繰り返される特異点F 【一発ネタ】   作:楯樰

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謎の抑止力A「人類滅びそうだからちょっとだけ後押し」


魔法の一端

 Dr.ロマンとダ・ヴィンチ。二人はつい先ほど、ダ・ヴィンチの手によって完成させられたカルデアの『あるシステム』の前で唸る。

 

「………。これ、まずいんじゃないかなぁ」

 

「んーううーん………。まぁ、あのツンデレな所長が主に迷惑被るだけだろうから。―――なんにせよだ。意図しない形でのこととはいえ、完成したことは報告した方が良い気がするね、私は」

 

 出来た物はこれから先、特異点での調査に役立つであろう『システム』である。必ず必要ということは無いかもしれないが、しかし必ず役に立つのは確かだと断言できる。ある万能の天才曰く、「偶然に偶然が重なり、さらに奇跡が起きて出来上がった」とのこと。

 

「僕も怒られそうで嫌だなぁ………」

 

「君は逃げていればいい。―――彼女の癇癪をぶつけられるのは私一人で良いさ」

 

「レオナルド、君って奴は………!」

 

 うわお、漢らしい。Dr.ロマンはダ・ヴィンチの背中が広く見えた。………体は女だけども。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

「やあやあ、よく来てくれた。ま、立ち話もなんだから。ささ、ずずいっと奥まで」

 

 マシュとオルガマリー。そして二人のマスターである理瀬はダ・ヴィンチに呼ばれて工房まで来た。三人は疑問符を浮かべつつ、促されるままマシュ、オルガマリー、理瀬の順に一人掛けの椅子に座っていく。

 

「ダ・ヴィンチちゃん。どうして私たちを呼んだのでしょうか」

 

「どうでも良い事だったら帰らしてもらうだけよ。さっさと用件を言って。………ちょっと、近い!」

 

「いいじゃないですかー。アレからしばらく顔合わせてくれなかったんですからー」

 

「はぁ!? だからって、ちょっとそんなに身体を寄せてこなくても―――んぐぅんん!?!?」

 

 戦いも知らないような白い指がオルガマリーの口に伸びた。

 

「所長のことは放っておいて話の続きを」

 

「んーん!?(マシュ!?)」

 

 マシュがオルガマリーの口を手で塞いで沈黙させる。マシュに対するかつての恐怖を思い出す。このあときっと惨く殺されるのだ。トイレとかで。

 

「んーちょっと、三人とも落ち着いてもらっていいかな?」

 

「失礼しました。ダ・ヴィンチちゃん」

 

「………ははは」

 

「もう、なんで、私は悪くな―――ひぃっ」

 

 人体の黄金律をもって設計された美人に睨まれたらたまらない。ダ・ヴィンチに睨まれたオルガマリーは怯んだ。

 

「こほん。よろしい。それでは、まず所長。これを持っていてくれるかい?」

 

「い、忌々しいあのカードね。肖像は―――描かれていない。………前みたいなことにならないでしょうね?」

 

「………。………さ、理瀬くんはこれを」

 

「―――? ………! はい!」

 

「ちょっと!?」

 

 ダ・ヴィンチと視線を合わせた理瀬は全てを理解した。自分にとって面白い事が起こると。渡されたのはダ・ヴィンチのセンスが伺える装丁施されたタブレットのような機械。そこに映っていたのはクラスごとに分けられたと思われる、見たことないサーヴァントたちらしきアイコン。セイバー、アーチャー、ランサー。ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七つのクラス以外にも、無差別にサーヴァントのアイコンが並んでいる項目があった。白色、黒色をしたジャンヌ・ダルクというアイコンが比較的多いように思う。理瀬も名前だけなら聞いたことがあった。

 

 よくよく見れば、バーサーカーの欄に自分も良く知る源頼光も居た。

 

「これは………?」

 

「ま、どれでもいいからアイコンをタップしてみてくれるかい?」

 

「………じゃあ、これで」

 

 選んだのは黒を基調としたジャンヌ・ダルク。白色のとは違い「オルタ」と肖像には描かれている。

 

 カードを持った所長が光った。

 

 

 

「―――前みたいなことにならないって言ったじゃない!」

 

「言ってないけど?」

 

「ダ・ヴィンチちゃんは一言もそんなこと言ってないですよ、所長」

 

「わ、私が言ったの!」

 

 黒いジャンヌ・ダルク―――『ジャンヌ・ダルク・オルタ』の姿をして、その宝具とステータスを持った所長の姿があった。若干、髪の毛が伸びている。

 

「所長可愛い! いや、カッコいい!」

 

