繰り返される特異点F 【一発ネタ】   作:楯樰

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前半と後半の落差が激しいのでご注意。



戦いの末に

 ―――『やり直し』

 

 マスター適性と中の上程度の魔力を生み出せる魔術回路しかもたない自分の唯一無二の能力。この能力が発覚したのはカルデアに来てからで、誰も自分のこの能力を知る者はいない。

 

 しかし、この『やり直し』も限定的で、ある一定の時間にしか戻れない。丁度カルデアに来た時行った、霊子ダイブを行う直前にしか戻ることが出来ない。

 

 戻ろうと思えばその時間に戻れる。だが戻ったら最後『某ふっかつの呪文』ではないが、戻る直前に頭に浮かぶ無意味な文字の羅列を一文字も間違えずに思い出す必要がある。だから実際には戻れないと思って良い。それ以外にデメリットらしきものはない。

 

 ………強いて言うならマシュや呼び出した英霊たちとの経験や記憶が、彼らから失われるということぐらいだろう。初めて感じたあの孤独感に慣れることはない。

 

 何回やり直したかはわからないが、もう数えるのが馬鹿らしくなってきている。その度に関係を再構築しようと思い、試みてきたがそれも既に事務的だった。何が起因でやり直しが出来るようになったのかはわからない。けれど、やり直せるというのなら目的が果たされるまでやり直す。

 

 “いや―――いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!”

 

 今も目を閉じれば思い出せる。悪人ではあるけど、どこか憎めないあの人を。

 

 “だってまだ褒められてない……! 誰も私を認めてくれていないじゃない……!”

 

 誰かに認めてもらいたかった。そんな誰もが持つ欲求が人一倍強いあの人を。

 

 “誰も私を評価してくれなかった! みんな私を嫌っていた!”

 

 死の間際、秘めた想い(欲求)を吐露したあの人を。

 

 “やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……! だってまだ何もしていない!”

 

 “生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに―――!”

 

 カルデアスに飲み込まれたオルガマリー所長を助けてあげたいと思った。傲慢にも願ってしまった。だからやり直しなんて出来るようになったのだろう。真相はどうあれ、自分はそう思っている。

 

 彼女は自分を良く知らない。だけど、何度も何度も何度もやり直して、彼女の人となりは本人も知らないくらい知っている。可愛い人なのだ。愛されたい人なのだ。だから、彼女が欲したように頭を撫でつつ認めてあげたい。よくやっているし、頑張ってる。だから所長を救いたい。もっと直接的に言うなら甘やかしてあげたい。嫌と言うほど愛してあげたい。

 

 そのエゴのために彼女を救う。そしてそれには強力なサーヴァントを呼ぶ必要がある。でなければあの裏切り者レフ・ライノールから所長を守れない。一度だけカルデアスの中に飲み込まれかけた所長を救えたのは源頼光という日本の神秘殺しを呼べた時だ。彼女の宝具で、ようやっと醜く変わったレフを屠れた。しかし倒したという油断が災いして所長を連れて帰ることができなかった。

 

 霊基の強化方法は三回目のやり直しの時に聞いたがサーヴァントを強化している時間はない。バーサーカーの彼女でなければ、火力が足りない。

 

 今までやり直して分かったことは、所長が肉体的に死んでしまうのはどうやっても避けられないこと。肉体が無いのにどうすればカルデアまで連れて帰れるのかを考えなければならなかったが、しかし、これについては解決している。聖杯を使う。聖晶石を霊体の所長に使って霊基を安定させ、疑似的なパスをつなぐ。考えれば方法はまだまだあるだろうが、実際に試して成功したのはこの二つ。次は両方の手段を使う。今度は失敗しないために。

 

 

 

 ―――こうして今一度源頼光を呼ぶことができた。今度こそ救うために、聖晶石はしっかり用意して所長には、先ほどの召喚10回の聖晶石のお返し、と言って渡してある。後はレフから聖杯を奪って願いを叶えるだけだ。

