この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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纏まってない塊です。(区切りが見つからずダラダラ書いてたらこんな事に………)


不正の魔術師(挑戦)皇帝(ロイ)の決断

シャッ!

 

あーあ…………っと、よく寝た。精神的に疲れきっていたので寝ていたのだが、目覚めはと言うと常に最悪だ。カーテンを全開にして朝の日差しと共に眠気を身体から追い出す。………あと、忍び込んできた元生徒(ヘッドロックで落とした)を縛って袋に入れた物を担いで食堂に向かう。………さて、どうしたもんか、

 

「帰るところがないとの事で今日からここに住む瀬戸原だ。俺が元いた世界から来たから、知識とかには偏りがあるから、ここの事も教えてやって欲しい。扱いとしては………一応生徒だ」

「一応って………」

「………問題行動が目立ちます。これも課題だな、俺の口からは以上だ。それぞれの目で見極めてくれ、コイツの揉め事は即相談だ」

 

………取り敢えず問題児である事を仄めかしておくだけにしたが、監視は付けよう。

 

「起きろ、流石にそこ寒くないか?」

「平気にゃ〜」

玄関前の絨毯を占拠しているクロシェット、俺の行く先々でこうやって待ってることが多いので、絨毯は良いもの買っている。猫のように伸びをすると、床に押し当てられた谷間と突き出した臀部が強調される。

 

………っておい、動くんじゃないのか、また寝る姿勢になってないか?

「………クーちゃんの監視、なのにゃ?」

「クーちゃんって、………瀬戸原のことか?」

「そうにゃぁ!友達になったにゃー、話がよく合うのにゃ」

「………………主に何の話かは言わなくていいぞ」

 

ドMで意気投合かいぃぃぃ………

 

「………だから隠れてていうのはあんまり気持ちのいいことじゃないにゃ」

「監視で付いてるって言うのは言っても問題無いぞ、別に」

「そうにゃ?………………それならいいにゃ」

 

………いいのか?自分で言っといてなんだが、

 

「まあ、監視を気にするような奴じゃないからな、交代制でやってもらうから向日葵と………」

と、ここまで口にしたはいいがメンバーをどうするかで言葉が詰まる。監視にはそれ相応の強さも要求されるが、咄嗟の判断が出来る者である必要がある。向日葵は基準をギリギリクリアしている。が、他だ。クロシェットは文句無し、アナスタシアやノルン、レアは他で忙しいし、前衛向きでは無いので取り押さえるとき不安が残る。とクロエやアリス、ルシアは取り押さえる点で問題は無いが咄嗟の判断は出来そうにない。それどころか何かやらかしそう。ロザリーは移動に難があるし、アリアはまだ分からない部分があるが、なんとなくクロエと同じグループに入りそうな、

………残るは朝日と月夜、月夜は万能型の信頼ノ使徒(イフディエル)があるし、適しているが魔法関係は全く駄目、武器に刻んだ空間魔法を使った攻撃はしっかり使いこなしているのだが、まだ洗練されている感じではない。朝日はスキルが全般魔法に偏っている上に、その他トリッキーなスキルが多く使いこなせていないのが現状、正直、俺でも使い道の分からないスキルがある。………そもそも前後衛の二人一組を想定して作ったのだ、別けて役割を与えても互いに補い合う形を取っているのであまり意味が無い………取り敢えずはまあ、二人共付けて様子を見るのがいいだろう。

「ご飯、出来た………」

 

今日はアナスタシアが当番か、

「もうみんな揃ってる。冷める」

「行くにゃ!」

 

「先生?ご一緒しても?」

食後のティータイム(勿論紅茶)を楽しみながら、まったりしていると全くまったり出来ない人物が同席を求めて来た。由緒正しい家の子なので所作は綺麗なものだが、たまにスプーンやフォークで眼球を狙ってくる最悪のオプションが付いてくる。

「………どうぞ」

「そんなに嫌そうな顔しなくても………」

誰が優雅にお茶してる時に食事中の修行がしたいんだ?しかもこっちが一方的に狙われるし、普通の皿の物を奪い合う(そもそも陣取りの練習みたいな物)はずなのに直接攻撃、

「先生と同じ物を」

「………わかりました」

 

………クロエ、笑顔だけど殺気出てるよ?

 

「………丁度いい機会だし話すか、瀬戸原はあの時からこの世界に来たんだよな?」

運ばれてきた紅茶の香りを楽しむ姿は深窓の令嬢、中身はあれだが、

「ええ、そうですわね、確か………ヴェダって言う祭儀を取り仕切る神らしいですわ、あと破壊も」

祭儀………ね、どのくらいが対象範囲かわからんな、アナスタシアの舞姫とか俺の芸術の一部のスキルとか関係があるのか、そもそもスキルと神は関係あるのか?そんな考えても仕方の無い事を考えてるとお茶請けの………クッキーが出てきた。

「あれ?今日はケーキ系じゃないのか」

「ふぇ!………申し訳ありません!アリスが食べてしまったみたいで………

アナスタシアはケーキとか洋菓子を中心に作るので、よくアリスのつまみ食いのターゲットになる。………ただ全部食べる様なことはまず無い。それともし全部食ったら多分クロエに相当怒られるだろうが、怒りを感じない。多分食器だ何だを渡すのも危ないと判断して要らないものにしたか、それにクッキーはいろんな所の収納に突っ込んであるので便利だし、芦原さんのスキルでも買える。

「じゃあ、先生………あーん♡」

「………………一人で食えるし、そのクッキーの下に隠した乾燥剤ごと俺の口に入れる気か?」

「うぇっ!と、取り忘れてま………!」

 

また転けそうになったのでクロエの手を引いて支える。

「大丈夫か?落ち着いてやれば出来るよ、クロエになら」

期待を乗せるとプレッシャーになり、動きが硬くなる。が少しでも悪い方に取られるよりマシだ。目に見えて落ち込むし、気が付くと部屋の隅に行ってたりする。慌ただしく新しいお茶請けを準備すべく走り去るクロエ、入れ替わるように口の周りにチョコを付けたアリスが護衛についた。本人には悪いが不安しか無いな、

「……………口の周り、付いてるぞ?」

「………………………はっ!ワタクシですか!?ゴシゴシ」

 

服の袖ー!ちょ、それ………

 

ガンッ!

