ネクロマンサーぷらす   作:すすりじた

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ネクロニカ公式FAQのノリで百合百合してます。警告タグにガールズラブを追加しました。


前日談Ⅲ

 飾り気の一切ない室内には所々塗装が剥がれ錆びの浮いているベッドが二台。唯一の光源は部屋の使用者の安らぎなど全く配慮しない、目に切り込んでくるような白い光を放っている。

 元々は個人の私室、あるいは仮眠室だったのだろう小さな部屋。二台あるベッドの上には少女が二人、瞳を閉じて横たわっていた。

 

 一人は一見普通の少女に見える。しかし添い寝をするかの如く並べられた巨大な銃器がこの少女に対する漠然とした不安を抱かせる。巨大な狙撃ライフル、50口径はあるだろう二丁の大型拳銃、そして最も異彩を放つ単体でも巨大なポンプアクション式ショットガンを連結させ同時に発砲可能にした凶器。恐るべきことに、そのどれもに長年使いこまれた跡が残されている。グリップに残された手の跡はこれら巨大な銃器に似合わない小さな、まるで少女の手によって刻まれたものに見えた。

 

 キコ、キコ、という金属が擦れる音が少女の頭部から微かに発せられる。音の元を見れば、そこには少女の側頭部から生えるバルブがあった。微調整を行うように、ひとりでにバルブが開閉を繰り返しているのである。

 それは本来人体に存在しない明らかな異常だ。

 

 もう一人の少女は多くの人が顔をしかめる様な醜さだった。元々は美しかったのだろう少女の顔には醜い大穴が開いており、その体からは明らかに肉体に根を張った植物が生えていた。左腕に幾重にもなって巻き付くのは錆びついた鎖。その先にはまるで囚人に取り付ける錘のような巨大な鉄球が繋がれている。枕元に置かれた日本刀の柄糸は摩擦によって毛羽立っており今にも千切れそうだ。

 

 誰もが死体であると断ずるこの少女の名は「すてねこオートマトン」。

 隣で眠る銃器に囲まれた少女「ひきがねコート」の『姉妹』の一体だ。

 

 ひきがねコートの頭部から聞こえていたバルブ――強化パーツ名『ボルトヘッド』――の脳内物質を調整する音がネジをきつく締める時のような長い音と共に止む。そしてその数秒後。二体のドールの閉ざされた瞳が静かに開いた。

 

「……負けたのか。」

 

 暫しの静寂の後、ひきがねコートが呟く。その声は冷静そのもので、たた現状への理解があった。

 こうした目覚めはなにも初めてではない。あの後日談の世界で初めて目覚めた時から、様々な原因で幾度となく経験している。

 どうやら今回の場合、直前の記憶から考えるとネクロマンサーとの闘いに敗北してしまったらしい。

 

「そうみたいね。あー、もー!あったまくるわね!」

 

 鎖をジャラジャラ鳴らしながらすてねこオートマトンが身を起こす。感情を押し殺し戦闘人形である事を自らに課すドールをネクロマンサー達はオートマトンと呼ぶ。すてねこオートマトンはその名の通りオートマトンとして後日談の世界に目覚めさせられたドールだ。しかし彼女の言葉には感情がありありと現れている。

 元々はこうではなかった。旅の途中に出会った姉妹と、本人は決して認めようとはしないだろうが、あるサヴァントとの触れ合いが彼女を変えた。

 ネクロマンサーの想定を超えた姉妹のいつもと変わらぬ元気な様子にひきがねコートはそっと微笑み、ベットから身を起こした。

 

「ふむ。どうやらソロリティくん達とは離れ離れになってしまったようだね。」

 

 彼女達には他にも「つぎはぎアリス」「のけものホリック」「きぐるいジャンク」「しかばねソロリティ」という姉妹がいる。記憶が正しければ、その四人を合わせた六人姉妹で邪悪で巨大なネクロマンサーに勝負を挑んだはずだ。しかしこの部屋にはすてねこオートマトンとひきがねコートしかいない。

