りっちぃさまー!がんばえー!
カズマさんの目つぶし攻撃からまた少し時間は経ち、もはや深夜ともいえる時間帯になりました。心なしか気温が低下しているように感じます。いや、夜だから気温は下がりますよね。
「……冷えてきたわね。ねぇカズマ、引き受けた依頼ってゾンビメーカー討伐でしょ?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデットが出そうな予感がするんですけど。」
アクアさんがぽつり、と一人言のように言いました。
「……おい、そういった事言うなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そんで取り巻きのゾンビもちゃんと土に還してやる。そしてとっとと帰って馬小屋で寝る。計画以外のイレギュラーが起こったら即刻帰る。いいな?」
カズマさんの言葉に私たち全員が頷きます。
◇
カズマさんの「そろそろ行くか。」の言葉で全員が行動を開始しました。≪盗賊≫のスキル、【敵感知】を持つカズマさんを先頭にして墓地に向かって前進します。
…懐かしいなぁ、この感じ。初めての洞窟探索を思い出します。たしか、ぬかるみに足を取られたフィアンマさんが洞窟の奥の奥まで滑って行ってたっけなぁ。
「何だろう、ピリピリ感じる。【敵感知】に引っかかったな。いるぞ、一体、二体…三体、四体…?」
おっとっと、ついに現れましたか。うーん?聞いてた話だとゾンビメーカーの取り巻きって二、三体らしいのですが。
「何でしょう?あの光。」
墓地の中央あたりから青白い光が走っています。
あれ?この魔力の感じは……ゾンビを生み出すというより、私の浄化魔法に近いような感じでしょうか?いや、でももうちょっとよく見ないと……。あ、人影がいくつかありますね。
「あーーーー!!!?」
「ひゃぁ!?」
びっくりした!びっくりした!なんですかいきなり!
突然叫んだアクアさんは、光の中にいる人影に走っていきました。
「ひゃぁって、意外とかわいらしい悲鳴を上げるんですね。クレールは。」
「忘れてくださいめぐみんさん!」
あぁ~、恥ずかしい!なんでアクアさんは叫んだんですか!
「とにかく行くぞ、あのバカを追いかけないと!」
◇
アクアさんを追いかけて墓地に行くと、ちょうどアクアさんがローブの人影を勢いよく指差しました。
「リッチーがノコノコこんなところに現れるとは不届きなっ!成敗してやるっ!」
…リッチー?あぁ、リッチーですか。えっと、リッチーとは一度だけ戦ったことがありましたね。五人で挑んで何とか倒せるくらいの強さですね。…このリッチーが友好的出なかった場合は全力で逃げないと、多分全滅しますね。
魔法を使って魔力を少しは消費したはずですが、まだまだ余裕そうですね。
アクアさんは地面に描かれた巨大な魔方陣に近づき、ものすごい速さでグリグリと踏みにじり始めました。
「や、やめやめ、やめてぇぇぇ!!誰!?誰なの!いきなり現れて、なぜ私の魔方陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!」
「うっさい、黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔方陣でロクでもないこと企んでるんでしょ!なによ、こんな物!こんな物!!」
あ、このリッチー大丈夫ですね。魔方陣の解読はまだできてませんが、本当に危険なモンスターなら、アクアさんの腰に抱き着いてどうにか止めようと必死に説得はしませんしね。
というか、この方が必死にアクアさんを止めようとしているのを見てると、アクアさんの方が悪者のように見えてきます。
「やめてー!やめてー!!この魔法陣は、いまだ成仏できない迷える魂たちを、天に還してあげるための物です!ほら、たくさんの魂たちが魔法陣から空に昇って行くでしょう!?」
このリッチーさんの言う通り、墓地にいた人たちの魂っぽい青白い光が魔法陣に入ると、魔法陣に沿って天に吸い込まれていくのが分かります。
「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行はアークプリーストのこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!見てなさい、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してやるわ!」
「えぇ!?ちょっ、やめっ!?」
リッチーの静止を聞かず、アクアさんは魔法を発動させます。
「【ターンアンデット】ー!」
さすがに女神というだけあって、宣言通り共同墓地全体に浄化系の魔法が展開されます。
リッチーの取り巻きのように存在していたゾンビたちの浄化の光が触れると、その姿が掻き消える等に消えていきます。アクアさんの近くにいたリッチーにもその光はもちろん来るわけで……
「きゃー!か、身体が消えるっ!?止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃうっ!」
ゾンビを一瞬で浄化した光に包まれて、なおかつその魔法の発生源のすぐ近くにいるのに少しずつ身体が薄くなっていくだけなのは、さすがリッチーといったところでしょうか。
さて、そんな『何も知らない人がこの光景を見たら、十人が十人アクアさんが悪役と勘違いしそう』な状況を覆したのは、我らがリーダー、カズマさんでした。
リッチーを指さして高笑いしているアクアさんの後ろまで行き、後頭部をナイフの柄でごすっと小突きました。そのせいで浄化魔法を維持する集中力が切れたのか、白い光は霧散していきました。
「い、痛いじゃないの!あんた何してくれんのよいきなり!」
アクアさんは、柄の攻撃がよっぽど痛かったのか、目に涙を溜めてカズマさんに掴みかかっています。
