ネクロマンサーぷらす   作:すすりじた

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未知との遭遇

 すんっ!

 すすり上げるように鼻を鳴らすとロンデスは腕を振るってロングソードについた赤い液体を払った。どうもおかしい。村に入ってからずっと感じていた違和感の正体に気づいたロンデスは今度は深くゆっくりと鼻から息を吸った。

 

「……花の香りだ。」

 

 ロンデス達という殺戮の嵐が蹂躙している真っ最中の村でその香りはえらく場違いなものだった。なにせあちらこちらで人間が刃物で切り裂かれ血をまき散らしているのだから。たしかに村にはいくつかの種類の花が咲いているがそれだけで血臭が紛れないことは複数の村を血祭りにあげてきたロンデスにとってわかりきっていることだった。そもそも、咲いている花はこんな甘い香気を放つ種類ではない。

 では一体どこからこの香りは漂ってきているのだろうか?ロンデスは原因に思い当たり、自らの行為に僅かな恐怖と嫌悪を感じながらもついさっき切り殺した中年男性の死体に歩み寄る。そしてその赤く染まった傷跡に顔を寄せ息を吸った。

 

「……花の香りだ!」

 

 鼻腔を通り過ぎていく空気には朽ち木を思わせる香りと、僅かながらの錆びた鉄と花の香りが含まれていた。一体これはなんだ?ロンデスは困惑した。

 途端に自分が切り殺したどこからどう見ても人間種の男性の屍が、なにか得体のしれないモンスターの屍のように見えてしまう。

 だってそうだろう?どこの世界に花や朽ち木の匂いのする血液が流れる人間がいる?

 ロンデスは心の中で訴えると急に襲ってきた不安から周囲を見回した。

 

 至って普通の、辺境の村らしい室内には3体の死体が転がっている。一体は先ほど調べた男、後の二体は男の妻子であろう女二人だ。ロンデスはこの哀れな中年女と童女を家に押し入ってすぐに背後から一撃を加え背中を切り裂いた。二人が悲鳴を上げて倒れた瞬間妻子を助けに来た男と揉み合いになり、想像以上に強い力に苦戦しつつも一太刀浴びせ殺害したのだ。

 

(この男だけなにか得体のしれない病気にかかっていたのかもしれない。)

 

 ロンデスはとっさに斬りつけたためにまだ女たちが生きているかも知れない、一応止めを刺す必要がある……と理由をでっちあげて倒れる女二人に歩み寄っていく。心臓の鼓動が早まる。

 

「……。」

 

 一歩、二歩と進んでいくうちに花の香りが強くなっていく。まだ離れているのに間近で嗅いだ男の匂いよりも濃い香りだ。これもやはり流れ出した血から香っているのだろうか?ロンデスの視線が死体の傷口へと引き寄せられていく。

 その時だ。

 ガシャン!という金属音を立ててロンデスの全身が固まった。

 

「おいロンデス!そっちは終わったか?」

「うおっ!?」

 

 後ろからいきなり飛んできた仲間の声にロンデスは体を跳ね上げた。暴れる心臓と荒くなる呼吸の苦しさに耐えながら入口を振り返れば仲間の一人であるデズンが怪訝そうな表情でロンデスを見つめていた。

 

「どうしたんだ?そんなに慌てて。」

「……いや、何でもない。この家はもう終わりだ。次に行こう。」

 

 ロンデスは自分を見つめるデスンから目を背けると、いそいそと外へと出ていく。

 外に出たロンデスの目に飛び込んでくるのは今日でもう見飽きるほど見てきた蹂躙される村の惨状だ。苦痛と驚愕の表情で転がる無数の死体。血だまり。遠くから聞こえる怒声と悲鳴。顔をしかめるような虐殺の現場だ。

 だが、その光景がロンデスに自らの任務を思い出させ、小さな恐怖を忘れさせてくれる。任務に集中しなければ。ロンデスは兜の上から頭をコツコツと小突き気分を切り替える。

 

