろうな?」

「囮の全隊員には事前に厳命してあるので、命令に反して皆殺しという事はありえないでしょう。」

「そうか。しかし事前の調査ではガゼフは苦しむ民を前にしてああも早く見切りをつけられる男ではなかったはずなんだが。」

 

 ガゼフの情報を持ってきたのはニグン達と同じ六色聖典の特殊部隊だ。情報収集に特化した彼らの分析を疑うのには抵抗があった。だから報告書にあったガゼフの人物像が間違っているのではなく、そもそもの前提が間違っているのではないかと疑ったのだ。

 生存者が居なければガゼフが救護のために人員を割くわけがない。

 

「では村を確認しますか?」

「いや、よせ。我々の存在は万が一にも悟られてはならない。無用なリスクは控えるべきだ。」

 

 部下の提案を即座に却下するとニグンは夕日に染まった草原を睨みつけた。

 

「次に囮たちが行動する村の位置を示せ。」

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国騎士の鎧を身に着けた騎兵の一団が王国、帝国、法国の国境付近に広がる草原を行く。

 その先頭を走るのはロンデス・ディ・グランプ。帝国騎士の鎧を着ているのに名前が三つに分かれた法国風の名を持つ彼は手綱を硬く握りしめヘルムの奥で顔を怒りに歪めていた。

 

「くそがっ!だからあんな野郎を隊長にするのは嫌だったんだ!」

 

 こらえきれない怒りが罵倒として口からほとばしる。あんな野郎、とはロンデス達一団の隊長であるベリュースの事だ。本国では程々の小金持ちであり部隊へは経歴に箔をつけるために参加していた。典型的な成金野郎であり傲慢で下種な男だ。

 現在そんなベリューズは一団から姿を消していた。死んだのである。そしてそれがロンデスの怒りの原因だった。

 

(クズだクズだと思ってはいたが、まさかあそこまでとは思わなかった!)

 

 歯ぎしりしながらロンデスの脳裏に浮かぶのは先ほど火を放った村の光景だ。

 今日何度目かの村の襲撃をなれた手順で順調にこなし、一部の生存者を残して村民を皆殺しにしたときの事だった。ロンデスは村人の始末が終わったことを隊長であるベリュースに報告しようとしていた。しかしベリュースが見当たらない。隊長たるものが一人で行動するわけがないので仲間達に行方を知っているものはいないかと聞いて回ると、護衛としてついていた二人が気まずそうに行方を答えた。

 

 不審な態度の二人に疑問を感じながらも教えられた場所へ向かったロンデスが見たもの。それは荒らされた家屋の中で衣服を剥がれた若い娘にのしかかるベリュースの姿だった。

 瞬間、様々な理由で頭が怒り一色に染まったロンデスはベリュースを力づくで哀れな娘から引きはがし、その燃え上がる怒りの炎を一瞬で鎮火させた。

 転がり仰向けになったベリュースの喉元には果物ナイフが突き刺さっており彼はすでに絶命していたのだ。そしてベリュースに暴行されながらも隙を見て返り討ちにした娘も瞳孔の開いた目に涙を湛えたまま息を引き取っていた。

 

(任務中に村娘を手籠めにして返り討ちにあう奴があるか!)

 

 そのあとロンデスは脈がなく呼吸もしていない娘に短く祈りの言葉を捧げるとベリュースの兜を脱がせその顔に何度も何度も鉄拳を叩きつけた。義憤がロンデスにそうさせたのではない。死体を持ち運ぶのは速度が重要になる今回の任務において避けるべきだし、帝国の鎧を付けた死体が転がっていれば自分たちの所業をバハルス帝国のものと強く印象付ける事ができる。部隊員に万が一死者が出た場合のあらかじめ決められていたマニュアル通りに行動したのだ。

 

 顔という個人の特定に大きく関わる部位を破壊したロンデスはベリュースの死体をその場に放置すると事の次第を仲間達に説明し、短い協議の結果隊長代行に任命された。そして現在の馬上へと繋がるのである。

 

「ロンデス!おいロンデス!」

「なんだリリク!」

「なんだじゃないぞ。もうすぐ次の村だ。ぼさっとしてるなよ隊長代行!」

「っ……!すまん!」 

 

 はっとしたロンデスが進行方向を凝視すれば草原の先から微かに白い煙が立ち上っているのが見える。竈の煙、つまりあそこに人の生活があるのだ。今は怒りに気をとられている場合ではない。果たすべき任務を思い出しプロとしての心構えを固めるとロンデスは大きな声を張り上げた。

 

「あともう少しで次の村だ!やることは変わらず、配置も変更なしだ!」

 

 おう!と低い、しかし気力に満ちた声が背後から聞こえてくる。ベリュースが隊長だった時にはもっと沈んだ声だった。その差異に、共に厳しい訓練を乗り越え修羅場を潜ってきた隊員達との絆を感じでロンデスは男臭い笑みを浮かべた。

 

「だが油断するなよ!女の尻ばかり追いかけてるとひどい事になる!あの成金野郎みたいにな!」

 

 はははははは!

 大きな笑い声が起こった。もちろんさっきの発言は冗談だ。ロンデスは仲間達がベリュースのような失態を犯さないと確信している。沸き起こった笑いも何処か嘲笑の色が含まれていた。あの村娘のような事は絶対に起こり得ない。

 

「殺そうとしている俺たちが何を馬鹿なことを。」

 

 小声でつぶやいた言葉は蹄の音でかき消える。殺戮者である自分たちが人道を守ろうなどと笑わせる。そういう思いはロンデスの心の中に確かにあった。しかしそれでも人としてやってはいけない事があるはずなのだ。

 

(どうせ殺すのなら、せめて安らかな死を。)

 

 そう誓うロンデスの心に浮かぶのはベリュースに組み伏せられた少女の顔。悲痛な涙に彩られたその死に顔は直視に耐えがたいものがあった。美しい金の髪に整った顔立ち。きっと村では評判の器量良しだったに違いない。それがあんな事になってしまって、任務のため大義のためとはいえ心が痛まないわけがない。ロンデスは人間なのだから。

 

(……あれは俺の見間違いだ。しかし。)

 

 胸が締め付けられる感触が僅かに緩む。ロンデスが思い出すのはあの強姦の現場。哀れな娘の死後の安息を神に祈ったその時、ロンデスは死んだはずの少女が微かに微笑んだように見えたのだ。

 驚いてまじまじと見なおした時にはすでにその笑みは消えていたためきっと見間違えなのだろう。しかし見間違えであろうとロンデスの罪の意識が見せた幻だろうと。その笑みはロンデスにとっては確かな救いだった。

 

「村が見えたぞ!総員抜剣!突撃するっ!」

 

 ロンデス達が村めがけて突撃していく。夏の日差しにロングソードを輝かせて殺戮の為に馬を走らせる。

 襲撃される村は殺戮者の接近に気づいていないのだろう。穏やかな静寂を保っている。

 虐殺の予感を胸にロンデス達が往く。

 だが彼らは気づかない。

 上空から自分たちを見つめる黒い鳥の群れに。

 そしてその鳥たちの目は抉り出されており、かわりに水晶のはめ込まれた金属が埋め込まれている事に。

 

 真夏の草原に場違いな金木犀の香りが微かに風に乗って流れた。




後日談の世界の終わりからど畜生なネクロマンサーの参戦です。
二次創作は不慣れなので感想を頂けると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。