少しずつ光が収まり、ゆっくりと目を開けると、綺麗な河原の近くに立っていました。
日の光を水面が反射してキラキラと光っています。
「すごい……綺麗だ~!」
グランフェルデンの中にずっと居たから、天然の流れる水なんて久しぶりです。
服は寝巻に着替える前の神官の長いスカートのようなものがついている制服だったので、膝くらいまで捲り、靴を脱いでちょうどいい大きさの石の上からピチャピチャと足を水の中で動かしてみます。
「……冷たい」
春が近いのか、秋が近いのか、すでに冬なのか。水温は低く、それでいて心地よく、私の頭も一緒に冷えていくような気がします。
「おーい!嬢ちゃん!この時期に水遊びはちと堪えるぞ!毛布貸してやるからこっち来い!」
……ですよね。嬢ちゃんって私のことでしょうか?
声のした方を見ると、ネヴァーフ(ここではドワーフといった方がいいんでしょうか)のおじさんがこっちに大きく手を振っていました。
取り合えず行ってみることにします。服を戻して靴を履きなおし、歩いておじさんのところまで歩きます。
◇
「まったく、何考えてんだ?この時期に河原で遊ぶ奴なんて初めて見たぞ」
「ごもっともです……」
話を聞く感じ、今は冬寄りの秋みたいです。
今私はドワーフのおじさんに毛布とタオルを貸りて足を拭かせてもらってます。
「ありがとうございます、えっと、」
「ガウルだ。……それにしてもお前どこから来たんだ?ここらじゃ見ない顔だな。」
……どうしよう、異世界から、なんて言えない。
「えっと、かなり遠いところですね。冒険者になりに行くんです」
「ほぉ?そんな細腕でか?」
「魔法使いになってみたいなーと、一種の願望ですね」
「なんだぁ?行き当たりばったりだな。そんなんで大丈夫か?」
やっぱり、他から見ると無計画に思えるんですね。ガウルさんに豪快に笑われてしまいました。というか、いつの間にか馬車が動き出してました。
「多分大丈夫でしょう。それよりもこの馬車、というかガウルさんはどこに向かってるんですか?」
「【駆け出しの冒険者の街】アクセルだ。嬢ちゃん、冒険者になりたいんならちょうどいい。名前通り街には駆け出しの青っこい奴らしかいねぇ。ここでちと鍛えるといい。…冒険者登録手続きに手数料がいるのは知ってるか?」
え、何それ?大神殿はそんなのなかったよ?ここでは必要なのかな……?
「その顔は知らなかったな?ほら、これだよ」
そういってガウルさんが取り出したのは数枚のコインと紙幣。数枚のコインは全て模様や色が違うものです。
その中から一枚のコインを私のほうに差し出してきました。表には端正な顔立ちの女性の横顔、裏には小麦でしょうか、それによく似た作物が彫られた金色の硬貨です。
「これ一枚で500エリスだ。まさか、知らない、持ってないってことはないよな?」
おっと、どうなんでしょうか。ブリガンティア様は所持金を換金してくれたそうですが、腰にさがっていた見覚えのない巾着袋のなかを覗くと、500エリスがと思われる硬貨が4枚、その他には紙幣が3枚だけでした。ガウルさんの説明によると紙幣は1枚1万エリスだそうです。つまり合計で5万エリスありました。
「もちろんあります。無一文で旅は辛いですからね」
私がそういうと、ガウルさんは安心したように息を吐いていました。
ご心配おかけします。
◇
そんなこんなでしばらく馬車に揺られて見えてきたのは石造りの壁、もしかして、
「ガウルさん、あれがアクセルの入り口ですか?」
「その通り、やっと見えてきたな。」
着々と近づくアクセルに内心ワクワクしながら大人しく馬車に揺られてます。
やがて大きな門をくぐるころに、私はガウルさんにお礼を言いながら馬車をおります。
「ガウルさん、ここまでありがとうございました。あとは自分で歩いていこうと思います。」
「そうか、冒険者ギルドはこの道をまっすぐ進んで左側だ。派手な装飾だからすぐ分かるだろ。」
ガウルさんにお礼を言って別れ、指示通りに進むと冒険者ギルドと書かれた看板を掲げる建物が見えてきました。
私は特に何も考えず扉をくぐります。
さて、突然ですが私の世界での冒険者ギルドのような建物の解説をしたいと思います。
まず、冒険者ギルドという名前でなく、大神殿というその名のとおり大きな神殿がこの世界の冒険者ギルドの役割を持っているのと同じです。
神殿には冒険者たちのためのクエスト受付があるため、冒険者はそこへ。お金がない方のために寝泊りする施設もあります。
信者は中央付近にある像に参拝しに来たりします。
最後に私が副神官長になってから設置した医療所。傷を負った方々を無償で癒す施設の大体四つの目的に分かれているのです。
なぜ、私がこんな話をしたのかというと、大神殿との違いに驚いてしまったからです。
なんですかこの……っ冒険者たちの笑い声の騒がしさは!?大神殿のころとは大違いです。まったく……活気があってよろしい!
