私は、目の前で起きている出来事をただ見ていました。真っ赤に染まった視界では、大まかな行動しか把握できませんでしたが、
この賭けは人の意思を無視した内容のもので、負ければアクアさんは強制的に向こうのパーティーで働かねばいけません。アクアさんが自分の意思でパーティー抜ければ良いとも思えますが、あの男がそれをさせるとは思いません。
そういった内容のことをカズマさんに聞いてみました。俯いて。カズマさんの顔は見れませんでしたが、声の様子からバツの悪い顔をしているのでは、と思われます。
「俺だって、アクアがパーティーから抜けるのは困る。でもな、あいつには確実に勝てると思ったから勝負を受けたんだ」
「……勝てると思った理由を、教えてもらえますか?」
「…あいつは、俺が最弱職だと馬鹿にするような口調だったろ?あいつは、所詮は最弱職、自分に勝てるわけないって思ってただろうな。多分勝負は開始の仕方まで指示するつもりだったはずだ。さながら騎士同士の決闘みたいにさ、コインが地面に着いたら、とか言って。でも俺はあいつの言う通り最弱職。相手は転生者で、魔剣まで持ってる。そんな不利な状況で、わざわざ開始の合図なんて待ってらんないだろ?」
私は、カズマさんの話をしっかりと聞きながら、深呼吸をして気持ちを落ち着けます。昔、今みたいに視界が赤く染まった時があったのを思い出したからです。
原因はおそらく感情の暴走。昔、何度かこうなったことがあります。真っ赤になるのは、『怒り』だったかな。
「そう…ですね。それで、カズマさんの勝ちみたいですけど、ミツルギに何を要求するんですか?」
「ん?クレールって人呼び捨てにしたっけ?あと、なんでずっと俯いてるんだ?」
「人を賭けの対象にするような人は敬意を表す必要はないでしょう。俯いてるのは、めぐみんさんみたいになってるからです」
「めぐみんみたいに?」
「紅くなってます」
「なんで!?」
「ほらほら、そんな事より、何を要求するんですか?」
「話の逸らし方が露骨だぞ……。まぁ、いいか。んじゃー、この魔剣でも持っていくか」
カズマさんは、いつの間にか地面に突き刺した魔剣グラムを回収しようとしますが、横から飛んできた罵声に反応して手が止まります。見えませんが。
「ひ、卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」
「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」
声の感じから、若い女性二人でしょうか。たしかミツルギのパーティーに盗賊風の少女と、戦士風の少女がいましたね。
おそらくカズマさんの戦い方に不満を持っているんでしょう。
カズマさんはそんな声を無視し、再びグラムに手を伸ばします。見えないので音で判断していますが。まぁ、カチャって聞こえたので、剣を抜くか握るかしたんでしょう。
「ちょ、無視すんじゃないわよ!大体、その魔剣は持ち主を選ぶのよ。すでにその剣はキョウヤを持ち主と認めたのよ?あんたには魔剣の加護は効果がないわ!」
あー、そんな感じの物でしたか、あの魔剣。ちょっと鑑定してみたいです。
「カズマさーん。魔剣グラムどこですか?下向いて目を瞑って歩くと転ぶので、手を貸してくださーい!」
「さっきからほんと何してんだよクレール。イメージ崩壊しまくってるぞ」
小言を言いながら手を貸してくれるあたり、シームルグさんと通じる所がありますね。
カズマさんに案内してもらいながら、耳元で少しささやきます。
「実は私、感情の起伏で目の色が変わるんですけど、その状態で目を合わせると状態異常を引き起こしちゃうんですよ」
「そういう事は早くいってくれ。…ほれ、これだ」
「ありがとうございます。それじゃ、こっちに意識向けとくんで、あの子たち説得してくれません?」
魔剣の位置が分かったので、そちらに意識を集中します。
使った金属は…魔力伝導率の高いオリハルコンと硬度の高いアダマンタイトの混合金属でしょうか。結構複雑な魔法陣が組み込まれてますね。さっき言ってた持ち主を選ぶ、とか言うのでしょうか。…この程度なら、魔法陣の破壊まで行けそうですけど…まぁいいです。カズマさんに任せましょう。
あー、どうしましょうこの視界。真っ赤過ぎて何も見えません。・・・ファーヴニルさんに来てもらいましょうか。一応怒りって言う悪感情な訳ですし。
…そうと決まれば善は急げ!ちゃっちゃと治してもらいましょう。
「【フォーアラードゥング・ファーヴニル】(極小)」
両手でお皿を作り、その上に召喚陣を展開します。
『なんだ?またなにか用でもできたか。』
『お願いですから召喚陣から出てきてください…。』
既に展開された召喚陣を無視して胸元から這い出てきたテンニーンさんを手の上に乗せながら愚痴ります。
なんでわざわざそこから来るんですか…。
『よし。お前のことだ、どうせ目だろう。さっさと開け』
『はい』
ずっと閉じていた目を開くと、掌にいる赤く、翼の生えた竜のテンニーンさんと目が合いました。その瞬間、真っ赤に染まっていた視界は鮮明な、元の色に戻りました。
ふぅ…。
『今回は赤か。ならば怒り、もしくはそれに関係する感情だろう。全く、いつも言っておるだろう。パーティーの支援役たるもの、常に冷静に振る舞えと』
『重々承知しております……』
『そもそもお前は……』
その後、テンニーンさんの説教を、カズマさんに声をかけられるまで聞かされていました。
◇
「な、何でよおおおおっ!」
冒険者ギルド内に、アクアさんの声が響きます。アクアさんの近くでは常に何か騒ぎが起きますね。
ちなみに、テンニーンさんには帰ってもらいました。カズマさんが、「アクアが見たら大騒ぎする」とかで。帰還陣用意したのに、また胸元から帰りましたよ…。
「だから、借りた檻は私が壊したんじゃないって言ってるでしょ!?ミツルギって人が檻を捻じ曲げたんだってば!ぞれを、なんで私が弁償しないといけないのよ!」
…きんぐくりむぞんっ!
「ちっくしょおおおお!」
つい先ほどミツヤギがこちらにいましたが、アクアさんのゴッドブローでお金をたかられて、売られた魔剣を買い戻しに走り出しました。
「……いったい何がしたかったのだあいつは。……ところで、先ほどから、アクアが女神だとか呼ばれていたが、一体何の話だ?」
そりゃぁ、あれだけ女神様って叫んでたら不審に思いますよね。
カズマさんはアクアさんに目くばせした後、私にも……?
「?」
「……首をかしげるなよ…わかるだろ………」
「ふふん、今まで黙ってたけど、あなた達には言っておくわ。……私はアクア。アクシズ教団が崇拝する、水を司る女神。…そう、私こそがあの、女神アクアなのよ……!」
「「っていう夢を見たのか」」
アクアさん、ある意味キャラが確立されていってますね。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘体制で街の正門に集まってください!』
もうこの緊急放送も聞きなれましたね。今日いろいろあったし、行きたくないんですけど…。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘体制で街の正門に集まってください!……特に冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』
……なんで!?
そこまで悪影響のない話。
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