古明地さとりと四季映姫の日常 作:白黒ライト・イット
「……さと……さま!」
……近くから声がする……お燐、かな。
「さとり様〜!」
……こっちはまだ寝ているというのに、どうしたんだろう。
「さとり様、起きてください!」
そういえば、お燐はやっぱり元が猫だからか分からないけど、怒鳴ると、頭に響く。……起きようかな。
「さとり様……ん〜、どうしたものか……」
仕方ない……とりあえず、重たいまぶたを開ける。それにすぐに気付いたお燐は、本当に困りきった表情で半分怒鳴りながら言う。
「四季様が来てます! とにかく起きてください!」
……えぇ? 点検は確か……半年に一回だと思うんだけどな。どうしたんだろう?とりあえず、その疑問をお燐に投げかける。
「点検までにあと、三か月くらいはあるでしょう?」
「さとり様に用事があるとかおっしゃってました! 早く着替えて下さい!お願いします!」
「じゃあ、着替えてくるから……お茶でも出して食い止めておいてください。別に、見られてまずいものもないでしょう」
それを聞いたお燐は、少し申し訳なさそうに、控えめに反応する。と、同時にお燐の心が聞こえてきた。
「え……あ、あの。もう、お茶は出しちゃいました」
(どうしてこんなに悠長でいられるのかなぁ……アタイの方がしっかりしてるんじゃない?)
……何もそんなこと考えなくてもいいんじゃないかと思うけど、何か言ったら更に嫌われそうだし……まあ、いっか。
「じゃあ、適当な世間話でも何でも。あの人はそういうのが好きだろうから。お願いしますよ」
それにしても、何だろう。何も悪いことはしてないけど、点検以外の用事なんて思いつかない。多少不安だな。
名指しだから、余計に不安になる。
***
四季様が待っている応接間のドアを開けると、お燐がなにやら苦しそうな笑顔を顔に貼り付けて四季様と喋っていた。悲痛な心の声も聞こえる。
「あ〜、はい。そうなんですよね。おっしゃる通りです」
(さとり様、助けてください、お願いします。もう、今にもお説教が始まりそうです)
一方、四季様はそんな気持ちは全く考えずに話を続けている。
「ですからね、ただ仕事が早ければいいというものではありません。例え死人であろうと、善人や悪人であろうと、私でさえそんな汚いものを扱うようなことはしてはいけませんし、誰にもそんなことは許されないのです」
(あまり反省していないみたい……話をちゃんと聞いているのかどうかも疑問だわ)
……これはもう手遅れか。お燐に対して首を少し横に振ると、とても悲しそうな顔をした。やはりそんなことは気に留めず、四季様は喋り続ける。
「とは言ったものの、仕事を的確になさっているのはとてもいいことです。是非これからも続けていってください」
いくら何でもお燐がかわいそうだから、適当なところで話を切りにいってみよう。意を決して話しかける。
「あの、四季様。ご多忙なところお待たせしてすみませんでした」
四季様は私の方に向き直ると、穏やかな様子で話し始める。その瞬間、お燐があからさまにほっとした。
「いいえ、こちらこそ急に赴いてしまいすみません。今日は点検というわけでもないのですが、色々と拝見させてもらいました。結果ですが、目立った欠陥もなく、全ての部署がしっかりと機能していましたよ。しっかりと管理をなさっているようで、素晴らしい働きです。それはそうと、本題はそれではありませんでしたね。どうもそういうことに注目してしまいがちなんですよ。曖昧なのは好きでは無いですからね」
黙って聞いていたけれど、いよいよ本題だというのと、四季様が持って来たらしい袋を開け出したので、怖くなってきた。最後通告とかじゃないといいんだけれど。笑顔で話しているので、多分、問題はない。
そんなことを思っている間に、四季様は袋から一枚の大きな額を取り出した。
「今日は、これを差し上げようと思いまして」
四季様がそれをひっくり返して表に向けると、よくどこかで見るような浮世絵が飾ってあった。富士山が赤くなっている。綺麗で味のある絵だった。
