『拳聖』の家系【更新停止】 作:飯テロ
私はPCよりもiPhoneの方がタイピング速いので、iPhoneで投稿しているのですが、アンドロイドなどでは『⁉︎』や『‼︎』が絵文字で表示されていました。
なので、対策として
『⁉︎』→『!?』
『‼︎』→『!!』
という感じで修正します。すいませんでした。
さぁて、やって参りました貧民街。既に夕暮れ、もうじき夜になろうかというこの頃。貧民街に来て小一時間。未だ、盗品蔵どころかスバルすら見つからず。更にはエミリアまで見つからない。いい歳した男二人そろって、情けない話である。
「ねえ、ラインハルト。もう一時間だよ?盗品蔵どこアルか?」
「……」
「おい」
まさかの沈黙。コイツ、今日ずっとこの調子だけど大丈夫か?
「安心してくれ、もう少しだ。感じるんだ。盗品蔵が、僕達を呼んでいる。そう、感じるんだ」
言っておくが、このセリフもう五回ぐらい聞いたんだぜ?さすがの俺も泣きたいよ。
「誰か、誰かいねーのかよ!」
突如として聞こえてくる女の子の声。目の前には、此方へ全力疾走してくる金髪少女がいる。声の主だろう。表情からして切羽詰まっているのが見うけられる。
「ラインハルト隊長!前方に金髪美少女を発見致しました!直撃します!退避です、退避!」
「ダメだ。このまま受け止める」
「なっ!?相手は幼女ですよ!?正気ですか!このままでは、我々は犯罪者に!」
「……受け止めるんだ。愛を持って」
とかとかやっている間に、少女は今も接近中。そんな少女に、バッチこいや!とでも言いたげなラインハルトが歩み寄り、ついに抱き留める。
「お願い、助けて」
「わかった。助けるよ」
うーん、助けるのはいいけど、本来の目的を忘れてるような……。まあ、いっか。
盗品蔵での決戦は、スバル達の不利な状況が進んでいる。一人の女性——エルザ・グランヒルテの手によって。
スバルは身体の至る所に裂傷が刻まれ、既に満身創痍。エミリアの魔法も通用せず、頼み綱のパックもマナ切れで顕現出来ずにいる。
そして——
「うおおおお!出て来い!俺の中の何かぁぁぁ——!」
今まさに、スバルの足が切断されようとしていた。
幾ら叫んだところで、スバルの中に何が眠っている訳でもない。ましてやご都合主義展開など、夢のまた夢である。
足を払おうにも、ガッチリと足首を掴まれ離れず。せめてもの抵抗で、手に持つ棍棒を精一杯振るうが、目の前の狂人には届かない。
スバルの妨害を容易く躱し、エルザは曲線を描くような刀身を持つ短剣、ククリナイフを振り下ろす。スバルの足を、付け根から両断する為に、無慈悲に振るわれたその一閃は——
『デュアル・オーロラ・ウェーーーブ!』
天井を突き破り、
燃え盛るような赤い髪。透き通る青空の瞳。
「光の使者、キュアラインハルト!」
長い金髪と、神々しい二本のアホ毛。金色の双眸。
「光の使者、キュアレオナルト!」
『ふたりはプリキュア!』
プリキュアを名乗る二人の騎士は、互いの背を合わせエルザへと視線を向ける。
「闇の力の僕たちよ!」
「とっととおウチにかえりなさい!」
今この地に、初代日曜朝九時の正義の味方が顕現した。
「……」
だがしかし、さすがのエルザもこれには絶句。この場をどう切り出したらいいのか掴めないでいた。プリキュアを知っているスバルは、別の意味で言葉を無くしている。エミリアはエミリアで、突然自分の従者が現れるので、混乱している。
詰まる所、全員喋る事が出来ない。
しかし、そんな事など気にしないレオは、エルザを見つめる。
「おねーさん、俺と一緒に遊ばない?」
