オペラハウス最深部、元々の施設を撤去し改造を施したリョーコのアトリエ。
生首の乗った執務机以外、ほぼネクロマンシー関係の禍々しい機材と死体しかないその部屋は今、激しい騒音に満ちていた。
ゴウンゴウンというポンプの稼働する音や心電図の発するような電子音、床を走り回る小型清掃マシンのシュレッダー音、そして徹夜明けのようなテンションのネクロマンサーの独り言。
実に耳障りな音ばかりだった。
「忙しい、忙しい!ああもうホントに手が足りないわ!くひひっ!」
手が足りないなら物理的に手を増やす事が出来るのがネクロマンサーだ。白いドレスを脱ぎ捨て、胸部のみを覆う服とストッキング、そして局部を覆う前張りだけの恰好になったリョーコのわき腹や背中には精密作業可能なよぶんな手が三対生えていた。
リョーコは増設した手を駆使し、並んだ二つの手術台に横わたる少女二人に同時並行してネクロマンシーを施している。
一方の手術台に横たわるのは8歳ほどの少女で、頭蓋骨を切開され露出した脳を弄繰り回されていた。
そしてその隣の手術台には三日前にリョーコに生きた人間の温かみを教えてくれた金髪の少女が一糸纏わぬ姿で寝かされている。農村での暮らしで出来たのだろう細々とした傷以外目立った傷跡など無かったその肢体には、医療用メスによる赤い線が縦横無尽に走っていた。それはアンデッド化させる前に子宮や筋肉組織などの有用な人体部位を摘出した痕跡だった。摘出された各種人体は即座に生体培養槽へと送られており、あともう少し時間がたてば量産体制が整うようになっている。しばらくすれば生きた生殖細胞が大量に手に入れられるとリョーコは上機嫌だった。
切開されている部位が少ない事からわかるように、この二体の調整は大詰めを迎えていた。
薬物投与、物理的な脳の切除と増設、各種機械、変異生体部品の接合状態の確認、粘菌を介した自我次元接触領域の調整と記憶の修正。
異世界に転移した日から数えて三日。似たような仕上げ作業をもうどれほど繰り返した事だろうか。村からオペラハウスに帰還したリョーコは不眠不休で働き続けている。
時間に追われて作業をするなんて一体いつぶりだろうか?久方ぶりの忙しない感覚をリョーコは楽しんでいた。
しかし楽しんでばかりもいられない。言っていた通りにやるべき事に対して手が全く足りていないのだ。そしてそれはもしかすると致命的な損害につながる可能性があるのだから作業の効率化は急務だ。
とにかく急いでオペラハウス内の全戦力を即時使用可能な状態にしなければならない。
状況を愉しみつつも、間違いなくリョーコは焦りを感じていた。
「魔法、魔法、……魔法ねぇ?くすくす……なんなのそれ笑える。」
心臓付近に刺していた針を抜き取りながらリョーコは笑う。手術台の上の……抽出された記憶によればエンリ・エモットという名の少女の裸体が反射的にビクンと身もだえると、全身に走る赤い線が見る見るうちに消えていく。それは特に再生能力に優れるよう強化を施されたアンデッドが見せる特性だった。血液と入れ替えられた特別製の複合粘菌コンピューターの機能が部分的に起動し、傷口を数秒で縫合してしまったのである。いまやベットに横たわるエンリは元通りの美しい体に戻っていた。
それを当たり前の光景として一瞥したリョーコは数日前の出来事に思いを馳せる。
――三日前。昏倒した村人達を両手に抱えたゴライアス達をオペラハウスに向かわせた後、リョーコは重量級アンデッドの重みであちこちの地面が凹んでしまった村を散策しつつウキウキ気分で最深部のアトリエへと帰還した。
新たな遺伝資源や生殖細胞を得る事はアンデッドの外見的多様性を広げるし、データベースのストックにない自我次元接触パターンの解析はネクロマンサー特有の高度に変態的な趣向を満たすのに大いに寄与してくれる。いつも同じ自我を弄んでいても飽きてしまうのは自明の理なので、スキップどころかステップを踏んで踊りだすほど上機嫌になるのも仕方ない事だろう。
アトリエに到着し次第、拉致された村人達は薬剤を投与されより深い眠りに落されると、汚れを取り除き付着した雑菌やウイルスを捕食する特性を持った粘菌で満たされた洗浄用プールで中身を含む全身を洗浄された。洗浄された村人達は真っ先に生殖細胞を採取されると、その後ゆっくりと自我次元への接触パターンを解析され、オペラハウスに設置された大型粘菌コンピューターにそのデータを登録された。