冒険者ギルドは大きく三つの目的で使われるようです。
一つは冒険者登録や依頼の受注など、冒険者として働くこと。
もう一つは食事を楽しむこと。
最後にお風呂に入ること。
大神殿での常識は捨てたほうがいいですかね。あとギルド中に漂うおいしそうな香り。お腹すいてきます、やめて頂きたい。
何か食べようかなぁ……。
溢れ出そうになる涎を無理やり飲み込み、ギルドの床を踏みしめながら進みます。
何処に行けば冒険者登録できるんでしょうか。
「あ、いらしゃいませ!お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞ!」
「あ、どうもありがとうございます」
はい、短髪赤毛のウェイトレスさんに偶然教えてもらいました。
取り合えず目的は仕事、というか収入源の確保ですし、奥のカウンターに向かいます。
チラチラと周りを確認しながら歩くさまは田舎者丸出しだったのでしょう。鋭い視線が刺さります。気にしません。気にしませんとも。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが」
「はーい、登録手数料がかかりますがよろしいですか?」
私の呼びかけに対応してくれたのは“
「大丈夫です。千エリスで間違いないですか?」
そう言いつつカウンターに千エリスを置き、受付嬢さんはそれをにこやかに受け取りました。
「はい。間違いありません。では軽く説明を」
コホン、と咳払いをして受付嬢は説明し始めました。
「冒険者になりたいと仰るのですから、ある程度理解しているとは思いますが、まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター──人に害を与えるモノの討伐を請け負う人のことです。簡単になんでも屋みたいなものです。討伐のみを請け負うわけではありませんが……冒険者とはそれらの仕事を生業にしている人達の総称。そして、冒険者には、各職業というものがございます」
そこで話を区切り、ポケットから長方形の板を取り出し、その一部を指さしながら説明を再開しました。
「こちらに、レベルという項目がありますね?ご存知の通り、この世の中のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めいます。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものですね。それらは普通、目で見る事などはできません。しかし─このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます」
生命活動にとどめを刺したら経験値というものがカードに吸収されて成長できる、と。なるほどなー。
この受付嬢さんのレベルは12。高いのか低いのかわからないなぁ
「ま、長ったらしい説明はこれで終わりです。これから本格的に登録しますよ」
長ったらしい……職員さんもそんな認識なんですね。
頬が引きつるのを感じながら気を引き締めます。
「まず、こちらの書類に身長、体重、年齢、身長的特徴等の記入をお願いしま~す」
えっと、身長 172cm、体重(企業秘密)kg、年齢 26、特徴…?エルフでいいかな。
「はい、結構です。えっと、ではこちらのカードに触れて下さい。それであなたのステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んで下さいね。経験を積む事により、選んだ職業によって様々な専用スキルを習得できる様になりますので、その辺りも踏まえて職業を選んで下さい」
淡い光を放つ不思議な台をカウンターに置かれました。
「これに触れればいいんですか?」
「はい、大丈夫ですよ?針なんて出ませんので」
「針…?まぁ分かりました」
台に触れてみると、淡い光が強くなり下に置いてあった板、カードでしたか。に文字を刻み始めました。
発光が終わると、受付嬢は「失礼します」カードを手に取り、内容を確認しました。
「はぁぁぁ!?何ですかこの数値!」
すぐにそんな叫び声が響き渡りました。その声で食事をしていた方々の視線が刺さります。
「え!?そんなに低かったんですか!?」
「むしろ逆です!こんなステータス見たことないですよ!!ステータスの筋力がもう見たこともないくらい低いのを除けば、知力、魔力、器用度、生命力が最高級クラスですよ。最上級職にもなれますよ!勇者、スーパースター、ほかにも───」
その後も何やらよくわからない職業が連なっていたので取りあえず「おまかせで」と言ったら筋力や体力面の低さを考慮して、ありとあらゆる術を使いこなすという“賢者”に決定しました。
「クレール・フラシア様、スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」
「やめて!注目しないでください!」
私は自分に集まる視線から逃げるように冒険者ギルドを後にしました。
なお、冒険者の視線は、
「なんだ?よそ者か?」が1割。
「なにあれ可愛らしい」が8割。
その他が1割の模様。
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