この気持ちは恋なのだろうか。
何度も繰り返し考えたことだ。
憧れという言葉では済まされないほどの熱情。
意識の半分以上を占める存在。
それほどまでに、私は西住まほという女性に心酔している。
彼女のことを考えない日なんてないほどに。
考えれば考えるほど、胸が切なくなって、苦しくなって、そして熱くなる。
これが恋じゃなければ、一体何だと言うのだろう。
恋とは蜜のように甘く、ときどき苦い。
これまで、いやというほど味わった。
幸せなときもあれば、辛かったときもある。
狂おしいほどに愛おしくもあれば、どうしようもないほどに憎らしくなったこともある。
もっと私を見て欲しかったから。
私だけを彼女の特別にして欲しかったから。
やっぱり恋よ。
それは、恋よ。
以前の私なら、そう断定したに違いない。
そうして、そんな気持ちをいだくことに疑いを持つことなく、甘く切ない夢見心地の中で、狂おしい熱情に振り回され続けていたに違いない。
……でも。
でも、それじゃあ、いつまでも私はきっと──
憧れの人がいた。
私もこんな風になりたいと強く恋い焦がれた人がいた。
その背中を追い続けた。
伝えたいことがたくさんあるはずだった。
その人の隣に立ちたかったはずだった。
だけど……
もう終わりにしよう。
夢から覚める時間だ。
私は私自身に問いかける。
ねえ、エリカ。
あなたが恋した相手は、本当は……
──────
いざとなると、言葉が見つからなかった。
どうすれば、この人に私の思いは届くのだろう。
そう考えだすと、頭の中がまとまらなかった。
ああでもない。こうでもないと、思い浮かんだ言葉が相殺し合う。
どう切り出したらいいのかわからない。
その結果……
「まほさんは──本当に私が隊長にふさわしいと思っていますか?」
結局、口から出てきたのはそんな質問だった。
蒸し返すべきでない話題なのは、私自身が一番わかっていた。
彼女が私を次期隊長として任命した時点で、それは絶対の裁定であり、忠実に受け入れるべきものだ。
けれど……いざ思い切って尋ねてみると、どうしようもなく気になりだした。
彼女の真意を、知りたいと思った。
「……」
まほさんは紅茶のカップを手に取り、ゆっくりと飲んだ。
育ちの良さがひと目でわかる美しい飲み方だった。
カップを置くと、彼女は怒るというよりも、困ったような微笑を浮かべた。
「その話はもう済んだはずだぞ」
彼女の言うとおりだ。
今更こんな話を持ち出したところで、どうにもならない。
黒森峰の新たな隊長は逸見エリカ。
それは覆らない決定。
隊長の座を譲ってくださったその信頼に応えるためにも、私は黙々と努力を続けるべきなのだろう。
だから本来、こうして西住の屋敷にお邪魔してお茶をご馳走になっている暇だってないはずなのだ。
昔の私なら、間違いなく今の自分を叱咤にしたに違いない。
隊長に心配をかけるな。
前向きな言葉を言って、安心させてやれ。と。
けれど予感がある。
そうして意気地になって、無理に強さを装ったところで、いつかは折れるということを。
隊長という身の丈に合わないプレッシャーに押し潰れて、ついには立ち直れなくなることを。
だから、
「私は、ただ知りたいんです。私を隊長に選んだ理由を」
それを知ることさえできれば、少なくとも私は努力を続けることができる。
その思いに応えるために、全力を尽くすだろう。
(……こんなこと、きっといちいち聞くべきではないのでしょうね)
絆で結び合った二人なら、きっと言葉にすることなく、心で理解し合うのだろう。
先代が残したいと考えているものを。
後継者に選ばれた理由すらも。
こんなにも長く傍にいたのに、私は未だに彼女の心の底を理解できていない。
だからこそ彼女の本当の気持ちが知りたい。
本気で私の実力を見込んでいるから選んでくれたのか。
それとも……所詮あの子の代わりでしかないのか。
「私は、才能のある人間じゃありません」
私は断言する。
幼いときに思い知った現実。
私は間違いなく持たざる側の凡才だ。
努力を怠った瞬間、私の芽は呆気なく潰えるだろう。
養分を与えない芽は、ただ朽ちていくだけだ。
