ガンプラじゃなくてもビルドファイターだ! 作:タロウMK-Ⅱ
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息苦しい。額から流れ出す汗が止まらない。
「バトルじゃないはずだったのにな」
確かめたいことがある言いながら、やっていることはガンプラバトルだった。
半壊したアルトアイゼンは木々を薙ぎ倒しながら地面に横たわる。もう動く力は残されていない。
【Battle Ended】
馬坂のシナンジュに目立った損傷はない。2、3箇所かすり傷があるぐらいだ。
「古宮君、本当にこれでよかったの?」
「手加減不要でよかった。おかげで反省点と改善点が見えてきた」
体は辛いはずなのに笑みが浮かんでくる。苦しいのにそれが心地良いとはこのことだ。
アルトアイゼンは半壊してしまったが得られたものの方が遥かに大きい。これで新しい機体の製作に取り掛かれる。
「それじゃあ部室に帰ろうか」
馬坂に促されバトルルームを出る。
そういえば、加倉と白樹さんは何してるんだろう?
ヴァイスリッターを作ると口約束しながら、いざとなったらバトルしに消えてしまった。自分の行動を振り返ると理解不能だろう。
説明不足だったから怒られるよな。
少々の文句を覚悟して部室の扉を開く。
「あら勇登、もっと遅くなるかと思ったけど案外早かったわね」
「ちゃんと迷いは振り切れたか」
姉さんと加倉が白樹さんの工作スペースの横に立っていた。
「勇登先輩お疲れ様です。バトルの方はいかがでしたか」
あら、案外3人とも怒っていない?
「満足のいくバトルができた。モヤモヤしていたものが晴れた感じだ」
俺は3人の近くに行き、工作スペースを見渡し作業工程を探る。ウイングゼロの各部位がバラされてあり修復している途中だろう。
ヴァイスリッターには手を加えていなかったのか。
「あんたのこと待ってたんだから、得てきた感性をここで説明してみなさい」
姉さん、白樹さん、加倉、3人とも俺のことを信じて待っていてくれたんだ。
深く息をつき、鼻と口両方から空気を取り入れる。
「たぶんこれからの製作はパーツ単位で改造を施すことになる。スクラッチしてもらう部位もあるかもしれない。俺も始めての挑戦だから上手くいく保証はない。それでも付き合ってほしい」
俺は頼み込むように頭を下げた。ここまで人に物事を頼むのは人生で初だ。
無謀な挑戦なのは承知している。
近所の町興しの大会みたいなものに必死になりすぎていることも分かっている。
ただ自分の思い付く最高プラモデルを押し付けているだけかもしれない。
「お付き合いしますよ。私もチームの一員です」
真っ先応えてくれたのは白樹さんだった。
「となると、白樹の分だけじゃなく俺達のプラモデルも強化しなくちゃいけないぞ。目処は立っていないがやるしかないな」
加倉もやる気を出してくれた。
「ところで、場所はどうするの? あんたら部員じゃいんだからね、いつまでもプラモデル部にお世話になる訳にはいかないでしょ」
姉さんの言うとおりだ、場所までは考えていなかった。3人分となるとそれなりの空間が必要となる。
すると白樹さんが挙手した。
「高校のすぐ近くのアパートで1人暮らししているのですが、いかがですか?」
「女子の部屋に男二人が上がり込むなんてダメだから!」
即座に却下する。白樹さんは何所か距離のある感じだが、親しい仲でも口にし辛いことを平然と話すことがある。
「勇登は意外とムッツリだからな」
「だれがムッツリスケベだ。嘘を言いふらすな」
俺は思ったことを軽々しく喋らないだけで心の中に止めておいているだけだ。
「もう私達の家でいいんじゃない。作業工程説明するのも勇登なんだし、私も手伝えるし一石二鳥よ」
姉さんからの提案だ。家での権力は俺よりあるため、母さんを説得できるかもしれない。