 

お茶請け(ラムネの菓子とかバームクーヘン小分け等盛り合わせ)を持ってきたクロエに拳骨を貰った。結構いい音がしたな、目に入りそうになっているスプーンを持つ手を箸で摘む。

「………痛くないと言うのは物足りないですわ」

「わっ!箸さげ忘れてました!」

「いや、ちょうど良かった」

「………それより先生については聞かせてもらえないのですか?」

 

箸で指挟まれてる状態で言うことか?

 

「神様の間では空に放り出すのは流行ってんのかねぇ、俺も空に放り出された。貰ったスキルでなんとかしたが、………俺のパーソナルスキルは簡単に説明すると目だ。真偽解析、透視、演算補助、未来予知、それと悪魔系で接触型侵食系、それと迷惑な自爆テロでお陀仏したから炎熱無効、目立つのはこれぐらいだな」

「まあ〜、それだけあれば何でもできますわね」

「茶化すな、鋏とかはなんで持ってた?」

「欲しいものを聞かれたので、その時に」

 

俺が耐性や魔法を貰ったのと同じか、さて、

 

「…………なんで死んだ」

「ギリギリを求めて首を吊っていた所、気が付いたら死んでました」

「あっそう」

一番可能性の高い死に方だが、こんなでも一応生きることへの執着はある。………もっともより快楽を貪るためだが、一番あるのは縄、もしくは縄を切る鋏ないし、短刀を切れない物へのすり替えか、ただ、依然として本人が言ってる理由の方がしっくりくるな、

「それより先生、最後の方は何をしたんですか?」

「なんの事だ?」

「………先生の黒靄が所々モザイクみたいになっていたんですが?」

「………………はぁ」

「生きてる内は間違いは正させてもらうし、穴があるようなら掻い潜る。パーソナルスキルには未来を見る権能がある。元はそれだけだった、………ここまで聞いていれば未来予知のスキルに関係する事までは分かりますわ」

 

ふむ………、駄目そうだな、誤魔化してもいずれ分かる。

「…………故障(グリッチ)スキル、所謂バグ技みたいな奴だ」

「バランスブレイカー、みたいですね」

「事実そうだよ、魔法やスキルのあるこの世界のシステムを把握しないと作れないしな」

 

前提としては悪魔系でも傲慢ないし、それに連なるスキルが必要になるが、

「………クラッキングみたいな感じになるんですかねぇ?」

「いや、ちょっと違う。か?………………ん?、ちょっと待てよ」

 

説明すんのは難しいのよなぁ、これ、あくまでバグ、不具合を起こすという点ではゴールは一緒だが、過程が少々異なる。

 

「例えとしては、ゾンビを自作するようなものかな?こっちの世界には魂というものが明確にあるとされている。そして俺はそれを侵食、分配、変換ができる。まず生きた人間には肉体と魂、それと寿命がある。寿命が尽きると肉体から魂は離れるが、別にそれが全てでは無い。魂の残滓と肉体にある記憶が動かし、魂の不足を補おうとする。エラーを自動的に治そうとするんだ。………さて作り出すとしたらどうやる?」

 

………まあ、今のところなぜ心臓が動いていないのに身体が動くのかは研究中だが、恐らく法則の上位下位が影響していると考えられる。

「魂の不足を補うと言うのは生きている者を襲うことですか?」

「そうだ、どうやっても人の魂を取り込む事はできないが、目も耳も聞こえない状態で、魂や存在値のある方に動く。魔力を込めただけのゴーレムは基本無視だが」

 

魔力で魂モドキを作ってデコイにすることもできるから、それをゴーレムに付与すれば人に偽装もできる。……………あっ、普通は無理ね、冒涜で魔力をそれっぽく認識出来る様にしないと出来ない。これだけ説明すれば瀬戸原なら分かるだろ。

「………死体を用意してそれに適量、魂と定義される物を入れる、ぐらいしか思いつきませんわ」

「まあ、俺ならそうだな、じゃあ魂や存在値を扱えない場合は?」

「……………………死体を用意するぐらいですかね?それこそたくさん集めて、たくさん殺して、………その中に作った身体を混ぜて増やせないか?とかいくつか仮説を立てて実験しながら」

「………まあそうだな、100%はないだろが、0%でもない。正直、この力を形にするには51948回、俺のスキルの未来予知に叛逆をピンポイントでぶつけ続けて、今の力になった」

 

結果、未来視は天啓になった。代行者に丸投げしたが、未来の可能性をある程度操作出来るようになった。30%加算したり減らしたりだが、

「殿下、しょろしょ………そろそろ次の授業の時間が近付いています、準備を」

「そうか?よっ、と…………お前はどうする?」

ルシアが噛んだ事はスルーしながらも授業に行く前に武器を取り出す。

「北川先生?こっちに来てからは重い武器も使うんですか?」

「ああ、これは試しに作ってみた奴だ。俺のじゃないが使えこなせそうな子がいる」

「これを………?授業を見学させて頂いても?」

まあ、興味湧くだろうな、本来欠陥武器とも言えるが、出力だけは高い。あと調整した武器も使用感に合わせて仕上げていくつもりだ。

 

