アイドルマスターシンデレラガールズIF 〜シンデレラの絵本〜 作:松前正樹
「うん、まあ予想通りだけどさ」
「ここで予想を裏切って本当に高級レストランとかだったらそれはそれで肩身が狭いからいいんじゃない?」
「そこ、ぐちぐち言わなーい。私のとっておきなんだからちゃんと堪能しなさいよね。あ、フライドポテトとチーズバーガーお願いしまーす」
私と奈緒が案内された店は、案の定ファミレスだった。
ただ、私の知っているファミレスと少し違うような気もする。私の知っているファミレスは、こんな入り組んだ路地の奥にあるようなものじゃないし、お昼時にすんなり席に座れたりはしない。それに木目を基調とした内装この内装も、普通のファミレスとは思えないほどお洒落だ。
「……ん? この『今日のおすすめ』って何だ? ファミレスってこんなのあったっけ……」
「ふふん。実はねー」
どうやら、メニューにも通常のファミレスとは違う点があるようだ。メニューを見ながらそう零す奈緒に、加蓮は得意げに人差し指を立てて講義を開始する。
「ここは秘密のオアシス。知る人ぞ知るファミレスなのだー! 元々ここは定食屋だったんだけど時代の流れと共に姿を変えていき、今では定食メニューからジャンクフードまで、ありとあらゆる品を網羅したレストランと化したのだよ。そしてここのポテトは絶品なのです!」
そう言って、ついさっきまでの奈緒と同じような形相で迫ってくる加蓮。でも彼女をここまで言わせるということは、本当に隠れ家的名店なのだろう。メニューに目を通してみると、確かにトンカツ定食やらハンバーガーやらマルゲリータやらナポリタンやらパフェやら、多種多様な料理が所狭しと並んでいた。
「じゃあ、私は今日のおすすめにしようかな」
「あっ、私も私も!」
私と奈緒の注文を聞き、かしこまりましたと笑顔で応える店員さん。店の雰囲気も店員さんの態度もよく、中々好印象だ。
その後、私たちは料理が出てくるまで他愛のない話をしていた。流石にここで仕事の話をするのは憚れるから、今日の映画の話や、行きたいスイーツのお店の話など、普通の女子高生のような話を。
「それにしても、よくこんなとこ知ってたね、加蓮。普通なら路地の奥なんて入らないでしょ」
そして話が一度落ち着いた頃、私は店を見渡して、思ったことを素直に加蓮へ伝えてみる。私は基本大通りしか歩かないし、こんな隠れ家みたいなお店なんてほとんど知らない。私の知らないことを知っている加蓮が、私にはどこか大人に見えた。
すると加蓮は、珍しくどこか照れたような表情で、ぎこちなく話し始めた。しかし私は、加蓮がこの様な表情を見せる時がどんな時か知っている。
「いやぁ……本当のところはさ、私も前にここに連れてきてもらったんだよね。プロデューサーに」
「プロデューサーさんが!? 意外だな、プロデューサーさんがこんなお洒落なファミレスを知ってるなんて」
奈緒はあからさまに驚いているが、正直私も内心かなり驚いている。あの不器用なプロデューサーがこんなところに加蓮を連れてきたなんて……。
「その時はライブ終わりでね。ここの近くだったんだけど、プロデューサーが『お腹空かないか?』って言って案内してくれたの。なんでもその日のご褒美にと思って調べてくれたんだって」
加蓮は俯きがちに、少し頬を赤らめながら続けた。なるほど、つまりプロデューサーはわざわざ加蓮のためにここを調べてきたのか。なんというか、プロデューサーらしくてそういうところは嫌いじゃない。だが、ちょっと羨ましくも感じてしまった。
「やっぱり優しいんだなぁ。プロデューサーさん。でもちょっと……」
奈緒は少し上を向いて呟くようにそう言った。すると気恥ずかしさを誤魔化すためか、先ほどまで俯いていた加蓮が顔を上げて口を開く。
「あれれ〜? 奈緒、もしかしてヤキモチ妬いちゃってる〜?」
「バッ、バカ! そんなじゃないって!」
「ホントかな〜?」
結局はいつもの調子で騒ぎ始める二人。そんな二人にため息をつきながらも、私は案外楽しんでいるらしい。自然と頬が緩む。
「ほら、二人とも。料理も来たみたいだからそれぐらいにしたら?」
私の言葉に、二人の視線はお互いから離れ、店員さんが運んできた皿へと向けられた。
「チーズバーガー、フライドポテト、今日のおすすめでございます」
加蓮の元に運ばれたセットはいつものファストフード店のハンバーガーとは違い、トロトロに溶けたチーズが中のバンズと絡み合い、キラキラと光沢を放っている。
そして私たちの元に運ばれてきたのは、たっぷりとデミグラスソースがかけられた半熟卵のオムライス。漂うソースの香りだけでも満たされるような感覚に陥ってしまう。
「いただきます」
そう呟き、私はスプーンを取る。柔らかな卵は少しスプーンを入れただけでいとも容易く切れ、中のケチャップライスが露わになる。その中身は数々の野菜とケチャップライスの赤との彩りがとてもカラフルだ。
「ん……!」
美味しい。口に入れると、溶ける卵がケチャップライスと絡み合いなんとも言えない旨味を醸し出している。
見ると、他の二人もそれぞれの料理を堪能しているようで、とても話しかけられるような雰囲気でもない。
ひとまずは、私も楽しむことにしよう。プロデューサーが加蓮に教えたという、名店の味を。
×××
「美味しかったー!」
「うん。あのオムライス、何回でも食べに行きたいぐらいだよ」
「むー。二人がそんなに絶讃するから私もオムライス食べたくなってきたじゃん!」
憤慨する加蓮を尻目に、言い知れぬ満足感に浸る私は再び大通りへと戻った。今更だが、三人でこうして並んで歩くのもなんだか久しぶりな気がして、少し名残惜しい。
「あっ、まずい! 私そろそろ仕事だよ!」
奈緒の声が聞こえてくる。そう、私たちはいつも一緒にいられる訳ではないんだから。
「私も3時から仕事なんだよね……。凛はどうする? 確か今日は一日休みなんでしょ?」
「私もこれからちょっと別の用事があるから。気にしなくて大丈夫だよ」
申し訳なさそうに聞いてくる加蓮に、私はできるだけ明るく努めて答える。そんな私を見て安心した様子の二人。
「そっか。私と奈緒はこっちだから一緒に行けないけど、気をつけてね、凛」
「変な人に着いてっちゃダメだからな!」
「ふふっ、私たち、変な人に着いて行ったからアイドルになったんだけどね」
そう言って、私は二人を見送った。やっぱり少し寂しさは感じる。しかしもう絶対会えないなんてことはないんだから、と自分を励まし、私は二人とは別の方向へ足を延ばす。
渋谷凛の休日は、ようやく折り返し地点を迎えた。