「なぁロンデス。本当に大丈夫か?」

 

 後からできてきたデズンの心配そうな声。仮とはいえ今の自分は隊を率いる者。これではいかんとロンデスは自分を叱咤した。

 

「大丈夫だ。それで、状況はどんな具合だ?」

「いつも通り順調だ。今はリリク達が村人を村の中央へ追い立てている。」

「そうか。ならその後全員始末して火を放てば終わりだな。よし、リリク達を手伝おう。行くぞデズン!」

「おう!」

 

 走り出したロンデスとデズンは鎧を威圧的な鳴らしながら村の中央へと走る。二人の走る道は村の主要な道のはずだがやけに凹凸が多い。足を取られそうな窪みと段差に注意しつつも村のどこかに生存者がいないか目を光らせる。生存者が居れば殺す。命令で必ず生存者を残さなければならないが、それは袋のネズミにした村人達の中から選べばいい。

 

 追い立てられ訳も分からず死の待つ罠へと集まった村人に対して、ロンデス達強者はその生殺与奪を自由にできる余裕が存在するのだ。

 今度は女をすこしばかり残してやろう。ベリュースの行いに対するせめてもの罪滅ぼしだ。

 ロンデスは心の中でそう決めると、これから本格的に始まる殺戮に対して微かに抱く不快感を振り切るように真っすぐ走る。

 作戦が開始されてもう随分と時間が過ぎた。動かす脚にも剣を持つ腕にもズンと重たい疲労を感じる。それを無視してロンデスは走る。その心は不快感に曇りながらも比較的晴れやかだ。

 なぜなら、理由がわかったから。

 

(さっきのあれは疲れのせいだな。気を張りなおさなければ。)

 

 遠ざかる背後の家の中で見た背筋が凍るような光景。

 背中の衣服を真っ赤に染め倒れる女たちの傷に、流れ落ちた血が蠢き吸い込まれていくあの光景は……幻覚なのだ。そう納得できる理由が。

 

 

 

 

 

 

――誰かが困っていたら、助けるのは当たり前。

 

 思い出されるのはユグドラシルというゲームを始めたばかりの頃、度重なるPKによりまともに冒険すらできなかった自分を助けてくれた恩人の言葉。

 たっち・みー。

 あの白銀の聖騎士と出会えなければ未知の世界を冒険する事もなく失意のうちにあの現実(地獄)へと引き戻され空虚なまま生きるしかなかったはずだ。あの出会いと言葉はそれからのユグドラシルでの冒険の始まりの言葉であり、社会人鈴木悟の黄金時代の呼び水となったのだ。傍に仕える執事「セバス・チャン」から彼の面影を垣間見たモモンガは決断した。

 

 あの村を助ける。

 

 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)には文明レベルの低い、モモンガが生きていた世界であれば貴重なものだと持て囃されるであろう村が映し出されている。中心部に建造物が崩壊した跡のような瓦礫の山がある以外は牧歌的といえるこの村は現在、騎士風の恰好をした者達に襲撃されている。村人たちは散発的に抵抗しているが完全武装の相手には叶わず次々に切り殺されており、その光景を見た多くの者が追い立てられるがままに瓦礫のある村中心部へと逃げていく。そして騎士たちは悠々と包囲網を縮め、必殺の状況を形成しつつあった。さらには逃亡者対策なのだろう。村の周囲には馬に乗ったままの弓兵までもが配置されている。

 

 用意周到なものだ。

 襲撃者の洗練された配置に純粋な称賛を送ると、モモンガは無言で画面を凝視する。他に緊急性を要する事態になっている生存者を見つけるために。村の中心地に集められている村人たちの包囲網が完成するのはもう少し時間が掛かるだろう考えての判断だった。

 

 遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)の映像が切り替わる。

 そしてカパッという間抜けな音を立ててモモンガの骨だけの顎が大きく開かれた。

 

「どうかなされましたかモモンガ様?」

「い、いや。なんでもない。なんでもないぞセバス。」

 

