ベスト6   作:一塔

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始まり

4月

肌寒い風が吹き、桜の木がざわめき始める。風に吹かれて桜の花が舞い踊っている。校舎に通じている長い坂の真ん中を歩きながらリュックを背負っている少年は嬉しそうにしている。

東京の青龍中からここ静岡の伊豆半島の桜花高等学校に進学したのは親が外国に人事異動となり、こっちに残ることと条件で実家に住むというこであった。

彼の名前は佐原竜司、中学時代はバレー部にて全国大会の優勝経験者。

校門の中に入るとクラス分けをしてある紙が貼られてあり、自分の名前を確認して自分のクラスに向かった。

これから一緒に過ごすクラスメイトと顔を合わせた後に体育館で始業式を行い、恒例の部活勧誘が始まった。

校内の中庭には各部活のブースが出来ており、新入生に声をかけている。

竜司も入部届けを手にバレーボール部の隣にあるバトミントン部に届けを出した。

バトミントン部は桜花高校唯一の期待の星。顧問が変わってからここ五年間インターハイ出場を決めているほどだ。

その日から練習開始のようで運動着に着替えて体育館集合となっていた。

体育館に着くと自分の他の同級生が数十人集まっていた。

「俺の名前は杉山照男(すぎやまてるお)、バトミントン部のキャプテンをやっている。よろしく頼む」

主将の挨拶の後に通常通りの練習を行った。

やたらと走り込みが多いメニューのようだった。

体育館の端から端までダッシュを20本、校舎周350mのインターバル15本、校庭15周、走り込んでから室内練習だが体育館の中に竜司以外の1年生がいなかった。

「おいおい、お前は倒れなかったのか?」

息切れ一つしないで上級生の練習を見学している竜司に照男は驚いた様子で話しかけてきた。

「ええ」

「そ、そうか」

驚いた表情のまま、照男は竜司の元を離れていった。

今やバトミントン部恒例の走り込み、照男も一年の時は倒れて練習を見学する余裕すらなかった。

今日のメニューは一年が走り込みだけ、二、三年はネットを挟んで打ち合いをして終わりとなった。

 

一週間が経ち一年生は恒例の走り込み、竜司以外は倒れて練習に参加できない。変わったことといえば先輩達の嫌がらせが竜司に対して始まった事だろうか。

走り込みを終え、一人帰ってくるとサボったと言いがかりを言われ、初めからやり直したり、道具の片付けを一人でやらされたり、他の一年生から見れば気の毒としか思っていないのか手伝いすらしなかった。

 

そんなある日であった。

土曜日の午前練習があり、隣のコートには男子バレー部が練習をしていた。

バレーの思いは完全に断ち切ったつもりであったのだが気付けば目で動きを追っていた。

土曜日の練習は普段の練習と違って長めに使える。いつもなら倒れている一年生も練習時間内に体育館に戻ってくる事が出来た。

新入部員は20名、2、3年を合わせると50人以上の部員となる。

反面の体育館だけでは狭く感じ、レギュラー陣の練習に支障をきたしているのは顧問の先生が一番理解していた。

バトミントン部顧問の黒島奏多(くろじまかなた) 背丈は180半、短髪で常にスーツを着用している。

奏多は座っていたパイスプ椅子から立ち上がり、バレー部のコートに向かって歩き出した。

センターラインに引かれているネットをくぐりバレー部のキャプテンを呼び出した。

「今すぐここをどいてもらおう」

「え?」

唐突の言葉に意味を理解出来なかった。

「見ての通りバトミントン部は人数が多すぎて練習が出来ない、君達のように無駄な努力をしても結果は変わらない、バトミントン部にコートを譲りなさい」

「ですが今は・・」

「聞こえなかったのか?」

少し荒げた声で言い放った。

そのため、練習をしていたバレー部の部員が集まってきた。

「どうした?」

「実は・・」

キャプテンは集まってきた部員に奏多の言葉を伝えた。

「ふざけんな」

一人の男が大声で叫んだ。

この声でバトミントン部の連中も手を止め、声の方向に視線を集めた。

「今のは聞かなかった事にしてやろう、早くどけ、邪魔だ」

「どかない、今は俺たちの練習時間だ」

「はぁ〜まだわかっていないようだ」

分かりやすく大きくため息をついた後に続けた。

「バトミントン部は君達と違って優秀なんだ、実績もない君達がいくら練習しようが無駄なこと、この学校の名誉の為にも才能のある部活を優先するのは当たり前の事だ、分かったらコートを開けろ」

