最近は、何度寝ても目を抉られる夢しか見ません。
抉ったその子は言うのです、私の眼は返してもらったって。
何故か、あふれ出した血が新たな眼球を作り出し、また抉られる。
何度抉られたか分かりませんが、ひとつ、こう思ったのです。
―――――無限ループって怖くね?と......。
(実話です)
結論だけを簡潔に述べよう。
ウサギ女は、不死人として目覚めてしまっていた。
正確には少し違うが、不死人モドキになっていたのだ。
人間なのだが、不死人の持つ特徴的な雰囲気とソウルの輝きを察知できるようになっていたのである。
特に珍しいのは、目に映したもののソウルを形としてみることが出来るということ。
我々不死人は、相手のソウルは漠然としてしか捉えることしかできない。
私や、歴代の薪の王たちですら体から溢れるように流れるソウルを感じることしかできなかったというのに。
やはり、ソウルを直接喰われる.........命そのものを奪われかけるという体験が体に何かしらの対策を施したのだろう。
しかし、ウサギ耳はソウルがどういうものか先ほどまでわかっていなかったのにもかかわらず、なんとなくのようだが理解していた。
恐るべき対応能力とでもいうのだろうか、ウサギ耳の状況判断の正確さと冷静さには驚かされた。
今更なのだろうが、今現在私がいるのは移動要塞キッチンである。
かつて私は食事は必要ないと言ったが、気分転換に何かを口にすることはあるのだ。
そこまでこだわりがないとはいえ、食材をそのまま口に運ぶことはない。
きゅうりと思わしきものを軽く洗って、かぶりついたウサギ耳は、これがご飯であると主張したのだ。
その姿が何故かどこぞの鍛冶師にそっくりで、何か作ろうかと言ってしまった。
そんな私に怪しげな目線を向けてきたが、私の手つきを見てすっかり目の色を変えた。
女としては最高峰である火守女達に仕込まれた私の手腕を見るがいい........。
―――――――――――といっても簡単なものだが。
サラダに焼き魚、白米と味噌の吸い物を用意した。
単純だが、短絡的な味ではなく、素材の味が奥深くにじみ出て来るような仕上がりなはず。
極東の島国の......そう、たしか和食というのだったか。
これは、緑衣の巡礼が教えてくれたのだ。
当時の私は思わず緑衣の巡礼の両手をとってしまったのだったな。
毎日作ってほしいと頼んだ時に、真っ赤になっていた理由はついぞ教えてくれなかった。
どうやら食べ終わったようだ。
米粒や、吸い物、魚肉にいたるまで綺麗に無くなっているではないか。
途轍もなく不機嫌ですとでもいうような形相だが、
「ご馳走様...........おいしいじゃないのよちくしょう」
というその言葉で、何かを察した。
こういう時はそれについて言及すると痛い目を見ると、銀騎士の一人が言っていた。
なぜかこやつだけは攻撃してこなかったのをよく憶えている。
それどころか、他にも様々なことを私に教えてくれた。
銀騎士曰く、『かぼたんはあんたの嫁も同然』だとか、『昨日はお楽しみでしたねと言うと、面白い反応が見れる』などetc......。
火防女に伝えたら、顔を手で覆って動かなくなるし、鍛冶屋の方からハンマーが超高速で飛来してくるなどの、ある意味凄いことになった。
いや、そんなことは今のところは関係ない。
重要なのは、ウサギ耳の不死人化についてだ。
人間が不死人になるのを実際に見たことがない私は、どうすればいいのか分からなかった。
故に、不死人なら必ず経験することをウサギ耳にもやってもらおうと思う。
私や友たちはこれを行って死の無限連鎖から逃げ延びたのだ。
1に修練、2に訓練、3・4同じく、5に鍛練。
ウサギ耳が青ざめて、その名の通り脱兎のごとく逃げ出したが、盗人の装備をつけていた私に隙はなかった。
細く折れてしまいそうなそっ首を右手で力強く握りこみ、体を浮かせて動きを封じる。
一体何に気が付いたのだろうか、体をがむしゃらに動かし、抵抗してきた。
「こんの離しなさいよこの野郎!私はまだ死ぬわけにはいかないのよ!!」
_____死ぬ?たかだか修練するだけで大げさな.........。ただ、蝕みと毒霧の中で私と組み手をするだけではないか。
「それが死ぬっていうんだよこのスカンタン!ウルトラスーパーデラックスボディの束さんでも体内は改造してないよ!てか、そんなの修練というわけないだろぉが!!」
_____安心するがいい、ウサギ耳は私の持つ全武器と防具を使用し、私と対峙してもらう。流石に丸腰で突撃させるほど腐ってはいない。
「話を聞けよおい、そもそも束さん、やるなんて一言も言ってないんですけど?」
_____確かにそうだな。だが、こういう現状に巻き込んだのは私のせいだ。深く謝罪しよう。しかし、そなたの持つ潜在能力とソウルの輝きは、簡単に捨てるのはあまりにも愚かというものだ。
ゆっくりとウサギ耳の体をおろし、手を放して向き合う。
_____死にたくないのならば、死ぬ気で抗って見せよ。やり残したものがあるのなら、成し遂げてから地に臥せよ。半端ではあるが不死人として目覚めたそなたは、おいそれと容易く死ぬことは許されぬ。亡者どもに魂を抜かれようと、死にきれぬぞ。ましてや、今のそなたでは最弱の亡者の群れさえ突破できぬだろう。彼奴らとて、かつては強者だったのだ。そのままでは碌な死に方をせぬぞ。せいぜい五臓六腑を引き裂かれて、野に捨てられるのがおちであろう。
「.....................」