それは自我、または人類末期に流行った多くのカルトで使われた言葉で言うところの魂をネクロマンサーに捕らわれる事を意味する。
今後彼らの自我、あるいは魂は何度でも科学的に再現可能な現象としてネクロマンサーの意のままに弄ばれ続ける運命なのだ。
そういった生きている内にやるべき作業の全てを終えた後は速やかに安楽死させられる。
リョーコはネクロマンサーなのだから、他人を散々玩具にした後で無残に殺害することに嫌悪感は抱かない。寧ろ大好物である。しかし、さび付いたのこぎりを手にしたリョーコはベッドに横たわる村人たちを眺めている時に思ったのだ。
(生体パーツはクローンで取り放題だけど、今のところ新鮮な天然パーツは目の前のこれだけなのよねぇ。)
天然ものに価値を見出すのはネクロマンサー的美学によるものだった。一流のネクロマンサーは使用する
じつのところ、クローンから獲得したパーツの方が傷もなく品質は上だ。しかし天然ものにはクローン製にはない
密閉された部屋に炭酸ガスが放たれ、薬で気絶している村人達は意識もなく眠るようにこの世を去った。
そして、安らかな顔で眠る村人達の頭部をリョーコは切開しまくった。老若男女の区別なく頭蓋骨の中身を露出させ記憶を複製する。そうして記憶から村人たちの知っている全ての情報を得たリョーコは、有頂天だった自我に冷水をぶっかけられその身を硬直させた。
農業、風習、貨幣、周辺国家、言語。
そういった記憶の中にも興味深いものは沢山あった。しかし最もリョーコの興味を引き、戦慄させたもの。
それこそが『魔法』の存在だった。
魔法の実在こそが現在リョーコが狂ったように作業に明け暮れる原因なのである。
「私の知らない未知の力……うふふふ、どんな事まで出来ちゃうのかしら?引きこもりたくなるわ。」
後日談の世界の頂点に立つ絶対者たるネクロマンサーにしては弱気な発言だった。
だが同時にネクロマンサーらしい言葉とも言える。なぜなら自らを神であり全てを支配する絶対者だと驕り高ぶる一方で、非常に慎重かつ臆病で警戒心が強く、自分の身を危険にさらすことを極端に避けるのがネクロマンサーだからだ。比類しうる存在を認めず、外部に目を向けず安全な箱庭に引きこもって遊ぶ事を第一とするネクロマンサーのなんと多かった事か。
「でもそれはダメね。ダメダメよ。それじゃあ今までと変わらない。それじゃあ私はつまらない。」
死したエンリの頬をどこか不安そうな、それでいて興奮しているような表情で撫でる。とてもとても愛おしそうに。その指先が愛撫しているのはエンリを含めたこの世界に広がる
あきれるほど欲望に従順なのもネクロマンサーの特徴である。目の前に極上の餌があると知って手を出さないわけがない。
たとえそれが破滅に繋がるものだとしても。炎に羽ばたく蛾の如く、かつてあの力を手にした時のようにリョーコは止まらない。止まれない。アンデッドが歩みを止めたら、それはただの死体なのだから。
だから、準備を始めたのだ。未知を既知に変えるために。その過程で滅んでしまわないように。
「ネクロマンサー様、ご報告に参りましたわ。」
来訪者を知らせる電子音が鳴り、続いて鈴のような可愛らしい少女の声が聞こえた。
「入っていいわよ。」
客が来ようとも作業を止めない。普通であれば無礼な態度だが、このオペラハウス内で最も偉いのはリョーコだし、たった今やって来た人物もそれを気にしたりはしない。
あえて鳴るように設定された空気の抜ける様な開閉音と共に分厚い合金製の扉が開く。すると、軽い足音がペタペタと室内に入り込んできた。
リョーコは口元に優しい笑みを浮かべると、一瞥もせずに相手に腕がたくさん生えた背中を見せたまま喋りだした。
「早かったわね。流石は私の可愛いゾンビクイーン。優秀ねぇ。」
「お褒めの御言葉ありがとうございます!」
リョーコの邪魔をしないように少し離れたところで跪く少女が頬をピンク色に染めながら歓喜の声を上げた。
そんな天真爛漫な様子を見せる少女が纏うのは黒と白を基調とし布の外縁に金のラインが走る麗しきドレス。リョーコのものに引けを取らない艶やかな黒のロングヘアーをリボンとレースがふんだんに使われた、見ようによっては王冠にも似たヘッドドレスが飾り立てる。長く伸びた前髪によってその麗しのまなざしは見えずとも、形の良い口元が感情を豊かに表現している。
