小説を書くのは初めてですが頑張ります
【終わりの始まり】の部分は飛ばしちゃって問題ないかもしれないです
どんなに楽しい時間もいずれは終わりがやってくる。
そして、それは楽しければ楽しいほど、早く訪れるものだ。
【終わりの始まり】
ユグドラシル。
数あるネットゲームの中でも、特に細かい作り込みと運営の狂いっぷりで有名になったタイトルだ。
高い自由度と製作者の正気を疑いたくなる隠し要素の数々は、数多くのプレイヤーを惹きつけた。
時にはクソ運営と悪態を吐かれながらも、やり込むユーザーにとってはそれもまたご愛敬。
全盛期においては様々な外部作品とタイアップイベントを行い、時にはオフラインイベントすら開催したが――それも、今は昔の話。
サービス開始から12年が経過した現在ではプレイヤーたちの熱も冷め、アクティブユーザーの数も減り、過疎化している。
人気は過去形になり、かつて数千あったギルドの数も800弱にまで減少した。
そしてついに、運営も予算を達成できなくなり……ユグドラシルは、サービス終了を迎える事になったのだ。
サービス終了のお知らせメールを受け取ったプレイヤーたちは残念に感じながらも――頭に浮かべた言葉は『ああ、やっぱりな』だった。
とっくに熱の冷めたプレイヤーはそのお知らせメールをさっさとゴミ箱に送り。
未だにゲームを続けていたプレイヤーは、惜しみながらもログインしてサービス終了の瞬間を待つ。
有名ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドマスター。
『モモンガ』もまた、そんなプレイヤーの一人だった。
現実時間で言うところの、深夜零時間近。
日付が変わると同時に、ユグドラシルもサービスを終えようとしていた。
「……あぁ……」
ギルド拠点、ナザリック地下大墳墓の最深部。
終点の玉座に腰掛けながら、モモンガは独りユグドラシルの思い出を想起する。
皆と出会った時、ギルド長に就任した時、ギルド拠点を作った時、ギルド武器素材を必死に集めた時……。
目を瞑れば、すぐに浮か輝かしい思い出たち。語る相手は居らず、開いた口からは彼の寂しさを表す溜息が漏れるばかり。
昔はログインすれば必ず誰かがいたギルドチャットも、表示される文章はシステムからのメッセージのみ。
「会いたかった、のに……なぁ……」
熱が冷めたら、復帰するのは難しい。
それはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーも例外ではない。
全盛期の四十一人。
残ったメンバーは3人。まともに稼働しているのはモモンガのみ。
もはや、ギルドメンバーが全員揃うことは二度とない。
一人、また一人とメンバーが『卒業』していく中で――モモンガだけは、ずっと止められずにいた。
彼にとって、ユグドラシルは数あるゲームの一つではない。
青春、或いは人生の一部とも言い換えられるのだ。
「……仕方ない、か……」
寂しさに胸中を蝕まれながら、モモンガは呟く。
ギルドメンバーたちはみんな社会人。
都合が付かない時だってあるし、社会的な立場もある。
モモンガにも当然優先するべき『リアル』があり、社会人だから分かる。分かって、しまう。
「俺も……卒業かぁ……」
仲間たちと作り上げたギルド拠点も今日で見納め。
心に焼き付いたこの空間も、あと数分で電子の海に沈む。
「結局、ここまで敵が来ることはなかったなぁ」
アインズ・ウール・ゴウンは悪のロールプレイに拘った奇特なギルドだ。
ギルド長であるモモンガも、そんな拘りをもってキャラメイクされている。
キャラクターの外見は骸骨。装備は漆黒のローブで手に携える武器は7匹の絡み合う水晶の蛇によって構成された杖。
玉座に黙して座する姿はRPG作品の魔王をイメージさせる。
残念なことに、今この場にいるプレイヤーはモモンガしかいないのだが。
付き従う配下も、立ち向かう勇者もいないこの玉座で、ただただ独りぼっちだった。
ギルドメンバーたちが作成したNPCなら、変わらない姿勢で玉座の間に立ち続けているが――所詮は命も意思も宿らない電子データ。