 

「皆大丈夫かな。あの神様気取りの化け物ネクロマンサーに変なことされてないか、心配だわ……。」

「そうだね。でもその前にボク達自身なにかされていないか調べる必要があると思うのだけれど。」

「へっ?」

 

音もなくベットから降りたひきがねコートが身を起こしていたすてねこオートマトンの体をベットに押し倒した。

ひきがねコートのやや中性的な顔が近い。吐息が鼻にかかる。()()()()()()()()だ。コートはこんないい匂いをさせていただろうか?すてねこオートマトンの頬にサッと朱が差す。

 

「ちょ、ちょちょちょ!?どこさわってんのよっ……ひゃう!?」

「ふふふ……ここが弱いのは変わっていないようだね。それじゃあこっちはどうだろう?」

「んっ……やっ、やぁっ!こんな事してる場合じゃないでしょ!あんっ!」

「安心してくれたまえ。この部屋には危険なものは見当たらなかったから、ね。ほら、どうだい?本職のソロリティには負けるが僕だって中々のものだろう?」

「ばっ馬鹿ぁ!」

 

 おおよそ少女らしかぬ行為が始まり、錆びたベッドがギシギシと軋みを上げる。

 こうした行為はドール達の間では珍しい事ではない。何もかもが終わった世界を彷徨う彼女達にとって、己の正気を保ってくれるのは『たからもの』や姉妹に対する未練だけだ。大切な存在である姉妹に対して様々な想い――たとえば恋心、執着、保護、独占、依存など――が大きくなりすぎた結果、この二人のように淫らな行為に及ぶドールは少なくないのである。

 そして往々の場合、そういうドールにとってこういった行為は精神を安定させ狂気を遠ざける効果を持つのである。

 言葉によらずとも、肉体の交わりもまた対話になりうるのだ。

 

「~~~~っ!」

 

 たっぷり一時間はたった頃。真っ赤になった顔を両手で覆ったすてねこオートマトンがベッドで声にならない声を上げて悶絶していた。一方、彼女の『おおあな』からなにまでの調査を終えたひきがねコートは自分が寝ていたベッドで銃器の分解整備を行っている。

 

「うん。ボクの武装に異常はないね。それじゃあそろそろ行こうか。」

「行こうかじゃないわよ!この色ボケっ!」

 

 武装を装備して出入り口らしきドアの前に立つひきがねコートがさも心外だとばかりに眉を顰めた。

 

「色ボケとは酷い言い草じゃないか。君だってさっきはあんないい顔して……。」

「うっさい!バーカバーカ!そういう事いうなー!」

 

 羞恥のあまり叫ぶすてねこオートマトンの眦には涙が浮かんでいる。実は涙ではなく、眼球の保護溶液なのだが感情の高ぶりと共に分泌されるそれを涙と呼んでもおかしい事はない。

 

「……こういう風に泣かせるつもりはなかったんだけどな。ゴメン。」

「あっ。」

 

 すてねこオートマトンの片方しかない眼から零れる涙を、ひきがねコートは啄むようなキスで拭う。

 

「バカ……。」

「それでキミが泣き止んでくれるならバカで結構さ。」

 

 そう言ってひきがねコートは手を差し伸べる。その手をとって、すてねこオートマトンはようやくベッドから抜け出した。

 

 

 

「鍵はかかってない。開けるわよ?」

「了解。いつでもいいよ。」

 

 ドアの前で二人は武器を構える。姉妹の一人である「のけものホリック」がいれば彼女の『けもみみ』で強化された聴力によってドア越しでの調査が行えただろうが、いないのであれば別の方法で対処するしかない。

 

 すてねこオートマトンがゆっくりとドアノブを回し、なるべく音を立てないようにドアを開いた。ワイヤーなどを使ったトラップと音に反応するアンデッドやミュータントを警戒しての行動だが、今回はそのどちらも無かったようである。

