◆
「ただいまー。」
微かな気だるさを感じさせる少女らしい高い声が玄関に響く。玄関に据え置かれているアナログ時計の針は午後6時を指している。
玄関には女ものの靴が一足しかない。それを見て「良子」は唇を尖らせ、さもがっかりしたと言わんばかりにため息をついた。
「おかえりなさい。」
廊下の先、ガラスのはめ込まれたドアの向こうからはトントンと包丁がまな板を叩く音と、聞きなれた母親の声が聞こえてくる。
「ママ、お風呂わいてる?」
「わいてるわよ。夕飯までちょっと時間かかるから先にはいっちゃって。」
「うん。そうする。」
手に持っていた学校指定の鞄と、塾で渡された大量の宿題の入った手提げ袋を持ったまま良子は風呂場へと向かう。手に持っていたものをそっと床に置き、するすると着ている物を脱ぎ洗濯機へ入れていく。最後に残ったロングサイハイソックスを洗濯機へ放り込むと、カビない様に乾燥させておいたボディブラシを持って浴室へと入る。
備え付けられた大きな鏡の中の自分が疲れた顔をしているのを見て良子はまたため息をついた。
「パパ、また遅くなるのかな。」
良子が帰ってくる時間に父親が家にいる事は殆どない。というのも、良子の父親は警察官であり、最近では高校生の連続怪死事件が発生している影響もあって帰宅時間が大幅に遅くなっているのだ。
被害者は四肢を全てねじ切られて殺害されており、その残酷な手口と未成年を狙う残虐性に正義感の強い良子の父親は義憤を露わにして職務に励んでいる。
仕事だから仕方のない事。
そう分かっているが、良子としては大好きな父親と一緒の時間が減ってしまう事に不満を感じざるを得ない。
「7時までに帰ってくるかなぁ。」
父親と会話する時間を確保するならその時間が限界のラインだった。
良子の父親は午後8時以降は必ず自室に籠ってしまうからだ。その事を不満に思った良子が一度母親に尋ねた事がある。帰ってきた答えは、「パパは調べ物をしたり、友達とお話したりしてるの。それが息抜きだから、邪魔しちゃ可哀そうよね?」というものだった。
その答えに良子は理解はすれど納得は出来なかった。日々の仕事の苦労を思えば働いてもいない良子が我儘を言って父親の貴重な息抜きの時間を奪うのは確かに可哀想な事だ。だから我慢するべきである。そう理解はできる。
しかしそれでも、今年7歳になったばかりの良子としては父親が自分に構ってくれないというのは寂しいものがあった。
甘えたいし、話したい事は沢山ある。父親の言いつけ通り、学校で困っている人を手助けしたこと。先生に褒められた事。バイオリン教室で苦戦していた曲を完璧に弾けるようになった事。塾のミニテストで満点をとった事。
そういう自分の努力を話して、よくやったと褒めてもらいたい。そうでなくては努力し、苦労を重ねる意味がないのだから。
「ラ・ラーララ・ラーラーララ……♪」
内心の不満を誤魔化すように今練習中の曲の一フレーズを口ずさみながら、良子は髪をシャワーで濡らす。
今日はアーコロジー外周部で、外部の作業員とすれ違った。外界の汚染物質をアーコロジー内部に持ち込まないように様々な洗浄処理をして入ってきているとはいえ、そういった「汚れた」場所に生きる人間に近づきたいと思うアーコロジーの住民は多くはない。一部の人権屋がパフォーマンスで行うぐらいだろう。
良子はシャンプーをたっぷりと手に取って念入りに髪を洗う。
今日すれ違った労働者達はマスクをしていなかった。それは別に違法ではないが、良識的とは言えない。アーコロジー外部の人間の人工心肺のフィルターには汚染物質が大量に付着している。それが呼吸と共に周囲に拡散する事を防ぐために外部の人間はアーコロジー内では専用のマスクをつける事がマナーとして求められる。
呼気と共にフィルターの汚染物質が外に放出される事はないというのが人工心肺のメーカーの見解だが、それでもアーコロジーの住民はこの手のマナー違反者を毛嫌いしている。しかしそれも当然の事だ。なにせ外部の劣悪環境から隔離されたアーコロジーに住まう人々は外部の人間と違い人工心肺など体に埋め込んでいないからだ。
生身の肉体である以上、健康へのリスクは可能な限り避けたいというのが大多数の意見なのである。
良子は自身への健康被害を神経質に恐れたりはしないが、父親に害が及ぶのは絶対に避けたい。大好きな、愛する父親にはずっと健康で自分の傍に居てもらわねばならないのだから。
「あがったよー。」
