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俺がこの世界に来たきっかけはあんなもんでいいだろう。
さて、じゃあ【今】の話をしようじゃないか。
1986年。
俺がこっちに来てから、5年と半年が経った。
・・・・その間の出来事はどうしたって?
特になかったんだよ・・・・いや、本当に。
まぁ正直なところ、世界は色々と動いていたみたいなんだが・・・正直把握しきれていない。
とりあえず、今のところは図書館に行って新聞を読む日々を送っている。
本当はもっと早いうちに行きたかったんだが、父親が心配性でなかなか行かせてくれなかったんだわ。・・・・まぁ、3歳児が図書館に一人でなんか怖くて行かせられる訳ないわな。
本来なら幼稚園やら保育園やらあるんだが、今日は休みの日だ。
・・・・・分かってる、分かっているとも。
確かお前96歳のジジイだったよな?なんで3歳児なんだ?って言いたいんだろ?
俺もな、こうなるとは思ってもいなかったんだわ。
あの後何が起きたのかも分からんうちにまーた視界がブラックアウトしたかと思ったら、今度は眩しい光に晒されたんだ。
何事じゃあ!?とか思って声を上げようとしたらオギャオギャアとしか言えなくなってて。
回りは白衣を着た男女だらけ。そうなると・・・・・後は大体分かったんだわ。
あ、これ出産現場じゃねーかってな。
そっからはもー流れに身を任せてただ寝て、腹減ったら叫んでの繰り返しの毎日だったなぁ・・・・あ、オムツの話は厳禁だからな?あれはどうしたって赤ん坊に自己処理させるのは無茶な話だ。
んでもって、4歳になってヤツが来た。
『かがみすみかです!よろしくおねがいします!』
ありゃ忘れもしねぇな。去年の8月だ。
そりゃー可愛らしい舌ったらずな言葉で挨拶してくるんだもの、前なら撫でまわしている所だが・・・・今回はそうもいかない。
なんたって俺をこっちに誘拐してくれちゃった本人なんだもの、テメーコノヤロー!ぐらい言いたかったが・・・・どーもおかしい。
追求するのも面倒なもんだったんで、俺も挨拶はほどほどに返した。
で、その後は近場の公園で砂遊びに興じてたってオチよ。
「まー、そんな事より今が面倒なんだよな」
ついでに現状を説明しよう。
俺は1時間ほど前に図書館に、供を連れてたどり着いた。
それで新聞が置いてあるコーナーに向かい、前回来た時の続きを読もうとしたんだわ。
そしたら供の者があれはなんだーこれはなんと読むんだーとうるさくって仕方がない。
ま、歳は俺の方が数倍も上なので?大人の対応で懇切丁寧に教えたわけですわぁ。
それで、テキトーに本を引っ掴んで渡して読ませること数十分。
供の者―――――鑑純夏は隣でグースカ良い顔で寝てるわけですよ。
・・・・俺の膝を枕にしているんだがな!
「おかげさまでリラックスして新聞も読めやしねぇ・・・」
別に読めれば何でもいいんだけどな。
あまり音を立てないように新聞を折ったり畳んだりを繰り返す。
いやぁ、新聞ってのは情報の宝庫だな。
前はインターネットですぐニュースを確認できたもんだが、今はまだアナログな所があるからなぁ。
幸い、家にTVがあるから最近のニュースなんかは朝親が見る事もあり、世界がどうなっているか―なんて言うのはすぐ分かる。
ただ、やっぱり都合よくいじられているのはどこも一緒のようだ。
ここは負けたが、あっちは勝った。
あそこは全滅したが、相手の数は減らした。
んな事言ったって、感のイイやつは分かってしまうんだよな―。
要するに、【戦線日に日に好転せず】って奴だ。
「さーって、これで今日まで発行されている分の新聞は全部読んだ感じかぁ?」
近くにある鞄を寄せて、チャックを開けて中に入っているあるノートを引っ張りだす。
そこに書いてあるのは、今まで呼んだ新聞の日付だ。
前回のが、【S61,08,27,】で終わっていて、今日は8月31日だから・・・4冊か。
2ヶ月で20年分を読んだのか・・・結構なハイペースで読めたな。
「後は、コイツが起きるまで待ってるとする。か」
ふぅ、と一息つける。
新聞は・・・片づけたいのは山々なんだが、寝てるからな。下手に動くと起こしかねん。
ま、図書館に来てまで新聞を読みに来るやつなんかいるわけないだろーし、いっか。
「・・・・・なーに親指しゃぶって寝てるんだよコノヤロー」
お前のせいでこっち来る羽目になったんだぞチクショーと言わんばかりに頬を突っつく。
起こさない程度に、あくまでも優しく。
女の子だからな、肌は大事にしてやるもんだ。
とまぁ幼馴染ちゃんのほっぺたで遊んでいたら、机に大きな影が映った。
・・・・ん?うちの親父にしては大きいし、ガタイがいいな。
恐る恐る顔を上げると・・・・・・・・
そこには中年の優男が立っていた。
「・・・・・あー、如何な御用で?」
「君の借りて行った新聞が読みたいんだが・・・よろしいかな?」
「あ、すいません。どうぞ持っていってください。・・・今立てる状態じゃないので、申し訳ないんですが」
「構わないさ。すまないね」
新聞を持っていったオッサンは別の席に向かって行った。
・・・・しっかしまぁ、本当に図書館まで来て新聞を読む人がいるとは思わなかったなぁ。
にしても、なんでまた図書館なんだ?
ここら辺に新聞なんて腐るほど売ってるだろ。よくよく見ると、あの人飲み物も何にも持ってないし。
この暑い中、しかもまだ時間は3時を過ぎたか過ぎてないかぐらいだろ?
フーム?出かける際に急いでいたか、はたまた別の理由か。・・・・んー、分からんな。
とりあえず、こいつを起こすか。
「おーい、起きろ純夏ー」
「・・・すぅ・・・・すぅ・・・・」
「すぅすぅじゃねーんだよ。はよ起きろ」
鞄からタオルでくるまっている金属製の水筒を取りだし、幼馴染の顔につける。
すると?
「ほわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ん、起きたか」
あまりの冷たさに飛び起きるって寸法さ。
顔をペタペタ触って何が起きたか分からん!といった顔であたりを見渡す鑑。
んで、俺と視線が合って、水筒に指を指してやるとだ。突然顔が怒りだして
「なにするのさー!」
・・・なーんてことをぬかしよる。
「いや、寝てたお前が悪いだろ」
「うぅ・・・・」
「ほら、そろそろ晩飯近いんだから帰るぞ。なんか本借りてくか?」
「いーい!」
「あぁ、そうかい。じゃ、ちょっと本探してくるわ」
「いいって言ってるのに・・・」
本人は嫌がっているようだが、実はこのやりとり何度もやってたりする。
なんだかんだいいつつも、最後は本を受け取ってくれるんだから憎めない奴だよな。
さーって、本を探すついでに一日の善行を果たしていきますかねーっと。
「あのー・・・すいません」
「ん?あぁ、どうかしたのかい?」
「いえ、見た所水筒を持ってないみたいだったので。体調を崩すと大変ですから、どうぞ」
コトンと、机の上に水筒を置く。
ちょっとばかり今の俺には背が高い机だが、まぁ少し背伸びしただけで届いた。
「おぉ!すまないね、ありがたくもらおう」
「いえいえ。【備えよ常に】が、僕の信条なので」
「小さいのに、君は賢いな」
「良く言われます」
では。と言って俺は童話の本棚に向かう。
さーって、今日はどれがいいかねぇ・・・。
2017/04/25 修正