心の慰めには、ならない。
もっと、もっと続けていたかった。
終わる前に、仲間たちに会いたかった。
そんなモモンガの想いはどこにも届かず、サービス終了までのカウントダウンは変わらず進む。
――5
思わず、杖を握る手に力が入る。
――4
あぁ。
――3
せめて、この身がほんとうに骸骨だったなら。
――2
この頬を伝うモノも、胸を締め付ける苦しみも、なかったのだろうか。
――1
「楽しかったんだ……本当に」
――0
電源を切ったパソコンのように。
モモンガの視界は、暗転した。
【帰還】
何のサプライズもなく。
普通に、当たり前のように。
モモンガの中のプレイヤー、鈴木悟はリアルへと帰還した。
「……さて、と」
何度吐いても尽きぬ溜息を吐き出し、悟は接続用のヘッドギアを外す。
広く荘厳な玉座の間は消滅し、狭くて安っぽいアパートの一室へと意識が戻された。
ユグドラシルが終了しても、悟のリアルは続いていく。
当然ながら仕事も続き、明日は四時起きで――。
「……ぇ……?」
ノロノロとベッドに横になろうとした悟の動きが、思考が止まる。
質素な寝巻きに着替えなければならないのに。
早く休まなければ、明日の仕事に差し支えるのに。
「……どう……なって……え?」
今の自分が身を包む服装が、漆黒のローブになっていて。
細身の体型は、肉など無い骸骨の躰に変わっていた。
鏡で顔を確認すると、そこに映るのは恐ろしげな髑髏のお化け。
空ろな眼光から、怪しげな赤い光が自分を見つめていた。
◆
人間、心底驚くとかえって言葉を失うものだ。
――何が起きた? どうなっている? ユグドラシルは? 俺の体は?
疑問に思う事が多過ぎて、言葉が出て来ない。
ユグドラシル内であれば即座に呼び出せるコンソールやGMコールに一切の反応が無い。
スマートフォンで運営に電話をかけようとしたが、生体情報認証ロックを解除できない。
夢かと思い、頬をつねろうと指を伸ばすがその頬も無い。
まるでゲームから――そして、現実からも拒絶されてしまったかのようだ。
「……どういうことだっ!!」
何を試しても状況の解決に繋がらず、驚きから焦りと苛立ちが生じる。
感情に任せて振り下ろした拳は、見事に目前の机を粉砕した。
その上に置いてあった、営業用の会社支給タブレットごと。
「……あっ」
顧客のデータやプレゼン用データが入っていた業務用端末は、見るも無惨な姿に。
それも不慮の事故ではなく、完全に過失で。
社会人として有るまじき行為であり、上司にバレたら確実にクビが飛ぶ案件である。
テンパり続けていた悟の精神状態は、今この瞬間に最高潮に達した。
「ヤバイヤバイどうしようコレ明日営業先で、てかコレ営業いけんのまじああもうなんなんだよどうすれば――っ!?」
滝の様に溢れ出す焦りの感情と言葉。
深夜にも関わらず二度目の叫び声が出そうになってたが――そこで、アンデッドの躰が持つ精神抑制スキルが発動する。
急に蓋をされたかのように、悟は自分の心が平坦になっていくのを感じた。
「……落ち着け。深呼吸……は、できないけど」
出来ることを見定めて、的確に実行する。
それが『モモンガ』の強みだっただろうと、悟は自分に言い聞かせた。
「……まずは、出来ることを試してみよう。精神抑制が働くってことはゲーム内のスキルが……」
先程は見苦しく騒いでしまったが、本来の悟は慎重な性格をしている。
現在の状況を打開すべく、顎に手を当て現在の情報の整理を始めた……が。
「……騒がしいな」
その作業は、すぐに中断された。
何やら人間や動物の叫び声の様なものまで聞こえるような気がするし、妙に外が明るい。
何なんだと小さく苛ついて悟は窓際のカーテンを開けた。
「……」
外の光景に、数秒間フリーズ。
その後、本日何度目かの精神抑制スキルが発動。
気のせいだと見間違いだと自分に言い聞かせ、カーテンを閉じて一拍置いてまた開ける。
「……マジかよ……」
精神抑制を受けながら、悟は呟く。
真っ赤に炎上する街。
逃げ回る人々。