 鉄球をいつでも投擲できるように腕を引き絞りながら部屋の外へと向かう。

 

「どうだい?なにかいる?」

 

 部屋の中で二丁拳銃を構えるひきがねコートの問いかけに、数秒沈黙してからすてねこオートマトンが日本刀と鉄球を下ろす事で答えた。武器を下ろす、つまり敵対するなにかの存在は無かったという事だ。

 

「来てもいいわよ。しっかしまぁ、私達また変なヤツに拾われたみたいよ。」

 

 すてねこオートマトンの言葉に誘われてひきがねコートも部屋の外へと出る。そして一息、ほぅと息をついた。

 

「……これはまた。良い趣味しているじゃないか。」

 

 ひきがねコートのその言葉はもちろん皮肉だ。

 部屋の外は窓が一切ない廊下だった。病院か研究所を思わせる無機質な廊下には等間隔にドアが設置されている。それ自体はありふれた光景で、百戦錬磨といってもよい経験を積んだ二体のドールが驚くものではない。

 

「ドラッグイーターの大群……というよりも飾られてるのかな?」

 

 ひきがねコートの言葉通り、廊下の端には綺麗に装飾された柱の上にこれまた綺麗に装飾された台座が置かれ、その上に多種多様なドラッグイーターが安置されている。簡単なライトアップまでされている所から彼女達が美術品として飾られている事に疑いの余地はなかった。

 数にして10を優に超えるドラッグイーター達。声に反応して彼女達の眼が一斉に二体のドール達へと向けられる。

 

「昔だったら取り乱してたかもね。はぁ、私達も随分と強くなったもんだわ」

 

 大量の生首が美術品として陳列されている光景など普通に考えれば狂気の沙汰だ。その視線を一斉に向けられたのならなおさらである。だが長く後日談の世界を旅したドールにとっては、この程度の事態は狂気にはつながらない。何人かのネクロマンサーと対峙した事のある彼女達は、これよりももっと恐ろしい狂気的な光景を幾度となく見せつけられているのだ。ネクロマンサーの悪意の産物と比べればこれら生首の装飾品達は余りにも正常で、少女的趣味があるとさえ言える。

 

「……うん。『蝕肢』のあるドラッグイーターはいないね。」

「動きだしたりはしないって事ね。『にくむち』も無いみたいだし、害はないと見てもいいんじゃない?」

「見た目通りの装飾品ってことかな。」

 

 最低限の警戒のため片手に拳銃を持ちながらひきがねコートはドラッグイーターの一体に手を差し伸べる。攻撃はない。そのままひきがねコートの手は伸び、ドラッグイーターの『エンバーミング』が施された美しい顔に触れる。顔を触られたドラッグイーターは嬉しそうにキューキューと小動物のような声を上げて笑った。

 

「あ、可愛い。どうやらこの子達は兵器に改造されてない本来のドラッグイーターみたいだね。」

「……なんか私このドラッグイーターに見覚えあんのよね。」

「うん?もしかして生前の知り合いとか?」

「そういうのじゃなくて……あ、思い出した!ほら、ちょっと前に廃墟で雑誌見つけたじゃない?」

 

 ちょっと前、というのは彼女達の主観時間ではもう60年ほど前の出来事だ。60年前、廃墟と化した都市部で活動していた彼女達姉妹は様々な人類文明の残り香を発見した。その中の一つにドラッグイーターの専門誌が存在していたのである。

 

「ああ、ドラッグイーターとの戦いに有利になるかもしれないって皆で読んだあれかな?」

「そうそれ!あれの品評会の記事で一位取っていたのと、その子がそっくりなのよ。たしか、ヘッドアイドルに負けない美声を実現するために厳選された声優のー……なんだっけ、カゼミなんちゃらの声帯を使ってる珠玉の一品、とかいうの。」

 

