シスコン(ブラコン)じゃない兄弟はいない 作:炭酸ジャンキー
生きていくうえで最も難しいのは、人間関係だと俺は思う。
友人。恋人。上司。部下。先輩。後輩。親。
そして兄弟。
人間は多くの関係を、様々な関係を、複雑な関係をつくり、築く。
その関係には一定のラインが存在する。
知っていいこと。知ってはいけないこと。
友人はプライベートにはそうそう踏み込まないが、恋人になればある程度共有することになる。さらに関係が進めば、結婚し、家族になり、家庭ができ、ほぼ完全に共有することになる。
共有というよりは、距離の問題だ。
近くなればよく見えるし、遠ければ見えない。どこまで近づけて、どこから踏み入ってはいけないか。
そう、距離の問題だ。
と言うのは早計。早とちりというか、そんな単純な話ではない。そうであれば、人間関係のトラブルで警察が出てくることはない。
近くても、目を逸らしてしまうこともある。近くにいても、いや、いるからこそ、つい目を逸らしてしまうこともあるだろう。
だが俺の場合は、見ていいのかどうか、判断に困る。
そもそも近いのか遠いのか。ラインがあるのかないのか。判断に困るというか区別がつかないというか。
そんなあいまいな距離で、複雑。
そんな関係にあるのが、俺の義理の姉である。
家族であって、そうでない。血のつながりはなくとも家族。他人だが、赤の他人ではない。友人でなければ、恋人でもない。だがそれ以上の関係。
近いのか遠いのか。
そういった関係のせいか、俺はいまだに義姉との距離をつかめていない。接し方は友人。だがプライベートは家族レベル。
別に仲が悪いわけではない。むしろ良好だ。
8年も一緒に過ごしているのだ。当然、互いに裸を見たことがある。今でも、風呂に行けば、ばったり出くわすこともある。それでも動じない。
でも、それでも、やはり義姉とは他人だ。
すでに8年も寝食をともにしているというのに、未だに義姉との関係に困惑している。
のは、きっと俺だけだろう。
いや、俺だけだ。義姉は、あいつはそんな風に思ってないだろう。普通に弟として見ているだろう。いや、それもそうだろう。だが、他人だなんて思ってないだろう。
俺も思いたくない。他人とは言ったが、やはり8年間一緒にいるのだ。そんな風に思いたくない。他人と思っていれば、こんな風に生活できないだろう。なんやかんだ言いながら姉だと認めているのだ。
他人だったら、こんな風にできない。
「じゃあ、今度はこの書類、やっといてー」
生徒会役員でもないのに生徒会の仕事でこき使うやつが、他人と思っているはずがない。むしろ都合のいい弟と思ってそうだ。
「なんか、ごめんね。迷惑だったら、帰っていいんだよ?」
「いいんです、いいんですよ。来なかったら、家でやらされるんですから。」
小山田 翼。
義理の母の連れ子。1つ年上の義姉。同じ高校に通う2年生で生徒会長。文武両道で容姿端麗。成績優秀で、たまに勉強を教えてもらっているので、こういうことを頼まれると断りづらい。ていうか強迫してくる。
高校に入って1か月経とうとしているが、週に3回ほど手伝わされる。始まりは入学式の2日前。書類に不備があるかなんかで義姉に呼び出され学校に。何故義姉がと思いつつ、生徒会長やってるからかと行けば、そんなことはなかった。男手が足りないからと入学式の準備を手伝わされた。新入生なのに。さらに言うなら後片付けも手伝わされた。新入生なのに。
「なんでこんな………………」
「いやほら、もうすぐオリエンテーションで3日間いないじゃない。その分働いてもらわないと」
「そうじゃない。そこではない」
「ああ、帰ってきてからしたかったの」
「違う、それ以前の問題だ! 俺がなんで手伝わなきゃいけないのかってことだ」
「かわいい弟のためよ」
「俺の素晴らしいお姉ちゃん、いえお姉さま。かわいい弟は帰りたいです」
「だめよ」
かわいい弟の頼みを聞いてくれない。
本当にこの義姉は、俺のことをどう思っているのだ。都合よく使われている気がしてならない。
それでも憎めないのは、やはり家族として認めているからだろう。基本的にはいい人だから。こういうところを除けば。こき使われているけれど、帰りにアイスを買ってくれたり、一応それなりに気遣いのようなことはされている。もっとも最初から巻き込まないでほしいが、無理な話だろう。だめよと一蹴される気しかしない。
そういった遠慮のなさから、俺も普段からこんな小難しいことを考えずに済む。
結衣が支えてくれているとしたなら、翼は俺を引っ張ってくれている。不安定な俺が倒れずに済んでいる。2人がいなくなったらどうなるのだろう。そう思うと、妹に対しても義姉に対しても、かなりのシスコンな気がする。
「そろそろ帰りましょうか」
「お、まじか。よっしゃー」
「帰ってからするわ」
絶対手伝わされる。
と愚痴りながらも義姉の気遣いを感じる。長時間働いた分の休憩だ。なんて考えるのは、都合が良すぎるだろうか。
都合よく考えるのは、考えてしまうのは、この距離をごまかしたいからか、それともシスコンの妄想なのか。
どちらにせよ、複雑な関係は変わらない。
近いのか遠いのか。見ていいのか、逸らすべきなのか。踏み込んでいいのか。
だが最近、逸らしてはいけないのではないかと思っている。向き合うべきだと。
「ねえ、これの3巻はどこにあるのかしら」
人の部屋で裸でアイスを食べながら漫画を読む義姉を見て、結衣がああなったのは、こいつのせいではないかと。
最近、割と真面目に考えてる。
大丈夫…………はずです。