「ほら、理瀬君喜んでるし、いいじゃないか。―――説明したいからそろそろ所長、黙ってくれる」

 

「くっ………!」

 

 憤りを隠せずにいたオルガマリーは大きな音を立てて椅子に座る。話を聞かなければ、未だ呼んでいない筈のサーヴァントが『夢幻召喚』できたのか分からない。色々と頭にきていることはあるが、黙って聞くことにした。

 

「さて、それじゃあカードとそのデバイスについて語ろう。………今の人たちが言う『第二魔法』は知っているかな? いや、理瀬君のために敢えて説明しようか。魔法とは魔術とは別の概念。言うならば結果だけを導き出す方法だ。既知外の法則で成り立っている。科学と魔法は相反して―――というのはまた別の機会にしよう。ともかく、魔法の内の一つ『第二魔法』の『平行世界の運営』というのはキシュア・ゼルレッチによってなされた。そして世界に孔を穿ち、隣にある平行世界から魔力を抽出するというのが、キシュア・ゼルレッチの作った宝石剣なわけだが………。この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんによって一部だが再現出来ちゃったわけだ。諸々説明するのは難しい話というか、私自身の至らなさに虫唾が走るんだが、何故できたのかわからない。完成したのは偶然に偶然が重なって、さらに奇跡が起きたような感じすらある。もう一回やれって言われても正直、無理! ………それにその完成と言っても抽出するのは魔力ではなく平行世界でマスターと契約しているサーヴァント―――その力だけ、だけど」

 

「ちょっと待って。………確かその計画は、もしかしたらあり得たかもしれない、『IFの英霊』のサーヴァントを呼び出すことでしょう? ―――なのに力だけ? 成功してないじゃないの!!」

 

「ああ、所長は知ってたか。なら話は早い。成功したけどオルガマリー所長を通してでないと使えない。夢幻召喚するのに、大事なカードを一枚一枚持っていくのはまずい。だから運用価値はあるのだよ。成功してないというのは訂正させてほしい」

 

「………確かにそうではあるけど」

 

 あっけらかんとしてダ・ヴィンチは言った。そしてその結果がジャンヌ・オルガマリー・オルタである。なんだそれ。

 

 しかし、事実、再召喚の触媒となるカードは貴重品だ。持って歩くべきものではない。だから自身の変化に驚いて、興奮して立ち上がっていたオルガマリーも一定の理解はした。

 

 話を理解した理瀬はその横で、デバイスにどんな英霊がいるのかを見てまわっている。どうやらアイコンの長押しで詳細が見られるらしい。バーサーカーの欄にあった『アステリオス』というサーヴァントの詳細を見ようとタップしたら、間違えて選択をしてしまった。隣にいた所長が光る。

 

「あ」

 

「え、ちょっと―――」

 

「先輩、戻して!」

 

「ん、ごめん。間違えた」

 

 オルガマリーには幸いして、間違えたと思ってすぐに理瀬が『ジャンヌ・ダルク・オルタ』に戻した。弄るのに集中していた理瀬は、見ていたら歓喜するだろう光景を見逃した。惜しいことをしたものよ。

 

「い、いやー! ロマンが最後、私の邪魔をしなければこんなことにはならなかったんだがなぁ!」

 

「ローマーンんんんん! 絶対許さない! クビよ、クビ! 人理修復したらクビにしてやる!」

 

「………危なかったです。見ていたら殺されてましたよ、先輩」

 

「ん? マシュ、何かあった?」

 

 

 

「さぁ、思い知らせてあげましょうか!!!!」

 

「わーん!! ダ・ヴィンチちゃんの裏切者ー!!」

 

 その日、ジャンヌ・ダルク・オルタの格好をした所長に追いかけられ、燃やされそうになるDr.ロマンが居たとか居ないとか。

 

 

 

 Ξ-Ξ-Ξ-Ξ

 

 

 

 特異点へのレイシフト前日。マシュは悩んでいた。自分の悩みを相談しようと、自分が先輩と慕う彼に会いに来ていた。

 

「あれ、マシュ。どうしたの?」

 

「先輩………私は、デミ・サーヴァントとして失格じゃないでしょうか」

 

「えええええ! どうしたのさ、急に!?」

 

 入って来て早々にそう訴えたマシュに、理瀬は困惑する。その思いつめた様子から、立ち話するような内容ではないと早々に(さと)った。

 

 

 