「どうです、お気に召しましたか? 実は私、休暇で長い間地上にいたんですよ。そしたら、私自身かなりこの絵が気に入ってしまいまして、お土産にもどうかと言われたので、何枚か買ってしまいました」
「あ、それはどうもありがとうございます。とても綺麗な絵ですね」
「お気に召したようで、良かったです。それでは、私はこれでお暇させていただきますね。ありがとうございました」
そう言うと、立ち上がったので、門までお燐と付き添った。
門を出る前に一度振り返ると、お燐を真っ直ぐに見つめて言った。
「少しだけこっちに寄ってもらえますか?」
(あの火焔猫さんに、少しだけ言っておかないと……)
お燐はきょとんとした顔で四季様に近づくと、相手がどう思っているかなど知るよしもなく聞いた。
「どうかされましたか?」
「いえ……貴方の勤務態度について少し」
お燐はビクッとしたが、運命を受け入れたようだった。四季様は涼しい顔で話し始める。
「『控えめに言っても』という表現は私はあまり好きではないのですが、まぁ、そう言っても、貴方の仕事ぶりは小町に見習わせたいところがあります。ですが、明らかに仕事が雑なことも時々見受けられます」
「はい……申し訳ありません」
「ですがね、そもそも貴方の仕事というのは何でもかんでも数を集めて放り込めばいいというものではありません。貴方がその仕事をしすぎることで怨霊が増え、恐怖を感じるものも増えていますし、小町も貴方の仕事を理由にサボっていることもあります」
「今後、気をつけます……」
(めんどくさいなぁ)
「今でさえ、そうやって適当なことを言って場をごまかそうとしていますね。そう、貴方は少し加減を知らなすぎる。例え、今だってしっかりと話を聞いていればすぐに終わったものをただただ、『はいはい、そうですね』で終わらせてろくに話を聞いていない。別に私の話を有難がって聞けとは言いませんよ? 私はただ、他の人に迷惑がかかってはいけないだろうと思って言うんです。非礼によって私が不快になることは全く構いませんが、この世界を癒すのにはこうしていくのが私の尽くせることだと思うからこそするのですよ。何も私は怒っているわけでは無いのです。ですから、私は怒鳴りませんし、暴力を振るったりもしませんし……」
聞いていて思ったけれど、こりゃあ嫌われるわけだ。お説教されたことないけど。その理由は十分わかる。お燐の顔からはもう完全に生気が消え失せている。かわいそうに。
(何なの、この人。覚じゃないのによくも的確にアタイの考えを突いてきて。この人とさとり様が合わさったら最強じゃん。これ以上ないくらいの嫌われ者になれるね)
全然かわいそうじゃなかった。むしろ私もお説教に加わりたいくらいな気分になってきた。お燐は私に心が聞こえてるの知ってるだろうに。
「ですから、今すぐにでも善行を積むべきです。そしてまず、貴方がすべき善行は、周りの人に尽くすことです。どのような方法でもいいのですから、何かそういうことをしてみなさい。あなたならきっと出来るでしょうから。応援していますよ。あぁ、もうお昼になってしまいましたね。それでは、さようなら」
「はいっ。さようなら。是非またお越しください!」
***
四季様が見えなくなると、お燐ははぁー、と深くため息をついて忌々しそうに四季様が歩いていった道を睨んだ。
さて、今度は私の番かな。
「ちょっと。お燐? こっちに寄ってくれない?」
お燐は不思議そうな顔をしながらも、こっちへ来た。
「じゃあ、四季様の真似でもしようかな」
「へ? アタイは何もしてませんよ? どういう意味ですか?」
本当にわかっていないらしい。でも、白黒つけるべきだろうね。ここは。
「嫌われ者のさとり様がよーく教えてあげましょうね。そう、貴方は……」
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