【完結】恋と友情の狭間で―逸見エリカの独白―   作:青ヤギ

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⑧告白

 西住まほに出会えたことは、私の人生において至上の幸福だ。

 この人がいなければ、私は今よりもずっと惨めな生き方をしていたに違いない。

 他人を信頼できなくなって、自分が嫌いになって、心が磨り減っていって、物事を厭世的にしか考えられない暗い性格になっていただろう。

 けれどもう一度、自分の可能性と人の優しさを信じることができたのは、あの人の気高さを心で感じることができたからだ。

 私を影で非難していたチームメイトを叱責したあの人の姿。

 今でも思い返すことができる。

 

『努力する者を影であざ笑う奴は私が許さない! お前たちも逸見のように本気で挑んでみせろ!』

 

 こんなにも素晴らしい人がこの世にはいる。

 そんな人に認めてもらえている。

 嬉しかった。

 だからその人がいる高みに行きたかった。

 あの人が見ている世界を一緒に見られる人間になる。

 言葉にしなくとも心で通じ合える関係。

 同じ志を持った理解者として隣に立つ。

 それができて初めて、私はあの時の恩を返せるのだと思っていた。

 

 ……けれど今、思う。

 それはあの人が本当に望んでいることだろうか。

 

 私はまほ隊長にとっての特別になりたかった。

 他の者には打ち明けられないことを打ち明けて欲しかったし、私だけにしか見せられない顔を見せて欲しかった。

 唯一無二の存在でいたかった。

 ……だけど盲目的に慕う存在を、彼女はいったい何時(いつ)求めたというのだ。

 

 思い出せ。

 私が尊敬の念よりも対抗心を剥き出しにして全力で挑戦していたとき、あの人はどんな顔をしていた?

 

『良い眼をしている。いいだろう。本気でかかってこい』

 

 そこにはどこか清々しい、そして嬉しさを孕んだ彼女の本当の笑顔があるように見えた。

 

 もしかしたら、私とあの人が最も心を通わせていた瞬間は……

 

──────

 

 

 

 私が思うに、運命の神とやらはどこまでも人に試練を与えることを楽しんでいる。

 理不尽な目に追い込んで、アタフタともがく人間の様子をバカみたいに笑いながら手を叩くのだ。

 憎らしい。許せん。

 そんなアホらしいことを考えて頭を怒りの激情で満たさないと、今にも私の意識は卒倒しそうだった。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 落ち着け。

 落ち着いて呼吸を整えるのだ。

 姿勢をもう一度正してゆっくりと息を吸おう。

 スーハー……。

 よし、少し落ち着いた。

 

「……」

 

 いやダメだ。

 やはり落ち着けない。

 室内に満ちる芳しい香りが私の理性を瞬く間に狂わせる。

 部屋中に()()()の気配を感じる。

 まるで優しく包み込まれているような感覚に脳がトロトロになってしまいそうだ。

 身体いっぱいに()()()を感じる。

 自分でも正直ドン引きするぐらい変態染みているとは思うが、溢れる感情を制御することができない。

 無理なものは無理だ。

 冷静でいられるわけがない。

 

 憧れの人の部屋にいて、平常心をたもてる奴がいったい何処にいるというのよ!

 

 そう、私は今まほ隊長の自室にお邪魔している。

 寄宿舎の部屋ではない。

 西住流宗家のお屋敷。すなわちあの人の実家。

 正真正銘、西住まほの自室である。

 彼女が幼少時から過ごしてきた彼女だけの空間に今、私はいるのだ。

 頭が沸騰しそうである。

 

「うぅ……」

 