「ほれ、これはハルト、こっちのはキリエの、それとこっちのは前にアイディア貰ったのを元に作った奴だ。試しだから合わなかったら言ってくれ、………ただ特訓とかでは使うなよ?どれも殺傷力高いからな」

ウィルからは防具ぐらいしか頼まれないからな、ハルトは武器が増え過ぎてないか気になる所だが、………まあ、一番壊してもいる。

「今回のは丈夫さ重視だからちょっと重いが、使いこなせれば速さも破壊力も桁違いだ」

ハルトには悪いが、刀を使うのは向いていない。中古を強化した刀も剣でさえ叩き折るため、形は刀っぽさを残して(要望)、片刃の剣にさせてもらった、お陰で強度も改造もいろいろ出来たがやたら重い。

「今のハルトならデメリットは気にならない筈だ、ほら説明書」

最大火力を引き出そうとすると扱いも難しかったりする。………まあ、この辺りは自分にあったやり方を本人が探していく他ないだろう。

「ロイ、………これマジで危ないからな、一回使ったらここに魔力を流す感じでもう一回使用可能になる。キリエのはここを開けて付属カートリッジを入れるそれぞれ対応する能力があるから確認しておいてくれ」

「北川先生〜、私にも素敵な武器(プレゼント)をくれませんか?」

「………はい」

 

俗に言う十徳ナイフを差し出された手の上に置く。

 

「え〜、これですか?」

「刃を手の平に突き立てられなかっただけでも良かったと思えよ」

「………私は先生の目にどう映っているのかしら?」

 

冗談に決まってるだろが、

 

「さて、時間も無いし、特訓を開始するぞ」

そう言ってから模擬戦用の木刀が無い事を思い出した。仕方ないのでペイント弾を入れた銃を取り出す。

「塗料は蛍光だから最後にいくら当たったか見るからちゃんと躱せよ?」

 

一時間後

 

台車に載せられた四人は倉庫の方消えていった。屋根の下に入ると………ほんのり光ってるな、全身が、

「素敵、みんな強いですわね、………次の子たちは」

「さっきの四人にはまだ届かないけど、他の子から比べると頭一つ抜けてる子かな?」

「よしっ、いくぞ!あんな水鉄砲当たるかぁ!」

「あたしはいつでもオッケーだ!にししっ」

「あっつ〜い………!もうちょい離れてくんないとわたし本当に焼き魚になっちゃうからね!」

「………集中したいの」

「………………キング、お前のパン水弱点だろ」

 

塗料は防げるが当たる度に重くなると思うぞ、

 

「あの子達は?」

「………………あの火を纏ってるのが、タージャの姉、サラマンダーのシマシマ、隣の人魚がエミル、であっちの静かな子がミネルヴァ、んで、自称キング」

シマシマのグローブは火を付与することが出き、燃えない素材(なんかの革、忘れた)で出来ている。効果は防御の一点張りで、一般的な剣では掴んでも傷一つ付かない。エミルの車椅子はアルミ等の軽い素材で出来ているが、意志によってのみ動くため、旋回なども滑るように縦横無尽に動かすことが可能、悪路で無ければだが、ミネルヴァは軽さと丈夫さを両立したシンプルなナイフ、使い手の技量が最も問われる物だ。

「じゃあ始めようか」

「うしっ!………まずはあたしのうぉーみんぐあっぷ?に付き合ってもらうぜ」

「んなもん実戦にはないがな、怪我しないように入念にやっとけよ、怠ると柔軟性は急にでは無いけど徐々にだが、確実に下がるからな、始め!」

 

このチームには厄介な所がある。キングとシマシマが前衛、エミルが後衛、そしてミネルヴァの遊撃と伏兵だ、理屈はよくわからんが、ミネルヴァは梟の獣人だが、その特徴は目ぐらいにしかない。フクロウの羽根は羽音も風切りの音もしない、だが彼女には羽根もない。しかし音がしないのだ、足音に至るまでとても静かなので目で追わなければ気配が辿り難く見失ってしまう。………ただ、前衛が脆い。体制を崩したように見せて誘い出した所に最大効果の発勁をキングとシマシマにプレゼントする。

「ぐへぇあ!」

「うぇあっ?!」

隙と見せかけて次に繋ぐための震、このあたりの駆け引きを間違えると今のように手痛いしっぺ返しを食らう事になる。

………しょっちゅう使ってる手の筈だが、相変わらずよく飛ぶな、しかも手応えから言って完全に無防備なとこに入った。呻いてはいるがぴくりとも動かないし、

「うわぁ………一撃w」

 

いや、笑っとるやないかい、エミルに向けて発砲すると、難なく命中、

 

「………ここ!」

 

あぶね!………ふぃ〜、セーフ、間に合った。ミネルヴァの突き出されたナイフを防ぎ、追撃を防ぐ為に一閃、これを掻い潜られたり、凌がれるとキツイ、

 

カンっ!

