緋弾のアリア-秘密結社の殺人機-   作:ちーたら

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第11弾:昼食-lunch-

 日本京都府。かつて平安京として日本という一つの国の政治の中心となり、当時の首都と言うことのできたその街は、歴史的な文化遺産が数多く点在する。

 清水寺や龍安寺などその名前を聞くことが多い建築物の宝庫は、某ハンバーガーチェーン店も街の景観を崩さないために看板の色を変えるなど、都市全体が一つ一つの歴史的な文化遺産を大きな価値ある物として尊重している。

 そんな京都府の駅前で、名産品やら京都らしい物やらを食べるわけでも無く、看板の色を自重している某ハンバーガーショップで珍妙な二人組が先ほど購入した期間限定のハンバーガーを口にしていた。

「ねーねーちぎりん、それでその“村正”っていう妖刀がどこにあるのかあらかた見当はついてるの~?」

「ついているはずがないだろう。怪しい所を怪しい順に虱潰しに探して行くしかない」

 その珍妙な二人組……というか契と理子の二人は、周囲からの視線を気にすることなどせずに黙々と作戦会議と食事を進める。

「というか、お前まで来る必要はなかったのだがな」

 少々面倒臭げにいつもの通りの仏頂面で、契は理子に言う。それに対して理子は、

「ふっはっはー!観光する気満々だったちぎりんについていかない道理があるだろうか、いや、ない!」

「相も変わらずにぎやかだな、お前は」

 そっと周囲を確認すれば、店内に居る人が客店員問わずにちらちらとこっちを見ていた。おそらく、周りからも逸脱している自分たちの風貌に目を引かれたのだろう。

 理子はツーサイドアップに結った天然パーマ気味の金色の髪だし、ましてや自分なんて髪の根元から先まで全て白髪でしかも長髪だ。各々それぞれ一人ずつならまだしも、そんな周りからも目立つ二つの頭が一緒に飯でも食っていた日にはそれは人の視線を集めるのは当然と言ってよいことだろう。

 一応伊賀の里出身の元忍者である契は隠密に優れた忍術を使える。実際問題それで今回の仕事を遂行しようと思ったわけだが、理子が今回(勝手に)同行することになってそれが封じられているのが現状だ。あくまで隠密の忍術は使った本人のみにしか効力が無いのだ。

「なにを言ってるのさちぎりん。これくらい普通だよ~」

 それが普通ならラスベガスの騒音は今の数十倍にはなるだろうな、と、一年ほど前に上役の土御門 蓮華からの指令で違法カジノをぶっ潰してそこの裏金をイ・ウーの資金にするために現地の武偵と殺し合ったことを思い出しながら契は呟く。あの時は殺しが許可されてなかったため、寸止めで戦う必要があってか随分と戦いにくかったのを覚えている。

「ねぇねぇちぎりん、どうしたのさ急に難しい顔をして~」

 かまってよ~、と頬を膨らませる理子の頭に、契は無言で手を置いた。なでなで、とこの二年で随分と手慣れてしまった手つきで理子の頭を撫でる。“殺人機”真っ盛りの頃の自分なら考えることのできないその行為に、少し自嘲気味に笑みをこぼす。

 ……今回も、殺しは許されていない。

 契にとって、殺しとは直結して最大の武器だ。“殺人欲求”によって湧く意欲と、それの副作用の“技術改悪”によって作られた数多くの最殺の技術。それを持ってすれば、世界最強クラスの“R”の武偵も相討ちまでには持っていく自信が契にはある。

 “無限罪”ブラドとの戦闘で最低限の負傷でそれを下すことができたのも、実はそれが最もたる原因であったりする。ブラドは殺しても死なない吸血鬼。魔臓を全て同時に破壊されても、どれか一つを直せば全て再生するという反則級の能力を内に秘めている。

