『拳聖』の家系【更新停止】 作:飯テロ
ナツキ・スバル
ロズワール邸で暮らすようになって早一年。歳は既に十九歳。懐かしき彼の地、ジパングを思い出しつつ、俺は王都に帰って来た。というのも、エミリアが王都に用事があったようで、その付き添いで来た——というのが表向きでその実、久しぶりの故郷でゆっくりするようにという、事実上の休暇である。その間、エミリアは契約精霊のパックという猫型ロボットならぬ猫型精霊に任せてある。本当はエミリアから離れてはいけないのだが、他でもないエミリア自身が、
『一年も家に帰ってないから、レオのお父さんとお母さんがすごーく、心配してると思うの』
とのことなので、有難く休暇を貰ったわけだ。そう、俺は両親に会うために帰ってきたのだ。そのはずなんだが——
「君と二人で王都に出歩くなんて、いったい何年ぶりだろうね」
「ああ、うん、そだね」
非番のラインハルトとばったり遭遇。久しぶり二人で出歩こうという話になった。
以前、アストレア家と疎遠になった、とは言ったが、個人では別だ。今でもラインハルトとは会えば話をするし、こうしてぶらぶら散歩したりする。もっとも、ベルリヒンゲン家を目の敵にしているのは、ラインハルトの父、ハインケル・アストレアただ一人なのだが。ハインケルが家督を握り続ける限り、状況は変わらないだろう。
「ところでラインハルト」
「君が僕に質問なんて珍しいね。なんだい?」
「この会話……何度目?」
既に俺としては三度くらいした希ガス。いや、何もこの会話そのものを何回も繰り返しているというわけではない。もっと核心をついて言えば、今日という日そのものを三度くらい経験している。
まず一度目。王都でラインハルトと出くわし、そのまま夜までぶらぶら散歩。そして、ラインハルトと別れ今度こそ実家に帰るべく王都を歩いていたところ、真っ暗だったお外が一気にフラッシュ。あら不思議、お天道様が空で照り輝いているではあーりませんか。そして、隣にはつい先ほど別れたばかりのラインハルト。その第一声が、
『君と二人で王都に出歩くなんて、いったい何年ぶりだろうね』
コレである。
そして二度目。今度は夕暮れの時、ラインハルトとジャンケンで勝負していたところ、急に視界がフラッシュ。あら不思議、日が暮れていた筈なのに、いつの間にかお天道様が空で照り輝いているではあーりませんか。そして、隣にはさっきまでジャンケンをしていたラインハルト。その第一声が、
『君と二人で王都に出歩くなんて、いったい何年ぶりだろうね』
コレである。
因みにジャンケンは俺が流行らせた。近衛騎士団に所属してすぐの頃、ユリウスに『男と男の真剣勝負がこのジャンケンだ。このジャンケンの勝敗は神龍ボルカニアが決めるんだぜ?』と冗談半分で教えた所、何故か騎士団の間で流行ってしまった。そして、ユリウスはジャンケンが異様に強い。なんでだろ?
まあ、それは置いといて。
とにかく、何度も何度も同じ日をこうやってループしているわけだ。しかし、ラインハルトはそれを気にしている様子は一切ない。恐らく、俺だけが知覚しているのだと思われる。まさか、これが永劫回帰⁉︎どこかでアクタ エスト ファーブラという声が聞こえた気がする。
「レオ、君はおかしな事を聞くね。何度目もなにも、君と僕はさっき会ったばかりじゃないか」
苦笑しつつも丁寧に教えてくれるラインハルト。俺の頭のおかしい質問に答えてくれるその優しさに、胸が張り裂けそうだぜっ!とかとか考える俺。健気だろ?
「衛兵さーーーん‼︎助けてーーーーー!」
突如として聞こえてくる声。それは衛兵を呼ぶ一般市民だ。今までのループの中では初となるとイベントだ。
「レオ、行こう」
「あいよー」
てなわけで、助けを求める市民の声にお応えします!それが、我ら近衛騎士団のお役目ですからー!