トップとして選ぶには、あまりにも危うい人材。
「そんな人間に、どうして隊長を継がせようと思ったんですか?」
まるで彼女を試すような物言いだ。
無礼を承知した上での質問。
一年前では絶対にできなかったこと。
込み上がる緊張を悟らせないようにしながら、私は言葉を待った。
まほさんはまたゆっくりと紅茶を飲んでから、少し間を置いて口を開いた。
その瞳には、淡い哀愁が漂っていた。
「エリカ。才能というのはそんなにも大事なものか?」
切実な感情が込もった声だった。
「才能なんて、そんないいものじゃない。むしろ私は、そんなものないほうがいいとすら思っている」
彼女の言葉を理解するのに、少し時間を要した。
「……何故ですか? どんなことでも、才能があるに越したことはないじゃないですか」
私はずっと才能を持っている人が羨ましかった。
自分にないもの。
どんなに努力しても絶対に得られないもの。
圧倒的な差を思い知らせるもの。
天に選ばれた者だけが持つ特権。
だから私はずっとあの子に嫉妬し続けていた。
かつては、目の前にいるこの人も含めて。
私の発言を聞いて、まほさんは静かに首を振る。
「エリカ。『持って生まれた素質』なんてものは、人を縛り付ける鎖でしかないんだよ」
「鎖?」
「もしも……」
まほさんはまるで、遠いものを見つめるような眼差しを、紅茶のカップに注いだ。
紅色の水面に映る己の顔を、彼女は切なげに見ている。
「もしも、私に戦車道の才能がなかったら、どうなっていただろうな」
「え……」
唐突な例えに、私は困惑した。
戦車道の才能がない西住まほ。
そんなこと、想像すらできない。
「もしも私がとても家元の名を継がせられないほど出来の悪い娘だったら。戦車に乗る意味すら感じられないほど下手だったら。私はきっとお母様に見捨てられていただろう」
「……」
なぜそんな悲しい例え話をするのか、私にはわからなかった。
けれど漠然とではあるが、意識の底では理解しかけている自分がいる。
彼女が伝えたいことを。
「戦車道を失った私は、きっと平凡な人生を歩んでいただろう。ごく普通の人間として、ごく普通の生活を」
それはまるで、密かに憧れていることを口にしているかのようだった。
けれど……
「けれど、そうはならなかった。私には、少なくとも戦車道の才能があった」
厭味には聞こえなかった。
むしろ同情を誘う憐れめいたものを感じた。
生まれ持った才能。
才能を持った者には義務が生ずる。
その資質を活かし、発展に繋げるという義務が。
それゆえに彼女は、
「才能があった。だから──他のことができなくなった」
「……」
私はずっと、才能とは『遙か高みへ行ける特権。そしてどこにでも行ける切符のようなもの』だと思っていた。
でも、実際は……
「エリカ。私には、戦車道しかないんだ」
そう言ってまほさんは苦笑した。
儚い笑顔だった。
持ってしまったがゆえに、決まってしまった運命。
西住の娘に生まれることがどういうことなのか。
私は今になってその意味を理解した。
何も言えなくなってしまった。
まほさんはカップの中身を飲み干すと、ポットから新しい紅茶を注ぐ。
「私の人生は、すべてが決められたことばかりだ」
彼女の声と、紅茶が注がれる音だけが室内に響く。
「通う学園も、将来も、やるべきことも何もかも。敷かれたレールに従って進んでいるだけだ」
「……」
「今更そのことに不満をいだいたりしない。
彼女の瞳にはすでに揺るぎない光がある。
覚悟を決めた者だけが持つ輝き。
「だからこそ、西住流の戦いも、黒森峰の伝統も、言われるがまま継いだ」
彼女に、自由はない。
西住の長女として、ふさわしい姿で、ふさわしい生き方をしなければならない。
そんな彼女の背中を、私はずっと追い続けていた。
立派な生き方だと尊敬して。
……けれど、もしそれが、己を押し殺した生き方だったというのなら。
私がずっと憧れていたのは……
「そんな中で、私は初めて『選ぶことのできる自由』を手にすることができた」
「え?」
まほさんは私に柔らかな微笑みを向けていた。
憂いの色合いは薄れていた。
