私は、あのタヌキ爺さんの言う通りに、ハリー達がいるであろう所の近くに『姿くらまし』を使ってやってきました。
すると、先程の場所と同じようにこの世の物とは思えないような悪臭があたり一面に漂っていました。それに、ハーマイオニーが昼にいた女子トイレのあたりから物凄い破壊音と共に、ハーマイオニーの悲鳴や、ハリーとロンの叫び声が聞こえてきました。
私が杖を構えて警戒しながらその場所へと向かうと、トロールの中でも最も大きく凶暴と言われる山トロールが女子トイレの中でこん棒を振り回しながら暴れていて、その奥でハーマイオニーが恐怖のあまり腰を抜かしていて、そんなハーマイオニーをハリーが助け出そうとして、ロンがどうにかこうにかそんな二人からトロールの注意を引こうと頑張っているようでした。
「サラ!僕がこのトロールは倒すから、サラは危ないから離れて!」
そんな中で私の存在に気づいたハリーが、私に声をかけてくれました。
私としては、ハリーがどのように戦っていくのかを見てみたいのですが、今日はこの後校長室にも行きたいですし、なによりも臭いがきつすぎるので早く終わらせましょう。この悪臭の原因であるトロールがいる所と同じ場所にこれ以上留まるなんて嫌ですからね。
「ハリー、私は大丈夫ですよ。それから、三人とも、少しの間だけでいいので目を閉じておいてもらえますか?」
「え?」
「一体何をするつもりなんだい!」
私が無言でハリーとハーマイオニ、そしてロンがいる場所にそれぞれ念のために保護呪文をかけながら、特にハリーに対してお願いをすると、ハリーは私のお願いにハリーは戸惑っているようでしたが、ロンは私に対して怒鳴ってきました。ハーマイオニーはすでに恐怖から目をつぶっていたようです。
本当ならハリーに対して私は、『失神の呪文』か『目隠しの呪文』を使いたいのですが、ハリーが御父様を倒せた理由が分かっていない今、私がハリーに対して呪文をかければどのようなことが起こるのか分からないので、私はハリーにお願いするしかないのです。
「ハリー、私のお願いを聞いてくれませんか?」
「…うん。分かったよ。」
ハリーは少し考えた後に目を閉じてくれましたが、ロンの説得は無理なようですから、彼の説得は諦めましょう。どのみち、今から使うのは彼が知っているような呪文ではありませんから。
ロンが、トロールではなく私に向かって杖を構えようとしていましたが、それよりも先に私の方が先に動いていました。
(アバダ・ケダブラ!息絶えよ!)
私がそう無言で唱えると、私の杖から緑の閃光が飛び出し、私たちとトロールがいる女子トイレの中は緑色の光で包まれました。そして、狙い通りにトロールの胸に命中するとトロールはあっけなく絶命し、床に倒れていきました。
ロンは私がトロールを一撃で倒したことに驚いたのか、口をポカンと開いているようです。
「ハリーもハーマイオニーも、もう大丈夫ですよ。」
私が壁際で目をつぶっていたハリーと、恐怖に怯えていたハーマイオニーに声をかけると、ふたりとも床に倒れているトロールを見て、安堵と驚きの表情をみせていました。
ですが、僅かになのですが、ハリーの表情は固くなっているように見えました。やはり、今の私の使った呪いが、10年前のハリーの記憶を呼び起こしてしまったのでしょうか。
「ねぇ、これ死んだの?」
「いいえ。これほどまでに大きな音を出していたのですから、すぐにでも先生方が来てくるはずですので、先生方が来るまでの数分間、このトロールには気を失ってもらいました。」
ハーマイオニーの問いに対して、私はこの場で、ハリーの前で本当の事を言うのはまずいと思い、とっさに嘘をつきました。いずれハリーは、ルシウス叔父様達に御父様の後継者として担ぎ出されるか、魔法界の英雄として魔法省や闇払い局に担ぎ出されるのでしょうから、この嘘はどこかの時点でばれてしまうことは確定しているのですが、今の段階ではこれが一番良い答えでしょう。
案の定、ハリーはどこかほっとしたような表情をしていました。
私の予想通り、ドタバタという音と共にマクゴナガル先生とセブルスがすぐに走ってやってきてくれました。二人とも床に倒れているトロールぱっと見てから、私たち四人を見回しました。
マクゴナガル先生の私を見る目が、かなり警戒しているような目に変わっていたので、私はすぐに、セブルスの目を見てタヌキ爺さんとの会話の所からの記憶を彼に伝えました。
