今俺は複数の問題にぶつかっている。まず、前に勇者のとこので保護されてた子の中に吸血鬼がいた。
「「先生!」」
駆け寄ってくる瓜二つな二人の少女の首からはタグがぶら下がっている。このタグで朝日の元でも自由に活動できるようになっている。さて、では何故こっちに走ってきているのか?
「ふぇんせうぃはぁ、まにすぇたも?」
「人の指咥えたまま喋るんじゃない、………何してたか、だよな?ブドウの木を植えてた」
前に見つけた掘り出し物だ。謎のジョブのせいで待ってる間に花が…………受粉させとくか。
やって来ました。テストラ帝国、近代的な町並みの中を時より、油臭そうな人型ロボットが移動店舗を牽いている。この辺りは魔法より科学で発展した街のようだ。ここに来たのは他でもない。打倒…………なんだっけ?
《聖国ベルトゥードです》
聖国ねぇ~、隅々まで見させてもらったけど、あの国の
「結局、人間の問題なんだよな」
《スタンフォード監獄実験と神風特別攻撃隊のデータを呼び出します》
………おまえ、そんな事もできたのか、まあ、思い出す手間も省けていいか、
スタンフォード監獄実験の方から行くとこの実験は本来、看守の役割を与えた人間は看守らしくなり、囚人は囚人らしい行動を取るようになるかという実験で、中止されたはされたが、実験自体は驚く程上手く行った。ただ問題なのはそこじゃない。彼らの、特に看守側の様子だ、まず、彼らは誰に命じられるでもなく、囚人役に懲罰を与え始めたそうだ。その内、精神を錯乱させ、離脱する者が囚人側に現れ始めたが実験は続き、素手でトイレ掃除や靴磨きをさせたそうだ。バケツへの排泄なんかもある。そして、予め禁止事項として伝えていた。暴力を振るう者が出始めたが、指導をしていた学者自身が呑まれていたため、実験を続行、最後は被験者の親が弁護士を引き連れてやって来た。6日で中止されたが、看守役は「話が違う」と続行を希望したと言う。囚人役は何か法を犯したわけでもない事を知っているにも関わらずだ。
それで、こっちは俺が居た日本の話だが、「戦局打開のためには敵艦船に対する体当り攻撃以外になしとして神風特別攻撃隊の臨時編成を命じた」っと、約4400人の命が人間爆弾として消費された。しかし命中率に関しては16.5%、突撃用の量産機なんかも作られていたが、船を沈めるには貫通力が足りない。回天なんて言う爆弾と一番近くで同居ができ、最後の瞬間まで共にできること以外利点の無い人間魚雷もあるが、こっちは威力が高くとも更に命中率が低いらしい(はっきり分からん)。追い詰められた人間は何をするか分からない。その典型例だろう。表向きは志願者を募っていたが、殆ど強制的な徴兵だ。
………まあ、あれだ、人の精神なんて不安定で脆いものだ。力を持つこと自体に問題はないが、その力に振り回され、呑まれ、狂気の沼に足を踏み入れる為政者とともにある道は破滅だけだ。とは言っても権力とかに関係なく、狂気に身を落とす者もいる。自分は関係ないとかは思わないほうがいい。自分の良き隣人が人の皮を被った殺人鬼、なんてのは犯罪史に結構多く残っている。ステイルメイトでも現実の人間は動く。可能性はすべて潰さなければ、本当の意味で詰みにはならない。
「…………長いな」
この街では結構、生産職の地位が高いため、国も募集がしやすいらしく、ここから俺の作った物を売込みやすい。それにこの国なら間接的に手を出せる。ただ当然だが、この機に新規参入とか、自分の技術を売り込むべく、この国にやってきた夢追い人や、中小企業が大通りを埋め尽くしていた。仕方ないので後ろに並び、割り込み防止に障壁を地面から数ミリ上に浮かせて張り、その上にブルーシートをひいて、その中央で作業をしたり、魔法に関する知識を蓄えたりして過ごす。
ー6時間半