 逸る気持ちを誤魔化すため、キョロキョロと室内を見回す。

 これと言った特筆すべきものはない。極普通のありふれた、悪く言うと質素な部屋という感じだ。

 しかしその飾り気のなさはどこか意図的なものに感じられた。

 部屋とは通常、自分だけの時間を満喫し、集中し、リラックスするための空間だ。

 だがこの部屋からは、決して気を緩めることを許さないピシリとした空気を感じる。

 もしかしたら私が落ち着かないのもそのせいかもしれない。

 まるで教室にいるようだ。

 趣味らしいものすら見当たらない。

 戦車関係の書物が多いことから、普段彼女が自室でどのように過ごしているのか容易に想像できてしまいそうだった。

 女子らしい華やかさには欠けるが、あの人らしい部屋と言える。

 

「……」

 

 ただひとつだけ人間味を感じさせるものがある。

 質素な部屋の中で、暖かな情動を感じさせるもの。

 机の上や棚上にたくさん置かれた写真立て。

 その中には幼い姉妹が仲睦まじく笑っていた。

 私が見たことのない無邪気で子どもらしい笑い方だった。

 

(……こんな笑い方をしていたのね、小さな頃のあの人は)

 

 そして()()()もまた、こんな悪戯っ子みたいな笑顔を浮かべられたのか。

 ……まだ、私の知らない一面があの子にはある。

 

 コンコンとドアがノックされる。

 私はピンと背筋を張る。

 

「は、はひ!」

 

 不自然どころではない上擦った声を上げてしまう私。

 穴があったら入りたい。

 

「エリカ、お茶を淹れたぞ」

 

 部屋の主は私の変な声を聞いても不審がることなく、穏やかな笑顔で入室する。

 お盆の上にはいい香りのするティーポットと私の好きなアイアシェッケ。

 私のためにわざわざ用意してくれたのだろうか。

 嬉しくて舞い踊りそうだ。

 もちろんできないけど。

 

「紅茶でよかったか? 聖グロからお裾分けで貰ったものだから、上質な味だとは思うのだが」

 

「か、構いません! 喜んでいただきます!」

 

「どうしたんだ? そんなに緊張して」

 

「い、いえ! お気になさらず!」

 

 緊張するに決まっている。

 ただでさえ戦車道家元のお屋敷にお邪魔しているというだけでも、戦車乗りとして気が休まらないというのに。

 その上、長年尊敬しているお方と二人きりなのだ。

 もう頭の中が焦燥や嬉しさやらでゴチャゴチャだ。

 何か粗相なことをしてしまわないか不安でしょうがない。

 

(ああ、だけど……)

 

 もちろん役得と感じるものもある。

 

(テーブルにティーカップとケーキのお皿を置く隊長の姿……いい)

 

 ちょっとしたことでも私にとっては目に眩しい光景。

 どんなことをしても彼女は絵になる。

 さすがまほ隊長。

 普段着の姿もまた味があっていい。

 無防備な姿を私に曝しているようで、なんだか奇妙な感情が込み上げてくる。

 女子の感覚からすれば正直地味な服装だが、そんなことはどうでもいい。

 まほ隊長ならどんなものを着ようが美しいのだ。

 

(勇気を出して来た甲斐はあったわね……)

 

 私生活に溶け込む隊長の姿にウットリと見惚れながら私はそう思った。

 

──────

 

 そもそもどうして私が西住邸に顔を出しているのか。

 事の始まりは数時間前。

 小梅に背中を押されてから、私はひとつの決意をいだいた。

 ずっと伝えたかったこの気持ちをあの人に打ち明けよう、と。

 ……だが、その肝心の相手はすでに黒森峰の学園艦にいなかったのだ。

 

『ちょっとどういうことよ小梅!? まほ隊長実家に帰っているらしいじゃないの!?』

 

 肩透かしを食らったような気分になった私は、ほぼ八つ当たりの勢いで副官の小梅に問い詰めた。

 私の激情的な面にとっくに慣れている小梅は実に平静な態度だった。

 

『もう~また西住元隊長のこと隊長って。今の隊長はエリカさんでしょ?』

 

『つ、ついクセで呼んじゃうのよ』

 

 私の中ではあの人は未だに『まほ隊長』なのだ。

 

『そ、それより何か聞いてないのあなた? どうして急に実家に……』

 

 まだ冬休みでないにも関わらず、まほ隊長は帰省してしまったのだ。

 何事かと心配してしまう。

 もしや私の知らない内に学園の間でトラブルが!?