 

引かずに防ぐのはいいが、まだ次が繋がらないな、姿勢が崩れた所に追撃を掛け、三手目で足払いで倒れた所にペイント弾を当てる。

 

パスッ、パスッ、パスッ、

 

「わっ!ちょ!………ペッ、ペッ、そこは突きつけるだけでいいんじゃないですか?!」

「一人だけ当てないのは不公平だろ?」

 

取り敢えずは全員に一発、………まあ、みんな一発当たったぐらいで終わったなら、塗料まみれになったりしないんだがな、そう思いながらも発破を掛ける。

「さあ、来い!」

 

「………そこまで言うのなら、彼女を賭けて勝負しよう」

「望むと………」

「人を勝手に賭けるな!アホ!」

ハルトの脳天に六角形の棒が命中する。この手のアホは相手するだけ無駄である。ただ、全力でブッ叩いたら駄目だろ。………ハルトが伸びてるのをいい事にまだしつこく絡んでいるな、あいつ等の目には棍棒にべっとり付着する血痕が視えないのだろうか?受付に行くついでに後ろから手刀で意識を刈り取り、手頃な椅子のある方に転がして置く。無論座るように…………なんか何処ぞの名探偵が時計型麻酔銃で眠らせられてるようにも見えるな、取り敢えずハルトの頭に回復薬を垂らす。

「………まだズキズキする」

「あの手のアホはまともに相手するな、こっちに損しかない勝負をうけるな、買っても得る物がない。後々面倒くさそうな奴なら徹底的に潰したほうがいいけどな」

「じゃあ、ああすれば良いのか?」

「……………あれも違うでしょ」

「そうだな」

視線の先にはロイがいるが、攻撃すべてを回避しながら、完全無視で進んでいる。邪魔なので集団の数人に椅子を蹴り込み、膝カックンで座らせる。まだ暴れてる奴は意識を刈り取りさっきと同じ様に椅子に座らせる。仕上げに最初に座らせた彼等の肩に手を置き、殺気を乗せて威圧する。

「次は、ありませんよ?」

「先生、どうするのが良かったのでしょう?」

「揉め事が全て駄目とは言ってないぞ、衆目のある所で片付けるならバレないようにやるか、ギルドとかに任せるか、どの方法を使うかは自分で決めればいい、どうすればいいか分からない時は俺に相談する。わかったか?」

「心強いです。先生」

特にロイの場合、異性からの好意もある為、拗れたりすると大変だ。………もっともアドバイス程度で本人が悩んで出した結論と意志のほうが大事なので、ストーカー化したりする場合はこっちからの対応がいりそうだ。

「さて………」

持って行きそびれていた依頼を手に受付に………

 

ガラガラ………

 

「お父様!」

「マスター………」

ノルンが乗った台車を押すアナスタシアがギルドに突撃してきた。ただこの辺りは椅子がある事からわかるように酒や簡単なつまみも提供している。

 

ガッ!

 

「痛でぇ!」

 

………小回りが効かないからまあ、当たるよな、台車に乗ってたノルンは前方に放り出され、地面に熱烈なキスを決めた。

「ごめんなさい………」

「おおぉぅ……………じょ、嬢ちゃん達は、何ともないか?」

「大丈夫、ノープロブレム………」

「それ、私が答える所では?」

「それより、………ヒール」

 

まあ、みんながみんな絡んでくる訳じゃない。アナスタシアはおっちゃんの足にヒールをかけている。ノルンを心配してるのは本心だろうし、

「連れが迷惑をかけた、申し訳ない」

「い、いや礼を言うのはこっちの方だ、回復魔法までかけてもらったしな、元気なのはいい事だぜ」

悪い事をした時は謝る。先生として教えた事を守れないようでは生徒に示しがつかない。

「そう言ってもらえると助かる。………おーい、全員集合!今日は俺と一緒に討伐をやるからな」

 

湿地は長期間いると消耗が激しい。体力もそうだが、精神面の負担が侮れない。討伐対象は表皮が厚く生半可な攻撃を受け付けない。傷を追わせても致命傷に至るには深くまで届かせないといつまで経っても倒せない。

「今回は同じパーティーとして動く」

「そ、それほどの相手なのですか?」

「いや、テストも兼ねて実力も見ようと思ってな、今回の魔物はちょっと前のお前達では倒せないと思ってた奴だから、多分今のペースで強くなってるなら勝てると思うの見繕ったんだ」

「先生が一緒なら何でも楽勝だぜ」

「まあ、俺一人でも勝てる、………要は、競争だ。勿論、焦ったり無理せず堅実に、な」

「………そろそろ来ます。大きい!」

真理と千里眼を併用し、討伐対象を確認する。

 

キングスケイルスパイダー

スパイダーと付いているが、大きいタラバガニ、なおタラバガニはカニの仲間ではなく、ヤドカリの仲間である。

 

………異世界でもこの辺りは一緒なのか?

 

そんな事を考えながら振り降ろされた爪を躱し、弾き掻い潜り、関節に浅く切り込みを入れる。しっかし、色合いが見事に茹で上がってる感じなんだが、

「いぃぃぁあっ!」

ウイルの拳が甲羅を捉える。………うお、こいつ前進出来るのかよ。

 

《スパイダーですから》

 

やかましいわ!なんでそんなとこだけ取ってつけたように持ち出してくるんだよ、

 

「くらえぇぇぇ!」

 

ハルトは高速で回転しながら爪を躱し、剣をド真ん中に叩き込む。

「おおぉらぁ!」

少し時間差があってからカニの巨体を吹き飛ばす。

「ちゃんと使いこなしてるみたいだな」

「アクセルブレードBB、………これ凄いな」

あまり多くの魔力を運用するのが得意じゃないハルトには外部でチャージして開放する方がいいと思ったのだ。モードは二つあり前者は爆発による直接攻撃、もう一つは推進力に変換してさっきのように回転しながら爪を躱して、間合いの内側に一気にとびこんだりも出来る。パワーが足りない時や強引にでも振り抜きたい時にはこっちが役に立つ。ただ、使用者を焼く高い熱を発するが故にこれを使うには炎熱無効のような高い耐性が必要になる。そしてハルトは赤狼から灼災狼帝(フレアディザスターウルフロード)になったことで炎熱無効と炎熱吸収を獲得、再吸収により効率的にこの武器を扱えるようになった。

