今回の内容は『緋弾のアリア』の赤松中学先生の同世界観における別作品『やがて魔剱のアリスベル』の設定の独自解釈を含みます。
設定がまだ明確になっていない中での超能力に関する説明ですので、ご注意ください。
また、その設定について何らかの原作との違和感を持った方は御一報ください。
分類だと先天的Ⅲ種超能力者されるそれは、超能力者の中でも奇妙にして異様な存在だ。
一例をあげるとすれば、魔法少女と一口には言って書いても、それは千差万別な方法にて生まれ得ることだろう。
日本古来より存在する妖怪、物の怪……俗に言う
それらが共通し、なぜ『少女』に限っているのかは理由があろうとなかろうとどうでも良い話。要するには、魔法少女を始めとして水面下、社会の裏ではそんな異能者が存在しているのだ。
そういた社会裏の噂に聞くと、居鳳高という武偵高の
社会の表しかしらない一般人から見れば、それは眉唾物の話になるだろう。都市伝説サイトに載っているような、昼休みの話のネタにもなるかどうか怪しい所だ。
だがしかし、一人の少女……というより女性と言った方がよさそうな程には大人びているのだが……、自分の事をよく気にかけてくれて、なによりも面倒見の良い“万化教”の二つ名を持つ天草 汐織を知る身としては、その言葉を一蹴してないがしろにすることはできなかった。
なので峰 理子は、自分に問いかけられた問いには肯定の意を示した。
「うん、一応は」
「そ、そう?なら、魔法少女について生まれ方とかは何も説明しなくて大丈夫……だよ、ね?」
言葉の末尾を不安な色にしながら訊いてくる。少し鬱陶しいと感じながらもその問いに肯定の意を示して首を縦に振ると、ほっとしたように隣を歩く“武装巫女”は吐息を漏らした。
“武装巫女”こと星伽 淡雪は、隣を歩く捕虜(と言うのが一番近い扱い)の峰 理子に、子供にマナーを言い訊かせる姉……としては少し頼りなさそうな……、そんな仕種で、説明御続けた。
「そ、その魔法少女は、社会の裏で色々と争っているの。元々日本はそういった異能者が多い国で……私たち星伽神社もその内の一つ……っていうのは、もう知っているんだよね……?」
途中まで話して、そして言いすぎたのではないかと今さらながらに心配した淡雪に、理子はこくんと頷く。
安心したのか再び吐息をして、こほんと咳払いをして話を再開する。
「い、異能の持ち主はたくさんいて……全国から精鋭を集めた妖怪組織“百鬼夜行”とか、欺いたり偽装したりすることに特化した“偽装十字団”、そして徒党を組んだり単独で行動したり、比較的に自由な“
指を立てながら例を上げて行く。彼女の言葉を聞く限りだと、
旅館を出て外に出ると、外は不気味なまでに静かだった。
まるで街中の人がきれいさっぱりいなくなってしまったかのような、そんな虚無感さえ抱く雰囲気に、理子の目が開かれる。
「お、驚いちゃった……?ここは絶界の内部でね……それが、月を欠けさせているように見えさせているの」
「その絶界ってなに?」
「ぜ、絶界っていうのは、簡単に言えば少しばかり世界の次元をずらして……ってかんじかな。外部と内部を遮断することができるんだけど……」
そういって、辺りを紹介するように手を大きく回して、
「ここは……私が作った絶界。“神隠し”って言って、私を中心点として円を描いて特殊な絶界に、私の望んだ人だけを取り込むことのできるの……」
まるで悪戯が親にばれた子供のように指をつんつん合わせながら申し訳なさそうに言う淡雪であったが……しかし、彼女の言った言葉の恐ろしさに、理子は身の毛よだつ思いだった。
彼女の言葉を鵜呑みにすれば、それはただ一つ……彼女の扱える絶界なる現象、“神隠し”はその名の通りに神によって人を攫うことのできる技なのだ。
つまりその気になれば、理子の同意を得ることなく一方的に連れ去ることもできた、ということだ。
