エキシビションマッチ
優勝高黒森峰VS各校連合 30両 フラッグ戦
「これ何?」
「まぁ明らかに嫌がらせね」
「要約すると、各校の隊長全員と戦えと?」
「そうね」
「私が入院中に決まった?」
「正確には今日、通達があったわ」
「エリカも今日知ったと?」
「勿論よ」
「その割には冷静ね?」
「私がアタフタしたところで状況は変わらないわ。逆にこちらが騒ぐと」
「騒ぐと?」
「弱者みたいじゃない?」
そう言ってエリカは私に振り向いた。その顔は自信に満ちた笑顔だった。
「いい顔をするようになったわね」
俺は以前より考えていた計画を実行する事にした。
「各員傾注!!」
全員の視線が俺に向く。
「聞いていると思うが、戦車道連盟と言うか各校が我が高に対し、挑戦状を叩きつけてきた。内容はこうだ。我々相手に一校では勝てない。だから各校の隊長で構成した連合軍で黒森峰をボコボコにする。そういう内容だ」
「遊びでも勝ちたいと?」
直下が質問してくる。
「そういう事だ。しかし考えてみてくれ?これはいい練習になる」
「練習ですか?」
今度は赤星だ。
「来年度からも引き続き隊長、副隊長、小隊長などの変更はない。今まで通りになる予定だ。しかし重要な仕事もある」
「育成ですね」
赤星は優秀でいい。
「その通りだ。今後の黒森峰を率いていく人材の育成は必須だ。そこで隊長、副隊長、小隊長候補をこちらで絞らせてもらった。これは3年の先輩の意見も入っているので安心してくれ。私の独断ではない」
「勿論家元も了承済みよ」
ナイスエリカ。
「しかし候補生は不安で仕方ない。何が仕方ないか分かるか?・・・直下」
「はい。自分が指名された役割をこなせるか?という不安でしょうか?」
「0点」
「・・・」
「赤星」
「・・・」
「わからないか?」
「はい」
「それはな?自分を指導する上司が有能か無能どちらなのか。って事が一番の不安だ。勿論今の黒森峰のそれも車長クラス以上に無能がいる事はあり得ない。しかし万が一、万が一居る可能性が示唆される。だから今回のエキシビションでその無能を間引くのと候補生及び後輩に評価してもらうのさ。これから先自分達を指導する人間は、今のままでいいのかを」
「そういう訳だから各員エキシビションと言っても気を抜かないように」
エリカ?私は忘れていないよ?※(第27話「敗走」参照)
今ここで恨みを晴らす。
「それと今回副隊長の逸見に作戦の立案及び指揮を取ってもらう」
「な!!」
「副隊長として隊長に代わり、連合軍に勝利してもらいます」
「・・・」
「無理ですか?」
「無理じゃないわ。ただ」
「ただ?」
「予想通りの展開になっただけよ?」
「なるほど。という事は作戦も?」
「ある程度は出来てるわ。あとは煮詰めていくだけよ」
「それはいい。是非このけが人の変わりに黒森峰に勝利を齎してください」
「ええ」
エリカが予想以上に成長している事に俺は驚きを隠せない。しかしある程度不安はある。エリカは確かに優秀だ。過去に練習試合とは言えダージリン率いる聖グロに勝利している。だが今回はダージリン、ケイ、ミカ、カチューシャに加えみほが相手となる。対応策は確かにある。もし俺がエリカの立場であるなら、まずその案を使う。勿論エリカも使うと思うが、如何せんリスクが大きい。ミスれば此方の負けがほぼ確定になってしまう。
エリカ
勿論予想はしていたわ。事前にエリから言われていないけれども、私が今回の試合を任されることを。ある程度こういう場合にどうすれば良いかは今までの経験上分かっている。要は各高校の隊長に我が高の小隊長クラスの人間を当てればいい。
例えば
ケイには直下
ダージリンには赤星
継続とアンツィオには赤木
と言った感じに当てればいい。しかしこれには情報が不確定だ。何せ戦車同連盟からは、どこの高校が参加するか発表されていない。これでは誰を誰に当てるかの決定が出来ない。しかしこの問題は簡単に解決できる。
「でもこれは・・・」
「エリカさん」
「小梅・・・これはきついわ」
「確かに。不確定な情報に対して策を練るよりかは簡単ですが・・・」
小梅と今作戦を整理しているけど・・・流石に厳しい。
「何処が参加してもいいように、全てのパターンで作戦を決めておく・・・そんなの無理よ」
「しかしエリカさんの作戦を起用するのであれば・・・」
「そうね。小梅?今一番参加を表明する高校といえば?」
「間違いなく聖グロ、サンダース、プラウダですかね?」
「どうして?」
「まず聖グロは間違いないと思います。エリ隊長が相手の隊長のプライドをズタズタにしましたから、それのあだ討ちでしょうか。プラウダですが、あの小さな暴君の性格上参加の確率は高いでしょう」
「サンダースは?」
「サンダースは申し訳ありません、今考えると可能性が低いかもしれません。ケイ隊長はフェアプレーを好みますので、今回のようなアンチ黒森峰のような試合には参加するかどうか怪しいです。但しお祭り好きなので参加するかもしれません。フィフティ・フィフティです」
「車両は30両。この3高だけならある程度対策は簡単ね。でもアンツィオ、継続、知波単が来る場合もあり得る」
「継続は来ると思います。今回の大会で相手の隊長とエリ隊長なにか言い合ってましたし」
「以外ね。継続の隊長にケンカ売るなんて」
「アンツィオは無いですね。財政難ですから、知波単・・・・来ても問題ないかと」
「聖グロ、プラウダ、継続、知波単、サンダース・・・じゃあもっとも参加表明の可能性のある高校から対策をしましょう。小梅、あなたはダージリンの相手よ。私はカチューシャとケイね」
「なら残りは直下さんに赤木さん?」
「ダメよ。継続相手にその2人は少し難しいわ。継続には赤木に水樹の2人を当てるわ」
「継続をかなり警戒してますね?」
「あの隊長、なんだか胡散臭いの。何か隠してるみたいで」
そして話は進んでいき、試合開始10日前に出場高が発表された。
プラウダ(5両)、聖グロ(4両)、サンダース(6両)、継続(1両)、知波単(6両)そして大洗女子学園(8両)の6高となった。即時エリカに伝えられ、最初は言葉を発しなかったエリカだったが、すぐに作戦を修正し、隊長であるエリに作戦書を提出した。
「エリカ?」
「何?」
「この作戦で問題ないが、タイミングが大事だぞ?」
「ええ、それに関しては通信士の隊員が鍵となるけど、大丈夫よ」
「OK」
「エリ?」
「ん?」
「一つ教えて欲しいの?」
「何を?」
「勝つにはどうすればいい?」
「一番簡単なのは、自分を追い詰める事だ。これに勝たないと自分は死ぬ。もうここには居られない。死ななくても殺される。自分を追い込む。勿論これにはリスクを伴う。イザと言うとき周りが見えなくなる。そんな時は優秀な副官にでも殴ってもらう」
「エリは誰に殴ってもらってるの?」
「誰にも見られないように自分で自分を殴っています。本当に周りが見えなくなる前に。戦車に頭打ちつけるとある程度痛いですよ?」
「なるほどね」
「エリカ?自信を持てとはいいません。自信を持つほど失敗しやすいですからね。だからイメージしなさい。常に強者でいる自分の姿を」
そして試合当日となった。