緋弾のアリア-秘密結社の殺人機-   作:ちーたら

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あまりにも長くなりすぎたので三分割。


第33弾「だけど、お願い。私にあなたたちを守らせて」(前編)

 逃亡者、“偽装十字団”。

 追跡者、“百鬼夜行”。

 元からあったこの構図に、さらに加えられたのは“偽装十字団”の“百鬼夜行”に対するメインの対抗手段“迷森”と“濃霧迷宮”の消失という至極簡単かつ絶望的な事実。

 故に。

 “偽装十字団”の面々は予備に一応として用意していた極めて予備としか扱えない罠を使い、“百鬼夜行”から逃げ切らなくてはならなくなった。

 そんな中、“偽装十字団”駐屯地に待機していた本渡航率いる本隊……本渡率いる主戦力を固める本渡班、別働隊との通信参謀を務める牛深班、状況把握が主目的の有明班、そして先に合流した結界作成に特化している御所浦班、河浦班、そして駐屯地を確保していた五和班。

 現在六つの班が本隊として合流しているわけだが、その他に現在進行形で別働班として行動をしている三つの班がある。

 栖本弥夏(すもとみか)率いる栖本班。

 新和慎之介(しんわしんのすけ)率いる新和班。

 倉岳雪路(くらたけゆきじ)率いる倉岳班。

 本渡や牛深、有明らと同じく“偽装十字団”の結成当初からいる者たちの末裔にして、“偽装十字団”内にて幹部に値する役職についている彼ら。

 別働隊という、最も危険な役割を果たすために指揮官として行動していた彼ら。

 彼らを含む計数十人の別働隊のメンバーたちは、命の危機に瀕していると言っても過言ではないだろう。

 ――南西。

 栖本弥夏は自分たちの後方から迫る、圧迫感さえ感じる巨大な無数の気配に冷や汗を一筋流していた。

 元々は、“百鬼夜行”からの追手を“迷森”と“濃霧迷宮”の二重結界の中に誘導して隊の小分けを誘導する役割、要する所の囮であり作戦の要役であった栖本班。

 機動性と何よりも隠密性に優れた面々を選抜して作られた栖本班は、俊敏なメンバーが集められた分隊である。

 無論その班長を務める栖本もその例外ではなく、“偽装十字団”にて最も足の速い者はと言えば他でも無い彼女のことである。

 それだけでなく、普段から口を噤んだ凛とした表情や黒のおかっぱ頭から伸びる意思の強い瞳などから、クールビューティという形容詞は彼女のためにあるのではないか、という程の才女であった。

 しかしながら、そんな彼女にいつもの冷静さは見えなかった。

(……くっ、敵の行動が速すぎる……っ!)

 歯噛みして他の面々に目配せをする。彼らはアイコンタクトで了承の意を示すと、統制のとれた動きでばらばらに散開する。

 彼女率いる栖本班は“偽装十字団”の忍者部隊と常日頃から呼ばれ、名高い。

 蝶のように舞い、蜂のように刺す。ヒットアウェイ戦法を最も得意とする諜報組織然とした彼女たちであるが。

(なにがなんでも相性が悪すぎる……よりにもよって、先陣部隊か!)

 “百鬼夜行”攻勢部隊、最高幹部“八妖の蓮”の一角、狒々の率いる先陣部隊。

戦にて常に一番槍として戦場を荒らし回り、“百鬼夜行”の勝利へ導いて来た、攻撃特化の戦闘部隊。山のような巨体を誇る狒々、そんな大将自らが先頭に立ち、自ら戦友と呼ぶ部下たちを鼓舞して戦場を突きぬけるその姿はまさに一本の槍。

 そんな狒々の先駆けからの煙々羅の後詰めという一連の流れは“百鬼夜行”の常勝戦法にして不落戦法としてさえ言われ、かの“星伽神社”もその脅威に警戒をしているとはオカルト界隈では有名な話だ。

 そしてもう一つ、栖本が苦汁を呑まされている理由。

(気配接近……また(・・)先回りさてれいる……くそ、サトリか!)

 サトリ。

 人の心の内を読み透かす能力を持つ妖怪。“百鬼夜行”最高幹部“八妖の蓮”が一角“剛巨兵”狒々の副官として名を馳せる名脇役である。

 ぞん!と再び接近する気配。栖本班は必死にその追手から逃れようと突き進む。

 ――南。

 新和慎之介は自らが指揮を務める班の殿となりながら罠となる術を森のあちらこちらに張り巡らして逃走をしていた。

 “迷森”と“濃霧迷宮”、本渡率いる本中隊と御所浦班、河浦班と共に結界の展開、それからの中心区での最後の微細な調節、そしてなによりも結界自体を起動させる役割を担っていた、本作戦に手最も重要な部隊である。

 その指揮官である新和と言えばどこか掴みどころの無い、そして胡散臭い笑顔を顔に張り付けた長身の青年であり、しかし線が細い為巨体という印象を与えないのが常であった。

 しかしながら、そんな営業スマイルのような作った笑顔も、この時ばかりは確かに曇っている。

(“爆導縛(ばくどうばく)”設置……これでいったい何個目だ……?)