 慌てて取り繕いながらモモンガは再度映像を凝視する。そこでは顔面を押さえもだえ苦しむ騎士の姿がある。モモンガの見間違えでなければ彼の押さえた掌の下には拉げた兜の縁がめり込んだ血まみれの鼻があるはずだ。

 

「……時にセバス。村人が、それも人間の年若い娘が戦闘用に作られた兜を素手のパンチ一撃で変形させる事は可能なのか?」

 

 セバスはモンクの職業を取得しているレベル100のNPCだ。打撃に関する質問をするのには適任だと言える。故にモモンガは自分が見た光景、即ち、細腕の村娘がパンチ一発で鎧を着こんだ成人男性を吹き飛ばし兜ごとその顔面を拉げさせる、という1シーンが持つ意味を知るためにセバスに質問した。

 

「装備の質にもよりますが、その人間の娘がモンクなどの素手攻撃に精通した職業を取っていない限り難しいかと。余程のレベル差があれば話は別かと存じますが。」

 

 正規軍らしい騎士達が装備している兜が村娘一人の腕力で破壊できる程度のものでは話にならないだろう。そうなるとあの少女はモンクのクラスを取得している格闘熟練者か、訓練を施されている正規軍兵士を凌ぐレベルの持ち主という事になる。いや、この世界にもレベルという概念があるとは限らない。そうなると農民に見える彼女は実のところ実践で通用する実力を格闘家だというのが最もしっくりくる考え方だ。

 

 なら俺が助けに行かなくてもよくないか?

 モモンガが脱力感と共にそう思った瞬間、妹らしき、より小さな少女の手を引いて逃げようとする少女は悲鳴を聞きつけて現れたもう一人の騎士に背中を斬られてしまった。

 実際が何であれ身を守れるだけの武力があると思っていた少女の突然の窮地。

 もはや一刻の猶予もないだろう。

 モモンガは強いのか弱いのかはっきりしろよ!などと心中で悪態をつきながらもセバスに指示を出すと転移魔法を発動させる。

 

<転移門(ゲート)>

 

 ユグドラシルにおける最も信頼性の高い転移魔法が発動し、次の瞬間モモンガは先ほどまで見ていた光景の中に居た。

 突然現れたモモンガに驚いているのだろう。濃い茶色の髪を二つ結びにしている妹らしき少女はペタンと地面にへたり込みながらも、零れ落ちそうなほどに見開いた目でモモンガを凝視している。怯えて強張ったその体はブルブルと震えている。

 姉のらしい少女も似たようなものだ。金色の髪を胸元まで伸びる三つ編みにした少女は恐怖のあまりか、小麦色に焼けた肌を青くしている。それも仕方のない事だろう。彼女の背中は大きく切り裂かれており、その出血量は前から見ても衣服の染みがわかるほど重大である。さらに彼女の右拳の皮は破れ真っ赤な肉が部分的にそぎ落とされた状態で露出している。損傷の激しさは今はいない騎士の顔面を殴った時の衝撃の大きさを物語っており、皮の無いむき出しの組織が空気に触れる痛みは血の気を失わせるのに十分だろう。

 

 見るも哀れな二人を助けるためにモモンガは呆然と立ち尽くし荒い息をついている騎士目掛け魔法を放つ。躊躇いも問答も容赦もない無慈悲な速攻だ。

 かくして放たれた第九位階魔法<心臓掌握(グラスプ・ハート)>は抵抗される事もなく名前の通りの効果を発動させた。

 少女二人にとっての絶望そのものだった騎士が無言で崩れ落ちる。魔法によって心臓を破壊されたのだ。即死である。モモンガにとっての初の殺人がいとも簡単に成し遂げられた瞬間だった。

 

(別にどうってことないな。……そうか。薄々感づいていたが俺は体だけじゃなく心まで人間を止めたという事か。)

 

 いくら弱者を守るためとはいえこうも容易く人間を殺し、その事になんの痛痒も感じていない自分の事を正義の男たるたっち・みーはどう思うだろうか?