真新しい洗剤の香りをたっぷりと身に纏った良子がリビングに入って来た時には、家族の食卓にはホカホカと湯気を上げる夕食が用意されていた。ツヤツヤのご飯も、味噌が躍る味噌汁も、瑞々しいサラダも、食欲をそそる匂いを発するステーキ肉も、全てが天然素材だ。
アーコロジー外部では手に入手困難な高級食材がふんだんに使われた夕食を興味なさげに一瞥して良子は母親に話しかける。
「パパは?」
「遅くなるから、先に食べててだって。お仕事大変みたいね。」
その言葉に良子の顔が微かに歪む。しかしそれを母親に悟られる前に、良子は普段のすまし顔に戻っていた。
「そっか。事件だもんね。大変だよね。」
それだけ呟くと良子は自分用のイスに座ってリモコンを操りテレビの電源をつけた。特に見たい番組はないので、国営のニュース番組にチャンネルを合わせる。明日のアーコロジー内の天気設定と湿度調節のためのミスト放出時間を知らせるニュースの後に、アーコロジー外の天気予報が流れる。
テレビに興味の薄い視線を向ける良子の隣に母親が着席する。今日も今日とて父親の居ない晩御飯となってしまった。
その寂しさを感じさせないように、いつも通りに良子は手を合わせると明るい声を出すのだ。
「いただきまーす!」
隣で同じ言葉を言う母親の声を聞きながら、良子は真っ先に湯気を上げるステーキ肉を口に運んだ。
食べなれた味と食感。父親がいる、家族全員で食べた時とは全く違う味気なさを感じながら、良子は肉をろくに味わう事も無く雑に咀嚼し飲み込んだ。
結局父親は時計の針が8時を超えても帰ってこなかった。
良子は食事の後に歯を磨くと自室へ戻り、学校と塾で出された宿題を片づけ始める。良子にとっては問題を読めば必要な答えをすぐに用意できる程度のものだ。しかし問題を読み、答えを記入するには時間が掛かる。量が量な為に全てを片づける事が出来るのは夜の10時ぐらいになる計算だ。
まだ未熟な体の良子である。眠気は強く、疲労は大きい。もうすでに理解し切ったレベルの勉強を無意味に繰り返す作業に対しても徒労感がある。
しかしこれをやらねば金を出している両親に悪いし、父親に失望されるかもしれない。そういう思いから良子は眠い目をこすりながら黙々と宿題を消化していくのだった。
そして宿題が粗方片付いた頃、玄関のセキュリティが解除される電子音と、ドアの開く音が聞こえた。
半分閉じかけていた良子の瞳が開かれ、キラキラと瞳が輝く。
「ただいま。」
落ち着いた大人の男の美声。待望のそれに対して、良子は椅子から立ち上がると、家の中で出せる最も速い動きで玄関へと向かった。
「おかえりなさーい!」
自室のドアを開けると同時に元気よく声を上げる。玄関では脱いだ靴を揃えている男がいた。
背後からかけられた良子の声に振り向くその顔には微かな疲れと、帰宅を出迎えてくれた娘への愛情がにじみ出た笑顔があった。
頭脳明晰、容姿端麗、スポーツ万能という人々の理想を具現化したような男。
良子の大好きな、愛しい愛しい父親だ。
「パパー!」
「おっと」
溢れ出る衝動に身を任せて突撃し抱き着いてくる良子の体を父親は軽く受け止めて抱き上げる。アーコロジー外の家庭では帰宅したばかりの家族の服には汚染物質がべったりとついているので見る事のできない光景だ。
こうした時、良子は自分がアーコロジー住みである事に深い感謝の念を抱くのだった。
「ただいま、良子。」
「えへへへ。おかえりパパ。ギュー!」
父親の腕に抱かれながら、良子は目の前にある太い首に腕を回して力いっぱい抱き着く。頭を左右に揺らし、頬を擦りつける良子に父親が困ったように笑う。
「ははは、良子は甘えんぼだなぁ。」
その言葉に良子は答えない。ただこの一時を小さな体で精一杯楽しんでいた。
時刻は既に午後8時を回っている。このタイミングを逃せば父親は食事、入浴を立て続けに済ませた後、自室に籠ってしまうのだ。
良子に対しても、「もう遅いから寝なさい。」と言ってくるに決まっている。
その全てが「仕方のない事」だと分かっているから、限られた機会を最大限に活かしたかった。
そうでなければ、良子は「良い子」ではいられない。
両親は隠しているが、良子は知っている。父親が午後8時以降、自室で何をしているのかを。母親は調べ物や友達と会話をしていると言っていたが、実際には父親はネットゲームで遊んでいる事を。
その事に対する良子の不満は非常に大きい。
なぜ父は自分に構ってくれないのに、ネットゲームで遊んでいるのだろうか?ゲームの友達がそんなに大切なのだろうか?娘である自分よりも?
