アザゼル、神の如き強者や荒野の悪魔と呼ばれる元天使。人に武具や装飾品等造りの叡智を授けたとされる堕天使。
グリゴリ本部、堕天使総督アザゼルの執務室。此所にアザゼルの全く思いもしない来客が来た。アザゼルは胃の付近を手で抑えて高級なソファーに座った招かれざる客を見ている。
「この紅茶美味しいです」
「お口に合いまして嬉しいッス、です。(何でウチラみたいな下っぱがアザゼル様のお客人の悪魔を接待してるんス?しかも相手は悪魔)」
「此方もどうぞ!(罰のトイレ掃除が免除されてアザゼル様直々のご命令!この悪魔の小娘が誰かしらないけど全力で接待しろと言う命令を遂行してみせるわ!!)」
「どうもありがとう(何で悪魔なのに堕天使の所でこんなに親切にされてるんだろう?悪魔的に敵地なんじゃ?戦争とか起きてたし。戦争終わった?封印とかされてる間に…なんで封印されてたんだろ?)」
「イリナ、これ旨いぞ」
「ぜ、ゼノヴィア、あんた少しは遠慮しなさいよ」
女の子五人のお茶会かー微笑ましいなー。
堕天使の総督だけど気にしないぞー。
そのまま機嫌損なうなよー…
……オレも含めて全員が死ぬかも知れんからな。
堕天使総督アザゼルは執務室ソファーで見られる一見ほのぼのした光景に胃を痛めた。
何であの怪物が居るんだよ!!
俺がアレと出会ったのは、いや遭遇したのは数千年も前、三大勢力がぶつかった大戦の頃の話だ。
俺はある戦地の増援として送られた。俺が増援として送られた地の戦況は一進一退で互角って話だったんだよ。そう聞いてたんだよ。
戦争なんだそれは不安だったさ。それでもオレや他の増援として送られる奴は全員がそれなりの強者ばかり、戦況をオレ達で変えてやるって息巻いて戦地に向かった。増援として送られた場所について、その場に先に居た他の堕天使の顔を見て直ぐに判った事がある。
……互角なんて嘘だったなとな。
増援として送られた俺達に対して増援を喜ぶ顔じゃなくて……皮肉げに薄く笑うか哀れむ顔を向けてきやがった。俺は腹が立つより嫌な予感がして情報を聞き出すことにした
その戦地では堕天使の戦力は天使とは互角でも、悪魔との戦力差は決定的だそうだ。俺達が増援として来ても焼け石、いや太陽に水ぐらいにどうやってもひっくり返せない戦力差だと聞かされた。
悪魔勢力の数は天使と堕天使どっちの勢力の数と比べても少ないと聞いた。なのに総合的な戦力は悪魔が圧倒的に上だそうだ。つまり精鋭の悪魔の部隊が居るって事だと思ったら、相手がたった一体の悪魔とか聞いた時は意味不明だと思ったさ。
相手は怪物と呼ばれた悪魔だった。
戦いは数なんて言うけどな圧倒的な個には倍の数でも役に立たない。小型の草食動物が大型の肉食動物を相手にする様なモノだ。挑んだとしても戦いに成らない。食い散らかされるだけだ。と、言えるのは一定の数で被害を無視して数で攻めれば対処能力を越えれば大型の肉食動物でも数に押し潰される。…………と、俺たち側は其れぐらいの数が居ると思えるのに、俺達の役目は勝つことじゃなく。怪物のエサになる事。命を掛けて怪物を戦地に留まらせる事だった。
オマケに敵対してる天使と協力してな。
ふざけんなと思うよな?