 だからこそ、不死だからこそ(・・・・・・・)、契は己のリミッターを外してブラドを抹殺できた。彼は死なないから、殺すことで勝利しても問題ない。

 だが、人間は違う。

 人間は、殺したら死んでしまう(・・・・・・・・・・)。その当たり前の事実に、法則に、ルールに契の戦い方は縛られている。

 『契』……その名前は偽名だ。いや、今や自分の本名と認識している名字も無い名前は、『元から自分についていた名前ではない』と表現する方が正しいかもしれない。“教授”から貰った、“殺人機”ではなく“人間”として自分が再出発する時に結んだ“教授”との契約(やくそく)の象徴として、そして“殺人機”の自分の忌業を忘れないために、自分の名前の一部を取ってつけられた名前だ。

 この『契』という名に込められた契約(やくそく)……『必要ではない殺人はしない』という“教授”との決して破りたくない契の人間として初めての信念に偽りはない。

 だから、契は不必要な殺生は……具体的に言うならば、“教授”から殺人を許可されていない時は人を殺さない。もちろん、それが自分の枷になっていることなど十分に承知している。それでも、契には守りたい信念というものがあるのだ。

「ふみゅ~」

 意識を理子の方に戻すと、まるで大好物を食べて頬を落とすかのような表情でふにゃふにゃに和らぐかのように理子の顔がだらしなく緩みきっていた。どうやら、頭を撫ですぎたようだ。

 ……正直に言って、今回の『仕事』に理子を連れてくるのは間違いだったかもしれない。

 “村正”。様々な創作物でもよく名前の出る妖刀は、多くの使い手やその敵を破滅へと追い込んだ魔の刀剣だ。

 刀鍛冶・村正の一族によって製作された無数の刀剣。それは数多くの戦乱で功績を上げた者が担い手となって振り、多くの人間の血を吸う逸話を今にも残すかの妖刀は手にするだけでその人間の人生を終わらせることもあるらしい。

 何よりも恐ろしいのが、そういった伝承が全て嘘では無く、かつはっきりしないで曖昧であることだ。『らしい』という人伝に聞いたような情報、しかし決してそれが嘘とは言えないという事実。未知よりかは幾分かマシと言えるが、かと言って中途半端な情報がある故に逆にその正体が計り知れないのもまた事実だ。

 なので現状、『情報の欠落』によって見つけても安易に手出しできない。

 作戦完了と言う解を導きだす上では、その難問を解かなければならず……さらに補足すれば、この難問を解き明かすにはさらなる全く別のいくつかの難関が存在する。

(……そして、京都(ここ)には厄介な奴らもいる)

 一つ目の難関……星伽(ほとぎ)。名前だけは聞いたことがある。そういった情報に少しばかり詳しい隷示曰く、超能力の素質を一族の者の殆どが持つ魔女の一族とのことだ。なんでも根城である星伽神社からは必要時以外一歩も出ずに超能力について研究しているらしい。

(正直、星伽の連中とは関わりたくない物だな……)

 改めて言うが、契の最大の武器は殺人だ。そして、今回の彼はそれを行使できない。つまりは己の最大の武器を封印しているのだ。

 それは即ち、非万全な状態での戦いを強いられるということになる。過去に隷示は彼の戦いを殺しと例えていたが、それができないということは契にとってデメリットの他でもない。

 最大の武器(ころし)を封じられようとも、契は強いには強い。それこそ元忍者として“技術改悪”される前の元々の忍術はこの数年で再び習得したし、暗器使いの契には“暗器術”を殺さない程度に使うという手もある。

 だが、そんなハンデを持った状態で万全の星伽の巫女を……“武装巫女”と呼ばれる彼女たちを、最悪の場合複数人を同時に相手しなければならないかと思うと正直肝が冷える。というか、そんな状況になったらまずとるべき行動は防戦してからの逃走の一択だろう。

 そう考えると、理子を……というか怪盗を連れてきたのは正しい選択だったかもしれない。潜入や逃走などに関しては怪盗も忍者と同程度には長けているだろう。

 ……と、楽観的に考えていたのだが、どうもこの怪盗少女、どんちゃん騒ぎが大好きなようで隠密行動であるべき現在も既にぴーちくぱーちく騒いでいるのだから、ため息の一つや二つも出てくるものだろう。理子を潜入に同行させるなどどんな奇策を使ってもドジを踏みそうで怖い。