そんな事を考えずにはいられないのだ。
しかし良子はそれを子供らしくない理屈で押し殺し、日々我慢して生きている。
「んふふふふー♪」
心の不満を悟らせず、逞しい父親の腕の中で良子は無邪気に笑う。夕食前、たっぷりと使ったシャンプーが放つ金木犀の華やかな香りが仲睦まじい二人を包む。
それは紛れもない幸せな親子の姿だった。
◆
モモンガがリョーコとの会話を終え、村長の家から出たのは太陽が西へ傾き始めたころだった。扉の前に控えていた鎧姿のアルベドが一礼するのを視界の隅に認めながら、モモンガは晴れ渡る蒼天の彼方を見つめていた。
その様子に厳めしい姿のアルベドが手弱女のような声を出した。
「どうか、なさいましたでしょうか?」
「うむ……。」
喉の奥で唸るようなモモンガの返事は冴えない。なにか思い悩んでいるような主人の様子に、兜のスリットの向こうに隠れたアルベドの瞳が横へと滑る。今もリョーコと名乗る女がいるはずの家を見つめるアルベドの眼には剣呑な光が宿っていた。
「やめよ。彼女とは友好関係を結んだのだ。そのような態度は厳に慎め。」
「はっ。申し訳ございません!」
即座に片膝を付き頭を下げるアルベド。それを、一々大げさなんだよなぁと思いながらもモモンガは小さくため息をついた。
「よい。それより立てアルベド。一度ナザリックに帰還するから、我が元へ来るのだ。」
「は、はい!それでは、あの、失礼致しまして……。」
恐る恐るといった様子でモモンガの胸元に身を寄せるアルベド。中々においしい状況ではあるが、アルベドの絶世の美貌は禍々しい鎧に覆われているので何の感慨も沸かない。しなを作る邪悪な鎧の肩を無遠慮に抱くと、モモンガは転移の魔法を使用した。
厳戒態勢のナザリック表層部に転移したモモンガはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを使用して第九階層の自室へと向かう。指輪を渡しておいたアルベドも同じく転移し、誘われるままモモンガの自室へと同行した。
「おかえりなさいませ、モモンガ様。」
部屋に待機していた一般メイド達が恭しく頭を垂れる中、執事長であるセバスが見事な一礼と共にモモンガを出迎えた。
その完璧な立ち姿を見るモモンガは何度も小さく顎を開閉させる。言うべきか、言わぬべきか。そんな迷いを感じさせる動作だったが、それを見た者は居なかった。
「セバス。これより私はアルベドと内密の話をする。メイド達を下がらせよ。」
「かしこまりました。」
「そしてお前には私の装備を見繕ってほしい。外で変装する必要が生じたのでな。アンデッドである事がばれない様な、魔法詠唱者風の強力過ぎない装備を頼む。」
「ははっ。」
メイド達が速やかに退出し、セバスが装備が置かれているドレスルームへと消えると、部屋にはモモンガとアルベドの二人だけになった。
モモンガは自分の執務机の椅子に座ると深いため息をついた。机を挟んで直立不動の態勢を取るアルベドが兜を小脇に抱えながらその様子を心配そうな眼差して見つめていた。
「至高の存在であるモモンガ様がそれほどまでにお悩みになるとは、一体何があったのでしょうか?」
「うむ。統括であるアルベドには、まず話しておかねばならんな。」
リョーコから伝えられた刻限までにはまだ時間があるとはいえ、あまり長々と話してはいられない。モモンガは掻い摘んでリョーコとの話の内容をリアルに関連する部分、そして最後の最後に判明した驚愕の事実を除いて説明した。
説明を黙って聞き終えたアルベドにモモンガ重々しい口調で問う。
「さて、アルベドよ。未知の死霊術を操るネクロマンサー、リョーコ氏の申し出だが、お前はどう思う?」
「恐れながらモモンガ様。かのネクロマンサーの提案、受けるに値しないかと。」