 自身が最も得意とする術式、超能力分野の地雷に相当する術、“爆導縛”を一瞬の間合いで設置する。

 本来であれば無数のそれを繋ぎ合わせ、敵が踏んだ時辺り一帯に設置した同術で広範囲を吹っ飛ばす術も、今この状況では僅かばかりの足止めにしか使えない焼け石に水である。

 気の遠くなるような作業……しかし敵を罠にかけるために敵本陣の真正面にいなければならなかった都合上、最も索敵されやすい立場にいるのが彼らである。ベルトコンベア状の商品をひたすらチェックするような単純でありながらしかし複雑な作業を永遠と繰り返さなければ、彼らの身が危ない。

 ……と。

 ばぎゅんという破裂音が木霊する。

(なっ……近い、いや、近すぎる。まさか……)

 “爆導縛”。自身の仕掛けた術式が起動した、即ちその範囲まで敵が来ているという事実に、その音の発生源との距離を耳で測って新和は驚愕する。

 “百鬼夜行”攻勢部隊、最高幹部“八妖の蓮”が一角“煙軍師”煙々羅率いる後詰部隊。

 将帥となる煙々羅の二つ名の通り、援軍としての色が強く、第二陣として戦場に現れる部隊。常であれば、先陣部隊が取りこぼした穴を埋める形で活動する戦闘部隊である。

 しかしながら後詰将帥の詰将棋を差しているかのような手際の点を言えば、このような逃亡戦(“百鬼夜行”から見れば追撃戦)に於いて、最も少ない行動で“偽装十字団”を追い詰めることが可能である、とは従妹の五和明理(いつわあかり)の言葉だったか。

 兎にも角にも。

 “爆導縛”の発生座標から鑑みるに、“百鬼夜行”の手勢はすぐ近くに迫っている。

 新和は額をなでる嫌な汗を拭い、新たな“爆導縛”を設置する。

 ――駐屯地。

 倉岳雪路をどんな人間と称するかと言うならまず出てくるのはかなり怠惰な人間であるということだ。

 自堕落な生活面然り、面倒事を同期の本渡に押し付ける性質然り、彼女を模範に出来るかと言えば確実に否で、時には一日中酔い潰れていることすらあるのだから、それはきっと典型的な駄目人間となるのだろう。

 しかしながら、そんな彼女ではあるが締める時はちゃんと締める人間である。故に仕事ができる駄目人間となっており、それは此度の出来事にもかなり影響を与えていた。

 それは、倉岳班の駐屯地への合流である。

 “迷森”と“濃霧迷宮”が“廃材の案山子”による“犠獄咆”によって破られてから実に十三分と四十一秒後。

 “偽装十字団”本隊へと合流を果たしてからの彼女の行動は速かった。

「航、例の術式の準備は?」

「大体八十パーセント強ってところだ。あと一時間……いや、五十分はかかる」

「わかった。ここは俺が術式の起動をサポートする。由良、志信、手伝え」

 自らの弟子である宮田由良(みやたゆら)棚底志信(たなそこしのぶ)の二人を引きつれて、彼女は五時間程前から起動準備をしている五和明理の元へと赴く。

 駐屯地のすぐ隣、五和というポニーテールの少女と彼女率いる五和班……そして周辺警護をしている必要最低限以外の“偽装十字団”の面々は無数の十字架を決まった形に置いた術式を展開していた。

 集団座標転移術式“否境巡り(ひきょうめぐり)”。物理的な距離の境界線を崩し、座標Aと座標Bを繋ぎ合わせる……単に言ってしまえばテレポーテーションを行なう術式である。

 淡い紫色の光で形成されているのは決められた形に置かれた十字架同士が共振し合うことで形成される“否境巡り”の紋様。円を描いてその中に無数の図形が描かれている様式は、複雑な図形問題を見ているかのようだ。

「明理、手伝うぜ」

「ええ、助かります」

 女性アスリートのような体躯の持ち主である倉岳は、そう言うと宮田と棚底の二人と共に紋様の円周上に参列する。

 首から提げられていた十字架のネックレスを取りだし(これは“偽装十字団”の構成員全員が持っている物だ)、目を閉じると術のために力を“否境巡り”に送る。

 すると、“否境巡り”の光が一段と強くなる……倉岳雪路の高い才能による賜物だ。

「すげぇ……」

 と呟いたのは誰か。たった三人の加入により、“否境巡り”の構築速度が上がった故の感想である。

 “否境巡り”は結界の一種である。それを“迷森”と“濃霧迷宮”、二つの大結界を結び合わせ“偽装十字団”の連携で使う上で最適化した形に造り替えた張本人である結界術の専門家、倉岳雪路とその班の構成員が参加すれば当然の結果であった。

 普段は本渡に怒号と共に追いかけまわされる倉岳であるが、今、その姿は“偽装十字団”の面々にとって、とても頼もしく思えた。

 

 

 

 

 

 しかし。

 そんなところで。

 “百鬼夜行”からは逃げ切れない。

 




増え続ける名有りのモブオリキャラたち。
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