アイドルマスターシンデレラガールズIF 〜シンデレラの絵本〜   作:松前正樹

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たったひとつのロックなやりかた 2

「えーっと、確かこの辺に……」

 

 オレンジが燃える夕方、とある駅を降りた私はそう呟いて周りをキョロキョロと見渡す。

 

 あそこまで特徴的な髪型の人ってそういないと思うんだけど……。

 

 そんなことを考えていると、淡い光を放つ電灯の下に見慣れた後ろ姿を見つけた。

 

「あ、なつきち〜!」

 

「おっ、来たな、だりー」

 

 そうして振り返ったなつきちは、いつもと少し雰囲気が違った。というか、主に頭部がいつもと違っていた。

 

「あっ、今日は髪下ろしてるんだね。そういえば、その髪型のなつきちってあんまり見たことないからなんか新鮮かも」

 

 そう、今日のなつきちはいつもリーゼントにしている片目が隠れるほどの前髪を下ろし、シックな服装に身を包んでいた。いつもと違うスタイルのなつきちには、どこかミステリアスなカッコよさがあり、少しドキッときてしまう。

 

「あー、基本オフの日はこうだから。そういえば、仕事の後にドライブしたりとかはあったけどこうやって休日に会うのは珍しいな」

 

「その言い方……なんか仕事上の付き合いしかないみたいで嫌なんだけど〜」

 

 特にそんなことは思ってないが、クールななつきちが羨ましいのでちょっとからかうつもりで言ってみる。

 

 すると、私の魂胆なんて見え見えなのかフフッと笑い、ふと私の頭にぽんと手を置いてきた。

 

「バーカ。もしそうだったら今日誘ったりしないよ」

 

 そして爽やかな笑みを私に向けるなつきち。そのカッコよさといえば、通りすがりの女子高生に「あの人カッコいい〜」とか「女の子の方羨ましい〜」とか言われているほどだ。

 

「う、うん……」

 

 実際、私自身も凄く恥ずかしい気持ちになり、俯いたまま頷く。

 

 絶対顔真っ赤だよぉ……。

 

「そ、それで! 今日はどこに行くの?」

 

 私はというと、そんな恥ずかしさを紛らわすためにわざと話をそらす。これ以上この空気を続けるのは恥ずかしすぎるし。

 

「ん、ついてこればわかるさ」

 

 私の問いになつきちはそっけなく答えると、足を止めることなく進んでいく。私は慌ててその後をついていくが、どこに行くのかは本当にわからない。いったい私たちは何をしにいくんだろう。

 

「さぁ、着いたぞ」

 

 そんなこんなで数分歩いた後、なつきちは急に足を止めて私に振り返った。

 

「えっ……確かここって」

 

 なつきちに促され見ると、そこは私にも見覚えのある場所だった。下に続く薄暗い階段。ただあの時と違うのは、隣になつきちがいるということ。

 

「そう、ライブハウスだよ。にわかロックの解散ライブをやった、な」

 

「にわかロックって……今はもうロック・ザ・ビートっていうちゃんとした名前があるんだから!」

 

 そう、ここは私たちの思い出の場所。私がなつきちの輝く姿を目の当たりにして、更に『にわかロック』としての最初で最後の解散ライブを行った場所。

 

 まあ、今でもなつきちとの活動は続いているわけなんだけど、どうしても懐かしい気分になってしまう。

 

「ははっ、そうだったな。まあそれは置いといて、さっさと行こうぜ」

 

「予定ってライブのことだったんだね。なつきちらしいと言えばなつきちらしいけど」

 

「最近だりーと行ってなかったからな。曲作りの参考も兼ねてと思ったんだよ。やっぱライブならではの臨場感も大事だしな」

 

 コツコツとなる足音。少し急な階段に足元を気をつけながら一歩ずつ降りて行く。そして、再び私を出迎える大きな扉。しかし今回は私ではなく、なつきちがその扉に手をかけた。

 

 すると、なつきちは扉を開ける前に含んだ笑みを浮かべ一言。

 

「だりー、多分ステージを見たらびっくりするぞ」

 

「えっ? それってどういう……」

 

 私の言葉を待つこともなく、なつきちは扉を開いた。

 

 次の瞬間、聞こえてきたのは観客の興奮した歓声。ちょうどアーティストが登場したのだろう。青を基調とした照明に照らされ、その舞台の中央に立っていたのは私もよく知る人物だった。

 

「みんな、来てくれてサンキュー!  今日は全員失神するくらい満足させてやるから! アタシ、松永涼のステージを存分に楽しんでいってくれ!」

 

「ま、まさか今日のライブの主役って……」

 

 私の目はステージの上で叫ぶ涼ちゃんに釘付けになっていた。思わず零した呟きに、なつきちは楽しそうに答える。

 

「ああ、見ての通り涼だよ。ライブをやるから来てくれって言われてたからな、だりーも誘ってみたんだ」

 

 しかし、私の耳にはなつきちの言葉はあまり入って来なかった。何故なら私の感覚は今、全て涼ちゃんの方に向いているから。

 

「さあ、覚悟はいいかーッ?!」

 

『オォーッ!』

 

 爆発する観客たちの声。それを一身に浴びて、涼ちゃんは息を大きく吸い込んだ。

 

 ×××

 

「今日はありがとな、夏樹、李衣菜」

 

「ああ、良かったぜ、涼」

 

「うん! なんかこう、ぐわーっとしててカッコよくて、凄くロックだった!」

 

「ちゃんと意味が取れる言葉がカッコいいしかなかった気がするけど……ありがとな」

 

 ライブの後、私となつきちは涼ちゃんの楽屋にお邪魔していた。首からタオルを下げ、決して少なくない量の汗をかいている涼ちゃんだったが、その表情に苦しさはなく、清々しい様子だった。

 

「そういえば、夏樹は確かに誘った覚えがあるんだが、李衣菜はどうしてきてくれたんだ?」

 

「アタシが誘ったんだ。実は今度アタシとだりーで新曲を作ることになってさ。参考にさせてもらうと思って」

 

 なつきちは軽く私の方を見てそう答える。私もそれに同調するように首を上下に振った。が、少し違和感を覚えた。

 

 ……ん? いや、誘ってもらったのは確かなんだけど……。

 

「あっ、今回の目的って新曲のための勉強だったんだ。知らなかったよ」

 

「ホントはそのつもりだったんだけどな。アタシも普通に楽しんじまった」

 

 そう言ってなつきちは苦笑いを浮かべる。なるほど、いつも完璧に見えるなつきちも、ライブとなれば目的を忘れてしまうようだ。

 

 するとそんな私たちを見て、涼ちゃんが不意に語り始めた。

 

「ロックってのはそういうもんじゃないかな。難しいことなんて考えないで自分たちのやりたいように、自分たちが楽しいようにやることが、最高のロックってもんだろ」

 

「自分たちが……楽しく……」

 

 今のアタシがそう思うんだから間違いないさ、と付け足し、今日一番の笑顔を見せる涼ちゃん。

 

 その表情にあるのは、ライブをやりきったことに対する達成感と、終わってしまった楽しい時間への未練であるように感じた。

 

 その屈託のない笑顔に、私は逆に胸を締め付けられた。だがその時はまだ、この感覚の正体はわからなかった。




因みに、だりーとなつきちのグループ名についてはモバマスとアニメの両方を採用してみました。
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