第四クトゥルフ神話『名前に癖のある探索者達の観光バス』 作:カロライナ
クリスティーナは、セダン車に集まりつつある深きものに気付くことなく、救助が来るのを、まだかまだかと瞳を閉じながら待っていた。もう日本人の悲鳴は聞こえない。辺りに漂うのは、人ざる者の足音と、鉄の生臭い香り、磯の香の3種類のみとなっていた。
唐突に、ロジーナの内ポケットにある携帯がバイブレーションを始め、クリスティーナは驚いたように身体を1回跳ね上げると、バイブ音が聞こえるロジーナの身体を見た。
ロジーナの意識は戻っていなかったものの、確かに内ポケットからバイブが響いているのは目を凝らさなくても見ることができた。すぐさま、クリスティーナはポケットから携帯を取り出し藁にもすがるような思いで日本語とロシア語を混ぜながら、電話に出た。
「Дa・・・! クリスティーナです!!」
「クリスティーナさん?! 俺だ! 家守 源だ!! 今、何処にいる?! 東京湾アクアラインのトンネル内か!?」
「ぇぇ・・・恐らく、そうですわ。家守さん達は今どちらに・・・。」
「俺達も今東京湾アクアラインのトンネル内に居る! 近くに目標物になるものはないか!? 今から迎えに行く!!!」
電話の向こう側から聞こえてきたのは、ロジーナが興味を持った家守の声だった。電話の外では走っているのか、息を切らせる音と数人の足音が聞こえて来ていた。そして息を荒げながらも、迎えに行くと言った家守の声はとても、力強く、とても勇気と希望が与えられたような気持ちになるような気がした。
「も、目標物ですわね。ちょっと、お待ちを・・・。」
「あ、後!!」
重い体を引きずるようにしながら、割れたガラス片で更に怪我を負わないように配慮しながら、携帯電話片手に横転したセダンの窓の隙間から外の様子を伺おうとした時、家守の付け足すような言葉に覗く行為を一歩踏みとどまる。
「はい。なんでしょうか?」
「絶対に車の外に出るなよ! 外にはなんて言ったらいいか分からないが、とてつもなく変な奴等が居る!! そいつらは攻撃的でクリスティーナさんにも危害を加えようとして来るかもしれない!」
「・・・わかりました。ロジーナ共々、車の外には出ないように致しますわ。」
クリスティーナは家守が言っていることを直感的に、瞳を閉じて救助を待とうとするまでに見た、水掻きが付いている足を思い出した。そして車から頭を出して、周囲の様子を伺うことを取りやめた。代わりに自動車の中から何か見えるものはないかと、クリスティーナは目を凝らす。
目星
クリスティーナ70→86【失敗】
そしてクリスティーナは見てしまう。捜索の何か手がかりになる目標物の代わりに、クリスティーナが閉じ込められた横転セダン車の周りに数十人もの深きものが取り囲んでいる姿を。
【深きものを目視SANチェック1/1D6】
クリスティーナ70→10【成功】
「・・・・・・ぁぁ。」
絶体絶命の状況にクリスティーナは怯えたように声を漏らした。携帯電話からは、家守の元気な声が聞こえるがクリスティーナはどこか、遠くの別の空間に一人取り残されたように気が遠くなっていた。取り乱したりはしないものの、完全に放心状態と言った方が伝わりやすいだろう。狭い車内に鎮座し、隣には気絶したロジーナが転がっている。クリスティーナは花火による砲撃や、ショットガンを使った攻撃は得意であったものの、流石に拳銃やサブマシンガンを扱えるほど、銃器に長けている訳ではなかった。
「おい、クリスティーナ!? クリ・・・・え? 代われって、わ、わかった! 俺は青大と一緒に高台を探して、下を見降ろせる場所に登ればいいんだな!!」
「・・・・・・・。」
「・・クリスティーナさん聞こえる? 足高よ。なんとなくだけど今のクリスティーナさんの気持ちわかる気がするわ。非常に怖い状況に陥っているのよね。でも安心して。私達がすぐに迎えに行くから。分かる範囲で良いの。乗っている車の車種や、特徴、色、状態でも構わないわ。たとえば・・・そうね、横転や、進行方向と逆向きを向いているだとか。・・・簡単なことで良いから何か情報を・・・・。」