思いやりと、愛しさを込めた、まるで母のような顔で、彼女は告げる。
「エリカ。君を次の隊長に選ぶという自由を、だ」
窓から差し込む日の光が、一瞬にして増大した気がした。
眩しくて、まほさんの美しい顔が見られないほどに。
「お母様に言われたわけでもない。他の者に強制されたわけでもない。私は自分の意思で、自分の頭で考えて、エリカ、君を選んだ」
「……」
「エリカしかいないと思った。
新たな黒森峰。
それが、まほさんが私に望んでいること。
「エリカ、どうか私に見せて欲しい」
元隊長として、そして一人の戦車乗りとして、彼女は私に願う。
「伝統や西住流に囚われない、君だけの戦いを。新しい黒森峰の戦車道を。それを、見せてくれ」
小梅の言ったとおりだった。
彼女が求めているのは、もう型どおりの黒森峰ではない。
そのしがらみから解放された、私たちだったんだ。
「君は、自由でいいんだ」
まほさんは言う。
とても優しい声で。
「私のように伝統の権化になる必要はない。私たち西住流は、もういないのだから」
「……っ」
はっきりと、彼女は告げた。
来年にはもう、西住流はいない。
それがようやく、現実の重みとなって、私の心を貫いた。
「エリカ」
どこまでも彼女は物柔らかに、そしてはっきりと告げる。
「君はもう、解放されていい──
「あ、たい、ちょ……わたし、は……」
言葉が出なかった。
感情が溢れんばかりに渦巻いているにも関わらず、言葉が形にならない。
「わ、私は……」
彼女の思いはわかった。
ならば私は堂々とその思いを受け取らなければ。
胸を張って「任せてください」と言わなくては。
もう思い残すことはないと安心させなくては。
なのに、何も言えない。
そんな私をそっと抱きしめる柔らかい温もり。
ずっと欲していた温もり。
求めていた優しさ。
それが今、すぐ間近にある。
「隊長……」
呼び名が戻ってしまっていた。
やはり私の中では、彼女はいつまでも隊長だった。
ずっと私を導いてくれた大きな存在。
簡単に、変わるものじゃない。
そんな聞き分けの悪いしょうがない後輩の頭を、彼女は撫でてくれた。
たくさんの感謝を込めて。
「ありがとうエリカ。よくこれまで私についてきてくれた。礼を言う」
壊れ物を扱うように、そっと私の背中を撫でる。
時が止まったかのような心地に包まれる。
それでも……
「次は、君の番だ」
こんな幸せな時間も、やがて終わってしまう。
この温もりも、なくなってしまう。
もう、感情を止めることができなかった。
「隊長……傍に、いてください」
彼女の背中に手を回し、衣服を掴む。
「私一人じゃ、無理です。私はそんな、強い人間じゃないんです」
瞳から熱いものがこぼれ出る。
堰を切ったように、止めどなく。
「あなたがいたから……あなたの言葉があったから、今の私があるんです。なのに……」
違う。
こんなこと伝えるために来たんじゃない。
他に言いたいことがあるはずなんだ。
こんな惨めな姿を、見せにきたわけじゃない。
でも、止まらない。
「どうして私のもとから、いなくなっちゃうんですか? どうして私を、一人にしちゃうんですか?」
隊長も。
あの子も。
私を、置いて、どうして先に行ってしまうの。
違う。
違うんだ。
こんな、わがままを言ったって、困らせるだけなのに。
なのに、止まらない。
「もっと、教えて欲しいことがあるんです。卒業する最後の日まで、一緒にいて欲しいんです」
これ以上はダメ。
もう黙って。
でも、止まらない。
「それにまだ、私はあなたに、何も恩を返せていない」
心を救ってくれたこの人に、私はまだ何もしてあげられていない。
だからもう、口を閉じて。
これ以上この人を困らせないで。
でも、止まらない。
子どものように泣きじゃくる私を、隊長は穏やかにあやしてくれる。
「私にできることはもう充分教えた。恩だってもう存分に返してもらったさ」
「そんな、そんなこと……」
私がいったい、この人のために何ができたというの?
一度だって、この人を笑顔にすることができなかったのに。
なのに、どうしてこの人は、こんなにも、私に優しくしてくれるの?