 しかし小梅は私の態度こそ不思議だとばかりに首を傾げていた。

 

『何を言っているんですかエリカさん? 三年生はもう自由登校の時期ですよ?』

 

『……あ』

 

 そうだった。

 黒森峰は二学期後半になると、三年生のみ登校するかしないかの自由が許されるのだ。

 受験を控えている者たちはこの季節、塾に入り浸って追い込みをかける。

 そしてすでに合格が決まっている者は最後の学園生活をゆったりと満喫する。

 厳格な黒森峰が、ずっと努力をしてきた三年生に送る最初で最後のご褒美。

 言われてみれば、ここ最近上級生たちの顔を見ていなかったことに気づく。

 

『西住元隊長は確か推薦ですでに志望校に合格していましたよね?』

 

『え、ええ。戦車道名門のね』

 

 あの人ほどの実力なら推薦するまでもなく、むしろ大学側からスカウトされて引く手数多だったとは思うが。

 

『たぶん、西住師範直々の特訓を受けるためにご実家に戻られたのではないでしょうか?』

 

 小梅はそう言った。

 西住師範、つまりはまほ隊長の母君。

 信憑性のある話だ。

 あの人ならば確かに与えられた自由な時間をすべて戦車道に費やすだろう。

 なにより彼女は西住流の後継者だ。

 流派を背負う者として、本格的な教育を受ける時期なのかもしれない。

 

『……』

 

 もしそうなら邪魔するわけにはいかない。

 ……と普段の私ならそう思って自分の感情を押し殺したことだろう。

 けれど……

 

(そうやってまた大事なことを先延ばしにする気なの?)

 

 もしかしたら卒業式の時期になるまで、まほ隊長は学園艦に戻ってこないかもしれない。

 伝えたいことを伝える機会はその一回限りかもしれない。

 その一度のチャンスに賭けよう、なんて考えは浮かばなかった。

 印象深い思い出になるじゃないか、なんて弱気な発想も湧かなかった。

 今の私の中で燃え上がる激情は、もう些細な理由だけで止まれるものではなかった。

 

『……行くわ』

 

『え?』

 

『まほ隊長のところに行ってくるわ。今日の訓練の指揮は小梅に任せる』

 

『エ、エリカさん!?』

 

『何を驚いているの? あなたが私に言ったのよ? 何もせずに後悔をすることだけはやめろって』

 

『あ……』

 

『今しかないのよ。今伝えないとダメなのよ』

 

 卒業式まで待つことなんてできない。

 私は決めたはずだ。

 勇気を持とうと。

 今持たないでいつ持つというのだ。

 

『今伝えなきゃ、私はきっとまた前に進むことに臆病になってしまうと思うから……』

 

『エリカさん……』

 

 これはきっと私にとっての試練だ。

 行くか行かないかで、私の未来が決まる気がする。

 意地悪な神様はいつもそうして私に選択肢を用意する。

 過酷な道と安易な道をわざとらしく提示する。

 いつもそうして私は振り回されてきた。

 ……でも、今度こそ私は間違ったりしない。

 

『……わかりました、エリカさん』

 

 私の決意を感じ取ってくれたらしい小梅は、そう言っていつものように優しく微笑んでくれた。

 

『訓練は私に任せてください。だからエリカさんは、心置きなく行ってきてください』

 

『ありがとう、小梅』

 

 本当に彼女には感謝してもしきれない。

 必ず恩は返す。

 

 私は急いで外出とヘリの準備をした。

 小梅はそんな私を、まるで母のような瞳で見守ってくれた。

 

『今のエリカさん、とっても立派ですよ?』

 

 娘の成長を喜ぶように、小梅はそう言ってくれた。

 小梅のおかげだ。

 彼女に報いるためにも、私は堂々とこの思いをまほ隊長に伝えてみせよう。

 

──────

 