ウサギ耳は、私の声に真剣に耳を傾けている。
そう、これは私が招いた厄災であり、本来ウサギ耳は関係ない。
ただ巻き込まれただけの一人の人間にすぎぬのだ。
_____重ねて詫びよう、本当にすまない。これは私個人で為すべきだったものだ。だがしかし、既に私一人の両手では受け止めきれぬほどに事は肥大化している。どうか助けてほしい。そなたと顔を合わせて時はそうたっておらぬが、恥を忍んでお願いしたい。私を、助けてくれ。頼む。
頭を下げて願う。
自分勝手なのは私が一番理解している。
ウサギ耳が、理不尽に巻き込まれただけの人間ということも。
しかし、なぜこの世界にも亡者達の群れが存在し、なおかつ、彼奴らの目的も分からない以上、なりふり構うことはしない。
あの地獄のような世界に変貌させないようにする為なら、喜んでこの身を犠牲としよう。
「ふんっ......なんかいろいろとムカつくけど、いいよ。正直腑に落ちないことばっかだけど、あんたの言うその亡者共ってのがちーちゃんや箒ちゃんやいっくんに害をなすのなら話は別。」
_____すまない。協力感謝する。
「これは協力じゃないよ。この束さんがその敵とやらを見つけて、あんたがそれを殲滅する。これはただの共同戦線だ、決して協力なんかじゃないんだから。で?私はどうすりゃいいの?」
_____先も言った通り、今のウサギ耳は弱すぎる。あまりの弱さに哀愁すら漂ってくるほどだ。
「へ、へぇ.......言ってくれるじゃないの......」
手を握りしめ、誠に遺憾ですと震えているウサギ耳。
比べている者が多少おかしいが、彼らも同じただの人間である。
逆に考えれば、鍛えればあそこまで強くなることが可能ということだ。
_____そういえばここには何もない広い空間があったな。そこでやるとしよう。
「既にやな予感がぷんぷんしてるけど、ちーちゃん達のためだもの」
あの、何もなかった白い空間に向けて、私たちは歩き始めた。
その後、数時間にわたって若い女の悲鳴が響くが、ある時を境にぴたりと止んだ。
今、私の目の前には真っ白に燃え尽きたように椅子に座るウサギ耳がいる。
あまりにも白すぎて、背景と時々同化して見えるようだ。
かろうじて蛍光色である椅子が、ウサギ耳がここにいるという証拠を物語っている。
人間には、カメレオンのような能力でもあるのだろうか。
非常に興味深い存在である。
途端ウサギ耳の体が跳ねるようにして動きだし、握りこまれた両の手が、私の顔めがけて飛んで来る。
「てめぇ殺す。ぜってえ殺す。慈悲なく無理なく容赦なく確実に殺す」
一体何を言っているのだろうか。
簡単な訓練一つ終えただけでこれでは、遠征騎士達に瞬殺されてしまう。
まったくもってやれやれである。
「その、やれやれだぜ......みたいな雰囲気出すのやめてくんない?.........ポーズもするんじゃねぇ!!」
思わず呆れたジェスチャーをすれば、先の姿はどこにか声を荒げる。
ある程度ごまかすと簡単に見破られて怒りをあらわにし、正直に伝えると怒りの形相露わに叱られる。
一体どうしろというのか。
四騎士たちの使命にも勝るとも劣らない無理難題である。
「そのまったくもって意味が分からないって姿勢解かないと、ホントに殴るぞ」
_____私を殴る気力があるのか。ならばこい!今の御主は殺る気に満ち満ちている。私も全力で相手しようではないか。
「あっ......やっぱいいわ。これ以上は体が持たないから、いやほんとに」
そう言ってまた椅子に座りこむウサギ耳。
本当になにがしたかったのだろうか。
少なくとも今回の訓練で、しっかりした受け身と受け流し、あらゆる種類の武器防具を駆使した戦闘、加えて、今自分がどういう状況に置かれているのか判断する思考回路、最後に、それらすべてを一瞬で最良へと導く並列思考と行動力は身についたはず。
これなら多少は戦えるだろうが、それでも体力・筋力・持久力、生命力は最低に近い。
代わりに、集中力・技量・理力・運は群を抜いて高い。
何をどうこじらせたらこうなるのか。
今回はこれで終了とすることにした。
後々難易度を上げて行って、それをこなしていけばいいだけのこと。
そうゆっくりとやることはできないが、それでもウサギ耳の能力なら私の考察など軽く超えてゆけるだろう。
これからのことを考えて、どうしてか心が沸き立つような感覚が芽生えているのに気が付く。
理由は簡単だ、かつての地を駆けぬけた我が友たちを、ウサギ耳と重ねているのだ。
そう考えれば、途絶えることなど無い。
会いたい、ただひたすらに会いたい......そう思ってしまう。
言葉を交せなくとも、近くに入るだけで心は安心するものだ。
この現状を止めることに加えて、祭祀場を見つけることにしよう、そうしよう。
たった一人、静かに燃える王をどう理解したのか蒼褪める女が一人いるのだが、王は全く持って気づいていない。
話が全然進んでない?そうだね、プロテインだね。(錯乱
チャーハン食べたいって兄に言ったら、あぁん?なんでぇ?と返されました。
怖い、れすりんぐこわい。