アイドルマスターシンデレラガールズIF 〜シンデレラの絵本〜 作:松前正樹
いつもの如く趣味全開なのであしからず。
私は今日という日を特別には感じていなかった。
学校は夏休みで、仕事は一日オフ。意図せずして久しぶりの丸一日休みの日を手に入れたわけだけど、ここぞとばかりに予定を詰め込んでいて正直休みの気が全くしない。
でも、こんな日もたまにはいいだろう。一日中家でハナコと戯れるというのもとても魅力的だけど、今日はまた別の楽しいことが待っている。
外は灼熱のコンクリートジャングルだ。夏真っ盛りのこの季節は、やっぱり涼しい薄着に限る。いつも袖を通す学生服はハンガーに掛け、ラフな感じの服をクローゼットから引っ張り出す。
「こんなもんか……」
鏡の中の私はとてもアイドルとは思えないほど地味だったけど、まあ休日だし許されるだろう。今日の私は街にいる普通の女の子なんだから。
変装用の眼鏡を掛け、帽子を被り、鞄を提げ、私は店の玄関に立つ。
「じゃあ、行ってきます」
私はカウンターに座る母にそう告げ、まだ涼しさの残る朝の街へと一歩踏み出した。
7月29日、午前9時過ぎ。
私、渋谷凛の休日は、少し遅めのスタートを迎えた。
×××
高層ビルの立ち並ぶ街中、人の波と色とりどりの装飾に囲まれ、私はある人たちを探していた。今日私が外出をすることになった原因。そして、私の友達にして仲間。
「お、凛! こっちこっち!」
待ち合わせ場所でキョロキョロしている私の耳に、元気な声が飛び込んでくる。いつもと同じだな、とどこか安心感を覚え、私はその声の主の元へと駆け寄る。その先には待ち合わせをしたもう一人の人物も既にいて、少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、奈緒、加蓮。待った?」
「ううん。アタシらも今来たトコ。って、なんかこのやり取り恋人みたーい♪」
私の謝罪に対し笑いながらそう嘯くのは、私の所属するユニット『Triad Primus』の一員である北条加蓮だ。今日は猛暑日になのかかわらず、長袖長ズボンに麦わら帽子という、暑そうなのか涼しげなのかよくわからない服装に身を包んでいる。
しかし、これにも彼女なりの理由があるのだろう。加蓮は昔から身体が弱く、あまり陽射しを好まない。そのため、自然とこのような服装になるのだと思う。
「なに馬鹿なこと言ってるんだよ、加蓮。さあさあ、それはそうと早く行こう!」
呆れたようにため息をついたのも束の間、彼女は目をキラキラと輝かせて私たちを急かしてくる。
彼女は神谷奈緒。『Triad Primus』のもう一人のメンバーで、今日遊ぶ提案をした張本人でもある。そして彼女の方は加蓮と違い、とことんラフな格好だ。白のTシャツに半袖の薄手のパーカーを羽織り、ショートパンツからは健康的な脚がスラリと伸びている。
「それで、確か今日は映画を観に行くんだっけ?」
はしゃぐ奈緒の姿を見て、なんとなくそう聞いてみる私。すると奈緒は今まで以上のはしゃぎっぷりで、私と加蓮につらつらと概要を語ってくれた。
「そう! 今日観に行くのは巷で話題の大人気アニメの劇場版、その名も『幽体離脱フルボッコちゃん THE MOVIE 〜囚われたアッキーを救い出せ!〜』」
奈緒はバックから一枚のチラシを取り出し、私たちに見せつけてくる。そこではカラフルなタイトルロゴが踊り、白くてモフモフした犬とフリフリの衣装を着て煌びやかなステッキを持った少女が、決めポーズをして写っていた。
……なんか、客観的に分析したら相当やばいね、これ。
「あー、確か前奈緒がフィギュア貰ってたよね。って、映画やるほど人気だったんだこれ」
加蓮は感心半分、呆れ半分といった感じの声音で、苦笑いを浮かべる。
「もちろん! 『幽体離脱フルボッコちゃん』シリーズは既に3期に突入していて、魔法少女モノとは思えないほどに敵をフルボッコにする姿から小さな女の子はもちろん大きな紳士淑女の皆さんからも絶大な指示を得てるんだよ!」
「いや、それ子どもに見せて良い内容なの?」