美しいものだけで構成されたかのような、いや、事実厳選に厳選を重ねたパーツだけで作られた肉体を持つ彼女こそがネクロマンサーの寵愛厚き死人達の女王『ゾンビクイーン』だ。
アンデッドの格には三段階ある。レギオン、ホラー、そしてサヴァント。
ゾンビなどの虫程度の自我しか持たず群れとして動くしか能のないレギオンや、動物程度の自我を持ち戦闘用に様々な強化を施された兵器であるホラー。それら二つとは一線を画する存在。それこそがサヴァント。人間と同等の自我を持つコストを度外視した職人的ネクロマンシー技術の結晶だ。ネクロマンサーを打倒しうる可能性を持つ『ドール』とほぼ同質の存在であり、ネクロマンサーの持つ技術と趣味と情熱を一身に受けて生まれたサヴァントは造物主の忠実なシモベ。わざとそういう風に作られていない限り、絶対にネクロマンサーを裏切ったりはしない理想の手駒。故にその多くがネクロマンサーの腹心であり重要なポジションを占めるのである。
「それじゃあ報告お願いね。」
「お任せくださいませ!まず、準サヴァントとして改造された村人さん達ですが、全員カルネ村に戻っていつも通りの日常をすごしています。」
「なにか違和感を感じてたりしてなかった?」
「そういうのは特には。皆さん自分が何をされたか全く覚えていないようですわ。」
カルネ村の住民は全てリョーコによってアンデッド化されていた。それも、生前と全く同じ自我と記憶を持つサヴァントとして。
可能な限り手間を省き、強化パーツを殆ど用いず低コストで作り上げられたその品質はサヴァントとしては最悪の部類になる。熟練ネクロマンサーと自負するリョーコとしてはこんな粗悪品を作りたくはなかったのだが、必要に迫られて止むえず突貫工事で製造したのだった。
オペラハウスの直上にあるカルネ村はリ・エスティーゼ王国に属している。国家に属していて税金を納めている以上、国は村の安全を保障しなくてはならない。今回のリョーコの所業が知れたら国民を殺害した犯罪者として王国と敵対する羽目になるかもしれない。
リョーコが最も警戒する魔法の使い手は王国にも存在する。魔法に対して情報の揃ってない状態で国を相手に戦闘となったら最悪の場合滅ぼされる可能性だってある。
だから最低で魔法について、そしてこの世界の者達の戦力について調査が完了するまでの間は、カルネ村滅亡が周囲にばれてはまずいのだ。
その対策としてリョーコはカルネ村の住民達をカモフラージュとしてアンデッド化した。死体の外見を変えず、自我も記憶も生前そのままにしたアンデッドを生活させておけば、カルネ村が滅亡している事に気づけるものは多くはないと考えたのである。
手間をかけてサヴァント級に仕上げたのは、レギオンやホラーなどの低位のアンデッドでは生きた人間と誤認させるための各種偽装生理機能と、生前と同じ自我と記憶を搭載できないからだ。
しかし苦労しただけあって村人達は生きている人間と殆ど区別のつかない出来になっている。アンデッド化するにあたってゴシックタイプの処理を施しているため食べ物を食べる事も可能だし、排泄だって行う事ができる。偽装用ではあるが呼吸、瞬き、あくびも自然発生するし、心臓だってしっかり脈打ち体温すらあるのだ。
たとえアンデッド化した村人とベットを共にしたとしても、その誰かは全く違和感を感じる事はないだろう。
「流石はネクロマンサー様!急いでおつくりになったのに完璧な出来でしたわ!」
「ま、当然だけどね。あともう少しでこの子が起動する。そしたら上に連れて行ってあげて。それでカルネ村の件はひと段落になるわ。」
「かしこまりましたっ!」
リョーコが指さす先には横たわるエンリ。
彼女たちは今後一切の成長や老化がなくなるが、情報収集にそれほど時間を掛けるつもりもないし、もしも手こずったとしてもその時は外見に手を加えればいいだけだ。
「それで、オペラハウスの戦力はどれぐらい回復しているかしら?ちゃんと確認してきたわよね?」
「ふふーん♪ちゃーんと見てまいりましたわ!」
「あら偉い。流石ね。流石よゾンビクイーン。あなたはとっても良い子。」
満面の笑みと共に頭の周囲に音符でも浮かべているようなゾンビクイーンに対し、リョーコは甘ったるい言葉を背中越しに投げかける。