 ヘッドアイドルというのは特に高い人気を持つ慰撫用ドラッグイーターに与えられる日本発祥の称号だ。ヘッドアイドル文化はその火付け役であるドラッグイーター『カメリア』の爆発的人気に後押しされる形で国際的にも広がっていった。そのためだろう、ヘッドアイドル、もしくはそれに匹敵する能力を持つドラッグイーターを所持する事はドラッグイーターのオーナーにとっての一つの夢だった。この個体も恐らくはそういった風潮の中で作られたものなのだろう。

 

「よく覚えているなぁ。そうすると、この子も歌とか歌えるのかな?」

 

 問いかけるような視線をドラッグイーターに向ける。すると、ひきがねコートの指先にうっとりしていたドラッグイーターは鳴き声を一つ上げて自信に満ちた表情になった。歌えるのか。ひきがねコートは歌の邪魔にならないようにそっと指先を引っ込めた。

 

「♪~♪~」

「おお、歌った!しかも上手じゃないか。」

「へぇ~。知らない歌だけど結構いいじゃない。」

 

 大人の女性が無理をして少女の声を出しているような、独特の甘ったるい声が廊下に響く。甘酸っぱい恋を思わせる歌詞が明るくも優しいメロディーで歌い上げられる。

 後日談の世界では中々聞くことのできない美しい歌声にドール達は状況を忘れているのか、それとも豊富な経験が生み出した余裕からか、しばし聞きほれた。

 

「うーん。素晴らしい。連れていきたくなってしまうな。」

「ダーメッ。流石に持ち出そうとすれば警報か何か鳴るんじゃない?飾られてるんだしさ。」

「美術品にセキュリティはつきものか。しかたないね。」

 

 名残惜しそうにひきがねコートがその場を離れると、ドラッグイーターもまた切なそうな顔をする。その様子に後ろ髪を激しく引かれるが、心を鬼にして先へと向かう。

 その後二体は廊下にあるドアの一つ一つを調べたが、中には彼女達が目覚めた場所と同じ光景が広がるばかり。姉妹の姿はどこにもなかった。

 

「結局なにも無かったわね。」

「よくあるパターンだよ。さて、次は最後のドアだね。何かあるとしたらこの先だ。」

 

 廊下の突き当りにあるドアの前までやって来た二体は慣れた様子で行動を開始する。有利になる強化パーツを持っているわけではないが、聞き耳を立てる事ぐらいは問題なく出来る。ドアに耳を当てて神経を集中させる。するとひきがねコートの予想通り、ドア越しに微かな音が聞こえた。それはくぐもっているが、間違いなく何者かが会話している声だった。

 なにやら聞き覚えのある声が「常識のない」「吸う」「綺麗に」「舐めちゃ」などと声を荒げているようだ。

 ひきがねコートとすてねこオートマトンは顔を見合わせた。

 

「ちょっと、この声って。」

「うん。それはボクも思った。」

「……アイツこんな所でなにしてんのよ。」

「さてね。もしかするとお姫様のアジトなのかなここは。」

 

 あんな趣味があるとは知らなかったけどね。

 大量のドラッグイーターの姿を思い出しながらつぶやくひきがねコートは銃を仕舞ってからドアノブに手を掛けた。

 

「ちょっと、無防備で入るつもり?」

「いけないかい?」

「いけないに決まってるでしょ!アイツとは一応敵同士なのよ?」

 

 一応、とつけている辺りが実に可愛らしいと思いながらもひきがねコートは肩をすくめた。

 

「でもお互い知らない仲ではないだろう?もしも声が似てる別人でも話が通じるなら無暗に敵対すべきではないと思うけど。」

「話が通じる狂人だったパターンが何回あったと思ってんのよ。」

 

 ただの狂人の相手も恐ろしいが、冷静な理性を保ったままの狂人ほど手に負えないものはない。そういった手合いとは何度か遭遇した経験もある。武器を手にしないで相対するのはあまりにも無謀だ。

 

「もしアイツなら武器持って乗り込んだところでピーピー泣くぐらいでしょ。最低限の警戒は残すべきだわ。」

「あまり彼女を泣かせたくはないんだけど……。キミのいう事ももっともだね。」

 

