緋弾のアリア-秘密結社の殺人機-   作:ちーたら

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第三章:“鬼策”と“死神”(原作開始4年前)
第24弾:鬼蔵隷示は嘆息する


 少々やりすぎた感が拭えない。

「あー……ダメだ。もー少し手加減を覚えないといかんな」

 やれやれ、と他人事のように金色の頭を掻く。何重にも重ねて染められた毒々しさのある金髪は、揺れる炎による熱気により陽炎の影を写している。

 口からは吐息が漏れる。瓦礫の椅子に胡坐をかいて、肩に三メートル近い大薙刀、“岩融”を担いでサングラスの奥の目を細める。

 周辺に転がるのは無残な建物跡。既に陽が落ちているために残骸の瓦礫から上がる僅かな火の手は暗闇の中に嫌に栄える。

 現実から逃避するようにその光景を演出した張本人、秘密結社イ・ウーの尖兵たる二つ名“鬼策”を関する大男、鬼蔵隷示は風景の一つになっている焚火のような炎に煙草を近づけ、そして一服吹かす。

 そして一度落ちついて、自分が現在置かれている状況を冷静に頭の中で整理し、そしてその整理した内容を目の前でおきている事象を照らし合わせて、そして思った。

「面倒なことになったもんだ」

 彼の瞳に映るのは、数十人の十歳にも満たない子供たちだ。

 ユーラシア大陸でも広大な土地を誇る国、中華人民共和国。やけに貧富の差が激しくて本当に共和してんのかよと個人的にツッコミたくなる国に、隷示は上役の土御門蓮華からの指令を受けて不法入国していた。

 そこで隷示はいくつかの『社会的には存在していけない組織』……要する所の違法組織をいくつか潰してそこの資金を横流ししてイ・ウーに入れる、というかなり簡単な仕事を実行に移し、それを完了させた所だった。

 ……だったのだが。

「こりゃ潰す組織の選択をミスったか……本当、現実はままならねぇな」

 隷示が潰したのは、時代錯誤を感じさせる事をしていた組織だ。

 要する所の、人身売買組織。

 つまりここにいる子供たちは、みんなこれから売られる運命にあった命だ。

「本当に、どうしたもんかねぇ……」

 隷示は煙草の煙を肺に入れると、それをまたゆっくりと吐き出して考え込む。彼が考えているのはもちろん、この子供達の今後についてだ。

 まあ順当に行くならば、親の元へ返すのが一番だろう。一番だろうけど、しかしそうはいかないのだ。

 まずにここにいる子供たちは全員が共通して中国人のようだが、その中国は世界一の人口を誇る国であり、その分土地が広すぎる。この子供たちはいったいどこから連れてこられたのか、という問題であり、要点をまとめれば近場以外の所から連れてこられていた場合隷示一人の手では親元に帰すことなど不可能極まりない事である。

 第二に、この子供たちがここにいる理由である。単純に誘拐紛いによって非合法的に連れてこられたのならまだ良しとしようにも、無くは無い可能性……つまり、今さっき潰した人身売買組織が貧しさから子供を手放したいという親から子供を買っていたとしたら。親元に連れて言っても断腸の思いで(そうであると信じたい)子供を売った決死の覚悟を踏みにじり、さらには飢餓の渦へと追いやってしまうかもしれないのだ。

 選択肢の中で言うならば放っておくというのも一つの手だろう。だが、それはそれでまた随分と後味の悪い物だ。

 だからと言って一番無難な方法……警察や武偵という組織に預ける、という方法は国家機密で追われている秘密結社イ・ウーの構成員たる隷示の立場上自らの身を危険にさらす可能性すらある。子供達を可哀想と思わないわけではないが、イ・ウーに所属している時点で彼が子供達より自分の身の安全を優先すべきなのは明白だろう。

 頭をガシガシと掻きながら、他の可能性などを考える……と。その時、一人の子供が隷示に近づいてきた。そばかすが特徴的な五歳くらいの女児だ。

「ん、どうした?」

 中国語で問う隷示。それに女児は隷示の袖口を引っ張って、瓦礫と化した廃墟の一角を指さした。

 そこは、不思議と建物の残骸がしっかりとしていた――残骸がしっかりとしているというのは少しおかしい気もするけれど――個所だった。建物跡が基本的に壁も砕かれて吹きさらし状態になっているにも関わらず、その箇所だけはぽつんと寂しげに形をかろうじてではあるが残している。

 目的の金品は全て回収していた(補足するなら、隷示一人でボストーク号まで運べる最大容量に既になっていた)ので放っておいたのだが。

「あそこに、なにかあるのか?」

 こくん、と女児が頷く。その表情はどこか寂しさすら感じさせる物である。

 そう、それはまるで段ボールの箱に入れられて公園に放置される捨て犬のような、そんな顔が。

「……しゃあねぇか」

 つくづく自分も甘いな、とか思いながら重たい腰を上げる。肩に担いだ“岩融”を構え、それを一息の間に振り抜き、形を残していた建物の一角の壁をだるま落としのように誰も居ない方向へ吹き飛ばすという形で障害物を撤去した。