その言葉に、自らこそがネクロマンサーの寵愛を一身に受けた選ばれた存在だと自負するゾンビクイーンは自らの価値を再確認し
その甘美な感覚に酔いしれる。サヴァントにとってネクロマンサーこそが神であり絶対の主人。そんな存在からの褒め言葉が嬉しくないはずがない。
「トぉーゼンですわ。私は一番初めに眠りから起こされたネクロマンサー様第一のサヴァント。ご期待に沿えるように動くのは当たり前なのです。」
ゾンビクイーンの言葉は真実だ。リョーコを除くすべてのサヴァント級アンデッドが休眠状態に入っていたオペラハウスで、誰よりも早く目覚めさせられて仕事を任せられたのはゾンビクイーンなのだ。
ネクロマンサーが忙しく仕事に明け暮れる中で真っ先に必要とされたという事実が、ゾンビクイーンを驕らせ調子付かせていた。
「あぁ、あなたのように優秀な子の忠誠を受けられるなんて、私はなんて幸せなんでしょう。……それで、どんな感じだったのかしら?」
現在オペラハウス内では封印状態にあった各種兵器、設備の再起動に躍起になっている。カルネ村のカモフラージュがいつ見破られるかもわからないので、オペラハウスが十全の機能を発揮できるようにするのは最も優先すべき事柄である。
「はいー……リアニメイターさん達が頑張っていらっしゃるんですが、やっぱり人手が足りないみたいでして。オペラハウス内のアンデッドの再稼働率はまだ10%にもなっていません……。」
リアニメイターというのはネクロマンシー技術を技能移植された半機械アンデッドでネクロマンサーの助手的存在だ。ネクロマンサーが自身の肉体を改造する時にも用いるホラータイプアンデッドであり、備え付けられた各種アームと与えられたネクロマンシー技術は、限定的にネクロマンシーを使用できるゾンビクイーンのものよりも遥かに高度なものだ。
この金属で出来たエビやムカデに見える複数の関節と細長い腕を持つ奇怪なオブジェのようなアンデッド達は、ゾンビクイーンよりも早くに起動されて各作業に従事していた。
「ボタン一つで再起動可能なレギオンと違ってホラーはそれなりに調整が必要だからね。仕方ない事だわ。」
「ミルトンさんがお作りになった軍用アンデッド達に限定して作業を行っているから、余計に時間が掛かっているみたいですわ。」
「分かっているわ。でもあの変態TS独裁者が作ったアンデッドは指揮しやすいように特別な処理がされているからね。その分調整に手間がかかっても、作戦行動の幅が利くようになるから優先させて損はないはずよ。」
オペラハウスに存在するアンデッドの全てがリョーコの作品という訳ではない。他のネクロマンサーが作ったアンデッド戦力をそのまま丸ごと回収したり、レアキャラを集める感覚で捕獲したアンデッドはかなりの数になる。話にのぼったのはそういった類の、かつて世界が滅びる前に国民全員を
「レギオンとはいえマシンガンやライフルで武装してればそれなりの戦力になる。まずは雑兵を用意しなくちゃね。」
雑兵がいなくては満足に戦えない指揮官型サヴァント筆頭であるゾンビクイーンは首を縦に振った。同時に、いつかの昔、配下の兵を一掃され色々と嬲られたような気がして体を震わせた。彼女の口元が屈辱と怒り、そして羞恥に歪む。『官能』と『凌辱』の記憶のカケラが燃え上がりゾンビクイーンの自我を焼く。
だが、それも一瞬の事だった。確かに経験したはずの記憶だったが、すでにその実感は失われている。実感が伴われなければ他人事だ。感情の盛り上がりを維持する事は難しい。
「んー。情報収集用のアンデッドとナノマシン調整も優先したいんだけど、まだそっちに人員を割ける状態じゃないかぁ。」
「5体のリアニメイターさん達が一生懸命頑張ってくれてますが、広い範囲をカバーするだけの量にはまだまだ届かないみたいですわ。」
「ぬわー!ああいうのって大量に必要だからなぁ。それに、この世界での偵察任務となるとマガドリじゃなくて、近隣の小動物を改造した方が効果は高いだろうし……その内大がかりな狩りをしなくちゃか。あーもう人手が全然たりないよぉー!」
リョーコの腕の一対が頭を抱える。
やりたいことはまだまだ沢山あるのだ。例えば施設に保存されている各種兵器、機能の点検、メンテナスだ。オペラハウス内にはABC兵器を含む多種多様な兵器が蓄えられているが、その全てが即使用可能な状態かというとそうではないのだ。それら兵器群の整備は戦略に大いに関係する重大な問題なのだが、現状ではとてもじゃないが手が回らない。
