シスコン(ブラコン)じゃない兄弟はいない    作:炭酸ジャンキー

1 / 8
気軽に読んでください。


第1話 俺と妹とアイデンティティ

 

 人間は、幼少時の環境によって、性格から生活習慣、好み、癖、言葉遣いまでの、そのすべてに影響を与える。

 人間は環境によって生きている。同じ哺乳類でも、犬や猫とは違う。本能のみで生きてはいない。もっと言うならば、本能に後付けで環境が付いて来る。

 と自分で言っておきながら、だとすれば自分は本能だけで生きているのかと思ってしまう。

 俺は幼い頃に母親を亡くしている。物心がつく前に。正確には俺が1歳になりたてのころに。

 俺は父に育てられた。

 育てられた、と言っても、それは親としての義務でだ。

 父は忙しい人だった。今もそうだ。家にはなかなか帰ってこない。

 流石に1歳の頃は育児休暇をとっていたそうだが、俺は幼い頃のほとんどを保育園で過ごしていた。早い時間に預けられ、遅い時間に迎えが来る。つまり、父親と過ごした時間よりも保育園で過ごした時間のほうが多いのだ。それでも俺は父に愛されていたと思う。

 そう考えると幼少期の環境、父からの影響をほとんど受けていない。父の性格も習慣も好みも癖も言葉遣いもほとんど、その当時は分からなかったし、影響も受けていない。

 環境が本能についていないのだ。

 いや。

 ついてはいるのだろう。

 保育園にいる間は、その周りの影響を受けているのだから、それが俺に1番影響を与えているだろう。

 だが不特定多数から受けた影響はただの飾り。俺という人間は本能でできていると言える。

 まあ実際はそんなことないのだが。

 本能だけで生きていたら大変だ。

 簡潔にまとめると、アイデンティティというものが俺にはない。

 俺が一体なにでできているか、分からない。いや、形成しているものはあるのだろう。ただ不安定なだけ。

 常にアイデンティティクライシス。

 流石に言い過ぎだろうか。そんなのただの情緒不安定な奴だ。

 だからだろうか。

 俺は、他人が、そして自分自身がどう周りに影響を与えるのかがいまいち理解できない。

 それでも、そんな俺でも、自信をもって、はっきり言える。

 これは俺の影響ではない。

 

 

「ねぇ、おにーちゃん、ユイのアイス…………食べる?」

 

 

 8歳の幼女がパンツ1枚で胸にアイス垂らしながら兄に馬乗りするのは、俺の影響じゃない。

 

 

「ムラムラしない? ねえムラムラしない?」

 

「しねーよ! 8歳の子どもに、しかも実妹に欲情などしない!」

 

 

 なぜだ!

 なぜ、こんな子に育った!? いやどこで間違えた!?

 純粋だった俺の妹はどこで間違えたんだ!

 俺じゃない。絶対俺じゃない。俺、エロ本もエロゲーも持ってないし、家ではそういう話しないし!

 どんな環境で育ったんだこいつ! あ、我が家だわ。

 こいつ、もうアイデンティティクライシスとかそんなレベルじゃねーよ。存在がクライシスしてるよ。

 

 

「えーしないのー? じゃあティッシュとって。さすがにべたべたする」

 

「最初からすんな」

 

 

 小山田 結衣。

 父と再婚相手との間に生まれた、俺の妹。正真正銘、血のつながった実の妹である。

 まだ8歳なのだが、このように実の兄を誘惑してくる小学2年生。出るとこ出てから来い、バカ妹。

 

 

「風呂沸かしてやっから、はいってこい」

 

「はーいっ。あ、おにーちゃんも一緒にはいろっ! 頭洗って!」

 

「はいはい」

 

 

 こういうところは可愛いんだけどなぁ。

 ついつい甘やかしてしまう。8年間面倒見てきてるからかもしれないが。

 父と再婚相手、つまり今の母は仕事が忙しい。両親ともデザイン関係の仕事で帰ってこないことも多い。そんな2人に代わって俺ともう1人、母の連れ子、俺の姉とで世話をしてきた。そのせいか、大抵のことは許してしまう。今回のことも、あまり怒ろうとはしない。問題はあるが可愛いから怒る気がしないのだ。

 そう考えるとシスコンだな。可愛くてしかたがない。

 と同時に思う。あいつがこうなったのって、やっぱり俺たちのせいじゃね?

 いや、やっぱり違う。いくら甘やかしていると言っても、悪い教育はしてないはずだ。そこだけは間違いない。…………………………………はずだ、うん。

 自信がないのは、親から教育をあまり受けていないからか、それとも自分自身に自信がもてないからか。

 どちらにせよ、俺が不安定であることが原因なのは間違いない。

 俺が俺になれる日は来るのか、不安になる。

 ただ、最近思うのは、この妹を見ていると、そんなことを考えているのが馬鹿馬鹿しくなる。8歳児のくせに芯がしっかりしていて、まっすぐで、迷っている自分が馬鹿みたいに思う。

 全く、どっちが年下なのやら。

 

 

「おにーちゃん、お風呂湧いたー」

 

 

 だがこうして、一緒にお風呂入って頭を洗ってやっていると、自分が兄だと自覚する。

 もう8歳なのだから、1人で洗いなさいと言いたくなるが、それでも頼まれれば洗ってしまう。たぶん、上がれば髪を乾かしてあげるのだろう。本当に甘い。

 自分のシスコン具合を考える。

 もしかすると俺のアイデンティティはシスコンなのかもしれない。

 

 

 

 




筋は通っている…………はずです。
矛盾もない…………はずです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。