携帯が家守から足高に代わり、熱血的な声とうってかわって非常に冷静で落ち着くような声がクリスティーナの脳内を駆け巡った。その透き通るような綺麗な声は、放心状態であるクリスティーナの気持ちを和らげ、苦しみながらも意識を現実に引き戻してくれた。また家守の様に何度も、同じことを尋ねるのではなく、少し間を置くことや、不安を和らげるような気遣いの言葉を発し、なるべく落ち着かせるような口調であった。
「黒色の・・・・セダン車・・・・・・。」
「そうよ。ゆっくりでいいの。泣かなくても大丈夫よ。必ず迎えに行くから。」
「横転していて・・・扉が開きませんの。」
「それは扉の前に何かがあって塞がれた結果、開かないのかしら?」
「いえ、横転した時に拉げてしまったみたいで・・・。」
クリスティーナは足高の問いに震える様な声で、応答する。震え声を察知した足高は冷静かつ優しい口調で宥める。クリスティーナは肩を時々、ぴくんぴくんと震わせながら、ゆっくりとしかし確実に足高に情報を伝えて行く。足高は、その情報をクリスティーナには聞こえないようにマイク部分に手を当て、現在バスの上に登って周囲を見渡している家守と、同じくバスの上で、怪物がこちらに接近して来ていないかどうか索敵をしている青大に向けて、クリスティーナから聞いた情報をそのまま伝える。
「横転・・・。怪我はどう? 頭を切ってしまったり、足にガラスが刺さって痛みで動けないとかあるかしら。」
「ちょっと脇を・・・・ガラスで切ってしまいましたの・・・・あと、ロジーナが・・・ロジーナが・・・。」
「・・・・・・ロジーナさんが・・・?」
「わたくしを庇って、大怪我を・・・。」
「・・・意識はどう?」
「ないですの・・・・ピクリとも動かなくて・・・・呼吸はしているのですが・・。」
足高は意識がないと聞いた瞬間、生唾を飲み込む。たしか、海ほたるでロジーナと射撃対決をしていた時、3人より明らかに流石ロシア人と言ったところか一回り大きい姿を覚えていたからだった。仮に力持ちの家守でも持ち上げることができることができるのかと不安になる。その時は、2人がかりで持てば持ち運ぶことは容易にはなるだろうが、クリスティーナがもしも歩けなかった場合、それを背負わなければならなくなる。するとどうだろうか、化物と遭遇した時、戦える要因が誰一人としていなくなってしまうのだ。
しかし、だからと言って足高も簡単に見捨てる様な真似はしたくなかった。避難経路の奥地で助けることができなかった少女の様に、目の前で無残に人が散るのはもう見たくない。
「・・・わかったわ。ありがとう。」
「あと・・・・。」
「ん?」
「車の・・・・・外に・・・・・・・。」
「外に・・・?」
「化物が・・・・化物が・・・・周囲を取り囲んでいますの・・・。」
「・・・・・ッ!!!」
クリスティーナの言葉に足高は大きく目を見開く。あの不気味な化物が自動車を取り囲んでいる。それはクリスティーナが明確な数を伝えなくても、どれだけの怪物が周囲を囲んでいるのか容易に想像することができた。
「・・・・辛いのに教えてくれて、本当にありがとう。携帯はこのまま繋いでおくから、安心して頂戴。」
「・・・・・はい・・・・。」
「クリスティーナさんも、なるべく車内の中心にいるようにね。また後で。」
クリスティーナの携帯電話から足高の声が消える。そして少しの間、バッグのような物に仕舞われるような音がした後、遠くながらにも足高の声が聞こえてくる。なんと言っているのかまでは、聞き取れなかったが少なくとも指示をしている様子だけは窺えた。
【後書き】
長女が大惨事になったことによりうちの探索者の狂信者組が、
かなり、あらぶっているような気がしますがきっと気のせいでしょう。
狂信者プレイって面白いですよね。でも気を付けないと味方同士で殺し合いはじめかねないので
扱いには注意が必要です。
今のところ狂信者プレイした内容は、百合狂信者。極右活動家。女騎士狂信者。
這ううどん教狂信者。柑橘系狂信者。アトラック=ナチャ狂信者。
ポテトチップス狂信者などなど・・・・。
正直、一番つらかった探索者は百合+極右の両方を兼ね備えた狂信者がきつかったです。