暴れ回る二足歩行のライオンども。
『雲の切れ間から覗く、月を背後に』飛ぶワイバーンの群れ。
その他もろもろ、数多くのモンスターが道路で暴れている。
火竜のブレスが街を焼き、トレントの木の根がコンクリートを突き破る。
窓の外の世界が、現実が、幻想に侵食されていた。
◆
数えて10回程の精神抑制を受けて、漸く悟は現状を受け入れる。
1.自分の肉体が、死の支配者――モモンガのものへと変わっている。
2.この体はゲーム内の魔法やスキルが発動できる。それもコンソールを使わず感覚的に。
3.外もおかしな事になっている。何から突っ込めばいいのかわからない。
「……あのワイバーン。見覚えがあるな」
一番数が多いモンスター。
火を吹きながら、街を飛び回るワイバーンたち。
その名前をファイアボルト・ワイバーンといい、悟も何度も戦ったことがあるユグドラシルのモンスターだ。
ステータスは大したことがないくせに、数が多く厄介というかウザいヤツらだ。
「あと……あのライオンか……なんだアレ?」
そして、次に数が多いモンスターが二足歩行のライオンたち。
見覚えはないが、悟の知識の中にあんな生き物の存在はない。
ワイバーンと同程度の存在なら大した実力ではないが、未知のスキルを保有している可能性がある。
「……どうするか」
見たところ、モンスターたちは無秩序に暴れ回っているようにしか見えない。
モモンガのレベルなら外を出歩いても問題はないだろうが、不足の事態は避けたい。
「……む?」
◆
少女は走る。
自分を狙う怪物たちから。
少女は逃げる。
容赦なく街を焼き尽くす炎から。
「……っ」
少女にとって、逃走は慣れた行為である。
命を脅かす外敵から身を守る為に、必要なことだから。
だけど、今回はいつもと状況が違う。
見慣れない土地に見慣れない建物。
気が付いたら、少女は見た事もない場所に転移していた。
そして、周囲は理性も知性もないモンスターだらけ。
「……う、くっ……」
土地勘もなく、行手は炎や瓦礫、他の逃げ惑う人々によって塞がれている。
気が付いた時には、少女はモンスターの群れに囲まれていた。
「……どう…して……こんな……」
自分一人で転移してしまったのなら、ここまで追い込まれることはなかったのに。
なんで、どうして、よりによってビーストマンやワイバーンたちがいるのか。
「だれか……」
まだ生きたい。
けれど、どうにもならない。
絶望に惑う少女は、その場に蹲ってしまう。
恐怖を煽るようにじりじりと迫るモンスターたちに対して、少女は余りにも無力で。
「……たすけて……」
ビーストマンの爪に裂かれ、ワイバーンの牙に喰われる。
少女の命はここで終わり、周囲の人々と同じような結末を迎えるだろう。
――だが。
「ああ、わかった」
「……ぇ?」
今、ここには死の支配者がいる。
人間の心を持った魔王が。
「《連鎖する龍雷》」
知らない声に少女が顔を上げると、既にモンスターの姿は無く。
そこには、モンスターよりも遥かに恐ろしい――けれど、頼もしいアンデッドが立っていた。
「……立てるか?」
漆黒のローブに身を包んだアンデッド――鈴木悟は骨だけの手を少女に差し述べる。
少女は一瞬だけ躊躇い、その手をとった。
「危ないところだったな」
「……ぁ……」
一瞬だけ少女の胸にピリッとした感覚が走り、その身体が引っ張られる。
少女は悟が思っていたよりもずっと軽く、立ち上がると同時につんのめってしまう。
転びそうになった少女を抱き留めて、悟は出来るだけ優しげな声音で問いかけた。
「怪我はないか?」
「ぁ……う、うん……」
「そうか。私は鈴木悟という。お前の名前は?」
「……ぃの」
緊張のせいなのか、舌が上手く回らなかった。
ゴクリと唾を飲み込んで、少女はもう一度口を開く。
「キーノ……キーノ・ファスリス・インベルン」
◆
後の世で、大召喚の日と呼ばれるこの日に。
こうして、二人は出会った。
炎上する街中で、モンスターが跋扈する中で。
法も、地位も、全てが無価値となっていく世界の中で。
掛け替えのないものに、出会ったのだ。