今まで戦車道に携わって来たがこんなのは初めてだ。なぜなら
「ですから、黒森峰女学院の副隊長霧島エリが戦車から転落し、大怪我をおっています!今すぐ確認してください!」
「ですから、黒森峰女学院側よりそのような報告はありません。それに医務室からもけが人の報告はありません」
「ですが、「そもそも」」
「貴女はプラウダ高の生徒です。黒森峰の生徒は何も言っていませんが・・・」
「そんなはずは!!」
そして私は横に居た黒森峰女学院の生徒に尋ねた。
「けが人はいましたか?」
そして
「我が校にけが人は発生していません」
プラウダ高のノンナ選手は呆然としていた。
「黒森峰高の生徒がそう申しているので・・・」
私はもう10年この回収車の仕事をしている。その間このような事例はなかった。大怪我は確かにあった。戦車からの転落、破片が飛散した際に怪我をした等は今までいくつも見て来た。しかし今の状況は初めてだった。とりあえず両校の生徒を回収車に誘導した。
この時もう少し状況をノンナ選手から聞いていれば良かったと後々私は後悔することになる。
両校の生徒を規定の場所に送るため回収車で向かっていた。大雨で視界が悪く、路面も悪くハンドルが取られる。さっきから本部へ無線が通じるか確認しているが不通だ。そんな時
「すみません!!止まって下さい。エンジンも停止してください!!」
突然ノンナ選手が大声で私にそう指示した。何を言っているんだ!私は反論しようとしたが、彼女の表情から何か重大な事が起こったのかとの指示に従った。しかしそうではなかった。彼女は大雨が降っている外で立ち、その側で立っているプラウダ高の生徒と何かを話している。私は声を上げて戻ってくるように言おうとした時、ノンナ選手は走り出した。
私も後を追いかけようとしたが、持ち場を離れるわけにも行かなかった。しかし選手に何かあれば責任は私にくる。両校の選手に回収車より降りないように指示をし、私もノンナ選手の後を追った。
そしてそこには、雨の中霧島選手を抱えているノンナ選手が居た。
私は急いで彼女たちを収容し、初めて関係者のルールを破った。回収車は規定の速度未満で走行しければならないが、それを超過する速度で大会本部に向かった。規定の待機所では話にならない。車は大きく揺れる。その揺れで彼女も揺れているだろう。
本部に到着し事の次第を説明した。そして回収車に乗っていた生徒からも事情を聞き、あの時ノンナ選手だけではなく他の選手からも事情を聞けばよかったと後悔した。
霧島選手は「重体」と聞かされた。医療の世界では「重症」は命に別状はない。しかし「重体」は違う。いつ死んでもおかしくない状態を指す。関係者の間では今後の対応をどうするか試合中にもかかわらず協議が始まった。あきれたものだ。一人の選手より自分たちの保身のほうが大事とはね。
その後試合終了数十分後に黒森峰の隊長、副隊長、副隊長補佐が本部に走りこんで来た。そして事の次第を説明したが、納得できなかったのか、ノンナ選手に詰め寄るものも居た。しかし彼女は何も話さなかった。暴力沙汰になりかけたため警備の者が対応した。
今回の事件は後に戦車道始まって以来の惨事とも言われた。そして現在の戦車道関係者のクビが幾つか飛ぶことにもなった。
翌日の朝刊
「戦車道始まって以来の大惨事!!!」
「関係者による隠蔽工作の実態!!」
「戦車道の安全基準の見直しが必要か!」
各新聞社の朝刊一面は昨日の決勝戦の記事で埋め尽くされていた。朝から上司は今回のことで走りまわっているだろう。私は自宅待機を命じられた。霧島選手は一命を取り留めたものの、未だ意識は戻っていないそうだ。
数週間後
決勝戦で自身の保持のために隠蔽工作を行った関係者十数名は首となり、裁判沙汰にまでなった。これを機に今まで甘い汁を啜っていた人間も
粛清の対象となり、腐った枝は次々に切り落とされていった。そして私は首にはならなかったが、最初の対応に多少の落ち度はあった判断され、減給4ヶ月となった。
しかし霧島選手は未だ意識が戻らない。彼女の遺書が黒森峰の寮から見付かり
「自分の意識が1ヶ月間戻らない場合、以降延命処置を希望しない」と書かれていた。そして明日が丁度彼女が意識を失ってちょうど一ヶ月だ。
次話より物語を進めていきます。