「あら、私の目が節穴でなければ、貴方は『拳聖』だと思うのだけれど、私と遊んで頂けるのかしら?」
「ええ。こう見えて、女性の扱いは得意でして」
レオの言葉を聞いて、舌で唇を舐めるエルザ。それはまるで、ご馳走を前にした、無邪気な子供のよう。
「ちょっと待ってくれ、レオ。ここは僕に任せてくれないか?」
レオとエルザ、二人が互いに承諾を得て始まろうとした戦闘を、ラインハルトが意義を唱える。まるで、結婚式に乱入し『異議有り!』と叫ぶ、恋敵のように。
「なんでサ。俺とおねーさんが遊ぶのは決定事項だよ?ちゃんと互いに合意してるし、ラインハルトが入り込む隙間なんて、何処にもないけど?」
「君の『遊ぶ』は、『戦闘』ということだろう?なら、戦闘の際に長い詠唱を必要とする君よりも、僕が戦った方が賢いと思うけど?」
この会話を聞いていたスバルは、一種の畏れを抱く。要はこの二人、一人で戦うつもりなのだ。本気を出していないとはいえ、大精霊のパックを、巨人族のロムを、精霊術師のエミリアを、そして、引きニートのスバルを。全員を軽く払い退けるエルザを相手に、一人で戦うつもりなのだ。
「おいおい!お前らは今来たから分からねぇかもしれないが、コイツ、めちゃくちゃ強いんだぞ!?なにお前ら一人ずつ戦おうとしてんだよ!何処のサイヤ人だ!それに——」
「スバルは黙っててよ」
「——なっ」
スバルは本気で言葉を無くした。スバルとしては、よりスマートに勝利できる方法を提案したのに対し、レオは聞く耳を持たなかった。
「なあ、ラインハルト。つまりこう言いたいのか?俺は詠唱が長いから、詠唱してる間に負けると?」
「負けるとは言ってないだろ?でも、君が詠唱している間にスバルが——エミリア様に何かあったらどうする?」
ラインハルトの言葉に納得したのか、レオは顎に手を当てながら何度も頷く。そして次に、件のエルザを見る。
「おねーさん、おねーさん。俺が詠唱してる間、我慢できる?」
「我慢、我慢ね。ええ、いいわ。戦うなら全力の貴方がいいもの。詠唱くらい待つわ」
それを聞いたレオが、勝利のガッツポーズ。そして、ラインハルトにVサインを送る。
「だってサ。これで文句無いねぇ」
「レオ、何故信用する?嘘かもしれないだろ?」
「うるっさいなぁ〜。じゃあどうするのサ!」
レオに問われたラインハルトは、己の拳を前に出す。その意図に気づいたレオがニヤリと笑い、同じく拳を突き出す。
「ジャンケンで決めよう。僕が勝ったら、僕が戦う」
「俺が勝てば、俺が戦う。異議無し。恨みっこ無しな?文句言うなよ」
互いに距離を取り、拳を構える。極限の緊張状態。極限の心理状況。恐らく初手で全てが決まると、二人は本能で感じる。
「最初はグ——」
「最初はパー!はい、俺の勝ちー!」
「——は?」
小癪。かつ下劣。レオの放った一手は、俗に言う『最初から』というヤツだ。これを見たスバルは、異世界でこれを見るとは思っていなかったのか、涙すら流していた。
「いや、ちょ、レオ。さすがにソレは」
「え?俺言ったよね?恨みっこ無し、文句無しってサ」
「だからと言って、今のは——」
「きこえないー。あー、敗者の遠吠えなんてきこえないー」
耳を両手で塞ぎ、首をブンブン横に振るレオ。形容するなら、オモチャのショーケースの前で駄々を捏ねる子供。
「ってなわけで、用済みの役者には退場願おう。バイバイ、ラインハルト!君はそこで見てなよ」
レオに背を押され、無理やりスバルとエミリアの方に移動させられるラインハルト。やめて!ラインハルトのライフはもうゼロよ!
