緋弾のアリア-秘密結社の殺人機-   作:ちーたら

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第35弾「だけど、お願い。私にあなたたちを守らせて」(後編)

 ――南。

「……、」

 新和慎之介を始めとした新和班を追い詰めた煙々羅は唯一、それ(・・)の接近に気付き、眼下に見下ろす新和から目を外した。

「いかがしたのですか、将帥」

 その傍ら、副官である鬼一口が自らの将帥の不可思議な行動に疑問を呈する。

 物理的な鉄面皮の煙々羅は、自らの“煙群増境”の中の異変に、こう言う。

「……影が、近づいてきている……」

 そして、それは唐突の出来事。

 ――駐屯地。

 己が必殺の大技“犠獄咆”のいざ放とうとした瞬間、がしゃどくろは自らの上から迫りくる巨大なチカラを察知した。

 それを見ようと視界を上げる……が、もう遅い。彼の上から、がしゃどくろの十メートル以上の体躯を遥かに超える超巨大な十字架が隕石のように降ってきたのだ。

「んなぁアにがァ――」

 そこまで言葉にして、がしゃどくろは巨大な十字架に押しつぶされる。

 首の付け根の骨に轟音と共に衝突した巨大な十字架は、その衝突と同時に眩い閃光を辺り一帯に放つ。

 その閃光に呆然自失となる本渡を始めた“偽装十字団”の面々。しかしその閃光の消失と共に現れた一つの光景が、その意識を変えた。

「封、印……?」

 巨大な十字架が墓標のように、先ほどまでがしゃどくろがいた場所に直立していたのだ。

「いったい、どうなってるんだ……?」

 “偽装十字団”の象徴である十字架と言えど、自分たちはがしゃどくろを封印することができる程強力な術式を用意した覚えは無い。そもそもそんなことができるのならば真っ先に敵の追撃者に対して使っている。

 ということは、“偽装十字団”でも“百鬼夜行”でもない第三者による物だと考えられるが、今の自分たちにそんな援助をしてくれるような組織に心当たりなど毛頭無い。

 そこまで考えた所で。

「……!誰か上にいます!」

 牛深の声で、本渡は十字架の上を見る。確かに彼女の言う通り人影が一つ、十字架の上に立っていた。

 そしてそれは。

「ま、さか……」

 人影は体重を重力に任せるように十字架から飛び降り、そして音も無く着地する。

 その人影、自分たちを窮地から救った人物に残る彼女の幼少期の面影から、この状況で彼女が来た事、そしてなにより立派になったその姿を見て、本渡は息を呑んだ。

「別に、こんなことが私の罪滅ぼしになるとは思わない。私はあなたたちからの期待に答えることが怖くて逃げた。それは変えることができない過去。だけど、それでも私の自己満足だけど……」

 シャンパンゴールドの髪を二つに結び、女性向けのファッション雑誌に載っているような服装。スレンダーな体格も合わせてファッションモデルを見ているかのようと錯覚さえしてしまう。そして何よりも、無数の十字架が彼女の周りに浮き漂っている……これは明らかな超能力現象である。

「……だけど、お願い。私にあなたたちを守らせて」

「団長……、汐織、なのか……?」

 本渡のぽかんと開いた呆然とした表情に、人影……天草汐織はくすりと笑う。

「変わってないわね、航兄さん」

 それだけ言うと、汐織は腰に帯剣している十字架を模したレイピアを抜き放つ。

 それに応じるかのように、汐織の周囲を滞空していた十字架が動き出した。それらは一瞬の内に“偽装十字団”を取り囲んでいた“廃材の案山子”の方へと向かっていくと、その水晶のような飾りより青色の一筋の光を“廃材の案山子”へと撃った。