 最悪、男子禁制の(参拝客が重要な神社としてそれはどうなのかと思う)星伽神社の分社には参拝客として理子に参らせて情報収集をさせようかと思う。しかしいきなり妖刀のことを聞くのは些か不自然だし、しかも下手すれば自分のこともバレかねないのでそれは本当に最後の手段だ。

 契本人の個人的な意見としては星伽神社が一番怪しいのだが、だからと言って軽率に行動すればそれこそ“武装巫女”の襲来だ。そしてさっきも言った通り、非万全な契では防戦一方からの逃走を余儀なくされる。

 あくまで契の役割は所蔵箇所の確認で回収はできれば良い程度の物なのだが、だからやらなくても良いとはならないのではないかと契は思う。

(……そんな中で、さらには近頃の事件、か)

 それが、二つ目の難関だ。

 ふと店の外を見れば、そこには朱色のブレザーや臙脂色のセーラー服を着た数人の少年少女……武偵高の生徒が辺りを巡回していた。

 ここに来る前に土御門 蓮華から聞いた話によると、なんでも最近の怪奇事件がこの辺りで頻発しているらしい。それは建物の外壁や街灯、木の太い幹などに切り傷が付けられたり切断されたりしたといった奇妙奇天烈なもので、犯人の目的も不明、対象にも統一性がないというそれこそ手がかりの掴みようのない事件とのことだ。

 そしてついさっき聞いた話によると、数日前に大阪武偵高校から調査に当たっていた武偵チームが一つ、その同一犯と思わしき人物(?)によって大怪我を負わされたらしい。幸い命に別状は無いとのことだが、ざっくりと体が刀剣によって切り裂かれており、あともう少しで内臓に達する物もあったとのことだ。

 おそらく、自分たちが周りから目を引き付けているのは横に立てかけてある二振りの太刀の影響もあるのだろう、と契は思案する。孤立無援のボストーク号に入ってくる情報は基本的に遅い。これは太刀を持ってくるのはやめといた方が良かったか、と契は物思いにふけるように考える。

 先ほどからちらちらとこちらを怯えたような様子で見てくる店主と思しき男性と目が合う。慌てて逸らす様子を見るに、やはり怪奇事件の犯人ではないかと疑われているのは間違いなさそうだ。

 別にこの事件が“村正”に関わっているという無理矢理な論理展開はする気は無いが、しかし武偵が巡回している以上、不用意な行動は慎まなければならない。

 一応、公安零課の偽造免許を『井有(いう) (ちぎり)』の名前で所持はしているが、それを使うのは最悪の事態の逃走のためでしかなく、職務質問を斬り抜ける程度にしか使えないのが虚偽の無い事実だ。

(……そろそろ頃合いか)

 必要以上の長い時間に同じ場所に留まっているのは今回の仕事の性質上効率が悪い。不審な動きを見止められないためには、それなりの時間でそれなりの距離を移動するのが一番好ましいのだ。

 とりあえず、星伽神社の分社の調査は後回しにすることにする。なるべくリスクの少ない場所を先に調査し、順にリスクを高くしていくのが妥当な選択だろう。時間の食う気長で地道な安全な順番での調査とリスクの高い場所に侵入して戦闘の可能性を大きく上げる調査のどちらが利口かと言えば、断然前者だ。

 理子の頭を撫でるのをやめる。食べ終わったハンバーガーの紙を畳み、ジンジャーエールを飲み干してから席を立つと、

「……もう行くぞ。準備をしろ」

「え……あ、待ってよちぎり~ん!」

 慌てて食べ終った物をトレイにまとめる理子を尻目に、契はトレイを片付ける。

 現在の立場上、一応兄妹という設定の奇妙な二人組は、そのままハンバーガーショップから出て行った。

 




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