 真倉田理瀬にとって、マシュ・キリエライトは大切な存在だ。それに違いはない。オルガマリーと並ぶ大切な存在だ。もし、どちらかしか助けられないという事になれば、何方も助ける努力を何度でも(・・・・)するだろう。一年以上にわたる同一時間軸内での奮戦に、マシュ・キリエライトの存在は唯一の癒しであった。無くてはならない人だった。20回目ぐらいの時に、どうすれば助けられるのかを探るため、オルガマリーを見殺しにした。先の未来に進むことを選び、唐突に彼女の前で泣き出したことがある。30回目ぐらいの時には特異点Fで、オルガマリーをどうしても助けられないことに苛立ち、初対面に近い彼女へ辛く当たったこともある。

 

 マシュは夜に当たる時間帯に自分が調べ物をしていた時、差し入れしてくれて、泣きだした自分を慰めてくれた。辛く当たっても、優しく受け止めてくれ、初対面に近い自分をよくわからないなりにも労ってくれた。

 

 ―――先輩にしかわからないことだと思います。だから失礼かもしれません。でも、頑張ってください先輩。きっと、先輩が頑張っていることは報われないと、駄目だと思います。

 

 そう言ってくれた。だから此処まで頑張れた。

 

 お世話になったマシュが悩んでいるというなら、解決してあげなければ。人並みに彼女へ愛情を持つ理瀬の中で義理はおろか、人情もたたない。その愛情は歪だと気付きながらも、理瀬はマシュを愛していた。

 

 部屋まで訪ねて来たマシュを、椅子に腰かけさせ話を聞く姿勢になる。

 

「なんだか思うんです。エクストラクラスのシールダーとはいえ、私はちゃんと先輩のお力になれているのかと。守る事しかできない私に、何が出来るのかと。所長はお強いです。余程の事が無い限り、所長さえいれば何とかなるじゃないですか………」

 

「マシュ………」

 

「それに、―――先輩と所長が仲良しでモヤモヤして。まるで………そう、心臓が締め付けられるようで。私も、先輩とあんな風に仲が良ければなと思う事が多くて。………だから、もっと私に力があれば。もっとお役に立てればいつか所長みたいに先輩と………。っごめんなさい。変な事言っちゃって………」

 

「別に構わないよ。サーヴァントのことを知るのもマスターのつとめ、というか。まぁ、マシュは人で、今はデミ・サーヴァントだけどさ。………所長と俺の関係は、ほら。一方的に構っちゃう小学生男子と高飛車な同級生女子みたいな関係、かな。わかる?」

 

「知識には一応。………そうですか、あれがそういう関係なのですね。それにしては少しおかしい様な気もしましたが………先輩がそういうなら、そうなのでしょう」

 

 納得してくれたようで、理瀬は胸の内でそっと安堵する。マシュの感情というのは若い恋愛感情のようなものだ。だからと言って本人の前で恋愛だと気付かせるのは酷というもの。直感でしかないが、気づかせるのはまだマシュには早い気がした。

 

 普通に受け入れそうな気もする。でも、もし違ったとき口をきいてくれなくなったら困る。自分本位で、どうしようもないと自身を(さいな)む。そういうエゴがあるのは否定できない。

 

「男としてこれを言うのはちょっと恥ずかしいんだけど………マスターの俺のこと、守ってほしい。特異点でも思ったけど、此処にいる誰よりも守ることに関してマシュは得意だと思う。自分を守るのはともかく、誰かを守るって事は悪人の所長には難しそうだ。………正直に言うとピンチの時、頼りにならなさそう」

 

「ふふふ………はい。なら、先輩は私が守ります。所長も私が守ります………! これでいいんでしょうか?」

 

「その意気その意気。マシュならやってくれると信じてるよ。………ん、ごめんのど乾いた。何か飲んでくるよ。マシュはどうする?」

 

「いえ、私は良いです。………私も部屋に帰りますね。お話聞いてくれて、ありがとうございます。私もそこまで一緒に行きます」

 

 

 

 ―――途中で別れた理瀬の背中を見て、頬を赤らめる。

 

「つまりそういうこと(・・・・・・)なんですよね、先輩」

 

 そう呟いた少女は誤魔化した理由がわかっている。そして、それが恋愛というものに基づく感情であることも。穏やかなこの多幸感の正体を知ってしまった。

 

「アイコンタクトだけで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる関係になりたい、というのは私の我侭でしょうか………」

 

 マシュは賢い子だった。

 

 




神風魔法少女オルガ☆マリー
ワンチャンあるな。

さて、残すところあと一話。
一応次回で最終話の予定です。


おうふ。間違えた。アゾットは違うやろ。宝石剣やろ。
嗚呼、恥ずかしい。………修正しました。

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