「細かいことは母さんとも打ち合わせしなきゃいけないから、決まったら後ほど連絡する」
結局、俺は誰かの助けがないと何もできない弱い人間だ。姉さんに指摘されたとおり、自分の味や技を持てるような奴じゃない。他人の真似をするだけでやっとだ。
自分で獲得したものなどあっただろうか、全て誰かから与えられたものばかりだ。
だとしても、こんな俺でも、力の限り尽くしてみたい。そう思える。
プラモデル部の活動はまだ続いていたが、俺だけ先に帰ることにした。
3人分のプラモデルを改修するのだ、プラ板、パテ、接着剤等を買い足しておかなくてはならない。代金は家に集まった時に回収しよう。
バスに乗りシロガネスーパー2階へ直行する。
「珍しいね、古宮君1人かい」
おもちゃ売り場のプラモデルコーナーで鳥沼さんに話しかけられる。
「地区予選に出場しても負けないぐらいのプラモデルを作ろうと思いまして」
「昨日の負けがよほど悔しかったのかい。ゴールデンウィークの大会にも出場してくれるんだしちょうどいい機会かもしれないね」
製作に使う道具以外にも、調達しておくべき物はあっただろうか。
陳列棚にざっと目を配る。
「君達が大会の台風の目に成ると約束してくれるなら欲しいプラモデルを奢ってあげよう」
「どうしたんですか、金回りでも良くなったんですか」
「実はね、今年の大会は例年より盛り上がりそうなんだ。出場チームも過去最多だし、地方のテレビ局も来る予定だよ」
テレビか、ガンプラじゃないから必要以上に注目されそうだ。勝ち残れば良い意味で目立つが、負ければ笑いものだ。
「古宮君に加倉君はここらでちょっとした有名人なんだ。君らの活躍を世間に見せ付けるのは今だよ」
直向に積み重ねてきた努力がここにも響いてきたのか。加倉にも後で教えなければ。
「汚い言い方をすれば、君達が有名になれば店舗の名前も売れるって訳さ」
なるほど出資者ということか。
「わざと悪くしなくても構いませんよ。優勝できるかは分かりませんが台風の目に成ってみせます」
俺は陳列棚から1つの箱を指差す。アルトアイゼンの強化型にして弱点を克服補う改良ではなく長所をより伸ばした『アルトアイゼン・リーゼ』。
「大会にはこいつで出場します」
「古宮君らしい。期待しているよ」
シロガネスーパーでの買い物を済まし帰路に着く。
明日から本格的なプラモデル製作に取り掛からなくてはいけない。白樹さんにはしばらく部活動を休んでもらうことになる。
部活を欠席させてまで参加した甲斐があったと思えるようにしなくては。
バスから降りてとぼとぼと歩いていると自宅前で姉さんと再会する。
「物品の買出しは順調にいった?」
「予定の物は買えたから順調かな」
玄関の鍵を開けて入る。
「それにしても茜ちゃんって礼儀正しい子ね。勇登達には勿体無いぐらい」
出会って一日で名前を呼ぶ仲になったのか。コミュニケーション能力の高い姉だ。
その後も姉さんから学校での出来事を聞かされた。学生ではなく特別講師という立場がよほど珍しかったのだろう。
「夕食後、ガンプラバトル選手権世界大会の振り返りとプラモデル解説を録画したんだけど一緒に観ない」
「リアルタイムでも半分ぐらいしか観れなかったから観返したいな」
世界レベルとなると地区予選のプラモデルですら鼻で笑われる。
世界に名を驚かせた日本人といえばメイジン・カワグチだ。現在で彼以外に有名な人物といえば、イオリ・セイ、ヤサカ・マオの2名だろう。
2人とも俺より年下なのにビルダーとしてもファイターとしても日の丸を背負う実力がある。彼等と比較すれば誰だって劣ってみえる。まぁ、比べる相手が悪いか。
夕食後、リビングで録画した動画を再生する。
リアルタイム時は何回も入るCMが嫌で観る気をそがれたが録画なので早送りができて快適だ。
「勇登の好きな選手やプラモデルは何なの?」