「エリカは一人じゃない。赤星たち皆がいるじゃないか。彼女たちなら、きっと君を支えてくれる」
わかっている。
私は決して孤独じゃない。
心身ともに力になってくれる小梅がいる。
私の思いに応えてくれる隊員たちもいる。
それでも……
「それでも、怖いんです」
この人に不安を残させたくないのに。
安心して卒業して欲しいのに。
なのに、どうしても止まらない。
押し殺していた感情が、一気に弾ける。
「私なんかが、本当に皆を……黒森峰を引っ張っていけるのか。怖くて怖くてしょうがないんです」
お願い。
もう止まって私の口。
「どうしても、考えてしまうんです」
その先は、それだけは、この人の前では言っては……
「あの子が──みほがいてくれたらって……どうしても、考えてしまうんです!」
口にした言葉は、もう戻ってこない。
明らかになってしまった、私の後悔。
私自身、認めたくなかった本当の未練。
もう二度と実現することのない未来への執着。
それを、一番打ち明けてはいけない人に打ち明けてしまった。
そんなことを言われて、一番辛いのはこの人なのに。
なのに……
「……すまない」
この人は、優しさを崩さなかった。
より深く、私を抱きしめてくれた。
「すまない。本当に、すまない」
彼女は何度も謝った。
己の未熟を責めるように。
「私も、考えていたよ。みほとエリカが手を取り合って、黒森峰を勝利に導いてくれる、そんな未来を夢見ていた」
「たい、ちょう……」
「そうなれば、どんなに素晴らしいことだろうと、思っていた」
同じだ。
この人も、同じ未来を願っていたんだ。
「だから、すまない。君一人に、背負わせてしまって」
彼女はその大きな胸で私を包み、強く抱きしめてくれる。
彼女の鼓動を耳にする。
大好きな人の命の音。
驚くほどに、心が落ち着いていった。
まるで幼子のように、彼女の胸の中で瞳を閉じる。
憧れの人がいた。
恋をしているとしか思えない人がいた。
私は今その人に抱きしめられている。
とても幸せな瞬間。
……けれど、その胸のときめきは今までいだいてきた狂おしい激情とは違う。
この安らぎは、嬉しさは、そう。
まほ隊長が私を庇ってくれたときに感じたものと同じもの。
初めてあの人に心を開いた瞬間にいだいた気持ちと同じもの。
あの日、私は、ただ嬉しかったんだ。
私のことを、まっすぐ見てくれる人がいる。
認めてくれる人がいる。
それだけで、救われたんだ。
だから私は……
(──ああ。そうだったわね)
思い出した。
私が、まほ隊長に憧れた本当の理由。
いつのまにか、忘れてしまっていた。
憧れが暴走して、いつのまにか本当の気持ちが塗りつぶされてしまっていたんだ。
私の確信は、間違いではなかった。
この気持ちは、やはり──恋ではなかった。
彼女の胸の中で、私は吐露する。
今日、私が本当に伝えたかったこと。
ようやく、迷いなく、言葉にして伝えることができる。
「私にとって、あなたはずっと目標でした」
半端者の私とは違う、芯を持ったこの人に憧れた。
「あなたのようになりたくて、弱い自分を変えたくて、ずっと……」
少しでも近づきたくて、同じ高みに辿り着きたくて、ずっとその背中を追っていた。
でも……
「でも、もうそれじゃダメだって、わかっているんです。あなたに縋り付いたままじゃ、私はいつまでも変われないから」
ずっと、その強さに頼ってしまうから。
そしていつまでも、
流派を継ぐ者としてひたむきに努力をしているだけで、本当はごく普通の女の子で、どこまでも心優しいこの人のことを、見失ってしまうから。
とっくに気づいていたことだ。
でも認めたくなかった。
──私が恋い焦がれた『理想の淑女』は、本当はいないということを。
「ごめんなさい」
私は彼女に謝る。
これまでずっと、独りよがりな敬愛をいだき続けたことを。
彼女が何を思い、何を背負って生きているのか、ちっとも考えもしないで。
「ごめんなさい。私は、あなたのことを──あなたの本当の強さを、ちっとも見ようとしなかった」
私は、自分の理想像をこの人に押しつけているだけだった。
完璧で、誰よりも強く、世界で最も凜々しい人。
そう決めつけて、勝手に崇めていた。
私はずっと、自分が作り上げた偶像に恋をしているだけだった。
でも最初はそうじゃなかったはずだ。
私が本当に憧れなければならなかったのは──
こうして私を抱きとめてくれる、その優しさのはずだった。
努力する者を認める、そのまっすぐな心のはずだった。
私がすべきだったのは、その姿を見習って、自分の戦車道を見つけることだったはずだ。
なのに、私は結局、遠回りし続けていた。
「ごめんなさいっ。本当に……」
私はまた彼女の胸の中で泣きじゃくった。
都合のいい夢に浸り、ついぞ自分を変えることができなかったその情けなさを恥じて。
やっぱり、こんな私じゃ、黒森峰の隊長なんて……
「エリカ。君は、弱くない。誰も持っていない強さを、君だけは持っていたじゃないか」
「え?」
私だけの、強さ?