 そんな自責にも似た考えが浮かぶが、モモンガはすぐにそれを頭の外へと追いやった。

 視線を地面へと向ければ、少女二人は倒れた騎士の立てた音に驚き背後を振り返るとそのままの姿勢で固まっている。

 妹らしき少女には目立った傷はないが、姉らしき少女には治療が必要なのは一目瞭然だ。少女に殴り飛ばされたもう一人の騎士が現れる気配がないのを確認するとモモンガはアイテムボックスから下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を取り出した。

 

「怪我をしているようですね。これをどうぞ。」

 

 護衛の為に呼んだアルベドはまだ来ていない。忠誠厚いNPCの目を気にする必要がないのなら初対面の相手に威圧的に接する必要はない。モモンガは言葉が通じる事を祈りつつ、本来の鈴木悟に近い声色で丁寧な口調を使い話しかけた。少女二人が飛び跳ねる様な勢いでモモンガを振り返る。その表情は恐怖に引きつっていた。それにつられて少女を凝視するモモンガの表情も緊張に引きつっていく。無論、モモンガの顔には表情筋など存在しないのであくまでも本人の気分としてだが。

 

「そ、それは一体……。」

 

 恐る恐るといった感じで問う姉らしき少女。とりあえず言葉が通じるようだ。めでたい事である。なにやら発言と唇の動きが連動していないように見えたが、モモンガにとって今はあまり重要ではない。

 

「これは回復……治癒の薬です。飲めばその傷が癒える事でしょう。さぁどうぞ。」

 

 いつ残りの騎士が追い付いてくるかわからない状況だ。モモンガは半ば強引に少女の手にポーションの入ったガラス瓶を握らせた。やや強引なモモンガの勢いに押されたのか、少女はモモンガと手にした瓶、そしてもう一人の少女に何度も視線を移しながらもやがてポーションの蓋を開けた。

 

「お姉ちゃん……。」

「大丈夫よネム。心配しないで……ね?」

 

 やけに悲壮感の漂うやり取りだった。

 やはり姉妹だった少女二人はじっと互いの目を見つめ合う。そして、心配そうな妹の前で姉がポーションの瓶を口元へ運び……。

 

 中の液体を飲むことなくそのままの恰好で静止した。

 

「ん?どうかされましたか?」

 

 もしかして匂いが物凄く薬臭くて飲むのをためらってるとか?

 今まで考えた事も無かったが、仮想世界が現実となったのならポーションにも味や臭いが存在してもおかしくない。そんな事を考えるモモンガの前で少女は瓶を口から離し、持っていた蓋を再び締めた。

 一体どうしたのだろうか?

 疑問に思うモモンガは少女の顔を見る。そして絶句した。

 

「なっ……。」

「……。」

 

 少女は無言だ。しかしその瞳孔は左右別々に拡大と縮小を繰り返しており明らかに正常な状態ではない。にもかかわらずその表情は無表情そのもので、先ほどまでの怯えながらも感情豊かな様子は完全に失われていた。まるで機械のような、それこそユグドラシル最終日に見たNPC達のような凍り付いた貌だった。そしてそれは隣にいた妹も同じだ。

 

「これは一体……。」

 

 なにがどうなっているんだ?

 そう呟こうとした時、凍り付いた貌のまま金髪の少女が喋りだした。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「お気持ちは大変嬉しいのだけれど、この薬が私達にどう作用するかわからないので飲むのはどうかご容赦くださいな。」

「……ですから治癒の薬だと言っているではないですか。」

 

 モモンガは僅かに少女達から距離を取る。事態が想像していたものから乖離している。未知に対する危険を感じ取ったモモンガは魔法詠唱者として最低限必要な間合いを確保して少女を睨みつけた。いや、モモンガの想像通りならば、少女を介してこちらにコンタクトを取ってきている何者かを、だ。

 

「あぁ心優しい骨の御方。どうかそう警戒なさらずに。私など貴方の見せた強大なESPの前では無力な小娘。乱暴はおよしになって?」

「ESP?」

 