「オラオラオラ!」

欠点は魔力を再充填しなければ次を使えない。貯めてある魔力が空になってからは殻に傷一つもつけられてない、魔力を込めながら戦うのは少々コツがいるんだよなぁ、そこら辺は追々できるようになってもらうとして、「ハサミが来てるぞ!捕まるな!」

「………わかってるってぇの!」

クイックで魔力を込めて、それを撃発して起こした爆発で後ろに飛ぶ。あの剣には充填可能な容量は決まっており、段階にして6段式でブースター、バスター、三点バースト、フルバースト、クイックの5つのモードがある。三点バーストは3段回分を開放して攻撃する。フルバースト溜まっている魔力の全放出、そしてクイックは強制的に一発分を吸い上げ、次の攻撃で放つ。その為込める時間がない時は便利だが、強制的に取られるので一回使うと直後に力が抜けて隙になりやすい。

「モードがいっぱいあると機能的じゃないし美しくないからな、グリップセーフティ兼安全装置がブースター、人差し指辺りにセーフティの上に取り付けたボタンがクイックだから素早く切り替えられる」

「バスターとかは?」

「………大変だったよ、そこが、バイクのアクセルみたいに捻れば切り替わる。ポジションとしては一回使うと必ずバスターに戻る」

「ばいく?」

 

ああ………バイクが伝わらないのか、強度を維持しながらこの構造を実現するのは大変だった。撚るとグリップセーフティが段階的に沈むので加減も分かりやすく、握った状態を維持すればそのモードで止める事もできる。………その為フルバーストでクイックを押す場合は貯蔵分と加えた魔力の全放出、いわゆる手動モードになるため、フルバーストで火力不足な場合はこれを使う他ない。

「はっ!」

キリエが棒を使って叩く。………ただ、キリエの武器は対人向けなので大型の魔物には効果が薄い。対魔物用の武器も作るべきだな、ロイの風魔法も体制を崩せるもののダメージにはなってないな、植物を絡ませても千切られてるし、………ダメージになるような攻撃はハルトぐらいしか入れられていない。ウィルの攻撃は届いて入るようだがダメージが少な過ぎる。

Welcome to Fear(恐怖へようこそ)

カニの関節を弾丸で撃ち抜き、動きを止めて解体(バラ)す。

「ふぅぅ………」

 

カチン、バラバラバラ………

 

上手にできました、と、

「課題点も見えた来たし、改善しないとな」

ハルト以外は対人重視だったから、そこら辺見落としていたので、武器を増やさないといけないな、

「やはり防御の硬い魔物は攻めきれませんね。弱点がわかりにくいですし」

「ロイの場合は経験を積んで養って行くものだからな、今はそれで良い………ただ予想より武器の火力を増やさないと真正面からは厳しいな」

「なあ、先生はどうやってアレを斬ったんだ?甲羅とかヒビは入るけど、全然斬れねぇし」

「甲殻で覆われてる生き物全般に言える事だが可動部、関節の可動域の外側は固い殻で守られているが内側は動かす為に殻がない。少なくとも外側より内側の方が殻が薄いことが多いからそこから刃を入れたんだ」

「先生、魔物が逃げ出しました!」

 

………………え?マジで?足全部斬ったけど?

 

《自己再生を持っているため二十秒あれば移動できる程度の足を再生する事ができます。》

 

油断も隙きもねぇなぁ、おい、と言っても動ける最低限なので簡単に追いつける。

 

Now, it is cooking time!(さあ、調理の時間だ)

土魔法で作った調理台の上に点火するだけなので技でも何でもない。空砲で、

順番は逆だが日本酒もブチ込み、蓋をして酒蒸しでいただく事にする。

「喰えそうだし、ここで飯も済ませて次に行こう」

「………食べてしまって良いのですか?」

「これは討伐依頼だ、死体や素材はこっちの自由にできる依頼だったから、遠慮しなくていい。喰えるかどうかはスキルで確認したから大丈夫だ、毒も無い」

追加でさっき斬った足も追加で入れとく。流石に即席で生やした足は食うところなさそうだしポイッ、させてもらった。出汁とりといってもこの量ではたかが知れてるし、見てくればっかりで中身はほぼ空だ、

「次って、何の討伐依頼になるんでしょう?」

「先生これで鎧とか作れない?」

…………頑丈、かもしれないけど重いし、俺が式を書いた服の方が強度はある。………それに丸ごと酒蒸しにしたし、頃合いをみて蓋を開けると綺麗な………元からこういう色か、臭そうだし、見た目ふざけてるようにしか見えんだろうな、その上魔物の素材ってやたら相性にうるさい上に部位毎の強度も違う。金属はその辺は均等だ。材料を溶かし、削って留めたり、繋いだりすれば良い。

「そこら辺の魔物の素材では買い集めてる金属を超える素材があまり無いんだよ」

一つの属性に耐えるなら超えられるものは多いが、総合力で大幅に劣る。

「ほれ、早く喰うぞ」

 

《警告:本拠地に侵入者が接近しています》

 

「………………キリエ、これ」

「これは?依頼表?」

「少し予定外の事が起きたから、行ってくる」

付箋を千切り、拠点へ帰ると西向きの壁を切り拓く。それと同時に空中に舞った丸太を敵の眼前に蹴り込む。

「用件はこのまま聞こうか」

「待ってくれ!俺達は争うつもりは無い!ただ………」

「迷い込んだだけ、か?背中の獲物に手を掛けながら言われてもなぁ?それと付くならもうちょっとマシな嘘を付け、そうやって近付いて首筋に一太刀毒付きの短剣で斬り付けるのがいつものパターンだろ?」