今の言葉に何も言い返せなかった。

現にバトミントン部は学校の期待の星、バトミントン部の生徒は特別扱いされているのは知っていたからだ。

言葉が帰ってこないと奏多はバトミントンのコートに身体を向けた。

「こっちのコートにもネットを張れ、一年、ぼやぼやするな」

「はい!!」

奏多の言葉に一年生が全員器具庫から道具を取り出した。

黙って去っていく奏多の背中に男は叫んだ。

「だったらバレーで試合しやがれ」

「なに?」

「お前達が勝ったら二度とお前には逆らわない、もし俺たちが勝ったら二度とバレー部には関わるな」

「断る、時間の無駄だ」

「いいんじゃないですか?」

あっさり断った奏多であったが照男が口を挟んだ。

「・・・どうしてだ?」

「バトミントン部の中にもバレー経験者はいます、負ける要素はありません、それに、そろそろ立場を分からせた方がいいかと」

照男の言葉に少し悩んだ様子だがすぐに答えがでた。

「お前が言うならいいだろう、バレー経験者前に出ろ」

奏多の言葉に数名の生徒が前に出た。

その中には竜司もいた。

「全部で10人か、中学校での成績、希望ポジションを言え」

奏多の言葉に次々と中学校の成績、ポジションを口にしていった。

主に韮玉中が多かったが成績は県大会ベスト8のようだ、後は大した成績も持っていなかった。

「一年佐原竜司、成績は東京青龍中で県大会優勝、全国大会優勝です、希望ポジションはどこでもやります」

「ほぉ〜」

青龍中という単語にバレー部の部員も驚きが走った。

「よし、メンバーは照男、松山、松本、宮松、松木、佐原の6人だ、ポジションは適当に決めろ」

「はい!」

 

ピピッー

試合開始の合図の笛が鳴り響いた。

 

後衛 横井ws 山城MB 山下S

 

前衛 佐藤ws 佐武MB 福本ws

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

照男ws 松本MB 宮松ws

 

 

松木S 松山MB 佐原ws

 

 

となった。

 