はいよー、やってきました路地裏です。放課後 路地裏同盟!そこには、一人の少年によって集るチンピラ三人衆。それを見たラインハルトが、
「そこまでだ」
ちょーイケボでチンピラを牽制。少年とチンピラの間に割って入る。それに続き、俺も突入。
「ブンブンブンブーン!どけどけどけェ!騎士様のお通りでーい!引かれても知らねえぞ!」
バイクの効果音と共に華麗に登場。そして、チンピラの気持ち悪いニヤけ顔が、真っ青に変色。
「燃え盛る赤い髪に、空色の瞳……『剣聖』ラインハルトか⁉︎」
「それだけじゃねぇ!その隣、黄金の長髪に、金色の眼。そして何より、神々しい二本の触角……⁉︎『拳聖』レオナルト!」
アホ毛と言って欲しいね。触角って虫みたいじゃん。まあ、この世界にアホ毛なんていう言葉はないんだけどね。あ、こんなナリだけど『我が愛は破壊の慕情』とか言ったりしないよ?
「いえーす!いつもニコニコ、貴方の隣に這い寄る混沌、レオナルトです!」
なんでもご先祖様が使っていた、登場セリフの一つらしい。俺もどっかで聞いたことがあるんだけどなー。思い出せない。
「や、やべェよ。相手が悪すぎる!」
「チッ、覚えてろよー!」
などという、テンプレな負犬のセリフを吐き捨て去っていくチンピラ。大丈夫、きっと君たち三人を雇ってくれる心優しい人が現れるから。もしかしたら、ラインハルトが——ラインハルトのご主人様とかが雇ってくれるかもね。たぶん。
さて、助けた少年に目を向ける俺。そしてあらビックリ。少年は彼の地、黄金の国ジパングで俺も愛用していたジャージを着ているではないですか。いやはや、まさかの異世界召喚者現る!……アレ?ん?んん?同じ時間をループ、路地裏、チンピラ、ラインハルト、ジャージを着ている少年……コレは⁉︎原作開始の予感!予感なのですよ!忘れかけていた原作知識が少しづつ思い出される!この少年、さてはスバルだな?
「いやー、少年!運が良かったねー!偶々俺とラインハルトが近くを通っててサ!おかげで君は命拾いしたってわけだよん」
「あ、はい!この度は命を救って頂き、心から感謝を申し上げます!このナツキ・スバル、お二人の心意気に感服いたすれば……」
うわー、ガチガチ。ガチガチだよこの子。ていうかやっぱりスバルだったね。
「そんなに畏まらなくてもいいよ。それに、彼らが逃げ出したのはレオがいたからだ。お礼なら彼に言ってくれ」
「なあ、ラインハルト。謙遜も大概にしないと嫌味に聞こえるぞ?」
「謙遜だなんて、僕は心の底から君のお陰だと思ってるけどね」
さすがラインハルト!俺に言えない事を平然と言ってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!
「えっと、じゃあレオさん、でいいんすか?」
「やだなぁ〜、レオさんだなんて照れるよぉ。俺の事は気軽に、レオって呼んでくれ。それが俺の……漢道よ」
ああ、キマった。最ッ高にキマった。俺ってかっこよすぎるから?ちょいちょい自分に酔っちゃうんだよねぇ〜。
「お、おう、そうか。じゃあレオ、マジで助かった。恩に着るよ」
「いいってことよ。俺たちもうダチだろ?」
「ああ、俺たちはダチだ!」
まあ、どうせスバルはエミリア派に入るんだし、遠からず友達になるだろ。
「そういえば、二人は『剣聖』って言われてたけど、そこんとこどうなの?」
うん、今のスバルが言ったケンセイは、ニュアンス的に『剣聖』だな。
「『ケンセイ』という言葉を聞いて、スバルはどう思う?」
「そりゃ、剣の技術が高くて、めちゃくちゃ強いってイメージか?」
ラインハルトの質問に、さも当然のように答えるスバル。まあ、世間一般的にケンセイなんて言葉を聞けばそうだよな。『拳聖』とかセンスねえよ。誰が考えたんだ?