「も、もちろん私の力量不足もあって範囲も狭いんだよ……?実際、あの部屋に侵入してからでないと“神隠し”の効力は発揮しなかったんだし……」
(そんな消極的な考え方をしているうちはまだ大丈夫だよね……)
ほんの少しだけ安堵をする。正直、彼女の“神隠し”を契が身に着けていたら、と思うとかなり恐ろしい。暗殺専門の者が持つのにふさわしい“神隠し”を悪用したがらない彼女が持っていると言うのはかなりの幸運なのだろう。
それから再び歩き出す。無言の音が耳につく中を歩いていて……そして。
「――っ!?」
突然、ばっと淡雪が空を仰いだ。何かを見ている……というわけではないようだ。どうやら、何かを感じ取ったらしい。
「……霙ちゃん」
ぽつりと、彼女が気にかけている(ようだった)“武装巫女”の少女の名前を呟いて、
「い、急いで理子ちゃん……。霙ちゃんの絶界“小迷宮”が……破壊されたの……」
“小迷宮”という絶界がどんなものなのかはその名前のみでは多少は見当つくものの、そんなオカルトチックな出来事がそうそう起こるとは考えにくい。
なら、おそらくは……。
(……ちぎりん)
一人の青年の顔が浮かぶ。生憎とその顔は先日の理子に向けられた笑みではなくいつも通りの仏頂面であったけど……。
(大丈夫だよね……?)
契自身の命と相手の命。その両方が彼の意思によって落とされていないことを祈りつつ、理子は足を少し早めた淡雪についていった。
「……お前は何者だ?」
セーラー服の少女は開口一番、契にそう言った。
路地裏で暴力を振るわれた直後かのようなボロボロのセーラー服、両腕には所々赤黒いモノが滲んだ包帯をバンテージのように巻き付け、長い前髪で目元に影を落とし、それながら鋭い眼光はこちらを貫いている。イメージをそのまま形容するならば、刀剣を少女の形に作り直したかのようだった。
「……」
契は答えない。H&K P7とS&W M60(チーフスペシャル・ステンレスモデル)の二丁拳銃の内、早打ちに優れたリボルバー式である左手に持ったチーフスペシャルをセーラー服の刀剣少女に突きつけてながら、ただ警戒をする。
契は戦い中に作戦を立てない。
彼は人間として、また動物として……あるいは生物としての本能
それ故か彼の戦いは『手加減』の一点に尽きる。ただ殺すために特化した技術で命を奪わずに戦うのにはそれなりの集中力が必要だ。
なので、目の前の少女の問いに応じない……否、応じることができない。ただいつ戦闘に入っても対応できるようにするため、それだけのために契は銃を抜いている故に、そして何よりも相手を殺さないために彼は戦いに於いて敵と言葉を交わすことを好まないのだ。
そんな契の個人的事情など知る由も無い刀剣少女は、自分の問いに答えなかったのは答える気が無いのだ、とでも思ったのだろう。実際は答えるという選択肢が契には無いだけなのだが、黙秘という選択権を取ったと解釈し小さく蚊の鳴く程の、しかし芯が通っている表現の仕方に困る奇妙な声で言う。
「もう一度だけ訊く。お前は何者だ」
「……」
契は答えない。口を噤んで、仏頂面を目の前の刀剣少女に向ける。
「気に入らないね。名前を訊かれたら答えるって言うのが筋だと思うけど」
そう言いながら刀剣少女は右腕に携える“村正”を握りしめ、
「まあいいや……そっちがその気ならこの星伽 霙のやることはただ一つだし」
左手を“村正”の柄にかけて、剣道で言う下段の構えに近い……下段の構えの刀身を自分の左半身の方に傾けた……体勢で砂利を踏んで足を前に踏み出した。
契は彼女の言葉に自分が星伽 霙……理子に刃を突きつけた張本人であるということを耳に刻みこみ、チーフスペシャルの引き金に力を込める。
「と言うわけだから――」
次の瞬間、星伽 霙の体がブレた。
「――
気付いた時には、“村正”の刀身が十分に届く範囲内に霙が接近していた。
腰を曲げて屈めた、突進をするかのように屈めた上半身に体重を乗せた体勢で契の懐に入り込み、そのまま刃を上方向に向けていた“村正”を掬いあげるように斜め上へと一閃する。