それが嫌で怪物を倒そうなんて考えた無謀な勇者は真っ先にヤられて、残ったのは賢い臆病者だとさ。先任の堕天使に最後にそう教えられた。
オレ自身は初めは勇者か臆病者になるか迷った。若い頃でまだ武勇伝は欲しかった頃、同時に命も少し惜しかった。
怪物を倒せば最強の悪魔を倒したって名誉が得られる。反対に臆病者なら話に聞いた怪物は倒せないけど生き残る可能性が高くなる。名誉と命どちらを選ぶか迷った。
増援として来た俺達は怪物の強さも知らず自分の強さへの自信が有る奴が多かった。増援として俺と一緒に来た半分が臆病者に成ることが出来ずに勇者となった。
現れた怪物の姿、散々恐ろしいと聞かされた怪物の見掛けが、どうみても弱そうな女の子なのも理由だろう。
俺は様子見をした。
怪物の強さ次第で参加しようと様子を窺った
百人を越える天使や堕天使の勇敢なる勇者達は怪物を奇襲した。結果は一人として帰らなかった勇者に、翌日も普通に活動していた怪物が答えだ。
オレは迷いを捨てて賢い臆病者に成ることが出来た。俺は生き残る為に必死だった。生き残る為に真っ先にプライドなんて棄てた。それでもあの戦場では生き残るのは難しかった。
天使と共同戦線を張った。裏切り怪物の生け贄にした。仲間を何百人と見棄てた。無謀な勇者に成ろうとした奴が居て死ぬと判ってても足止めに丁度良いと忠告しない。神経を磨り減らして必死に生き抜いた。
オレが戦地に居たのは一週間、一週間耐えてようやく怪物は別の戦地に移動して、オレはその戦地で数少ない生き残りの一人となることが出来た。オレと同じ日に増援として送られた堕天使は誰も生き残れなかった。
本当に俺は運が良かった。
結局その怪物は和平後に、魔王や神の命を引き換えに封印された。オレは今でも覚えてるあの時の、一週間死と隣り合わせだった恐怖を、怪物に与えられた恐怖を、戦争が終わって数年はずっと悪夢に魘された。
同じ戦地を任されたコカビエルも悪夢に魘されたよな?なのにそのコカビエルが怪物の封印を解きやがった?怪物や封印について調べてるのは知ってたけど、絶対にあり得ないと思った行動をなんでしてんだ!!
怪物がオレの執務室のソファーでレイナーレ達に世話されてる…連れてきたのは俺の隣に居るヴぁーり。
マジで何してくれてんだぁあ!!
コカビエルの野郎が駒王に行ったって情報来いたがよ!!狙いは駒王にいる魔王の妹か最近発見された赤龍帝だと思ったよ!!それが普通だよな?まさか駒王に怪物の封印があって!コカビエルの野郎がまさか封印解くなんて誰が思うよ!!
それだけでも目眩がする話しなのに、目覚めた怪物をヴァーリが執務室に連れて来やがった。執務室で仕事してたオレが突然怪物見たときどう思ったと思う?……マジで心臓止まったわ!!
接待役にレイナーレ達を呼んだのはオレだ。
トイレに逃げ込んだ時にちょうどレイナーレ達を見付けてな。レイナーレ達には命懸けで接待に当たれと命じといた。駒王で見つかった事を考えたらタイミング的にコイツらが封印見付けた原因だろう…マジで命ぐらい掛けろ。
「(ヴァーリー!オレはコカビエル連れ帰れって命令したのに、何怪物連れ帰ってんだよ!!)」
オレは小声で怒鳴るなんて器用な事をしてヴァーリに聞いた。
連れてくるにしても!!せめて隠して連れてこいよ!なに堂々と連れてきてんの!?本当に何してくれてんだ、怪物知ってる古参中心にグリゴリ内は大混乱だ!!今は幹部連中に混乱鎮めさせてるがどうなるか!!
「俺に文句を言われてもな、連れて来たのはアルビオンの意思だ」
「(はぁ!アルビオンが!?何でだよ!)」
大戦の時の事を考えるとアルビオン、反対する側じゃないか!?
『いや、ほら…………味方の方が喰われる危険が少ないだろうから……』
「……………………」
そう言えば大戦の時に怪物に倒された後に喰われてたな。全身喰われる前に聖書の神が封印したんだよな。喰われるの回避したいよな。けどな、それ無用な心配だ……だって今のお前は肉なんて無いだろ!!!
三大勢力を全滅させかけた龍が食糧の化物とかどうすんだよ!!
確か随分前に出されたコカビエルの調査じゃ随分と穏当な性格らしいが、そんなのどうでも良いわ!!仮に人間が優しい人喰いライオンとか紹介されて人間がそのライオンの傍に居れるか?居られるわけねえ!存在が怖いんだよ!!