 ひきがねコートは拳銃を片手に握る。そしてドアノブに手を添えて、もう一度すてねこオートマトンを見た。

 

「だけどいきなり武器を突きつけるのは無しだよ?」

「けっ。わかってるわよ。」

 

 不機嫌そうに眼を逸らすすてねこオートマトンに一抹の不安を抱きながらもひきがねコートはドアを開いた。

 

 

 

「ああもう駄目ですわアルファさん!お皿をペロペロしちゃいけません!」

「……う?」

 

 命の無い人工芝の丘。ポンプから流れ出て排水溝へと消えていく小川。宙を舞う機械仕掛けの蝶。造花のお花畑。

 そんなまがい物だらけの庭園がドアの向こうには広がっていた。

 そしてそんな空間の中、人工芝の丘のてっぺんに据え付けられたアンティーク調のテーブルに二人の少女の姿があった。物静かな白い少女が咥えた皿を、騒々しい黒い少女が大慌てで奪い取ろうとしている。

 

「フォークの使い方もわからないなんて……!ネクロマンサー様がくれたケーキが台無しじゃないですかぁ!」

「……あう。」

「まったく常識というものがないんですの?こうなったら選ばれし死人である私がテーブルマナーからなにまでしっかりと教えこんでさしあげますわ!」

 

 罵るような、または蔑むような高圧的な態度の黒い少女は、その口調とは裏腹にクリームでベタベタに汚れた白い少女の手と口周りをハンカチで優しく拭いている。その様子は面倒見のいい姉と幼い妹のようで実に微笑ましい。

 

「ゾンビクイーン!」

 

 ひきがねコートとすてねこオートマトンが同時に叫ぶ。すると、その声に驚いたのか黒い少女は体をビクッと跳ね上げるとその勢いのまま椅子ごとひっくり返ってしまった。その様子を白い少女がぼんやりと見つめているのが酷くシュールだった。

 

「あの間の抜けっぷり間違いなくゾンビクイーンだ。」

「暫く姿を見てなかったけど、全然かわってないわねアイツ。」

 

 あの黒い少女、ゾンビクイーンとは旧知の仲だ。白い少女に関しては初見の相手だが、見たところ武装していないし、体が変異していたり改造されていたりもしない。敵対行動をとってきたとしても即座に対応できるだろう。そう判断して ひきがねコートとすてねこオートマトンは最後に周囲の確認を行ってから武器を収めた。

 

「ど、どど、どなたですの!?」

 

 お尻丸出しでひっくり返っていたゾンビクイーンが二、三回転がった後にようやく起き上がる。人工芝に女の子座りするゾンビクイーンにひきがねコートは不敵に微笑みながら近づいていく。

 

「どなたとは酷いじゃないか。キミとはある意味姉妹だと思っているんだけどな?」

「ひゃう!?」

 

 ひきがねコートの手が滑るようにゾンビクイーンの顎を撫で頬を滑り、髪を梳いた。突然の行為にソンビクイーンの体が大きく震える。

 

「忘れてしまったというなら思い出してもらうまでだね。お姫様にはキスが万能薬なんだろう?」

「んむっーーーー!?」

 

 問答無用でひきがねコートはゾンビクイーンの唇を奪った。そして久しぶりに感じるゾンビクイーンの舌の長さと甘い唾液の味に目を細めた。

 あぁ貰ってばかりではいけない。お返しを味わってもらわないと。ひきがねコートの喉元が怪しく動き、抑え込まれたゾンビクイーンの体がビクビクと痙攣する。粘液の混じり合う音が卑猥に響き、やがてその音は激しさを増していく――

 

「こんのッ!色ボケ共ー!」

「おっと。」

「ぴきゃあ!」

 

 エスカレートしていく二人の至近に鉄球が着弾する。衝撃によって弾き飛ばされた人工芝の一部がゾンビクイーンに直撃し彼女に情けない悲鳴を上げさせた。一方ひきがねコートは素早く身をかわし事なきを得ている。