 撤去して、その奥にあった光景を、そして居た人物を見た。

 その場所は、どうやら牢屋だったようだ。それこそ、先ほど隷示がこの組織をぶっ壊す際に子供達がまとめて入れられていた場所に構造は瓜二つのそっくりだった。

 だが、そこにいた人物は子供達が数十人単位でまとめられていたのに対したったの一人であった。さらに言うなれば子供たちよりも厳重な元にいたのか子供たちには付けられていなかった鎖付きの手錠で両手両足を壁に繋がれている。他の牢屋が隷示が暴れ回った事で倒壊していたのに対しここは無事だった事を踏まえれば、拘束した側の人間のどうしても逃がしたくなく、堅牢に守るべき存在と言えるのだろう。

「なんつーか、随分とまた面倒なことに首突っ込んじまったみたいだな……」

 直観でそう感じ、隷示は一人呟く。

 その理由は、そこにいた人物……彼女(・・)の顔を知っていたからだ。

「……なんだワレ。はよぉ助けんか」

 その人物は鎖に繋がれているとは思えない程に強気で喧嘩腰な態度で隷示に命令してきた。

「随分とまた、なんとも豪傑と言った感じだな。初対面の相手に対してそんな態度であろうことに命令してくるとは……」

 いや、それも当然か、と隷示は言葉を呑みこんで中断する。そしてやれやれといった感じで“岩融”をもう一度振り、牢屋の鉄格子を粉砕して刃の切っ先で彼女を戒める鎖を断ち切った。

「これで満足か?」

「フン、できるんならさっさとしろ」

 偉そうな言い方をしたのは少女であった。隷示よりは一回り年下、と言った感じでおそらく高校生あたりだろう。

 そしてなにより、着ている服がそれが事実であることを物語っていた。

 要する所の、香港武偵高校の制服だ。

「現状を察するに、人身売買組織の情報を掴んで特攻したはいいものの、うっかり敵に捕まってしまった、って所か?」

「黙れや。助けられるモン助けようとせずに奥で手を拱くなんざまっぴらごめんなだけや」

「その肝っ玉の大きさは評価するけどよぉ、それでも向う見ずなのは勇敢とはまた随分と違うことだぞ?」

 武偵の少女は、その言葉に威嚇で返した。やれやれ……と、煙草を余裕のある表情で吹かしながら隷示は彼女が繋がれていた牢屋を漁り始める。

「……、なにをしてる」

「なにって、金目の物がないかどうか漁ってんだよ。たかが牢屋を堅牢にするためだけにこの一角の強度が他より強いとは考えにくいからな……と、ほらこの通り」

 隷示はそう言うと、牢屋の隅にそれがあるのを見つけた。簡単に言うならば、推理小説に登場しそうな地下室へ通ずる下り階段である。

「牢屋は一種のカモフラージュだったって所か。つーことはお前さんがここに閉じ込められていたのは案外、子供たちがいた牢屋が定員オーバーだった、って所か?」

 狭い階段を下りていくと、武偵の少女が拘束されていた牢屋の床面積より少し広い地下室が広がっていた。

 まるでどこかの大学の図書館を思わせる数の本棚と、そこに並ぶ数多のクリアファイル。適当に手を伸ばして開いてみれば、それは今まで売ってきた物の商標リストや取引先の情報であった。

「一番年代の古い物で五十年以上前の物、か……。こりゃまた老舗を潰してしまったもんだな」

 やれやれと嘆息する。言葉は気軽な物であるが、長い年月存在した組織を潰したと言うことはその間にあった売買する組織間のパイプがそれだけ多いということであり、その多くの組織にあった利益の補充を潰した事である。つまりを言えば要するに間接的にその多くの組織を敵に回したことに他ならない。それこそ、イ・ウーという後ろ盾がなければヤバいほどに。

(まあ、イ・ウーがなけりゃ俺はこんな所に来て潰すこともなかったし、運の善し悪しで言えばあの武偵娘の方が評価されんだろうけどな)

 適当に金目の物が無いか漁って行くうちに、途中で厳重な棚があることに気付いた。露骨な程に重要書類がまとめられているということを言外に示しているような棚である。

 何個も掛けられている南京錠を“岩融”で粉砕し、その棚の引き出しを開ける。と、そこには拍子抜けしてしまう程に、ファイルが数個だけ入っているだけであった。

 その中の一つ、黒塗りのそれを手に持って開く。

 ファイルにまとめられていたのは、簡単に言えば犯罪の計画書だ。一番最初のページにあるのは先ほどの商標リストの一番最初の欄と同じ年の記録。色焼けした書類にはアメリカの政治家の暗殺計画が記されており、それが成功した事が後に書き加えられた跡がある。どうやらこの組織は人身売買以外にも犯罪の計画もやっていたようで、その人員確保の意味も人身売買にはあったようだ。

「フランスでは殺人事件、ロシアの諜報員、北朝鮮の人体実験組織の隠ぺい……外国との取引が多いな。逆に国内はかなり少ないときたか」

 ついさっき自分が開放した武偵の少女のことも踏まえて、この国の中の裏社会では有名な組織なのだろうと見当をつける。人身売買組織の老舗という点も見れば合点もいくことだ。

 棚にあるクリアファイルを適当に目を通し、そして年代が現在に近づいていく。

 そして、ある項目を見つけた。

「こいつぁ……」

 隷示が見つけたのは、とある資料。さらに言うなれば、とある国の貴族の娘の誘拐を目的とした計画書。

 その書類にはターゲットの一人の少女の名が書かれている。

 ――神崎・H・アリア。

 秘密結社イ・ウーにとって、最重要の機密事項に抵触する少女の名である。

 

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