私とダクネスさんとめぐみんさんも一緒にカズマさんの近くに行って、話をしましょうか。…今まで墓地の入り口で見ていることしかできませんでしたからね。
「えっと、その方はリッチーでいいのでしょうか?あと、大丈夫ですか?」
今のリッチーさんは浄化魔法の影響で身体が消えかかっています。カズマさんが止めてなかったら、この方本当に消滅しちゃってたかもしれません。
「だ、大丈夫です…。危ないところを助けていただき、ありがとうございました……。えぇ、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します。」
そういってフードを上げると、二十歳くらいの茶髪の女性の顔がありました。すごい美人ですね。羨ましいです。
「でも、私が今まで戦ってきたリッチーと結構雰囲気というか、性格が違いますね。」
「やっぱり、リッチーにも個性があるんじゃないか?ところで、クレールが戦ったのって、骸骨みたいなやつか?」
「はい。全身骸骨で、ぼろぼろの修道服を着てるリッチーが多かったですね」
私が思い浮かべているのは、とある神官のお願いでアンデットが続出しているという洞窟の浄化の時に遭ったリッチー達ですね。目があったら攻撃魔法を出してくる方ばかりでした。できれば、もう二度と会いたくないですね。
「多かったって……。いや、それよりも……ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないのか?」
「ちょっとカズマ!こんな腐ったミカンみたいなのと喋ったら、あんたにまでアンデットが移るわよ!ちょっとそいつに【ターンアンデット】をかけさせなさい!」
アクアさんの言葉に怯えたのか、ウィズさんは私の背後に隠れてしまいました。
「もぅ…アクアさん?今からちょっと大事な話をするので、少し待っててくださいね?」
「ちょっ、なんでそんな小さい子をなだめるような口調なのよ!ちょっ出しなさいよ!」
次また【ターンアンデット】なんて撃たれたら、ウィズさんが怯えて話ができなくなるじゃないですか。アクアさんを囲うように、【プロテクション】を出しておきましょう。≪障壁魔法≫で張った障壁は空気は通しますし、ある程度ダメージを与えたら割れるので、アクアさんにその気があればすぐ出れますよ。……アクアさんなら、41回くらい本気で叩けば。
「え、えっと…。私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデットの王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂はお金がないためにロクに葬式すらしてもらえず、天に還ることなく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデットの王な私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがってる子たちを送ってあげているんです。」
おや、すごくいい人じゃないですか。世界征服のためー、とか言ってたどこかのリッチーとネクロマンサーに聞かせてあげたい言葉です。
「それは…すごい立派なことではあるんだが、そんなことは街のアークプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」
「そ、その……。この街のプリーストさんは、拝金主義……いえその、お金がない人たちは後回し……といいますか、その……。」
いまだ壁ドンしているアクアさんの方をチラチラ見ながら、ぼそぼそと言いました。ふふっ、そんな人たちがこの街にいるんですか?そうですか。
「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されてる共同墓地はんて、供養どころか寄り付きもしないってことか?」
「え……、えと、そ、そうです。」
「まったく、神に仕える指導者が金儲け優先とは、聞いて呆れますね。」
私とカズマさんの言葉で、この場にいる全員がアクアさんに集まる中、アクアさん本人は、壁を壊すのをあきらめて三角座りしています。
「それなら、まぁしょうがないか。でも、ゾンビを呼び起すのはどうにかならないか?俺たちはここにゾンビメーカーが出たから、討伐してくれって依頼を受けてここにいるんだが。」
「あ…そうでしたか……。その、呼び起してる訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人たちが、迷わす点に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……。……あの、どうしましょうか?」
適任な方はそこにいるんですけど…。
「後でこちらにプリーストが向かうように言っておきます。というか来させます。」
「そ、そうですか…。」
「おいカズマ、一応話は理解したが、このリッチーの討伐はするのか?」
今まで黙って見守っていたダクネスさんが質問しますが、答えはもう決まっているようなものですね。
「しねーよ。こんないい人討伐できるわけないだろ?」
「その意見には賛成ですが、たぶん戦ったら私たちのほとんどはやられちゃうと思いますよ?」
「え?そうなのか?」
当たり前です。
めぐみんさんがカズマさんにリッチーというモンスターの危険性を話しているのを見て、ほほえましく思いつつ、アクアさんを囲う障壁を解いて帰ることにしました。
「ところで、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」
「「「あっ」」」
「ふふっ、残念ながら、失敗の報告をしないといけませんね。」
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