「半分正解。僕の場合はスバルの言った内容であっているけど、レオは別だ」
「そ、俺のケンセイは『剣聖』じゃなくて『拳聖』。拳で戦うのサ。シュッシュッシュッ!」
と、説明しながら俺はその辺にジャブをする。
「ふーん。つまり、ラインハルトが『剣聖』で、レオが『拳聖』ってことか」
「そういうこと〜。んで、なんでスバルは一人で路地裏に入ったの?危ないとは考えなかった?」
「そう言われると弱いな……人探しって言うか、なんと言うか」
「人探し?」
「そ。白いローブを着てて、長い銀髪の女の子」
ふーむ、白いローブを着てて、長い銀髪の女の子、か。アレ、どっかで見たような聞いたような。
「それだと情報が少なすぎる。他に特徴はなかったのかい?」
いや、ラインハルト。そこは察しろよ。なんとなく、なんとな〜くでいいから察しない?王選の参加者ですよ?
「特徴って言われても。うーん、猫は……見せびらかしてるわけじゃないし。あ、瞳が薄紫で、超絶美少女!」
超絶美少女は情報になってねえよ。それより、聞き捨てならんのが猫。これパックじゃね?
「スバル、その猫って飛んだり喋ったりしない?」
「おおー、したした!もしかして知ってる⁉︎」
ああ、パックだ。
「知ってる、というか、俺のご主人様かな」
「マジでか⁉︎だったら、お前のご主人様に伝えてくれ。盗まれた物は俺が取り返す。盗品蔵には近づくなって」
「そう言われても、俺もどこにいるかわからないし」
「そう……か」
俺の言葉を聞いて落ち込むスバル。忙しいね、テンション上がったり下がったり。
「まあ、心配は要らないよ。必ず見つけて伝えておくからサ!」
「ああ、マジで頼む。それじゃ、俺は行く。今日の事は、いつか必ず礼をする」
「あいあいサー!気をつけるんだよ、スバル」
立ち去るスバルを手を振って見送る。それを暫く続けて、スバルの背が見えなくなったところで、俺は隣のラインハルトに目を遣る。
「んで、どうする?盗品蔵って言ってたけど、騎士としてどうよ」
「僕は今日、非番だからね。でも、スバルが気になる」
「ええー、行くの?エミリア様探さないと、スバル怒るよ?」
「なら、ジャンケンで決めよう。君が買ったら行かない。僕が買ったら行く。どうだい?」
そう言ってラインハルトは、握り拳を前に出す。その動作を見て、俺はニヤリと笑う。
「ほう?ほうほうほうほーう?ラインハルトが俺にジャンケンを挑むなんて——覚悟はできてるんだろうね?」
「君こそ、今日の僕をいつもの僕だと思ったら、痛い目を見るよ?」
「面白い冗談だ。いくぜ、ラインハルト!」
「さあ、こい!レオ!」
『最初はグー!またまたグー!い○りや長介頭はパー!正義は勝つ!ジャンケンぽん!』
結果、俺がグーで、ラインハルトパー。つまり、
「僕の勝ちだ、レオ」
「ああ、そして、俺の負けだ」
クソッ!ラインハルトは最初にチョキを出す癖があるから、グー出せば勝ち確だと思ってたのに!
「んで、盗品蔵に行こうって言ったラインハルト君は、もちろん盗品蔵の場所が分かってるんだよね?」
「……」
沈黙で答えるラインハルト。そして、気づけば右目から一粒の水が流れ出ている。
「いや、え、ちょ、泣くほど?」
「き、きっと、貧民街だ。盗品蔵は貧民街だよ、レオ」
「盗品を扱うくらいだし、金のない貧民街の住民がやりそうな職業だよな。ま、簡単に予想できることか」
「……」
再び沈黙のラインハルト。そして、今度は左目から涙が。
「だぁから、泣くなって。な?な?なぁ?いや、すごいよラインハルト!流石、素晴らしい解析能力だ!よ、騎士の中の騎士!やっぱり、俺とは格が違うね!」
「ふっ、大したことないよ。盗品を扱うくらいだ。金銭面で苦労する貧民街の住民が、やっていそうな職業だと思ってね。簡単に予想できることだよ」
立ち直りはやっ⁉︎そして、俺のセリフ奪いやがった!まあ、友達が泣いてるの見るよりはマシか。
「それじゃあ行こうか、レオ」
「あいよー。貧民街へ、全速前進ヨーソロー!」
そんなわけで、貧民街行きます。
次回 エルザ死す(大嘘)デュエルスタンバイ!