サーブはバトミントン部から、竜司のジャンプフローターサーブが白帯スレスレを通り抜け相手のエンドラインギリギリに落ちた。

「ピピッ」

バトミントン1一0バレー

お見合いどころか誰一人足が動いていなかった。

大丈夫か?と思いながらも2本目のサーブがネットを越えて入った。

今度はボールの正面に入ったがネットを越えてから急激な落ちた。

ジャンプフローターの有利な点は高い打点から無回転のサーブを打ち、大きく変化させること、例えるなら野球で言うナックルボールのようなものだ。

3本目、4本目も決まりどんどん点差が開いていく。

たまにボールが自陣のコートに帰ってきたが甘い玉を逃すほどバトミントン部の部員も甘くはなかった。

確実に決めていく。

気付くと点差は18ー0とバトミントンが大量リードしていた。

一生懸命声を出しているがボールは繋がらない。

点差が開いてか、バトミントン部も遊び始めた。ボールを足で蹴ったり、頭で返したりしていた。

チャンスボールをもらったバレー部もイマイチ噛み合わず点が奪えない。

これには奏多もベンチで苦笑していた。

結局25ー0.で1セット目が終わった。

「何、緊張しているんだよ、普段の力を出せば勝てるって」

相手ベンチで福本が声を出しているが表情は暗いまま。

そのまま第二セットが始まった。

相手からのサーブを竜司が綺麗にレシーブ、セッターの松木がレフトの照男にトスを上げ、ストレート側にスパイクを打ち込んだ。

レシーブに入っていた山下がオーバーハンドで取りに行ったが弾かられて点を失った。

「おい大丈夫か」

喜ぶバトミントン部を他所に相手コートでは山下が指を抑えてコートに倒れ込んでいた。

福本が指を確認すると大きく腫れていた。

「折れてるか、脱臼しているかもしれない」

これ以上の試合続行は不可能と判断したがバレー部には控え選手が存在していなかった。

それを見て奏多が口を開いた。

「試合続行が出来ないなら君達の負けだ、どうするんだ?」

「や、やれます」

「無茶だ」

「でも」

山下が苦しそうに答えるが福本が抑えた。

「・・・き、きけ「すいません、バレー部ってここですか?」」

福本は棄権という言葉を口にしようとしたが制服姿でスポーツバックを背負っている生徒が口を挟んだ。

「君は?」

「黒木薫(くろきかおるです、バレー部に入部希望です」

男子生徒には珍しい長い髪を揺らしながら薫はバレーシューズを取り出し、履いた。

背丈はちょうど180㎝くらいだ。

「ポジションはセッターです、いいですか?」

不幸中の幸いとはこのことだろう、怪我した山下の代わりに同じセッター希望の生徒が入部してきた。

「分かった、いきなり試合だが行けるな?」

「ええ」

「山下、悪いが一人で保健室まで行ってくれ」

「分かった」

山下はゆっくりと立ち上がり、指を抑えながら体育館を後にしていった。

薫はスポーツバックから練習着を取り出し、着替え始め、支度を終えた,。

「先輩、あいつら絶対に倒しましょう」

コートに入っていく先輩達に薫は低い声で呟いた。

それに全員が頷いた。

 

 

バトミントンとバレー部の試合が始まる少し前、薫は面倒くさそうに校門をくぐっていた。

土曜日なのになぜ学校に来ているかというと春休みの課題を未提出のため、提出しに学校に訪れていた。

校門を通るとすぐに一人の女性に声をかけられた。

「すいません」

「はい?なんですか?」

セミロングでオレンジ色の髪をしている女性が薫に近づいてきた。

背丈は160cm、スタイルも抜群であった。

「体育館ってどこにあるかしってますか?」

「体育館?ああ、だったら案内しましょうか?」

体育館は職員室の隣の部屋に位置しており、課題を出すのに職員室に行かなければならないのだから案内することにした。

「ありがとうございます、私、一ノ瀬舞って言います、高校は千葉県の奈良塚高校一年生です」

「俺は黒木薫、ここの一年だよろしく」

同級生という事に二人とも安心して息を吐いた。

「千葉県から来たの?なんで?」

「佐原竜司っていう人を探しに来たんですけど多分、バレー部に入部していると思うんだけど」

「聞いた事ないな」

佐原竜司という単語を考えたが思い当たる節がなかった。

校舎の中に入り、階段を1階から2階に登り突き当たりの渡り廊下の先に体育館がある。

渡り廊下を歩いていると声が聞こえてきた。

体育館につくと入り口から反対側のコートに人が群がっていた。

コートの中に入り、確認するとバレーの試合を行われていた。

「すいません、どこと試合ですか?」

「バレー部とバトミントン部が試合やってるんだ」

どうしてそんな事を?と思っていると隣で舞が竜司の姿を見つけた。

「ほら、あのサーブを打っている人」

ちょうどジャンプフローターを打つ竜司の姿を見て肩が下がっており、高い打点から打てない事が理解できた。

「という事は左がバレー部だね、18ー0だって、圧勝だね」

嬉しそうに呟く舞に薫は試合に集中していた。

「違うよ、左がバトミントン部、バトミントン部が圧勝だよ」

舞の隣にいるバトミントン部の生徒が呟いた。

「え、じゃあ、竜司はバトミントン部に入ったんだ」

悲しそうな表情を浮かべている舞に対して試合を集中して見ていると動きがいい選手はバレー部にも沢山いるが連携ミスやセッターの能力が低い為にスパイカーが生きていなかった。

「このままだとバレー部は終わりだな」

「ええ、あなたがバレー部に加勢したら状況は一転するんじゃない?」

唐突な言葉に返す言葉が見つからなかった。

「静岡県清水南中高校、一昨年の代表セッターでしょう?」

「どうしてそれを?」

「私と竜司は青龍中出身」

「・・・青龍中か」

流石の薫も全中の優勝チームの名前は知っていた。

まさか同じ高校にいるとは思っていなかった。

「バトミントン部に一泡吹かせてきて、あの人達、バレーを侮辱している」

コートを見ているとバトミントンと部はボールを足で蹴ったりヘディングでボールを返して遊んでいる。

これには薫も許せなかった。

「分かった、行ってくる」

「待って、その前に竜司についてだけどーーーーーーーお願い」

「分かった」

薫はセンターネットをくぐりバレー部のベンチに歩いて行った。

 

 

 

ピピッ

中断から開始の合図が鳴り響いた。

サーブは途中入部の薫からだ。

エンドラインから5歩ほど下がり、ボールを高く上げ、スパイクを打つ動作で大きく飛び跳ね、腕を振り抜いた。

ジャンプサーブだ。

速く、ドライブ回転をかかりながら相手コートに突き刺さった。

ドクンッ⁉︎

胸の高鳴る音が竜司にはハッキリと聞こえた。




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