「………………」

「無言は肯定と受け取る。爛旋迅」

拠点として開いた場所を囲う森林を炎の竜巻で焼く。これでお仲間は再起不能だ。この炎は死体も残さず焼くといった高温の類では無い。通り過ぎたなら呼吸困難に皮膚に重篤な火傷、付近を通るだけでも遠赤外線で満遍なく皮膚が爛れる上に風魔法で擬似的な上昇気流を作り、火力を上げている為、吸い寄せる効果もある。前やった火災旋風を起こす魔法を対人向けに効率を上げた物だ。

「俺は未来を見るスキルと嘘や隠し事を見破るスキルがある。後は言わずとも分かるよな?」

「この………、化物が!」

「ここに来た段階でお前らは詰んでる。」

「………俺も殺すのか?」

「ああ、生徒を守るのは教師の………仕事だ。お前の行いは生徒の安全を脅かす、命に関わる行為だ。残された者に伝えて欲しい言葉はあるか?」

 

「………………………すまなかったと、伝えてくれ」

 

「分かった。……………葬却塵」

男の体は一瞬で消し炭になり、その灰を風が攫っていく。

 

「カモンベイビー!!」

「カモンベイビ〜!」

「アーユーレディ?!」

Let's rock!!(ノリノリで行こう!!)

Goodbye to the boring day today!(退屈な日々にサヨナラ!)

Now, let's dance like crazy?(さぁ、狂ったように踊りましょう?)

And to satisfy me with your blood………(私をあなたの血で満足させて………)

「にゃあー!」

早速お礼参りに来た訳だ。魔力で動くバイクを使ってドアを破って突撃した訳だが、………おまけが多いな、喋った順に俺、レア、ルシア、アリア、月夜、朝日、瀬戸原、最後にクロシェットと、はっきり言って過剰戦力だ。見学と言いつけてあるが、置いていくと何するかわからんし、仕方なく瀬戸原もいる。正面にいた見張りをウィリーで壁とタイヤで顔面をサンドイッチしてやる。

「な、何だ今の音は!」

向かいの扉から仲間が出てきたか、タイヤの向きを直してエンジンを蒸し、アクスル全開でドアごと吹き飛ばす。

 

バン!

 

「おいどう………」

 

パンパン!ババン!

ガキゴキバキバキパキッ!

ヒュン、ボタボタビチャ!ドシャ、

ピシッ!パリン!

 

扉を開けて入ってきた瞬間に痛みを感じる間もなく瞬殺される。ある者は眉間を撃たれ、ある者は首が二回転半して崩れ、またある者は空を斬る音共に人の形を留めることなく床を染め、そして凍らせられ砕かれる者、

 

「一瞬だな………とりあえずここに設置」

「はいー」

「じゃあ、小生はこっちから刻む」

「姫は、姫は〜こっちから、萌え萌えさせちゃうの〜」

「それは………放火じゃないのか?あ、殿下、指示は何かありますか、みょちろん、………勿論私に出来る事でしたら」

「惜しかったすっね」

「噛んだにゃ」

「ふふっ、何だか楽しいわぁ」

騒々しい上に緊張感も無いがなぜか安心出来るんだよな。

 

カチン、

 

「ふぅぅ………、さて、全員付箋は持ってるな、帰るぞ」

一瞬にして見慣れた部屋に帰ってくると、千里眼で後を確認する。………見たままの結果になったな。と言っても、天啓の結果なので見たと言うよりシミュレーション通りといったほうがいいか、

「北川先生、今回はだいぶアッサリしてますね。こういう時、どんな手でも最後はほとんど直接手を下すのに」

「殺すと後が面倒だからな、次は無いと言う警告と嫌がらせだな、保証は半壊までしか受けられない程度に壊したからな」

まあ、半壊は半壊でも立て直した方がいい半壊なのだが、住めるけど自己責任のレベルまでしか直せないからな、あれ、

「そういう事ですか、先生らしいと言えば先生らしいですね。回りくどいけど一番嫌な手でしょうね」

 

喧しいわ。半壊と一部損壊、この基準は結構いい加減だ。壁、モルタルが大幅に剥がれる地盤沈下からは半壊、亀裂程度では一部損壊になるのだが、外見から自治体の職員が判断する。地盤沈下等分かりやすい物は簡単に半壊の認定を受けられるのだが、亀裂と言うのはかなり危険な物をあれば比較的軽度の物もある。この辺りは専門的な知識がなければ見分けはつかない。一部損壊と半壊なんてどっちでもいいと思っている人もいるかも知れないが、これが保険や国からの支援金になると全く違う。当然半壊と大規模半壊も、

「一部損壊、半壊、大規模半壊、全壊の4段階で評価される。それはこっちにも持ち込まれてるからな」

勿論街や国ごとに違ったりするが、損壊具合によっては判断が適正では無い事がある。大概災害時の基準だからな、市町村の職員を総動員しても何日かかるやら、だからこそ再度見てもらうことも可能だ。当然短い期間内に状態が悪化した等のケースに対応する為のものだが、………この世界では一回限りだったな、精度はこっちのが低いが、賄賂という切り札があるのがね、

「………そのときはそのときか、藤白のとこ見てくる」

 

「………………サボってたな、へっぴり腰、重心が不安定、……その振り方は手首に負荷が掛るからやめろと言っといたはずだ」

崩撃雲身双虎掌、バーチャのコンポがガッツリ決まった。壁画の如く壁にめり込んだ藤白を見ながら直前に隔離した刀を引っ張り出す。重い武器を苦し紛れに振ると当たってもたいした威力にならないのは構わないとしても、余計な負荷が掛かるのは見過ごせない問題だ。身体を絞れ、とは言ったが怠けろとは言ってない。洗練が必要なのだ。ルーティンや素振りは無駄無く行わなければ必殺の一撃も致命的な隙になる。