ケツが痛い………まだか、前の荷車が何台も連なっているのであと何人待っているのか分からない。あっ、一気に進んだ。それから少し身体をほぐして順番を待つ。背伸びをしていると先客が叫びながら、多分金の入った袋を投げつける様子が見えた。『こんな端金いるか!』という態度だな、肩で風を切って歩く神経質そうな男の裏を追いかけるように空の荷車が出てくる。
「次の方……お、入りください………」
なんか尻すぼみに小さくなってね?声が、まあ入ってから考えるか、体育館のような空間に二人ほど審査員らしき人物がポツンと立っている。
「では、早速審査には…いりたいので、すが?………審査する兵器は、どちらに?」
「ああ、今出しますね」
隔離空間から引っ張り出す。微妙な反応はそのせいか、人形作成の適応範囲の実験機も出しておく。因みに実験結果なのだが、基本何でもありだ。手足があり、頭があり、猫耳やうさ耳、尻尾などの追加もOK、で手足を増やしたのだが、そこから適応されなくなった。逆に減らす方向だと問題なかった。そこで法則性が分からなくなって、試しに蜘蛛っぽい奴を作って、その上に人形を取り付けた所、これに適応された。で船の船首、家の天辺なんかにつけてみた所適応された。で大きさも変幻自在、ストラップみたいにして護符にも出来た。それを踏まえて色々改良を加えた量産機を作った。大きさも形違う二十機の中に、白と黒のマネキンが大量に並んでいる。
「では、少し機能を、チェンジ、モードナイト起動」
ガシャン!ガチャガチャガチャ、
その言葉の後マネキンが、一斉に動き出し近くの物と白と黒のペアを作る。その直後、黒い方が馬に変形した。白い方は体から長い武器を取り出し、馬の背に乗った。人形作成、あのスキルぶっちゃけた話、最初人型なら後で変形しようが、付属品や飾りみたいな扱いだろうが、効果を発動させるのだ。難点は俺が
「これは………何製なのですか?」
「鉄製ですけど?刻印で防御式も彫ってあるので、ただの鉄製よりは硬いですよ。…………耐久テストをするなら形態変えますね。チェンジ、モードルーク起動」
ズン!ガシャガシャン!
馬がしゃがみ込むと、今度は白い方を覆うように鎧になり、盾を分離、白い方は武器を仕舞い縦を持つ、そして体の内側に掘られていた防御式が表に出てくる………と言っても黒い鎧の下だが、この手の式は表に出ると壊されやすいが、表から遠いと効果が薄い。なので鎧の下まで持ってきて魔法的にも防御力を上げた仕様だ。まあ、モードの内容を聞いてわかる人もいると思うが、このモードはチェスの駒から取っている。初期状態をポーンで数重視、ナイトは機動力重視、ルークは防御特化、ビショップは魔法特化(主に支援)、クイーンはシンプルに強い。時間は掛かるが広域魔法も使う、防御はこれらの形態の中で最も脆いが、それとキングは俺が持ってる操作端末だ。この中には分隊を編成出来る子機も入っているが、上位の命令権はこの駒にあるので反乱は起こせない。それとこのキングの駒の下面にあるボタンを押すと全機を合体させてカイザーモードなんてのもある。奥の手だが、自爆もする。
「何故、貴方は…………失礼、お名前を」
「ノースガーデンです」
「………ノースガーデン、ですか」
「では、貴方は何故この国に兵器を?」
理由か、当然聴かれるよな。面接なんかでも志望動機は絶対聞く。準備もしてある。被っていた帽子を取り、黒髪と黒の瞳を見せる。普段別に隠してないが、こう言え時にとると何か秘密を打ち明けた感じにできる。
「………あの国が嫌いなだけですよ、勇者も」
後は勝手に、国から召喚された勇者の一人だとか、前の世界から勇者と因縁があるとか、自分の納得できる理由で勝手に納得してくれるだろう。さて、セールストークの続きをするか、
「こちらをお受け取りください」
両手で差し出された袋を受け取る。枚数は少ないが持った時の重さに、違和感がある。
「ありがとう」
「ノースガーデン殿、もし良ければですが………」
「僕はあまりじっとしてるのは性に合わないので」
