アイドルマスターシンデレラガールズIF 〜シンデレラの絵本〜 作:松前正樹
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時刻は午後2時を回った頃。太陽は頂天を過ぎた辺りだが、照りつける陽射しはアスファルトに反射し、私のいるコンクリートジャングルの熱気は頂点に達しているように感じる。
「確かこの辺に……」
キョロキョロと周りを見渡す私。何かデジャヴのようなものを感じるがそれもそのはず。
私は、加蓮と奈緒に合流した場所に再び足を運び、そして再びとある二人組を探しているのだ。その二人組とは……
「おっ、いたいた〜! おーい、しぶりーん!」
明らかに私を呼ぶ大きな声がした。その方向を見ると、そこには案の定私の見知った二人組の姿が。一人は私に向かって大きく手を振り、私の顔を見てもう一人は可愛らしく微笑んでくれる。
「ごめん、未央、卯月。待った?」
「大丈夫だよ、私たちも今来たところだし。って、なんかこのやり取り恋人みたいだね!」
「……このやり取りさっきやったような気がする」
先ほどから既視感が凄い。というか、今のところさっきと全く同じ会話のルートを辿ってるし。
加蓮と同じようなことを言っているこの元気な少女、本田未央は、私が活動しているもう一つのグループである『new generations』のメンバーで、私のアイドル仲間の一人だ。いつもは制服の上にパーカーの彼女だが、今日の装いはいつもと違いそれでも活発そうな印象を受ける。でもパーカーだけは外せないようで、今日も今日とて袖を通している。そして——
「こんにちは、凛ちゃん! 今日も暑いですね〜」
もう一人の人物、花のような笑顔をその顔に湛え、手でパタパタと団扇のように扇ぐ女の子、島村卯月は、『new generations』のもう一人のメンバーだ。彼女の方は淡いピンクのワンピースに身を包み、まさにいつものイメージ通りといったところだ。やっぱり卯月にはこういう可愛らしい服装がよく似合う。
「そうだね、もうそろそろ8月だし。私も暑いのは苦手だよ」
「そうなの? なんか意外〜。しぶりんっていつもクールだから暑さなんてへっちゃらだと思ってたよ」
未央は目を丸くしてそう応える。どうやら本当に驚いているようだ。
「そう言う未央ちゃんこそ暑さとか平気そうですよね。いつも元気ですし!」
すると卯月は、相変わらずニコニコと微笑みながら未央に言う。
確かに、私もそれには同意だ。未央ならなんでも勢いでなんとかしちゃいそうだし。
「いやあ、さすがの未央ちゃんもこの暑さは許容範囲外なわけですよ。それにほら、そういうのは茜ちんの領分じゃん?」
「あー、そういえばいたね。年中暑そうな子が」
日野茜、私たちと同じプロダクションに所属するアイドルなのだが、なんというかノリと気合いの権化みたいな女の子だ。彼女ほど「暑い」という言葉が似合う人物を、私は彼女と某テニス選手以外に知らない。
「茜ちゃんっていつも元気ですよね。私も見習わないとって思っちゃいます」
「いや、しまむーにはずっと今のままでいて欲しいな」
「うん、それは私も」
両手を胸の前で握り、むんと力を込める卯月に、私たちは必死で抗議する。卯月は頑張り屋さんだが、たまに間違った方向に走ってしまう節があるのだ。
「そうですか? それなら私、今のままで頑張ります!」
卯月は少しの間キョトンとした表情を浮かべていたが、すぐに満面の笑みを咲かせた。とてもチョロ……素直でいい子だ。
「……それで、なんですけど」
話題が途切れたところで、それを待っていたかのように卯月がそう切り出す。可愛らしく首を傾げ、そして一言。
「今日はどこに行くんですか?」
その問いに、待ってましたと言わんばかりの得意げな表情を見せる人物が一人、そう、未央だ。
「ふっふっふー、よくぞ聞いてくれました! 今日はこの未央ちゃんオススメの雑貨屋さんに行こうと思いまーす!」
「……」
「……」
やけにテンションの高い発表に、私と卯月はその勢いに押されて何も言うことができない。
「……あれ? もしかして嫌だった……?」
「い、いや、そんなことないですよ! ちょっとびっくりしちゃっただけです!」
不安げに尋ねる未央に、卯月は必死になって説明する。
そう、私も別に行きたくないわけではないのだ。よく三人で一緒にいるといってもこうしてショッピングすることは稀だし。ただ……
「別にいいんだけど、なんでこの暑い中にわざわざ行くの?」
「うっ……しぶりんが冷たい……夏なのに……」
「いや、別に嫌なわけじゃないんだけど」
というか、その理屈はおかしい。
突っ込もうか迷ったところだったが、未央がなにやら慌てながら弁明しているので、そちらに耳を向けることにした。
「いや、実はね……私の大事な人の誕生日がもうすぐなんだけど、誕生日プレゼントを買ってなくて……。それで二人にアドバイスを貰おうかなーと」
未央は照れ隠しか、ぎこちない口調とオーバーな動作でそう伝えてくる。
それならそうと早く言えば良いのに。
「それなら、一緒に行かないわけにはいかないよね」
「はい! えっと、ちょうど今私にも欲しいものができましたし……」
