学園長室で飲み明かした次の日。流石にアルコールは全部抜けきっていないが、生活に支障がない程度までは回復した。幸いにも昨日は金曜日で今日から三連休だ。なので、この間に身の回りを整えなければいけない。先ずは近(キン)が用意した部屋の確認に行く。
近が用意したにしては珍しく、特に何の悪戯も施されてなかった。この部屋まで来る間に必要なものは全て買って来たので部屋のコーディネートを始める。まずは、この部屋に結界を張るところからだ。近が言うにはこの部屋は他に誰も使う予定は無いので好きにしていいとのこと。なので徹底的に改造しようと思う。
「まずは陣作りからでござるな」
魔法というのは当然のことながら魔力を放出しただけだは意味がない。陣や杖といった媒体をつくり、そこに魔力を流し込んで無事に発動してこそ魔法と呼べる。場合によっては意味のある物体も必要になるがそれにしても媒体が欠ければ魔法は発動せず、魔力は空気に霧散する。と、そんなこと思っている内に陣が完成する。そしてその陣を書いた紙を部屋の四隅に置く。その上に塩を少量置いて呪文を唱えれば終了だ。媒体となった塩と陣は消え失せ、この部屋には確かに結界が貼られている。今張ったのは魔よけ、厄除けの結界だ。シンプルで魔力さえあれば誰にでもできる魔法だが確実で低レベルの悪霊の類を一切寄せ付けない。普通に生活するには十分な効果がである。
次に紙に書いたルーン文字を床に張り付ける。書いたのは13~15番目のルーン。これで、攻撃からの保護と防御、結界の隠蔽が完了した。
何故忍者がルーン文字を使っているのかと言う質問は私の信条の一つに使えるものはなんでも使え、という信条があるからだ。後は世界を飛び回っていたと言うのも関係しているのかもしれない。何はともあれ、後はルーンが隠れるように絨毯をひいて家具を置くだけで完成だ。
部屋のコーディネートが終わり、一息ついたところで近から荷物が届いた。中身は学校の教科書らしいが、たぶん嘘だろう。いや、教科書は入っているが中学生が1m四方の段ボール2つ分も教科書があるわけがない。大方、こちらの魔導書だろう。
段ボールを開けると、案の定表面には教科書、その下は全て魔導書だった。取り合えず教科書を机に置き魔導書を流し読みする。一冊読んだところでこの世界の魔法使いの大体の実力がわかった。結論は、並みの魔法使いだとケンカにすらならないということだ。
だがしかし、夢が広がったのも事実だ。魔導書にでてきたエヴァンジェリン・A・K・マクダヴェルと言う吸血鬼。闇の魔法と言うのを開発したそうだが是非とも相対願いたいところだ。
――――コンコン
ドアがノックされたのを受け、物騒なことを考えていた脳を切り替え、ドアの方に行く。
「どちら様でござるか?」
「私だ、エヴァンジェリン・A・K・マクダヴェルだと言えばわかるとジジイが言っていた」
ジジイと言うのは近の事だろう。流石、近。私の心情を読んでナイスタイミングで寄越すなど近以外には出来ないだろう。
「ふむ、丁度良かったでござる。拙者もそろそろ挨拶へ出掛ける頃合いだったでござるからな」
そう言いながら扉を開ける。その瞬間、忍術を発動しようとして―――止めた。
「とと、危ない、危ない。子供を攻撃するところでござった」
そんな私の反応に防御の体勢を整えていたエヴァンジェリンは唖然としていた。
「ふ、ふふ、ふはははははは!!」
…直後には笑っていたが。
「貴様、見た目で人を判断するなとママに言われなかったのか?」
そう言うエヴァンジェリンの目は細められている。殺気も入っているようだ。
「んー、言われた覚えはないでござるな」
爺さんが親の代わりだったし。
「ならば教えてやろう。貴様が攻撃しようとした相手が誰なのかをな!!!」
そう言いながらエヴァンジェリンはどこからか取り出した小刀を手に突っ込んでくる。が、私は袖口に隠しておいたクナイで弾く。
「む、貴様忍者か」
「うむ。甲賀忍者特別中忍(望月紅葉改め)長瀬楓でござる」
特別中忍と言うのは嘘ではない。私しかいなかったが確かにその地位にいた。他の・・・伊賀忍者などでは上忍の地位になるだろう。