(バルキリーとか機械知識に堪能なサヴァントを復活させないと。あぁでもそれはもう少しあとかなぁ。)
サヴァントを復活させるのであれば、用意した兵の指揮が可能な者にするべきだ。
自我と記憶の漂白作業に時間が掛かる以上、今はシビアに優先順位を決めて作業しなければならない。バルキリーを復活させるぐらいなら下士官として汎用兵士型サヴァントであるネメシスを先に復活させるべきだろう。
悩みながらもよどみなく手を動かすリョーコ。
その隣のベットで動きがあった。
「あら♪お目覚めみたいですわね!」
「……。」
光の無い目で上半身を起こしたのはエンリだった。上機嫌に『姉妹』の目覚めを眺めるゾンビクイーンの眼前で、エンリの胸が柔らかく揺れた。ゾンビクイーンの機嫌が急降下し、自らの胸を触りながら悔しそうに歯を食いしばった。
「わ、私の胸は選ばれしバスト。だから大きさで負けてたって、べ、べつに悔しくなんてないんですからね……!」
「胸は大きさだけが全てではないからね。さ、ゾンビクイーン。その子を連れて行ってあげなさい。そこの籠に着ていた服があるからちゃんと着せてあげるのよ?」
「は、はい!ほら、新入りさん!こっちに来なさいな!」
同格の胸を持つリョーコからのフォローもあって気を取り直したゾンビクイーンは、彼女の思う女王としての態度を取りながらエンリまで近づくと優しくその手を掴んだ。
そして掴んだ手を引いてエンリを立たせると、籠から取って来た服を持たせる。夢遊病者のような呆然とした様子のエンリが服を受け取ったのを確認すると、ゾンビクイーンはリョーコに優雅に会釈した。
「それではネクロマンサー様、ごめんあそばせ、ですわ。」
「うん。それじゃあしっかりね。」
上流階級のお嬢様に憧れる少女がするような拙い仕草でリョーコに一礼したゾンビクイーンは全裸のエンリの手を引いてアトリエから出て行った。扉が閉まる直前、自我が抑制状態になっているエンリに向かって一生懸命お姉さんぶるゾンビクイーンの賑やかな声が聞こえた。
完全に扉が閉まり、鍵がロックされた音を確認したリョーコは作業の手を止める。
リョーコの前には解放されていた頭部を元通りに縫合された少女が横わたっている。その少女に対し、リョーコはゾンビクイーンに向けていたような偽りしかない優しさとは正反対の、深く真摯な愛情がこもった声で語り掛ける。
「ほぉら、おっきの時間よ。」
元々は黒く、そして後天的に白くなった、今は薄いピンクに染色された髪の生えた頭部を優しくなでる。その仕草や声には、他人が作ったアンデッドであるゾンビクイーンには決して向けられることのない、我が子に向ける母親そのものの愛があった。
「……。」
ベッドの上の少女の瞼が震え、得体のしれない深みの宿った瞳が露わになる。長くのばされた前髪によって顔の左半分が覆い隠されているが、その下の左目が髪という障害物越しにこちらを
「……ママ。」
か細い声で呼びかける少女は、気弱な表情の印象通りの恐る恐ると言った風な仕草でリョーコに手を伸ばした。その手を優しく掴んだリョーコは、しばし手を繋ぐと少女の首に腕を回しベットから抱き起す。
「そうよ、ママよ。ママがリボンを結んであげるから、じっとしてるのよ?」
「……うん。」
なされるがままの少女の頭にリョーコは赤いリボンを結ぶと、自らもベットに腰かけてその膝の上に少女を載せた。
膝の上に抱きかかえられた少女は、戸惑うように瞳を揺らしながらもやがて甘えるようにリョーコへともたれかかった。
「……やさしい、ママは好き。」
平坦な胸に顔をこすりつける少女。黒いベルトがそこかしこに縫い付けられた白い拘束服に身を包む彼女は、不安そうにしながらもその小さな体で精一杯リョーコへの愛情を伝えようとしていた。
「私もあなたの事が大好きよ。アルファ。」
そんな少女、アルファに対して、リョーコはいくつもの愛を向けて応える。
『MKウルトラ計画』に携わっていた者としての愛を。
ネクロマンサーとしての、深い深い愛を。
五万文字到達やったー!
でもこのまま投稿は続けます。
ネクロニカファン的には知っている単語が沢山出てニヤニヤできるでしょうが、オーバーロードファンには説明が不足している様な気がします。自我次元論とか言われても訳わからないですよね。その内説明しなきゃ……。