「ミス・ゴーント、このトロールは君が倒したのかね?」
「えぇ、そうですよ。スネイプ先生。ドラコ達を送り届けた後、グリフィンドールの寮に戻る途中で、トロールと戦っているハリー達を見かけたので、私も加わりました。」
私がそう言うと、セブルスとマクゴナガル先生の視線がハリーと杖を持ったままのロンへと向きました。その時、うつむいたハリー達を庇うように、ハーマイオニーが小さな声をだしました。
「マクゴナガル先生、聞いてください。二人とも私を探しに来たんです。私がトロールを探しに来たんです。私…私一人でやっつけられると思いました。本で読んでトロールについてはいろんなことを知っていたので…」
ハーマイオニーの恐らく嘘であろう告白に、ロンは杖を取り落としてしまいました。
「もし二人がみつけてくれなかったら、私、いまごろ死んでいました。二人が来てくれて、なんとかトロールから逃げれていたときに、サラが来てくれて。それで、サラに言われた通りに目を閉じたら、サラが私の知らない呪文でトロールを気絶させてくれていました。二人もサラも誰かを呼びにいく時間がなかったんです。」
ハリーとロンの二人はいかにも、そのとおりです、という顔を装っていました。
「まぁ、そういうことでしたら…」
マクゴナガル先生はハーマイオニーとハリー、ロンの三人をじっと見つめた後、私も見つめてきました。
「ミス・グレンジャー、なんて愚かしいことを。グリフィンドールから5点の減点です。あなたには失望しました。三人とも怪我がないのならグリフィンドールの寮に戻りなさい。生徒達が、さっき中断したパーティの続きをやっています。」
しばらくマクゴナガル先生は考えた後、グリフィンドールから減点を行い、ハリー達三人に寮に戻るように言いました。おそらく、私はマクゴナガル先生にトロールを倒した呪文のことについて、お話があるのでしょう。
「マクゴナガル先生、あの、サラは?」
「ポッター、安心なさい。ミス・ゴーントとは少しお話があるので、先に戻っていなさい。」
ハリーが私の心配をしてくれたようで、マクゴナガル先生に私がなぜ帰れないのか聞いてくれました。マクゴナガル先生の答えはどうやら、私の予想していた答えと一緒のようでした。ハリーはロンに手を引かれて渋々といったように女子トイレから出ていきました。
女子トイレに残ったのは、私とセブルスと、マクゴナガル先生の三人と、部屋の真ん中で絶命しながらも、悪臭を放ち続けているトロールだけになりました。早く部屋から出たいと思っていたところ、セブルスが機転を利かせてくれたので、話をするのは校長室となりました。
「おお、サラ。先程ぶりじゃの、そこにお座り。」
私たち三人が校長室の中に入ると、中では不死鳥とおぼしき鳥を撫でながら座っている、タヌキ爺さんがいました。マクゴナガル先生から一通りの説明を受けると、タヌキ爺さんは穏やかな表情で、マクゴナガル先生とセブルスに帰るようにと伝えました。
「さて、サラ。何か聞きたいことがあるのじゃったな?」
タヌキ爺さんは、私に何も注意を与えずに、二人が出ていくとすぐに質問をしてきました。
「ダンブルドア先生?あなたは私に何も注意をしないのですか?『アバダ・ケダブラ』を使ったことについて。」
「君が他の人を傷つけぬ限り、わしはなにも言わんよ。強いて言うのであれば、ハリーの前ではあの呪文を使うのは避けれるときは避けてほしい、という事ぐらいじゃよ。」
「そうですか。では、私のダンブルドア先生への質問なのですが、自分の死後に自分の魂の痕跡を残す魔法がある事は、この前ニックに聞いたので知っていますが、その他にも何か魂に影響を与える魔法は有るのでしょうか?」
私がそう聞くと、タヌキ爺さんの顔に一瞬でしたが、動揺したかのような変化が起こりました。恐らくですが、きっとそのような魔法は存在しているのでしょう。
そして、それはきっと闇の魔術に関する魔法なのでしょうね。
「サラ、なぜそのような事を聞くのかね?」
「ドラコ達といた時に遭遇したトロールから出てきた、白い物体についての私の予想です。あの白い物体はゴーストに似ていましたが、ゴーストよりも形がはっきりとしていませんでした。ならば、ゴーストに近い存在、魂になにか細工をした存在であるということなのでしょう。それから、あのトロールはトロールにしては強すぎましたから、あの白い物体がトロールに何らかの影響を与えていたのでしょう。そうだとすれば、あのトロールから白い物体が分かれた時にトロールが力尽きたのも、エネルギーを吸いとられていたということで説明できます。」