「あ、あの」
で、あの怪物ばかり気にして放置してたけど
「……お嬢ちゃん二人は誰だ」
グリゴリで支給されてる服を着てるが見たこと無いし人間だよな。…………お嬢ちゃんの話を切り出したら怪物が此方を見てくるし、一応下手に扱えないか。
「は、はい突然の訪問申し訳ありません。私はエクソシストのイリナ、隣の者はゼノヴィアと言います。堕天使総督のアザゼル様」
おいエクソシストが何でグリゴリ本部に来てるんだよ。……あの怪物が居るなら誤差か。誤差と思えるのが悲しい。
てかゼノヴィアって嬢ちゃん食い過ぎじゃ?…自棄食いか?
「アザゼルだけでいい。そのエクソシストのイリナお嬢ちゃん達が此所に来る事になった?悪いけど説明してくれるか……色々と」
切実に情報がほしい。
ヴァーリーの奴は殆ど知らないみたいだし。
「は、はい、私は元々聖剣の担い手として、バルパー一味に盗まれた聖剣奪回に駒王に私ともう一人が派遣されたのです」
「ふむ」
その情報は知ってる。
「聖魔剣を産み出した木場という悪魔によりバルパーは倒され、聖剣は破壊され目的は達したのですが、堕天使コカビエルが現れバルパーを殺害し、コカビエルによって…神の死を告げられました。三大勢力が衝突した大戦時に……神が死んだと……」
うん何してんのコカビエル
あと聖魔剣か……神が死んだからそんなのも出来るか。
「神の死を知った私が本部に戻るのは危険とヴァーリさんに言われ、グリゴリに行くと言うアリスちゃんに同行させて貰いました」
下っぱ二人のえっ!?って声は無視する。とうせ神の死とかに反応したんだろう。……俺としてはお嬢ちゃんが怪物をアリスちゃんと呼んだのが衝撃的だよ。あとヴァーリーが助言するとか意外だな。
何にしても、このお嬢ちゃん二人も神の死を話したあのアホの被害者か。ゼノヴィアって嬢ちゃんが自棄食いしてるように見えるのまんま自棄食いか。
エクソシストが神の死とか知ってたら本部に帰っても良くて放逐、普通は処分だよな。本部に帰らなかっただけならはぐれエクソシストとして狙われるか。それなら神の死を知ってるのを知らないフリをすれば……今回は事件が大きすぎて隠すのは難しいか。三大勢力が其々調査するだろうからな。
熾天使には多分知られる事になると、神の死を隠蔽しようとする天使勢力はもう無理だろ。つまりお嬢ちゃんの生き残る為の選択肢は天使以外の勢力、神の死を知っても問題ない悪魔か堕天使の勢力に保護されるしかない。
三大勢力以外の勢力か、最悪禍の団とか言う選択肢もあるか、どちらも危ない橋だな。
お嬢ちゃん達が生き残る事を考えたら堕天使の所に来るのは正しい。エクソシスト的に悪魔よりは堕天使の方がまだお嬢ちゃんとしても反発は少ないだろう。俺としては受け入れても良いと思う。堕天使の被害者になるし無下に出来ないしな。
しかしコカビエルに神の死を聞いたとしても簡単に信じるか?帰って確認しないか?
「お嬢ちゃんは、神が死んだってのを信じたのか」
「……アザゼル様、神の死は本当なのでしょうか」
やっぱりコカビエルに聞いただけじゃ疑ってはいたか。ただ擬より信の方が多いように見えるな。そう言えば聖剣破壊の時に聖魔剣の誕生とか神が生きてたらあり得ない現象を見たんだったか。
「本当だ。今は天界は神じゃなくて熾天使(セラフ)、ミカエルを中心に動かしている」
「で、では……神の死の状況については」
ああ問題は其処か。確かに死に方を知ったら神への信仰心も無くすか。
「三大勢力和平後、神と魔王の主導で三大勢力協同で怪物と呼ばれた悪魔を騙し討ちで抹殺か封印をしようとした。それで騙し討ちした悪魔の反撃に有って神は死亡した。……騙し討ちした理由は憶測だがその悪魔がただ強かったからだと俺は考えている」
「そう、ですか」
イリナお嬢ちゃんはショックを受けてるな。ゼノヴィア嬢ちゃんは自棄食い。下っぱ二人は驚いてる。当の犯人は他人事みたいにへーって顔をして聞いてるな。
俺の発言疑うとか無いのか。
「あー嬢ちゃん?俺が言うのも何だが堕天使の話とか信じるのか?」
「……災厄の魔銃はエクソシストで最悪の災厄で、尤も忌まわしい神器と教えられてきました、なのに肝心の最悪の災厄の具体的な内容が不明でした。尤も忌まわしいのに隠す必要があったと考えると………」
なるほど…な。エクソシスト(自分達の)側が隠したからこそ堕天使の話に信憑性がでたと。
チラチラと怪物の方を見るな!!