「お前の振り下ろしは十分仕上がってる。後は機を観る事とその型を自分のものにして効率化する事だ」

前者は戦闘経験を積んで、後者は徹底的に素振りと自分の動き等の見つめ直し、戦闘経験は………、

「ウィル、相手をしてやってくれ」

「はい!」

「えぇ!!大丈夫なんですか?!」

「二人とも丈夫だ。なんとかなる。ヤバかったらコレ使え」

回復薬をキリエに預けとくと芦原さんのほうに向き直る。

「いつ見ても勝てる気せんのぉ………」

「芦原さんは我流ですからね、ひたすら実戦の方がいいので………ハルト」

凄い嫌そうな顔されたのでハルトに相手をしてもらう。ハルトも実戦で大きく成長するタイプだし、ちょうどいいだろ。

「先生、お時間よろしいですか?」

「ロイか、ああ、いいぞ」

「実は………暫く故郷に戻ろうかと、勝手なことを言ってい………」

「お前のやりたいようにやれ、ここに戻りたい時に遠慮はいらない。………それと、お前がやりたい事は俺がやりたい事かもしれないぞ?それからな、ロイ、それはお前がやらなきゃいけないことか?それともお前だけでやり遂げたい事か?」

「………出来るならやり遂げたい、です。一人で」

「………ほら、ただのエルフだった頃には使えこなせない銃だ。こっちがチェスカー・ズブロヨフカ75(Cz75)とベレッタ92、後はインパクトコントローラと消臭剤、催涙缶、フラッシュバン、一年そこそこでハイエルフになったんだ、錦を飾るには十分だろう。後は錦そのものがいるが………そこら辺は俺じゃない奴に見繕ってもらえ、何分機能美も兼ね備えた物じゃないとてんで疎くてな」

「………………ハイエルフですか?」

「言ってなかったか?」

「……………はい」

「もう少しでエンシェントだぞ?」

「そ、そうなんですか………」

「ああ、先祖返りでは3人目になれるぞ?」

この世界の人以外の種は進化する。それはエルフや獣人も含まれるがいずれも進化には方向性がある。ハルトは火に加えて土と闇寄り、ロイは風と聖、植物に電気の魔法適正を得る。適正以外にも特殊な耐性を得る場合もある。そして進化に至るには途方も無い努力が必要になる。

「僕、ハイエルフになってたんですね………あの!」

「方針は決まったか?」

「いえ、その前にいくつか聞いても?」

「答えられる範囲で答える」

ロイの質問に答えながら、特訓の方にも意識を向ける。………生徒の方が優勢だな、ウィルは攻撃を躱し、攻撃しているが時々弾いている。弾かれてもすぐ立て直せればいいが、藤白は仰け反り身を躱すこと防ぐことも無くモロに重い一撃を貰っている。アレを貰って戦えていると言う事は頑丈さとタフネスは鍛えられているようだがセンスの方はからっきしだ、ハルトの方は………

 

ブン、パァァン!ゴウッ!フン!

 

空を切る音、爆発、急加速、息をつく間もない追撃に芦原さんがついて行けてないな、ギリギリの所で捌いてはいるが、長くは保たないだろう。………あっ、それはブラフ、

 

ゴッ!………ガシャン!

 

あーあ、結構高いんだよね、この世界のガラス、弾いた際に姿勢を崩したフリをしたハルトに、追撃をかけようとしたのだが、威力を絞った爆発で煙幕を作って飛び込んできた所を峰の向きにしてからフルスイングで振り抜かれた。芦原さんに隔離を介して回復薬をかけておく。変則的な攻撃に容易くは押し返せない力と重量を兼ね備えたコンボをすべて凌ぐのはかなり難しい。最悪弾かれそうになったら爆発やブーストでゴリ押し出来るしな。

「よっし!か………ったけど……」

「やり過ぎだこのアホ!」

「ははは………また金貨四枚」

「…………はぁ、全くあいつは」

「加減は良かったと思うぞ、あと少し上だったら肋骨が折れて肺に刺さってただろうし、場所も考えられるようになれよ、戦いを有利に進められる物もあるからな、壊したくない物にも注意な」

「あたたた………、そうやで坊主、おじさんは回復薬では治せん体のガタがあんねん、そんな馬力でやられたポッキリいってまうで」

「芦原さん………それは姿勢が原因ですよ。ハルト、二分待ってくれ」

「うげぇ!ちょっ、待てて、体もたんて!」

 

に〜が〜さん!

 

「まず、デスクワークが原因の腰痛、続いて肩こり、左右の調整に………」

「あだ、いっ!タンマ!」

「仕上げに針………こんなもんでいいか、コレをだいたい二分後に抜けば良い。あ………抜き忘れだけ注意な、28本数えてあればいい」

「わかったぜ!先生」

「さて………ロイ、さっきの計画の方向性はそのままで、細かい所を詰めていってくれるか?」

「はい!」

「結構は三日後以降で頼む。ちょっと約束しちゃったことがあってな」

「構いません。先生が居なくてはうまく行かないでしょうし」

 

「………あの、なぜ海に?」

「苦情があってな、湖ばっかりでほぼ外に出られないし、どっか連れてけって、ずっと我慢して貰う訳にも行かないしな」

 

………実際、ベルナー観光の時ぐらいしか連れて行けてないしな、あの頃より人数も増えたのもあるが、

 