完全に不意を突かれた契は、その刃へ向けて咄嗟にP7を振り下ろした。瞬時の一手だが、暴発対策にマガジンを向くと言う一挙動を行なったせいか少しばかりタイミングが遅い。元忍者としての筋力の上乗せこそあるものの、それこそ形態性に秀でさせるために様々な物を犠牲にした小型拳銃であるP7が本来の用途以外で使われたことで無事なはずも無く、“村正”との衝突によってギィンという嫌な音が銃身全体を揺らした。
攻撃を相殺された霙は弾かれた“村正”を強引にもう一度契へと振るう。血飛沫は舞わずに、殴打のような鈍痛が契へと襲いかかった。刃ではなく峰の方だったのが幸いしたものの、契の体がそのまま数メートル単位でゴルフボールのように宙を舞った。
空中で体勢を立て直し地面に音も無く着地して、右手のP7を放り捨てる。直後に自分を飛ばした位置に居る霙に対して左手のチーフスペシャルを急所に当たらないように注意して撃ちこむ。
それに対しては甲高い金属同士の接触音が聞こえただけだ。夜目の効く目で見る限り、“村正”を上下左右に振っていたのでどうやら銃弾を“村正”で斬る……とまではいかないまでも弾いて防いだらしい。イ・ウーでもできる構成員が限られているような技を臆面の無く普通に使う霙に、少しばかりの畏敬の念を契は抱いた。
弾切れになったチーフスペシャルを放り捨て、その手に円柱状の物体を握る。
それをガリガリと地面を引っ掻きながら歩いてくる霙の足元に向けて投擲する。彼女の目の前の位置に落下した円柱状の物体は、そのまま轟音と閃光を撒き散らした。
M84スタングレネード。殺傷能力は無いが一時的に相手のコンディションに障害を加えることのできる一品だ。
あの距離でスタングレネードをくらって、まず平気な顔をしていることはできないだろう。
それは常識だ。そもそもそういった事の為にスタングレネードは作られた経緯を持っているし、目を瞑ったり耳をふさいだりすればある程度は緩和できるが爆心地でしかも両手は“村正”によってふさがっていたのだからそれは不可能だ。
それはちゃんと契自身が視認した。だがあくまでそれは常識の
契自身、この京都で星伽神社については嫌という程確認したことだ。
星伽神社の“武装巫女”は超能力という摩訶不思議な力を使う。現実ではありえないと一笑に付されてしまう非常識な事を常識として起こしてしまう、そんな存在。
それ故に、
例を上げるとすれば、その対象にすべき相手などすぐ目の前に居る。
足元でスタングレネードをくらった癖にそんな事実が無かったかのように立っている、星伽 霙という少女。
契が超能力の何が苦手かと言うのなら、こういった所にある。何の変哲もないただの武器を巧みに扱う“暗器使い”の彼にとって、そういった物が根本的な所からひっくり返すことのできる常識外の塊である超能力者は天敵に他ならないからだ。
その天敵という存在である星伽 霙は突き刺すような双眸を契に向けて言う。
「この程度?」
「……」
「なんでも応じず答えずなのはもう諦めたからいいけどさ。この“村正”狙って現れた奴だからもっと私は期待してたんだよね。なのにやっていることはこの前から遭遇していた武偵総員十七人と代わり映えしないし……もっと私を殺す気で来てくんないと面白くないんだけど」
武偵総員十七人。それは契と理子が京都に来る前に辻斬りされた武偵と、滞在中に被害に遭った武偵の人数の合計と同じであった。
つまりは、この星伽 霙が、その犯人。
「まあそんなんだからさ、次は私を殺す気で来てよ。武偵の連中は武偵法九条とかなんだかで殺人はできないみたいだし……唯一私の姿を捉えたSSRの数人もなんか拍子抜けだったし。まあそんなわけだから――」
胡散霧消した。何がと言えば霙の姿だ。
「――期待せずに期待することにするよ」
次の瞬間、霙は契の背後に現れていた。居合いの要領で“村正”で契を斬りにかかる。
血が、月に照らされて鈍く煌いた。