そういうアルベドの眉は怒りにつりあがっている。しかしこの反応はモモンガも予想していたものだった。
「ほう。と、いうと?」
「村に来る王国軍の対応をモモンガ様に任せ、その後に控える王国軍とスレイン法国特殊部隊との戦闘に協力して王国軍に辛勝させようという提案、互いにメリットがあるなどと言ってもその大きさは対等ではありません。むしろモモンガ様にとっては要らぬリスクを招くだけかと存じます。」
アルベドの言葉にモモンガは頷く。
「王国軍とのパイプを形成し、さらに恩を売ることができる。そしてリョーコ氏が戦闘後に死体から得た情報を共有できる。それがメリットだが、国家間のいざこざに介入せねばならず、現在の完全中立を揺るがさねばならん。さらにはこちらの手の内をリョーコ氏に多少なりとも明かさねばならないな。」
「それに対して向こうは己の正体を隠したまま同等の利を得られます。王国軍とのパイプも、モモンガ様との友好関係を維持できれば得たも同然。あの女はモモンガ様を矢面に立たせて裏から甘い蜜を吸おうと……至高の御方に対してそのような愚かな考えを持つなど、許せるものではございません!」
怒りを露わにするアルベド。その怒りも当然だとモモンガも思う。今はまだこの程度ではあるが、やがてエスカレートしていくかもしれない。ネットゲームで言うところのフレンド関係を利用した寄生行為に発展する気配が濃厚だ。
「未知の技術を持つ相手を警戒し、友好関係を結ぼうとするモモンガ様のお考えはわかりますが、此度の提案は断るべきだと愚行致します。」
そう締めくくるアルベドに対してモモンガは深く頷いた。アルベドの険しい表情が安堵に緩む。
「お前の考えはよくわかった。だがな、私はこの提案を飲む事にする。」
穏やかに、しかし断固たる意志を感じさせる口調で発せられたモモンガの言葉に、アルベドは目を見開き、そして主人の真意を知ろうと真剣な表情で問いかける。
「なぜでしょうか?不平等な提案を一度は飲む事で、貸しを一つ作るおつもりなのですか?そして今度は此方に有利なように……。」
「それも考えたが違うな。いいかアルベド。よく聞くのだ。」
主がより一層真剣な眼差しで己を見つめている事に気づいたアルベドの体が緊張に固くなる。真剣にこちらの話を聞こうとするアルベドの姿を確認したモモンガはほんの僅かに自嘲し、次の瞬間にはナザリック地下大墳墓の絶対支配者に相応しい態度で口を開いた。
「かのネクロマンサー、リョーコ氏に対して我がナザリックは全面的な協力体制を取る。私と彼女の関係はかつての盟友たちと同等のものと思え。」
「なっ!?」
アルベドの眼がこれ以上ないほど見開かれ、驚愕のあまりその麗しい口は開け放たれている。震える瞳の動きがアルベドの受けた衝撃と混乱の程を如実に語っていた。
「な、なぜ、と、お聞きしても、よ、よろ、よろしいでしょうか?」
どもりながら問うアルベドにモモンガは黙して語らない。それはモモンガ自身の感傷と深い思考ゆえに生じた沈黙だったが、アルベドはその様子に何かを感じ取ったのか震えながらも頭を下げた。
「し、失礼いたしました。至高の御方の、お心のままに。」
「あ……。」
理由も話さず部下を無理やり納得させるつもりなどモモンガには一切ない。
違う、そうじゃない、と言おうとするモモンガ。しかしモモンガが何事か言うよりも早く、隣のドレスルームからセバスの声が聞こえてきた。
「装備の選別が終わりましてございます。どうぞ、こちらへお運びください。」
「む、そうか。おお、時間もいい頃合いだな。急がねば。」
部屋に備え付けられ豪華な柱時計を見ればリョーコの言っていた王国軍がカルネ村に到着する刻限に大分近くなっている。
「アルベドよ。理由は後で話す。だがこれは決定事項だ。わかったな?」
「はい、承知いたしました……。」