 呟くように困惑を声にだす。どうやら話しかけてきている相手はモモンガの魔法を超能力だと勘違いしているらしい。だがその間違いを指摘するつもりはない。猛烈な違和感があるのだ。うまく考えが纏まらないが何かが変だという確信があり、それが背筋に冷たいものを走らせる。違和感の正体を知ろうとモモンガは頭をフル回転させていた。

 

「えぇえぇ。正式にはExtra-sensory perceptionといいますわ。」

「たしか、超能力……いや超感覚による知覚だったか。」

 

かつてのギルドメンバーの一人タブラ・スマラグディナが教えてくれた知識を掘り起こして答えたモモンガに対し、少女の芝居がかった喋りに熱が入る。

 

「そのとおり!超能力!素晴らしき人類の夢!私の愛!仕事!成果!」

 

 無表情でハイテンションに喋る少女の姿は、はっきりいって不気味だ。さらに何が面白いのか少女はクスクスと静かに、可愛らしい声で笑っている。それも無表情で。

 

「クスクス……。貴方、分かるのね?私の言葉の意味が」

「えっ?」

「この世界では異なる言語に対して自動翻訳がかかる。でも貴方は『たしか』と言ったわね?翻訳された英語を聞いて意味を知ったのではなく、自分の記憶からその意味を引き出した。」

 

 ――貴方、この世界の人ではないわね?

 

 瞳孔の開ききった暗い瞳に見つめられたモモンガの脳裏に戦慄と共に浮上するのは『プレイヤー』という単語。予想はしていた。自分だけが謎の転移現象に巻き込まれたわけがないと思っていた。しかしまさかこうも早く遭遇するとは思ってもみなかった!

 

「だったら、なんだというんですか?」

 

 この少女を操っている者は一体誰だ?レベルは?種族は?職業は?装備は?所属ギルドは?アイテムはどれだけ持っている?アインズ・ウール・ゴウンに対してどういうスタンスだ?これまでのやり取りで悪印象を与えなかったか?……多分大丈夫だ。全くの偶然だけど丁寧な口調で喋っててよかった!というかアルベドまだか!?この状況でタンクが居ないとか不安すぎるんだけど!かといってデスナイト作るのも敵対行動と取られるかもしれないしああもうどうすればいいんだ!

 

 全力で思考するモモンガ。その様子を見て無表情の少女が笑った。そして先ほどまでと違った少女らしい口調で喋った。

 

「クスクス……。なぁに?正解だったの?かまをかけただけなのに。」

「は?」

 

モモンガの口から意表を突かれたような、それでいて威圧的な声が漏れる。かまかけとは一体どういうことか?

 

「だって、だれか別の人にESPという言葉とその意味を教えて貰っただけ、っていう可能性もあるじゃない?」

 

 頭を殴られたような衝撃がモモンガに走った。そう言われればその可能性は確かにある。プレイヤーである事を隠そうとするならばそう言い逃れる事もできたはずなのだ。

 

「た、確かにそうですね。ですけど私は最初から隠すつもりなんてなかったんですよ。」

 

 嘘である。状況と少女の発する異様な空気に呑まれてつい言ってしまったのが真実だ。

 

「あら、そう?だったら大変失礼なことを……。謝るね、えぇと……。」

 

 相手が名前を聞いている事を察したモモンガは考える。相手はプレイヤーと見て間違いない。ならば悪い意味で有名なアインズ・ウール・ゴウンの名も、そのギルドマスターとしてwikiに晒されているモモンガという名も出すべきではないだろう。何か別の名前が必要だった。しかしここで名乗るのに時間を掛けては偽名かと疑われてしまうかもしれない。モモンガはやむを得ず、即座に頭に浮かんだ名を名乗った。

 

「悟……サトルと言います。」

「サトル?なんだか日本人みたいな名前。」

「!……ええ。日本人ですから。もしかしてあなたも?」

「日本人よ。ミスターサトル。私の名前はリョーコ。とっても良い子と書いて良子。」

 