「覚えているか? 初めて会ったときのことを。あの頃の君は、誰が相手だろうと本気でぶつかっていた。家元の娘である私にも、全力で挑んできた」
「それは……」
あの頃の私はただ怖い物なしの子どもだった。
身の程を知らない愚か者に過ぎなかった。
そんなもの、強さとは……
「私は、そんな君に憧れたんだぞ?」
「……え?」
憧れる?
この人が、私に?
「エリカは何度も私に挑戦した。何度負けようと私に立ち向かった。私はそれが、嬉しかったんだ」
「うれ、しい?」
「ああ。誰もが家元の娘というだけで私を特別扱いしていた……。けれど、エリカだけはそうじゃなかった」
「っ!」
「西住流の娘としてではなく、次期隊長候補としてでもなく──西住まほという一人の人間を、君だけはまっすぐ見てくれていた」
「あ、ああっ」
私は。
「たとえ相手が何者であろうと、自分を信じて立ち向かう……エリカが教えてくれたんだ。その強さを」
私は、バカだ。
「あっ、うぅ……」
私はどうして、気づけなかったのだろう。
私はどうして、この人の思いに応えてあげられなかったのだろう。
私は、とっくに……この人に認めてもらっていたのに。
この人が本当に望んでいたことを、私だけは叶えられたかもしれなかったのに。
西住まほが真に求めていたのは、盲目な敬愛でも崇拝でもない。
互いの強さも、そして弱さも、すべてを認め合う──対等な存在だったんだ。
「……ごめんなさい、まほさん」
私は改めて謝罪した。
そして、もう隊長とは呼ばなかった。
「私、最後までダメな後輩でした」
私はいつも手遅れになったときでないと、気づけないんだ。
どこまでも私は、この人が望むことを何ひとつ実現してあげられなかったんだ。
バカだ。
本当に……バカだ。
「大丈夫さ、エリカ」
懺悔する私に、まほさんは語りかけてくれる。
「君なら、どんなことでも乗り越えられる。私はそう信じている。けど今は……」
一度、身体を離す。
そして、瞳と瞳を合わす。
「今は、いくらでも泣いて構わない。ここには私しかいない。だから……思い切り打ち明けてくれ。全部受け止める」
「……っ」
「それが、私なりのけじめだ。元隊長として、大切な後輩のための、最後の務めだ」
「あ、うぅ……」
そう。
これが、きっと最後。
私の恋が、終わりを告げる瞬間。
だから……
「う、うわああああああああっ!」
私は泣いた。
涙が枯れるまで、泣いた。
まほさんはそんな私を、ずっと抱きしめてくれた。
その優しさで、すべてを、受け入れてくれた。
変わらない。あの頃から何ひとつ。
暖かく、まっすぐで、どこまでも人を思いやってくれる人。
今度こそ、見失うことはない。
この温もりを、思いやりの心を、私は決して忘れない。
さようなら、私の初恋。
呪縛は、解かれた。
私の道は、ここから始まる。
やっと、始めることができる。
もう決して迷わない。
今度こそ私は、自分の道を見つけてみせる。
私だけの戦車道を、この手に。
そうすることで、私はようやく、
──あの子と、本当の意味で、向き合うことができるのだろう。
『エリカさん。わたしね? エリカさんのことが……』
あの子は、いつだって本気で。
たとえ嘘偽りの関係だとしても、心だけは正直に。
ありのままの姿で、私にぶつかってきてくれた。
だから、私も……
(みほ……)
もう、見失いはしない。
私も、必ず辿り着くから。
あなたが待つ、その場所に……。
冬が終われば、春が訪れる。
私たちは、再びあの場所で──約束の地で、あいまみえる。
次回 最終回予定です。