 

 令呪をもって宝具の使用を頼光に命じる事三回。端的に頼光の宝具によってつつがなくレフは倒された。しかし生きしぶとく、あの肉柱となる前に逃がしてしまったのが悔やまれる。後は聖杯を使って『オルガマリー・アニムスフィアをデミ・サーヴァントにする』という願いを叶えれば永く辛かった戦いが終わる。もう奴を追う気力は残っていない。

 

 そう、コフィン無しで行うレイシフトの意味消失に耐えて、後はカルデアに帰るだけ。

 

 ………本当に、永かった。

 

 

 

 ―――レイシフトで意識が飛び、目が覚めると見慣れた一室。部屋には自分以外に目元に隈を作った所長とマシュが座って居た。

 

 ようやく終わったのだと、怒鳴る所長とそれを諫めるマシュに実感し、天を仰いだ。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

「精神、霊基共に異常なしだ! にしてもこの天才ダ・ヴィンチちゃんをもってして、この発想は無かったと言おう。理瀬くん、私は感服した!」

 

 くぅうーと、悔しがるのかそれともテンションが上がっているのか分からない。正確には両方なのだろう。己が愛するモナリザの姿で顕界したレオナルド・ダ・ヴィンチは、レイシフトから帰って来て再び眠りについた、特異点修復の立役者を称賛し、今まで体を調べていたオルガマリー・アニムスフィアを解放した。

 

「………私の今の状況、説明して貰えるかしら」

 

「簡単に言うとマシュと同じ、と言えばわかりやすいかな? ただし所長の場合、英霊と融合したというわけではない。聖杯の後押しを受けて、サーヴァントになった。だから、その体のスペックは生前の時と変わりない」

 

 ただ、と言い淀みオルガマリーの様子をうかがった。

 

「続けて」

 

「じゃあ覚悟して聞くといい。聖晶石を核に君の霊基は出来ている。他のサーヴァントと同じようにね。これはおさらいだけど、サーヴァントは英霊をクラスに当てはめた使い魔だ。そのスペックは人間の存在と比べたら天と地の差がある。だからこそ、貴重な聖晶石を4つも使うのだし、4つでようやっと顕界を維持できる。まあ、これにはサーヴァントの再召喚の触媒となるカードを作るという用途もあるから、一概に全部使っているとはいえないが………それでも90%近くのリソースは英霊の霊基の安定と固定に使っている」

 

「………」

 

 言外にそんなことは知っている、とオルガマリーは催促した。だがダ・ヴィンチはその刺すような視線を無視して続ける。

 

「対して所長、君はただの精神体だ。―――俗にいう幽霊のような状態だった君は他の英霊と比べても雑魚だ! 貧弱だ! 見た目は子どもで頭脳は大人の作家的に言えば、クソの役にも立たない!」

 

「ちょっと、ダ・ヴィンチちゃん! 所長が!」

 

 ここの技術部顧問ということもあり、その愉快かつ、それでいて嘘はつかない性格は知っている。ダ・ヴィンチに事実を突きつけられてオルガマリーは目に見えて落ち込んだ。付き添いで来ていたマシュは「しっかりしてください」とふらつく所長を支える。

 

「だから、使われた5個弱の聖晶石のリソースは弱っちい霊基の作成及び触媒になるカードの作成にしか使われていない。つまり君には膨大な空き容量があるということだ。………うん、実際にやってみた方が早いだろう。カーミラ、入って来てくれたまえ」

 

 ダ・ヴィンチの工房の入り口から入ってきたのはカーミラだ。

 

「まったく、私を待たせるなんて。―――万能の天才さん、幾ら美処女の身体を調べるとはいえ、時間をかけ過ぎではなくて?」

 

「うーん? 今何かおかしな言葉が聞こえた気がするんだけど、気のせいかな」

 