 名前を聞いてもユグドラシルでは思い浮かぶプレイヤーはいない。少なくとも上位ギルドの構成員にその名前は無かったはずだ。

 とはいえユグドラシル全盛期のTOPプレイヤー達の情報はギルドマスターとして収集を行っていたが、末期ではランキングを見る事も稀だったのだ。リョーコがモモンガの知らない個人ランカーの可能性も0ではない。悪名高いDQNギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスター『モモンガ』である事を隠すのは必要な事だ。

 名を明かすのはリョーコが絶対に敵対しない相手だと分かった時にするべきだろう。

 

「それじゃあミスターサトル。先の無礼を謝罪するわ。ごめんなさい。」

「いえいえ。お気になさらずに。それよりリョーコさん。私はこの世界で日本人に出会うのは初めてでして、出来れば色々とお話しをしたいのですが……。」

 

 なにやらこの世界について詳しそうなリョーコからの情報はぜひとも欲しいものだ。また、モモンガには情報収集だけではなく、その際の会話によって友好的な関係をリョーコと結べないかという狙いがあった。多少不気味な所もあるがちゃんと他人に謝れるし会話も普通に出来る相手だ。リョーコというプレイヤーがいる事から考えて他にもプレイヤーが複数いてもおかしくはない。そしてそのプレイヤー達が会話が出来ない相手という可能性だってあるのだ。もしもの事を考えれば味方は必要だった。

 

「お話ならば望む所よ。でもごめんなさいねミスターサトル。ちょっと今立て込み中で……それが終わってからでいいかしら?」

「勿論ですよ。……って、あ!」

 

 相手も対話を望んでいと聞いてひとまず安堵したモモンガだが、続く『立て込み中』の言葉に忘れていた村の惨状を思い出し声を上げた。予期せぬプレイヤーとの接触のせいですっかり忘れていたがあの包囲されていた村人たちは無事だろうか?もう随分と長い事話し込んでいたような気がする。

 

「どうしたの?」

「この先にある村が襲われているんです。私はそれを助けに来たんですが……。」

「あぁ、それ。大丈夫気にしないで。今頃私のアンデッド達が片づけている所だから。」

「アンデッドが?というとリョーコさんはネクロマンサーなんですか?」

「えぇ。当然ネクロマンサーよ。」

 

 ネクロマンサーとは死霊術の使い手であり、アンデッドを創造し使役する魔法職で、モモンガも同じ職業(クラス)を持っている。

 同じ職業(クラス)持ちならば話題には困らないだろう。気にしないでと言われたモモンガは、村を救うために気を揉む必要が無くなった為に思考をリョーコとの会談へと向けていた。

 

 そんな中、ふと思う。

 ネクロマンサーには目の前の少女のように、遠隔地から他人を支配して会話させる魔法はない。一体リョーコはどのような魔法を使っているのだろうか?

 いや、というかだ。

 リョーコはモモンガの魔法をESPと呼んだ。ユグドラシルのプレイヤーならばそんな間違いは絶対にしないだろう。モモンガは<心臓掌握(グラスプ・ハート)>を無詠唱化せずに、きちんと魔法名を口に出して発動させた。あの光景をリョーコが監視していたのだったらごく自然に魔法による攻撃だと確信するだろう。

 

 一体なんでそんな勘違いを?いや、そもそもがかまかけの為の演技だったのかも?

 

 モモンガはアルベドが<転移門(ゲート)>から現れるまでの短い時間、その事について考えていた。




ようやくネクロマンサーの名前が出せました。
あとどんな系統のネクロマンシーを使うかもおぼろげに。
そこから透けるド畜生ぶりをこの先上手く書けるかちと不安。

大体8000~10000字で区切って投稿していきます。
本当は盛り上がりを考えてロンデス達の受難も入れようかと思ったんですがモチベ的に無理でした。
どうかご容赦を。
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