受け答えはしっかりできるものの、アルベドの顔色は非常に悪い。白い肌は青ざめ、額には汗が浮かび艶やかな前髪が何本か張り付くほどだ。唇は血の気を失い寒さに凍えるように震えており、その瞳は虚ろに視線を彷徨わせていた。
「だ、大丈夫かアルベド?どこか具合が悪いのか?」
「大丈夫でございます。ご心配をおかけして申し訳ありません。」
「いやいや、どう見ても大丈夫じゃないぞ。そこに座って少し休むのだ。」
如何に自分の話が衝撃的だったとしてもこれほどまでの体調不良を招くものではあるまい。 ずっと立ちっぱなしで話をしていたから、貧血にでもなったのかもしれない。そう考えたモモンガはアルベドの肩を抱いて近場にあったソファへと彼女を座らせた。
「も、申し訳ありません。モモンガ様にこのような。」
「気にするな。そこで体調が戻るまで暫し休んでいろ。」
ソファに座り自分を見上げるアルベドの表情に小動物的ないじらしさを感じるモモンガだったが、時間は刻一刻と過ぎている。リョーコとの約束に遅れる訳にはいかないモモンガは微かに後ろ髪をひかれながらも、アルベドに背を向けてセバスの待つドレスルームへ
と足を進めた。
「あ、あの!」
「ん?」
背後からのアルベドの声にモモンガは足を止める。
振り返ればそこには鬼気迫る表情のアルベドがソファから腰を浮かしてモモンガを見つめていた。
「あの、あの、このような事を至高の御方にお聞きするのは、真に失礼だと分かっておりますが。」
「なんだ?失礼などと気にせずに、言ってみると良い。」
その言葉にアルベドは何度も深呼吸を繰り返す。禍々しいガントレットに覆われた手が胸の前でキュッと握られると、苦痛に喘ぐような表情でアルベドは消え入るような声で問うた。
「モモンガ様は、かのネクロマンサー、い、いや、リョーコ、様、の事を愛していらっしゃるのでしょうか?」
それはモモンガにとって意外な質問だった。アルベドの様子からしてもっと重大な質問が飛んでくると思っていたのだが、当てが外れたと言える。しかしこの問いはこれはこれで中々答えずらいものだった。
何というべきか思案するモモンガを、アルベドはこれ以上ない緊張の面持ちで凝視していた。その視線がなんとなく居心地が悪くて、モモンガはアルベドに背を向けた。
「愛するなどと、まさか。今日初めて出会った人物だぞ?」
そういうモモンガの背中でアルベドが表情を安堵で和らげる。
「だが。」
モモンガは天井を仰ぐ。その眼差しは今ではない何処かを見つめていた。
「彼女は愛するべき存在だ。そう、私が、彼と長い時間を過ごした私だからこそ気にかけ、見守り、愛情を向けなければならない……そういう人だと思っているよ。」
ドスッ。
重いものが落ちたようなソファの音だ。モモンガが後ろを振り向けば、ソファには肩を落としたアルベドが俯き気味にもたれ込んでいた。その表情は角が落とす影によってよく見えないが、全身の雰囲気からしてひどく疲れているように見える。
「大丈夫かアルベド?やはりどこか悪いのでは……待っていろ、今回復のポーションを。」
「イエ、それには及びまセン。少々休マせテいただけレば、直ぐに良くなりまスので。」
「そ、そうか。それならば良いのだが。」
時々声が裏返るアルベドの様子に不安を覚えるが、本人がすぐに良くなると言っているし何より時間が差し迫っている。
モモンガはアルベドを気にしつつも、ドレスルームへと移動するのだった。
モモンガ様の方針発表&それを決定づけたものをうっすらと。な回です。
悪だくみの後の二人の会話はその内回想するよてい。
リアル世界における富裕層と貧困層の差とか考えるのは楽しいけどひねり出せたのはこの程度でした。
もうちょっとウルベルトさんが激怒するに値するクソッタレな社会を書いてみたいもんです。