「エラ呼吸とか肺呼吸も淡水、海水も関係ないが乾きが大敵だからな」

セイレーンは自分で水系の魔法を使い、乾かないようにする事も出来るが魔力も使うし、体力やら色々消耗するのだ、自分で歩ければそこまで消費することも無いのだが、人魚の様に上半身は人だが、脚は魚のようにヒレがあり鱗に覆われている。跳ねることは出来ても歩く事は出来ないし、地面の状態によっては鱗が傷だらけになるし、元々泳ぐためのものだしそこを考慮すれば水球を作りだし、浮かせてその水球ごと移動するのが最善なのだ、………よって魔法の難易度や消費魔力が跳ね上がるので長時間は厳しいのだ。

 

「あの………前見た車椅子とかは?」

「あー………うん、試してもらったんだけどね」

保湿性の高い素材は座り心地が悪いと不評(現在こっちを採用)、座り心地がいい素材を使うと今度は水分を弾いて、周りがビチャビチャになり、それを踏んで車輪が滑ったり、接している箇所が部分的に乾くという問題が出てきた。

「………最近は活魚を纏めて入れるアレに入ってもらってるからな」

 

あの、体育館でバレーボールとか入れてる軽いビニールの奴に似たのに入ってもらっている。なんやかんや楽しそうだが、安全面がな、

「お前も遊んでこい。テントの方になんか来てないで、ほら」

「いや………あれに混ざるんですか!?」

「………ああ、いやうん、無理、だね」

………海でやることじゃないと思うけど、足がつかない沖の方で水球してる。水球?だよね、その、速度がね、テレビで見たのと比べ物にならないほど速く激しい。右往左往するボールと目まぐるしく変化する状況がそれを物語る。深いし、速いし、到底ついていけない。それと………

「わぁ!それ取って!」

「ちがっ!ちょっ!引っかかってるから!」

「待って解けてる!」

接触と言うか揉み合いになるのだが、乾きは大敵のセイレーンは体の表面を水分で覆われている。なので布の服のような物を身に着けるとそこから水分が抜けてしまう。なおかつ陸地に殆ど出ていかないため、貝殻やら綺麗な石とか海藻、漂流物で身を飾る。セイレーンは力の強い種族ではないし、女性のみ、あまり多くの物を身に着けると泳ぐ速度が遅くなるので、身に危険が迫った際逃げ切れなくなる。………まあ、これだけ長ったらしく説明したのは、種族によって体の成長スピードが大きく違う。例えばエルフは少年、青年の期間が長く、長い寿命から見れば老人と言える期間は短いのだが、同時に少年と言える期間も人と比べて長く、ロイは19才だが、中学生くらいにしか見えない。だがセイレーンは少女と言える期間が短く、成長が早い。一番幼い10才のエミルは20歳と言われても納得できる。………もうね、目のやり場に困るんだよ。見た目セーフなロイでも精神年齢で言えばアウトな訳で、その上唯一とも言える水着がはだける。流される。ぶん取られる。同性以外入っていけんだろう。それでキャッキャッ言ってるんだがら、あっ、こら、そのまま泳ぎ回るんじゃない!

 

ピー!

 

「ちゃんと着けてから泳ぐにゃ!」

クロシェットが海面を走りながら追いかけている。………審判任せといてよかったよ。

「キャッキャッウフフな上に弾んでますね〜………まあ、私は弾むほど無いんですけどねー」

 

いきなりの自虐、………どうした?

 

「………あのあの〜私の胸を見て分かりませんかね〜?複雑な乙女心がー」

「あ、うん」

「反応薄くないですかー?だ・ん・な・さ・ま〜?」

 

………なんか圧迫感があるな。

 

「俺が見た目や作業で手を抜くと思うか?それぞれが完成なんだ。ただ美しさや可憐さの様に目指す向きが違うだけだ」

「私はなんでしょう〜?」

「………………確か清潔感や清楚さ」

「間は気になりますがー、ただただギャグキャラではないんでね〜」

「お前の言動のせいだからな?思い出せてもそれがしっくり来なかったんだよ」

ギャグキャラのほうがしっくりくるんだよね。………よくふざけ、ネタ発言をする奴だが、気も効くし、細やかな配慮も出来る。客の対応に全く心配がいらないのはレアくらいだ。他だとこうはいかない。普段は当たり障りが無いが、地雷を複数所持しているクロエパターン。そもそも対応、礼節の面で問題があるアリスパターン。俺以外にはまともに対応しない向日葵パターン。対応そのものは完璧だが、見た目が話し合いの場にそぐわないアナスタシアパターン。これらに該当しないのはレアだけだ。

「あ〜、飲み物なにがいいですかー?」

「コーラで、ロイは?」

「お、同じものを」

「……………オススメはジンジャーエールと果樹100%ジュースです。」

 

妙な間に違和感を覚えたので思考働かせる。まずコーラについて無いとは言わなかった。無かったとして二種類程度なら選択肢を用意する筈、その上、ジンジャーエールは人気が無い。余っているだけの可能性もあるが………。ん?入れ物は?服の収納か?

 

「………まさかとは思うけど、ここでも悪ふざけする気か?」

「ワァ〜………サスガスルドイダンナサマー(棒)」

砂の上に出現する容器、その中にはコーラが入っているが、その容器がメスシリンダー、………出現場所はレアのスカートの真下、

 

「………お前、やって良いことと悪いことの区別はついてるよな?」

「な、なんのことでしょう〜」

「先生?僕にも分かるように………」

「わからんでいい!わかったところで得するものでも無いしな?!」

「そ、そうですか………?」

「あー、それとなんですけど〜、バーベキューの準備ができたのでみんなを集めてもらえますかー?」

千里眼のスキルがあるお陰で目の届かない所はない。………元の世界でこのスキルがあればどれほど引率で付いていた時、苦労しなくて済むか、それを感じなかった日は無いな。それでも昔と変わらず、呼びかける為にコーラで喉を潤す。


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