神を殺した復讐なんて考えるなよ!
(災厄の魔銃てなんだろ)
……で、本人は全く反応してないな。まるで自分に関係した話がされてると思ってないようだ。何か考えてんな。殺した神のことか
「三大勢力の和平って…やっぱり戦争終わってる?」
え…………戦争終わった認識もなかったの。
ふ、封印の影響で記憶の劣化があるか知らねーけど!戦争終わった認識も無いなら堕天使は戦争相手って事で暴れる危険が有るって事じゃねーか!!!
「悪魔と堕天使が争った戦争はもう終わってるからな!堕天使敵じゃないからな!!暴れないでくれよ!!」
「あーうん?……戦争終わってるの?本当?」
イリナ嬢ちゃんに聞いた。
当事者の堕天使の話はそりゃすんなり信じられないよな。頼むぞ嬢ちゃん!下手な冗談とか言わないでくれよ!!
「…えっと、戦争は大分前に終ってると思、います」
「戦争終わってるのは良かった。大分前?」
どうする状況認識が全く無さそうだぞ。
封印の記憶もないのか?
裏切りとかどうなんだ?
此は確認した方が良い。
「アリシアス・べリアル少し良いか。戦争で神が死んだんだけどな。殺した最強の悪魔とか誰か知ってるか?」
名前を聞いて下っぱ二人の顔色がおもいっきり悪くなった。今まで名前も知らなかったのか。知ったなら顔色も悪くなるな。悪魔とか天使みたいに隠して無くてグリゴリでは最凶の悪魔だと伝えられてるからな。
「え、神さま死んでたの?殺したのが最強の悪魔なら、最強と言えば四人の魔王様の誰か?」
四人の魔王は神と一緒にお前が殺したわ!!
これで確信できた…裏切られた記憶もないなこれは!
もう本人に聞くか。
「あー……今の状況は何処まで判ってる?」
「状況?……えー徴兵された感じで戦争に参加させられて、適当に程々に戦って………気付いたら駒王って学園に」
適当に程々……あれ、怪物にとっては、適当に程々…あれだけ暴れて……??
「あ、アザゼルさま!?尋常でない汗が!!」
マジで…マジで…コカビエルの野郎…なんてヤツを復活させてんだ。
「休んだ方がいいんじゃ」
「気遣ってくれてありがとうよ」
ホント嬉しいよ。
心労の元凶だけどな!
つい最近苦労させたレイナーレ、同情みたいな視線を向けるな。罰のトイレ掃除の期間を増やすぞオラァ!!
「封印された事も覚えて無いのか?」
「いえ全く。封印された理由を知ってます?」
どうする。教えるか。
イリナ嬢ちゃんとゼノヴィア嬢ちゃんはどうするか見てるな
「……その例えばだけどな。封印した相手が居たとして、その相手をどうする?」
「それは…理由と状況次第?」
状況は和平後に裏切って、理由は表向きは和平の為、本当は魔王は地位を守るため、神は悪魔の戦力削り、堕天使は黙認というか便乗。オレなら許さんな!
許さなかったから封印される前に魔王四人と神をピンポイントで殺したんだよな。何で反撃でそんな事が出来るんだ?反撃してなかったら封印なんてさせて無さそうだよな。
俺としては神と魔王の殺害、十分報復はしてると思うんだが………本人がどう考えるか。
ふと思った。
封印に参加したのは天使、悪魔、そして堕天使。天使と悪魔のトップはやられた。堕天使はやられてない。堕天使のトップだけやられてない。堕天使のトップは俺
うん、俺なんだよな。
「顔色悪いですしやっぱり休んだ方がいいんじゃ?」
その休んだ方が良いって……永遠にとかじゃないよな?