 

「久しぶりの再会なんだから邪魔しないでほしいな?」

「バカッ!バカッ!コートの色ボケ!子供だって見てんのよ!?」

 

 顔を赤くしながら怒鳴るすてねこオートマトンの指さす先には顔を掌で覆った白い少女、アルファが居た。顔を覆っているアルファだが、すてねこオートマトンの言う通り、指を全開まで広げてその間からゾンビクイーンの蕩けた貌を今も凝視していた。心なしかその白い頬が赤くなっているようにも見える。

 

「……ママみたいだった。」

 

 ぼそりと呟いた言葉が聞こえてひきがねコートは安堵した。どうやらやらかしたのは自分が初めではないらしい。

 

「まぁまぁ、そう怒らずに。彼女だってそれなりに知識はあるみたいだし。」

「だからって許されるとか思わないでよね!」

 

 ジャラジャラと鎖を鳴らしながら鉄球を回収したすてねこオートマトンがひきがねコートに詰め寄る。その顔の赤は羞恥によるものかそれとも怒りによるものか。とにかくえらい剣幕だった。

 それに便乗するように、惚けていたゾンビクイーンがジュルリと口元を拭って立ち上がると一緒になってひきがねコートへと詰め寄っていく。

 

「ど、ど、ど、どなたかしりませんけどね!突然この選ばれた死人である私の唇を奪うとはどういうりょーけんですの!?」

「どなた、だなんて寂しいな。さっきのキスじゃ物足りなかったのかな?」

「そういう意味じゃなありませんわー!私とあなたは初対面!初対面なんですの!」

「オートマトン君、お姫様がおねだりしてくるんだけど、やっちゃだめなのかい?」

「キィー!アンタっ!アンタと私達は知り合いでしょうが!初対面装ってキスねだってんじゃないわよー!」

「いたい!いたい!叩かないでくださいまし!」

 

 人工芝の丘の上で屍少女達の痴話喧嘩の華が咲く。ぎゃあぎゃあと騒がしいその様を一歩引いた場所から見つめるアルファ。

 その深い黒を湛える瞳が横へと逸れる。視線の先では、この部屋に4つある出入り口の一つが音もなく開いていた。

 

「ママ!」

 

 アルファが上げた歓喜に満ちた声に、痴話喧嘩が一瞬で収まる。ゾンビクイーンがあわあわと膝をつき、ひきがねコートとすてねこオートマトンは武器を握りながら鋭くアルファの視線の先を睨んだ。

 

「あらあら、まぁまぁ。さっそく仲良くなっているのね。とっても嬉しいわ。」

 

 開け放たれた扉の前には微笑みを浮かべる白い痴女(リョーコ)がいた。




前回のアルファに続いてリョーコの絵を描いてみました。
作業服姿のリョーコです。ルルブのネクロマンサーの衣装が元ですが、よぶんな手とか取り付けやすい恰好ですね。


【挿絵表示】


文字数でのぶった切り御免。前日談はあと一回か二回で終了の予定です。そろそろ時間を現在に巻き戻さないとオバロファンに申し訳ない。

用語解説は試験的にあとがきでちょこちょこやる事にしました。
詳しい解説は必要になった時に本編でやるとは思います。

用語解説
【MKウルトラ計画】
北米大国による本格的な超能力開発計画。その名は同国で20世紀に行われた薬物洗脳実験と同一。超能力開発に乗り出した企業や国は数あれど、その執念と規模はこの計画を上回ることは無かった。
世界各地に『オペラハウス』というコードネームで呼ばれる施設、拠点が築かれ、そこでありとあらゆる実験が行われた。
ネクロマンシー以上に倫理的な問題が多い実験を長年にわたり極秘裏に行っていた。
ある実験では被検体である人々を使用し人為的に差別的社会を形成させるなど、デミウルゴスの牧場並みの事が日常的に行われていた。
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