「エリカ大丈夫か? さっきから落ち着きがないようだが?」

 

「ごごご心配なく。よよよそ様の家に上がるときはいつもこんな調子ですので」

 

「そうか。それは難儀だな」

 

 小梅に見せた威勢はどこへやら。

 堂々とするどころか、余裕のかけらもなくなっていた。

 ああ、情けない。

 来る前はやる気に満ち溢れていたけど、いざ現場に来ると尻込みしてしまう典型的な『本番に弱いタイプ』状態に今私はなっていた。

 小梅が見たらさぞ呆れの溜め息を吐くことだろう。

 

「ところでエリカ。紅茶に砂糖やミルクは入れるか?」

 

「あ、でしたらミルクだけで……って隊長! それぐらい自分でやりますから!」

 

 まほ隊長はわざわざ私のカップにミルクを入れてくれるが、恐れ多い。

 いくら私がお客人とは言え、尊敬する人にそんな真似をさせたくない。

 しかしまほ隊長はニコリと爽やかな笑顔で私の手を制する。

 心臓が跳ね上がるほどに美しい微笑みだった。

 

「いいんだエリカ。私にさせてくれないか?」

 

「でも……」

 

「実は少し憧れていたんだ。家に遊びにきた友人にこうしてお茶を淹れるのを」

 

「友、人」

 

 首から頭のてっぺんまで一気に熱が込み上がる。

 彼女は私を友人として招き入れてくれたということか。

 それだけで歓喜の波が押し寄せてきた。

 

「これまでは家に来る学友なんていなかったからな……。だからこうしてエリカが来てくれて今とても嬉しいんだ」

 

「……ご迷惑では、なかったですか? アポイントメントもなしに急にお邪魔してしまって」

 

 小梅の予想通り、まほ隊長は本格的に後継者としての準備を始めるために帰省していた。

 やはりいきなり押しかけるのは無礼だったかもしれない。

 しかしまほ隊長は穏やかに首を横に振った。

 

「構わないさ。家に来るのはだいたい戦車道連盟の関係者ばかりだからな。たまには気兼ねない客人が来てくれたほうが家の者も喜ぶ」

 

 そう言って機嫌よくしている彼女は、どこにでもいる少女のようだった

 

(……なんだか隊長、かわいい)

 

 歳の近い子が実家に来てくれたことがよほど嬉しいのか、随分とウキウキしている気がした。

 こんな一面見たことない。

 私の知るまほ隊長はいつも凛々しい厳格な姿ばかりだった。

 こんな風に甲斐甲斐しくお茶を淹れてくれる日が来るなんて、想像もできなかった。

 

「ミルクはこれぐらいの量でいいかな?」

 

「あ、はい。ありがとうございます隊長」

 

「こら、さっきから口にしているが、私はもう隊長ではないぞ?」

 

「あ、すみません! つい昔の習慣で……」

 

「やれやれ。まだ隊長の自覚が足りないようだな」

 

 叱咤するようにではなく、微笑ましいものを見るように彼女は苦笑する。

 見慣れない軟化したその態度に私は困惑しっぱなしだった。

 同時にどんどん顔が熱くなる。

 

「今の隊長はエリカなんだ。だから私のことはもう下の名前で呼んでくれ」

 

「っ!? し、下の名前でですか!?」

 

「ああ。お前とも随分長い付き合いだからな。お互い名前で呼び合っても別におかしくはあるまい」

 

「はわわわ」

 

 とつぜんの試練到来である。

 動揺のあまりどこぞの天然娘みたいにあたふたしてしまう。

 ずっと敬称で呼んできた分ハードルが高いことこの上ない。

 無理むり。

 いきなりそんな気安く親しい間柄みたいに彼女の名前を呼ぶだなんて。

 

 しかしまほ隊長は期待を込めて「ん?」と小首を傾げながら待っている。

 ああ、なんて爛々とした無邪気な瞳。

 かわいい。反則です。

 目の前に女神がいる。

 まほ隊長のあまりの愛らしさに心打たれた私の口はだらしなく緩んでいった。

 

「で、では──まほさん、と」

 

 ポンっと頭から湯気が噴き上がった気がした。

 呼んでしまった。

 私、まほ隊長のこと……まほさんって呼んじゃった!