「ええ、気にしないで」

 

 カーミラに顎を撫でられたオルガマリーは小さく悲鳴を上げ、肩をすくませる。色々と身の危険を感じた。

 

「それで、例の物は持ってきているかい?」

 

「………あまり乱暴に扱わないでちょうだいね。ただでさえマスターから拝借してきたモノだから」

 

 カーミラからダ・ヴィンチに手渡されたそれは、裏面にアサシンの絵柄の書かれたカード。表面にはカーミラが描かれている。それは再召喚の触媒となるカードだった。

 

「わかっているさ。さ、所長。これを持って」

 

「え?」

 

「ささ、いいから持って」

 

「なんで………わかったわよ。持てばいいんでしょう」

 

 先ほどのやり取りから、何故急にそんな大事な物を渡されるということがわからない。理解できない。加えて、よくわからない迫力を感じてオルガマリーは逆らうことが出来なかった。

 

「さ、私に続いて言葉に出してみよう! 夢幻召喚(インストール)!」

 

「………インストール?」

 

 訳もわからず、オルガマリーは呟くと自称『ダ・ヴィンチちゃんの素敵な工房』は彼女から発せられた光に包まれて、咄嗟に眼鏡をかけたダ・ヴィンチ以外が一瞬視界を失う。

 

「………まあ。これはまた凄いのね」

 

「持って帰った聖杯ともパスが繋がってると思って、調べてみたら元人間にはあるまじき、サーヴァントとしての能力の魔力量は規格外。いやはや、凄まじい。比べてみたらよくわかるが、本物とも遜色ない。これならサーヴァントとしてもやっていけるだろうね」

 

「所長、ですよね………?」

 

「霊基の安定だけなら聖晶石を使うだけでよかった。でもそこへ聖杯を使って、デミ・サーヴァントにしたらこうなったんだろう。本当、奇跡というのはこのことだろう」

 

「え、なに、どうなってるの?」

 

 オルガマリーをのぞいたこの場にいる全員は何が起こったのかを理解したが、変化した本人はわかっていない。理解させるためにと、ダ・ヴィンチはどこからともなく姿見を出してオルガマリーの前に置いた。

 

「………。―――ひゃああああああああああああ!」

 

 そこに映ったのは自分の着ていた服は消えて目の前のアサシン―――カーミラと同じ衣装に身を包んだ己の姿。思わず、着ている本人の前で、体を隠して悲鳴を上げたオルガマリーを責められる者はいないだろう。俗にいうSM女王的なハイレグを付けた自分の姿なんて想像もしてなかった。

 

「ちょっと! どうなってるのよ、これ! なんで私がこんな格好―――」

 

「こんな格好?」

 

「ひっ―――なんでもないです! ………ぅぅぅぅ!」

 

 相手は格上の存在。びびりでヘタレのオルガマリーはそれ以上の文句を言えなかった。うずくまり口からは羞恥が漏れ出る。

 

 

 

「―――悲鳴が聞こえた、んだ、けど………」

 

 南無三! 何と間の悪い事であろうか! 読者の皆さんしか知り得ないことだが、やってきた男は所長大好き理瀬である!

 

 そんな彼が今のオルガマリーを見ればどうなるかは想像するに容易い!

 

「サイコーです!」

 

「い、いやああああああああああああ!」

 

 オルガマリーは背後にあったカーミラの宝具である『幻想の鉄処女』を投げつける。サムズアップした理瀬は鼻血を噴き出して工房から飛び出ていく。

 

 奇しくも、ぐったりとした理瀬を見て、己がデミ・サーヴァントとなっていたことが判る瞬間だった。

 

 

 

「宝具の使用も出来ているのか。素晴らしい!」

「………本来の用途ではないのだけど」

 




いやぁ、レフ・ライノールは強敵でしたね………。
オルガマリーちゃんデミ・サーヴァント化計画始動。

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