「ガンダムX魔王かな。サテライトキャノンというロマン武器に実用性を持たせたところが格好良かった」
謎の衝撃波を放てるのも、月からのマイクロウェーブが無くてもサテライトキャノンを発射できるのもプラフスキー粒子を熟知しているから出来る技だ。
近年の強豪とされる機体はプラフスキー粒子をどの様に利用するかに関わってくる。
『イオリ選手のスタービルドストライクが初登場した時は会場がざわめきましたね。これまでの常識を打ち破る新しいガンプラでした』
テレビ的には優勝した人を推すのも無理はないか。確かにガンダムX魔王よりも斬新で新旋風を巻き起こしたことに違いはない。
「母さんもこのスタービルドストライクってカッコイイと思うわ。なんだか綺麗よね」
いつの間にか母さんも一緒に観ていた。
「そう、特に光の翼が綺麗よね」
アルトアイゼンにも光の翼を付ければ美しくなるだろうか。いや、それなら加速してエネルギーを纏い弾丸の様な方がいいな。
スタービルドストライクのビームを吸収する機能とX魔王の粒子を外部に変容する能力を搭載できたら可能かもしれない。
しばらく観進めていくと、粒子変容考察コーナーが始まった。当たり前だが自分のガンプラに用いている技術を公表する現役選手はいない。引退後の選手やバトルと関わりのないプロモデラーの方々の考察だ。
「メモ取らなきゃ。これは役に立つ情報だ」
レベルが高すぎて真似できないかもしれない、この情報が正解とも限らないが、俺の求めるプラモデルには欠かせない技術だ。
プロ顔負けの技だと言って投げ出してきた創作術を今更になって求めている。もっと早いうちに手を付けておけば良かったと後悔する。
何で今年は躍起になっているんだっけか。
あぁ・・・、絶対に負けられない理由が出来たからだ。応援してくれるみんな、共に戦ってくれる仲間の為だ。
心の準備は出来たか? どんな事があっても遣り通す信念はあるか?
大丈夫。必ず遣り遂げる。
「どうぞ、上がって」
自宅に友達を呼ぶことは珍しくもなんともない。
「お邪魔しますよ~」
加倉を家に招くことに何ら問題はない。だが今回は男だけじゃない、白樹さんが居る。
「はい。お邪魔いたします」
姉さんの女友達が来ることはあったが、俺が女子を家に上げたことは一度もない。
幸い今日は姉さんが在宅中だ。これで男女比は2対2、この間に部屋に女子が居ることに慣れなければ。
男子高校生の部屋に4人って人口密度高いな。作業スペース確保できないかも。
「いらっしゃい。2人ともよく来てくれたわね」
「優佳さん仕事じゃないんだ」
「明日から仕事よ。みんな優勝できるように頑張りましょう」
とりあえず2人を部屋まで連れて行く。姉さんは後から参加するとのことだ。
部屋は早起きして掃除したため片付いている。
「これより、白樹さんのヴァイスリッターをバトル用に改造したいと思う。寝る間も惜しんでプランは思考ずみだ」
「出端を挫くが白樹が使う機体なのに白樹の意見が反映されてないだろ」
「私もどんなプランなのか全く聞いていません」
俺が独断で試行錯誤して練った案だ。まだ誰にも教えていない。
「攻撃力、耐久力、機動性、どれも欠かさない。思いつく機能は出来る限り搭載する。抜け目があれば必ず指摘してほしい」
ちょっと前の俺は誰かに確認を取らなければ行動することが出来ない人間だった。1人では決断できないところがあった。
白樹さんと出会ってからの3日間はとても濃い日々だった。たった3日、ほんの一瞬とも思える時間でも人間は成長できるんだ。
アルトアイゼンを超える機体といえばアルトアイゼン・リーゼですね。
ライン・ヴァイスリッターを使用しないのは、白樹はリアルロボット系が好きなため生物的な外見を嫌うと思ったからです。
もう1つの理由はライン・ヴァイスリッターにするとアインスト絡みにしなくてはと、変な先入観があるからです。