 熱い! 顔が熱い!

 敬称抜きでこの人の名前を呼んだだけでこんなにも心臓がバクバクするだなんて!

 

「『まほさん』か……うん、いいな。実に小気味いい」

 

 呼ばれた本人はとても嬉しそうに顔を綻ばせる。

 その表情にまた私の体温は上がった。

 今年の決勝以来、彼女はよく笑顔を浮かべるようになったけど、こんなにも柔らかな破顔を見せたことはなかった。

 まるで写真の中の幼子のように、あらゆるしがらみから解放されている。

 そんな笑顔だった。

 

(……なんだろう。本当になんというか)

 

 私の知らない隊長の……まほさんの、一面。

 この屋敷に来たことで、どんどん発見していく。

 すごく新鮮だ。

 本当にこの人は、短い間で随分変わったのだなと思う。

 

「……」

 

 いや、違う。

 きっとこれが本来の彼女なのだ。

 ただ私に見せてこなかっただけ。

 思い出が満ちる実家で過ごす彼女は、どこからどう見てもただの少女だった。

 

 私はずっと、彼女は世界に選ばれた特別な人間だと思っていた。

 でも戦車が関わらなければ、この人はどこまでもお淑やかで優しい女性なのだろう。

 知人が家に遊びに来ただけではしゃぎ、お茶を淹れたりするだけ楽しそうにする。

 この人だって、年頃の女の子なんだ。

 当たり前のことだ。

 

(だけど……)

 

 なのに、私はそのことから目を逸らしていたような気がする。

 彼女は私たちのような凡人とは異なる次元にいる存在。ずっとそう言い聞かせて。

 そうまでして、私はまほさんを崇め続けていた。

 

(私は……)

 

 私はこれまで、この人の何を見てきたのだろう。

 ただ憧れるばかりで、彼女の何を知った気になっていたのだろう。

 

「エリカ」

 

 まほさんは照れくさそうに私の名を呼ぶ。

 

「なんだろうな。名前で呼び合った瞬間、心の距離がずっと縮まったような気がする。エリカもそう思わないか?」

 

「……」

 

「いいものだな。親しみを込めて呼び合うというのは」

 

 一番傍にいたのに。

 あの子よりもこの人の戦車道を支えてきたはずなのに。

 私と彼女の心の距離はどこまでも遠かった。

 

 ……違う──私自身が遠ざけていたんだ。

 

 私の記憶にあるまほさんの姿は常に『理想的な淑女』そのものだった。

 でも──それははたして真実か。

 

 彼女に対する特別な感情。

 今も笑顔を向けられるだけで胸がドキドキして、彼女の名前を呼ぶだけで気持ちが昂る。

 恋をしているとしか思えない。

 でも──それは本当に目の前の人に向けられたものか。

 私は逡巡する。

 

 ……いや、すでに答えは出ているのだ。

 とっくに私は気づいているのだ。

 だから私はここに来た。

 そして今この場で、気づきは確信に変わった。

 

「それでエリカ。今日はいったいどうしたんだ? 話なら電話でも済ませられただろう。直接会わないといけない急用でもあったのか?」

 

「……はい、そうです」

 

 私が長年秘めてきたこの思いは本物だ。

 だけどその思いは報われるどころか、伝わることすらなかった。

 それは当然だ。

 だって……

 

「直接伝えないと、意味がないんです」

 

 私はいつも、誰もいない場所に向かって思いをぶつけていたのだから。

 

 

 伝えるんだ。

 今だからこそ。

 いだいてきたこの思いを。

 

 そして、終わらせる。

 長きに渡る私の執着を。

 

 

 

 

 

 報われるために告白をするのではない。

 私は今日、『失恋』しに来たのだ。

 

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