思わず突っ込まずにはいられなかった。しかしハイテンションを絵に描いたような状態にいる今の奈緒に私の言葉は届かないようだ。
「こうしちゃいられない! ほら、凛も加蓮も早く来いよ!」
奈緒はそう言って映画館の方へ走り出した。そんな奈緒のあまりに楽しげなを見て、私と加蓮は目を合わせ、お互いクスクスと笑い合う。
「もー、置いてかないでよー!」
加蓮はぼやきながら歩き出す。口では面倒そうに言っているものの、満更でもなさそうな表情だ。
なんだかんだで優しいんだよね、加蓮は。
「ちょっと凛、なに笑ってるのよー」
「ごめんごめん。今行くよ」
どうやら私の気持ちは顔に出ていたらしい。加蓮は怪訝そうな顔で、少し離れた私に大きな声で語りかける。
私は軽く応えると、二人の元に歩いて行く。
まあ、こんな1日も悪くないかな。
そんなことを思いながら。
×××
ここはとある映画館。薄明かりに照らされて、私たち三人は巨大なスクリーンを前に座席に着く。
周りを見てみるとどうやら本当に幅広い層に人気なようで、小さな子どもや私たちの様な女子高生、社会人とも思える男性など、様々な人々がその顔に期待の色を浮かべながら今か今かと上映開始を待っている。
もしかしたら、ホントに面白いかも。
そんな空気に当てられてか、私もどこか期待してしまっている節がある。
「あっ、始まるみたいだよ!」
奈緒の言葉に、私は少しそわそわしながらスクリーンを見る。ちらりと横を見ると、見るからに興奮した奈緒と、私と同じようにどこかそわそわしている加蓮がそこにはいた。
すると、壮大なBGMが流れ出し私の視線は再び期待と共にスクリーンへと向かう。一体どんな映画が始まるのだろうか。
×××
「今回も、いい話だった……」
「まさか幽体離脱したら魔法少女になって、性格が180度反転するなんて思わなかったわ……。最初のドジっ子キャラはどこにいったのよ……。あと戦闘シーンがエグすぎる……」
「というか、主人公の声って麗奈だったよね? あとスタッフロールに優さんも居たし、あのアッキーってやっぱり優さんのペットをモデルにしたんだ……」
大粒の涙を流す奈緒。気分が悪そうに額に手を当てる加蓮。どこか見当違いなところで感心する私。
三者三様の感想を口にしながら、私たちは映画館を後にした。
正直、設定は中々に奇抜だと思ったが、話としては普通に楽しかった。ただ、魔法少女モノの主人公が高笑いするのはやめた方がいいと思ったけど。
「本編も見てみよっかな……」
私は特に考えなしにポツリと呟いた。人が行き交う交差点で、それもかなり音量は小さかったはずだが、加蓮を挟んで隣にいる奈緒にはバッチリ聞こえていたらしい。
「凛! フルボッコちゃんに興味を持ってくれたか! よし、家にある1期と2期のBlu-ray BOXを貸してあげようそうしよう! そして今やってる3期をリアルタイムで観ようそれがいい!」
「ああ……うん、考えとくよ」
奈緒のあまりの熱意と迫り来る顔に、私は少し身を反らす。奈緒は気持ちが高ぶると周りが見えなくなる節があるから、そこを直した方がいい思う。
「まあそれはそれとして、そろそろお腹空かない?」
そんなやりとりを見かねたのか、加蓮は再度私と奈緒の間に入り込み、そんなことを口にする。ふと時計を見ると、もうすでに12時30分を回っていた。確かにそろそろお腹が空いてくる頃だ。
「そうだね、どこかでご飯食べようか」
「でも私あんまりこの辺の店には詳しくないぞ」
「ふっふっふ、心配ご無用」
どこか怪しげに笑いながら、加蓮は自分の唇に人差し指を当てる。正直嫌な予感しかしないが、今回は乗ってあげることにしよう。
「私が最高のレストランに連れてってあげるわ。知る人ぞ知る秘密のオアシスに、ね♪」
加蓮は妖艶にそう言うと、私たちを先導するかのように歩き出す。
私は、奈緒と「どうせあそこだろう」とアイコンタクトを取る。すると奈緒もそう思っていたらしく、やれやれと首を振った。
私と奈緒は呆れた笑みを浮かべながら、加蓮の後を追う。
秘密のオアシスとやらを目指して。
フルボッコちゃんの設定調べるのが中々大変でした()