遠くを見つめる。帰りたいんだ察してくれ。あと勧誘はお断りです。
「そうですか………」
受け取った袋の中身は白金貨だった。白金貨は一枚、金貨十枚分に相当する。それが5枚、正直な話あのマネキンとかには手間賃引いて金貨20枚分程しか掛かっていない。まあ、別で寄付として、ダンジョン産の金の装飾品と金100%の延べ棒を北川の名前で送っといた。まあ、戦争は金がいるし、丁度いいだろう。そんなことより、最後の問題を片付けねばならない。まあ、最近勇者の所の子供も保護したのだが、年齢が今までの子より小さいのだ。紙オムツの交換もしたこと無い奴が、保育園の園児丸ごと世話できるか?無理。
「僕無理ですよ」
「私もやったこと無いですね」
「久し振りやから上手くできるとは限らへんで?」
「ナントカなるんじゃないかなー?」
アスメシアNGOから誰か手を貸してもらえる人員を手配したかったのだ。外からは不安があるし、場所の事もある。一人でも経験者を見つけられたのは僥倖と言えるだろう。あっ、そうだ、
「これ、二人にも渡しとくよ」
「ケ、ケータイ………」
「oh、アリガトウゴザイマス」
まあ、使ってないけどもしもの為だ。備えれば憂いなし、万が一はないに越したことはないが………
「二人も何か困ったことがあったら言ってくれ、俺にできる事ならやるよ」
「おう、それやったらまたケーキの売り出しを何時するか聞かれとるんやけど、するもんなんかも分からんから返しようがないんや、追い返してもしょっちゅう来るし困っとるんや」
評判はいいみたいだな、まあ、千里眼とかで確認してるんだが、
「それは………四日後くらいにやろうと思う」
「おう、助かるわ……」
若干、落ち着いた雰囲気が出たので誰かに迫られていたのだろうか?この人どっちかと言えば迫る側の気がする。
「あの、社長をき………」
「他あるか?他?」
藤白のは却下で、他は今の所なさそうなので帰るとしよう。
「じゃあノエル、頼む」
「ちょっと待ってく………」
無事帰還、いつもの部屋に戻ってきた。ちなみに四日後は抜き打ちの組手をやるつもりだ。
「お帰りなさいませ、ご主人殿」
「おかえり、向日葵」
転移で戻ってくる時はこの部屋のポイントを使うので外に出ると、ほぼ何時もここで出迎えてくれる。すると、廊下から足音が、多分複数、あっ、一人コケた。
「おかえり!お兄ちゃん」
「おかりなさいませ!ご主人様」
「無事の帰還、心よりお待ちしておりました。殿下」
「お、おかえりなさいませ!マスっ、うぃあ!」
扉が開いた瞬間にクロシェット、しっかり扉が相手からアリスとルシア、そして、駆け込みながら出迎えの挨拶の最中に転ける。クロエ、まあ、目の前なのでキャッチするが、
「ストップ」
待て、と言われたのかと思ったが停止の魔法だ。クロエの動きは空中で止まっている。何かと万能そうな魔法だが、停止中は攻撃してもダメージを与えられない。時間停止はその状態で止めるという魔法なのだが、同時にその状態を維持する魔法でもあるので干渉できないのは道理だろう。ただ、ストップは時間系の魔法なので対象の時間を止めるだけ、空間に固定する訳では無いので、腕等、一部を動かす事はできないが、丸ごと止めてる対象をオブジェクトとして動かすことはできる。
「直して」
「直したにゃ」
「解除」
「………………………あれ?」
目を閉じて来たるべき衝撃に備える姿はめっちゃ可愛かった。悪いなーとは思いながらも、
「まあ、こけなくてよかったよ、今日は誰が晩御飯を?」
「今日はアナスタシアが作ってますよ、ご主人殿」
それは楽しみだ。いつものように他愛のない会話をしながら、今日あった事を競うように俺に報告してくる。掛け替えの無い時間だと思う。問題がないからこそ楽しめることだが、後日、シリルさんからのメールが全文英語で来るので何とかしてほしいと初の助けを求められた。