私が私の考えを説明すると、タヌキ爺さんは少しため息をついてから、しばらく目を閉じてしまいました。
もし、私の考えがあっているのであれば、もしかしたら、あの白い物体の正体は…
「見事じゃ。わしも、あの白い物体については同じようなものじゃろうと思っておる。確かにサラ、君の言う通り魂に細工を行う魔法は、過去において使った者はほとんどおらぬが存在しておる。」
タヌキ爺さんはその後、ゆっくりと話始めました。
「ダンブルドア先生、その魔法について詳しく教えていただけませんか?もちろん、学術的な事について。」
「サラ、すまぬのう。じゃが、わしは君にこの魔法を教えるつもりはないのでの。」
私のお願いはものの見事に断られました。タヌキ爺さんからは、一歩も引くきはないというような雰囲気が出ています。
まぁ、今日はその手の魔法が有るということが分かっただけでも、良しとしましょうか。
「そうですか。では、私の用事も終わったのでそろそろ帰ってもよろしいですか?」
「良いとも。ハリー達も君の事を待っておろうからの。おやすみ、サラ。」
「おやすみなさい、ダンブルドア先生。」
私がグリフィンドール寮に戻ると、寮の入り口の前で、ハリーとロンがハーマイオニーと共に私を待っていてくれていました。
「サラ!」
「ハリー、わざわざ待っていてくれたんですか?けっこう長く待っていたのでは?」
「ううん、そんなことないよ。それよりも、さっきはありがとう。助かったよ。一人であんな大きなトロールを倒せるなんて、サラって本当にすごいね!」
ハリーは私をべた褒めしてくれました。
「そんなに誉めてくれるなんて、とっても嬉しいですよ。ありがとうございます、ハリー。」
私がそう言うと、ハリーの顔は真っ赤になってしまいました。
真っ赤になってしまったハリーから視線をずらすと、そこにはだいぶ顔色のよくなっているハーマイオニーと、複雑そうな表情のロンがいました。
「あの、サラ?さっきはありがとう。それで、貴女にお願いしたいことがあるんだけどいいかしら?」
まずはハーマイオニーから声をかけられました。
「なんでしょうか?」
「…ホグワーツ特急での事覚えてるかしら?」
「えぇ、覚えていますよ。恐らく、一生忘れることもないでしょうね。私にとって初めての他の人から拒絶された出来事ですから。」
「えっ!? …貴女、今まで本当に一体どんな生活を送ってきたのよ!?」
私の答えに、ハーマイオニーが驚きの声をあげて、ロンの私を見る目がまた一段と微妙な感じになってしまいました。
「そんなことはともかく、どうしたのですか?」
「そうね。まずは、あのときの事はごめんなさい。それで、もし貴女さえよければ、私に色々と教えてくれないかしら?」
ハーマイオニーはどこか申し訳なさそうに、言いづらそうにお願いしてきました。
「もちろん、良いですよ。その代わり条件が有りますけど、それで良いでしょうか?」
「何かしら?」
私がそう切り出すと、ハーマイオニーは緊張した面持ちになりました。
「どんなときも私と対等に話すこと、ですよ。」
私がそう答えると、ハーマイオニーは若干拍子抜けしたかのようなリアクションをとりました。
「え!?本当にそれだけなの?」
「えぇ、それだけですよ。守ってくれますか?」
「えぇ、もちろん。」
これが、私にとって初めての、私と対等な『友達』の誕生でした。
闇の帝王とその最強の副官の娘の初めての『友達』が『マグル生まれ』とはおかしなことですが、御父様や御母様が戻っていらっしゃった時には、ハーマイオニーだけは彼女の優秀さをアピールすることによって、特別扱いしてもらえるよう頑張りましょう。
ハーマイオニーに何故か抱きつかれたあと、ロンが私に向かって小さな声で「ありがとう」と言ってくれました。
その後、私はハリーに連れられてハロウィンパーティを楽しみました。最後はハリーが疲れが来ていたのかふらついていたので、ロンに送ってもらいました。
その頃…
ホグワーツの一室では、苦痛に身を悶える一人の男と、そのそばに開けられた状態の、緑色の宝石がS型に埋め込まれている金のロケットと、中に入れられていた一枚の紙が転がっていた…