私の言葉に、何故かおどおどしてそう返す卯月。まあ、二人に欲しいものがあるなら私も何か探してみよう。
こういう日も、悪くないと思う。
×××
「と、思って来てみたものの……」
私の目の前に陳列された色とりどりの小物たち。そのどれもが魅力的で、心惹かれるものであることに違いはないが、どうにも種類が多い。
「未央、ここ色々充実しすぎじゃない? 髪飾りとか部屋に置く小物とかはわかるんだけど、なんで文房具とかまで……」
「ふふっ、驚いた? そう、ここは雑貨屋さん。つまりなんでもある!」
「いや、その理屈はおかしい」
さっきは飲み込んだ言葉だったが、今回は思わず口を突いて出てしまった。
とはいえ、これだけのモノがあれば贈り物に良さそうなアイテムも少なからずあるだろう。ここはひとつしっかり見てみよう。
と、思った矢先、私は一つの違和感に気づいた。
「……あれ? 卯月は?」
「あー、しまむーだったら文房具コーナーに行ってたよ。まあ、流石のしまむーでも店の中で迷子にはならないでしょ」
私の問いに、未央は気楽な風でそう言う。
いや、そういう台詞が一番危ないんだけど……。
「さあしぶりん。これ良さそうだなーって思うやつがあればどんどん私に言ってね!」
そう言って元気にはしゃぐ未央。しかし、私はあまりこういうところに来たことがないから期待しないで貰いたいんだけど……。
とりあえず、未央に言われた通りに店を物色することにした私。とはいえ、そう簡単にピンとくるものがあるわけもなく、ウロウロとしていたのだが、
「これ……」
ふと目に止まった、銀色のネックレス。そこに取り付けられた装飾が、蒼く、深く輝いていた。
「ほほう、これはまたしぶりんらしいチョイスですな」
私がそのネックレスに目を取られていると、急に背後から声がかかる。振り返ると、そこにはうんうんと頷く未央が立っていた。
「うん。これ、ちょっといいかも……」
別に高い宝石を使っているわけでもなく、値段もそこまで高くはない。だが私は確かに、そのネックレスに惹かれていた。
「しぶりんがそんな反応を見せるとは……よし! じゃあこれにしようかな!」
未央はうきうきした様子で私にそう告げる。
「え? でもこれ私の趣味だし、そんなに簡単に決めちゃっていいの?」
そんな未央だったが、私の問いかけに動きを止める。というか、身体が固まったような感じ。どこか決まりが悪そうな、あたふたした様子だ。
「い、いいんだよ! あの子、しぶりんと同じで青が好きだからきっと喜ぶなぁ! ありがとね、しぶりん!」
「う、うん」
未央の勢いに押されがちの私。ひとまず未央にネックレスを渡し、一緒にレジへと向かう。正直私も少し欲しいと思ったが、今日の映画とご飯のせいか、微妙に財布の中のお金が足らなかった。まだ残りのネックレスはあったが、まあ、今回は縁がなかったということだろう。
そうして自分に踏ん切りをつけ、レジに並ぶ未央が戻って来るのを待っていたところ、不安要素の彼女が無事に戻って来てくれた。
「凛ちゃん、お疲れ様です! ……あれ? 凛ちゃんは何も買わなかったんですか?」
「うん、まあね。卯月のそれは……レターセット?」
レジへ持って行くのだろう。彼女の手には薄い青を基調としたシンプルなレターセットがあった。
「はい! 未央ちゃんの話を聞いて、私も大切な人に手紙を書こうかなと思って」
なるほど、だから卯月はあの時急に欲しいものができたって言ったんだ。
抱えていた謎が解けた私は、やっぱりいい子だなと思い感心していたが、ふと新たな疑問が脳裏をよぎった。
「卯月ってさ、ピンクとかの可愛いのが好きじゃなかった? なんで青にしたの?」
すると、愛らしい笑顔を浮かべていた卯月の表情が一転、どこか焦るような雰囲気になる。
「いや、これはその……デザインが、なんかいいなーって思ったんですよ!……あ、私お金払ってきますね!」
卯月はそう言うと、未央が購入を済ませレジが空いたのを見て慌てて走っていった。
なんかはぐらかされてるような気がするなぁ。
「なーに話してたのっ?」
そんなことを思っていると、未央がレジから帰って来た。顔を覗き込み嬉しそうに聞く未央に私はフッと笑い、
「なんでもないよ」
そう返したのだった。
×××
「いやー、結局今日はしぶりんを私たちの買い物に連れ回しただけになっちゃったね」
「すみません……」
「いや、大丈夫。私も楽しかったから」
夕暮れ時の街を、駅に向かって歩く私たち。と言っても今の季節は夏。5時を回った今でも空は相変わらず蒼い。
「それで——」
未央が言葉を紡ごうとしたその時、私のポケットから単調な機械音が流れ出す。
「ごめん、未央」
「いいよいいよ! 気にせずに出ちゃって!」
未央の言葉に甘え、私はポケットに手を入れ、自分のスマホを取り出す。
すると、そこに刻まれていたのは見慣れたアルファベット1文字。
——ほんと、今日は忙しい日だな。
私は思わず小さく笑いを零した。
——でも、こんな日も悪くない。
そう思った。小さなもやもやを、押し殺して。
「もしもし、プロデューサー?」
渋谷凛の休日も、佳境に差しかかろうとしていた。
あ、因みにアーニャは引けませんでしたorz