「成る程な。どうりで・・・・・続けるか?」
もちろん戦いを、という意味だ。
「子供を斬る趣味はないでござるよ」
「ふん、私をただの子供だと思っていると後悔するぞ」
「とは言え、身体能力も魔力量も10歳前後の一般的な子供並では子供以外に見えぬでござる」
エヴァンジェリンがただの子供ではないのは最初からわかっている。ただ、今のまま戦ったとしてもこちらの勝利が約束されているようなもの。だから、意味がない。
「く、そこを付かれるとなんとも言えん。・・・・・・くそ、ナギの奴どこをほっつき歩いているのだ」
最後の方は声が小さく聞こえなかったが体をみてみると封印された痕がある。随分と乱暴な方法で封印されたらしく、いくつかの回路が絡まり、融合して、永遠に封印された状態になっている。
「ん?なんだ、何をじろじろ見てる?」
「いや、なんでもないでござる。それにしても随分と乱暴に封印されたのでござるな。しっかりと封印が機能しているのが不思議な位でござる」
「な!?貴様、私が封印されたとどうして分かる?」
「どうしても何もその体に張り巡らされた術式をみれば分かるでござるよ。それにしても、その封印を行った人物は随分適当な性格でござるな」
「それに関してはどうでもいい。貴様はこの術式をどう捉える?」
「そうでござるな。拙者ならもう少し工夫を凝らして術式に期間をもうけるでござるな」
完成された術式を変えるのは難しく、並大抵の魔術師にできることではない。
「そうか。では、この状態で術式を変えることは?」
「拙者なら可能でござる」
私がそういうと、辺りを沈黙が支配する。
「・・・・ふっ、まあ出会ったばかりの奴に術式の改竄を頼むほど私も馬鹿ではない」
その返答は当然の答えだろう。
「ここでの話もなんだ、あがるぞ」
エヴァンジェリンは興味がなくなったかのように私には目もくれずに部屋に入る。というか、その台詞は私の台詞なのだが・・・。
「で、貴様は何者だ?」
部屋に入り、茶を淹れたところでエヴァンジェリンが聞いてきた。
「さっき言ったでござるよ。拙者は甲賀忍者特b「それで納得すると思うか?」・・・・別に知らなくても困らないでござるよ」
少なくとも今は必要ないだろう。
「ふん、答えたくないならそれでいいさ。私には関係無い。ただ、これから同じ仕事をするのにお前の事を知りたかっただけだ」
同じ仕事をする?
「それはどう言うことでござるか?」
「ジジイに聞かなかったか?新任教師を見守る役だとかなんとか」
ああ、そういえば近がそんな事を言っていた。
「ではお主があの『サボってばかりで使えない』もう一人でいいんでござるな?」
「ピキッ(コメカミに青筋が入る音)・・・ああ、そうだ。それもそうだがもう一つあるだろう」
はて、何か言われただろうか。
「いや、特に無いでござる」
「ピキキッ(青筋が広がる音)・・・そ、そうか。あのクソジジイめ。まあいい。ならば私が直々に言ってやろう。私はこの学園の防御をすることになっているんだが防御にあたって二人一組で組むのが普通なんだ。私は長年ペアがいなくてな。まあいつもサボっているから問題は無いんだが。それで新しいパートナーがお前らしいから顔を見に来たんだ。突然攻撃を仕掛けてきたときはどうしようかと思ったがな」
少々話がぶっ飛びすぎていて理解できない。近は私が裏の世界の人間の前に出るのが嫌いだと知っているはずだ。なのに、学園の防御をしろ?いい度胸だ。いまならこの学園を一瞬で破壊できる。
「ま、そこそこやるようだしな。安心した。これなら私がサボっても大丈夫だな」
そしてパートナーとやらはは早速サボろうとしているらしい。
「それは困るでござるな。拙者は英雄の息子を見守る役、としか言われてないでござる。就業時間外の勤務はしないでござるよ」
「お前はどこぞの地方公務員か・・・。まあいい、ならばサボってもかまわんだろう」
「うむ。近に対するささやかな仕返し、と言うところでござるな」
そのあとしばらくはお互いの昔ばなしで盛り上がり、結局その日も飲み明かした。
感想、指摘等はどしどし送って下さい