 撃って、“廃材の案山子”を粉砕した。

 それを確認して、汐織は再び本渡に笑いかけるとすぐに向き直り、そしてレイピアを全の意へと向けて、閃光をその身に纏い汐織は一筋の煌きと成る。

 ――南。

 そのような出来事を知覚し、そしてそれを起こした張本人が真直ぐこちらへと向かって来ていることを理解した煙々羅は大声を張り上げて命令を下した。

「左翼小隊、その場より――」

 そこまでだった。

 その次の瞬間には、煌きが左翼の部隊のど真ん中へ牙を剥いていた。

 響き渡るのは絶叫。一瞬の間に、絶叫の中心区にいた後詰部隊の構成員たちの命が風の前の塵のように吹き飛ばされる。

 しかし閃光はそれだけでは飽き足らず、真直ぐに煙々羅、そして彼の背後にいる後詰部隊本中隊の方へと向かってきた。

「将帥!」

 それを庇うように立ちはだかる二頭身の怪物、鬼一口は巨大な大牙の揃う大口を開けて、それを向かい打つ。

 直後の衝突。

 押し負けたのは鬼一口。真後ろへと吹っ飛ばされ、中隊の妖怪をいくつか撒きこんで後ろの樹木へと衝突する。

「ぐぃ、あ……」

 幸い、鬼一口までもが打ち取られるという状況までには発展しなかった……が、その体に受けたダメージは彼が戦闘続行できないということを言外に示している。

 そこで閃光の煌きは消滅し、中から汐織が姿を現した。

「……たかが一撃で、私の左翼を粉砕したか」

「本当は、このまま流れであなたたちを全滅させるつもりだったんだけどね」

「……がしゃどくろを一撃で封印するその技量を持ってすればそれも不可能ではない、か」

「あんな容量の大きい怪物、完全封印なんかできないわ。せいぜい持って一時間半、ってところね。でもそれだけあれば十分だから」

 そう言って、汐織はレイピアの切っ先を煙々羅に向ける。

「将帥!」「煙々羅さま!」「将帥殿!」

 後ろで口々に自分の安否を気にする兵。その素直な可愛さに、煙々羅は暫しの笑みをこぼしながら言う。

「……成る程。がしゃどくろ、そして私の部隊との戦いを膠着状態にすることで、“偽装十字団”を守ったか……だが、我らが追撃するのはまだいたはずだが?」

 心を揺さぶる言葉。しかし、汐織の表情は変わらない。

「大丈夫よ。だってあいつらが行ってくれたんだもの」

「……あいつら、だと?」

「そう。仏頂面で無愛想だけどこういうことに滅法強いのと、普段はアレだけどこういうことに関してはかなり頼れるのがさ、私なんかのために一肌脱いでくれたんだから」

 ――南西。

 栖本班に襲いかかろうとした先陣部隊。しかしながらその直前に起きたのは予期せぬ事態だった。

「がぁ!?」

 まず狒々の耳に入ったのはそんな呻き声。一つだけではない、その呻き声が様々な者の中で伝播していき、そして近づくたびに明瞭になって行くのは肉を潰す音。

 突如戦場に現れたのは白い頭。不自然な程に、不気味な程に、薄ら寒さを纏っている白い髪。それが腰あたりまで伸びた人間。

 彼はその両手に持った巨大な金槌を己が手足のように振り回す。

 先陣部隊の構成員、その最前線にいた者らの体にまっすぐに食い込み、頭部を砕くそれらはどこか処刑道具のような雰囲気を持っている。

 その存在に狒々の体が自然のその方へと向く……自ら戦友と呼ぶ者らに振りかかる火の粉を払わぬ理由など彼にはない。

 拳を振り上げる。それを察知したのか、白い頭の男は少し狒々の方へと目を向けると、手に持っていた巨大な金槌を惜しげを見せることなく放り捨て、懐から二丁の拳銃、ジェリコ941とS&MM686Plusを構えて狒々へと打ち鳴らした。

 空気の破裂音が連続する。狒々へと襲いかかる鉛玉はしかし、その分厚く頑丈な鎧のような体には通らない。

 白髪の男に向かい、拳を上げる。それを羽虫を潰すかのように殴打しようとして。

「まあまあ、そう焦りなさんなって。結果を出すのにはまだ随分と早いぜ?」

 真正面から受け止められる。

 そんな事を言ったのは、狒々の攻撃を真正面から素手で押し止めた男。重ね染めされた毒々し金髪に左目を横断するように刻まれた痛ましい傷痕。そして目元のそれを部分的隠しているのはマジックミラーのレンズでできたサングラスだ。

 悪戯が上手く行った少年のような笑みを浮かべるサングラスの男。直後、肩上のサトリが叫ぶ。

「気をつけロ!後ろの奴が行動しようとしているゾ」

 その言葉に、狒々は何もためらうことなく空いているもう一方の拳を握りしめて“覇戦頂”を放つ。

 その破壊力を知ってかしらずか、白髪の男は自分の足元に転がる巨大な金槌を拾い上げ、サングラスの男は自分が受け止めていた方の狒々の腕を蹴りあげてその場から離脱する。

 そして、二人の男がいた場所を抉る“覇戦頂”の轟音。

 “覇戦頂”から逃れた二人の男は、あろうことは追い詰められた栖本班と先陣部隊の間に、立ちはだかるように……否、実際に立ちはだかって相対する。

「貴様ら、何者だ」

 狒々の問いかけ。まずそれに答えたのはサングラスの男。

「鬼蔵隷示」

 その次に、白髪の男が呟くように言う。

「……契」

 そして、それらを締めるかのように、サングラスの男がこう言った。

「大切な仲間の仲間を助けるためにここに来た、通りすがりのイ・ウー構成員だよ」

 

 

 

 

 

 一方的な追撃戦に、新たな要因が投入された。

 秘密結社イ・ウー。世界に名だたる怪物たちの巣窟。

 怪物と怪物の激突が、今、始まる。

 




主人公勢、登場。
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