「いいのかよ、ラインハルト。相当強えぞ、エルザは」
「わかっているよ、スバル。でも、ここは彼に任せよう」
背を向けるレオに、期待の眼差しを送るスバル。
そして、邪魔者を追い出したレオは、漸く真の意味でエルザに向き直る。
「待たせたね、おねーさん」
「ええ、随分待ったわ。だからその分、存分に楽しませてちょうだいね?」
「もちろん。それでは、遊びを始める前に詠唱をするので」
「ええ、大丈夫よ。約束は守るわ」
それを聞いて安心したレオは、意識を集中させる。スゥー、と息を吸い、獲物を刈り取るための言葉を紡ぎ始める。
「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し ダビデとシビラの予言の如くに砕け散る」
静寂と殺気が支配する盗品蔵を、レオの声が響く。
「たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者が来たり 厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える」
紡ぐ。
「我が総軍に響き渡れ
紡がれる。
「彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん されば天主よ その時彼らを許し給え」
余りの尊さに誰もが耳を傾け、エルザすら自分が待っているという立場を忘れる。
「慈悲深き者よ 今永遠の死を与える エィメン」
今まさに、その詠唱は絶頂を迎える。
「
それは、この地とは別の世界の宗教における終末論。その神話の再現。
「
ここに詠唱は完了した。そう、完了したのだ。しかし——
「これといって、変化を見受けられないのだけれど、今の詠唱って、意味が有ったのかしら?」
「気づきませんか?この完全体となった俺の、恐るべき真の
要するに、今の詠唱はレオの気分を高める為のモノであり、能力が発動するわけでもなく、魔法が発動されるわけでもない。
「期待して損したわ。長い詠唱と言うから、どれほど強力なのかと楽しみにしてたのに」
「なら、試したらどうです?おねーさん」
「ええ、そうさせてもらうわ——!」
床を強く蹴り、レオへと踏み出すエルザ。その速度は、スバルやエミリアには視認できず、常人から見れば神速の域に達している。そして、刹那の間にレオとの距離を、自らの射程内に捕らえ、亜音速を保ったまま腹部へと斬撃を入れる。そして、エルザが刀身を振り切った頃には——
「——なっ!?」
刃が砕け散っていた。
「貧弱!貧弱ゥ!その程度の斬撃で、この俺の腹を抉れると思っていたのかマヌケがァ!」
わからない。刀身は確かに振り切った。獲物も確かに射程内に入れた。だが、レオには傷一つない。いや、それどころか感触すらなかった。ナイフで斬りつけた——腸を引き裂いた感触が。それが意味していることは一つ。
——剣を振るった瞬間、一瞬とも呼べない一瞬。ククリナイフが腹に触れる前に、刀身を砕かれた。
「すごいわぁ。速すぎて私にも見えないなんて。本当に、
本来なら恐怖を抱く場面だが、エルザはむしろ、興奮している。これが常人と狂人の差ということだろうか。
「いや〜、おねーさんみたいな美人に言われると照れるね。——でもね、おねーさん。何か勘違いしてない?」
「勘違い……?」
「そう、勘違い。俺がいつ『一撃』って言ったのサ」
「——ッ」
さすがのエルザも、今度ばかりは戦慄を覚えた。つまり、あの一瞬で、亜音速に達したエルザの斬撃に対して、少なくとも二撃は入れたと言っているのだ。それも、エルザに見えない速度で。
「——なら、いったいどれ程打ち込んだの?」
「さぁね。でも、一つ教えて挙げる。金属っていうのは、個体だよね。個体は別の言い方をすると、多結晶って言うのサ。つまり、多結晶は多い結晶。複数の結晶から成り立ってるって。その結晶一つ一つを単結晶、または結晶粒と言う。その結晶粒を構成するのが結晶核。では問題、デデン。多結晶を構成する結晶粒を壊すと、個体はどうなってしまうでしょうか?」
「……私のナイフのようになってしまう、かしら?」
「ピンポンピンポーン!正解!」
「笑えない冗談ね。つまり、貴方はあの一瞬で、その結晶核を全て壊した、ということかしら?」
その言葉に、レオは首を振る。
「まさか、流石にそこまで器用じゃないよ。おねーさんのナイフは、フツーに握り潰した」
「でも貴方、さっき一撃じゃないって言わなかった?」
「それも、おねーさんの勘違い。俺は一撃って言ってないのに、一撃と決めつけたおねーさんの間違いを正しただけ。そしたら、おねーさんが二撃以上って勝手に勘違いしたんでしょ?」
「そう、勘違い、ね。でも貴方も勘違いしているわ」
忘れてはいけない事がある。エルザは最初にナイフを振り抜いた瞬間から一歩も動いていない。つまり、未だレオはエルザの射程圏内にいるのだ。
「気をつけろ、レオ!二本目があるぞ!」
「もう遅いわ。ゼロ距離ならば、握り潰せるものも握り潰せないでしょう?」
スバルの警告も虚しく、エルザは初撃を上回る速度で二本目を振り抜く。
「ああ、確かにこれじゃあ潰せないな」
——その刹那に、言葉を聞いた。
この時のエルザの感じた時間は、摩訶不思議なものだった。未だ、エルザが振るう刃は獲物に触れず、ゆっくり、ゆっくりと宙を舞う。先ほどよりも速い筈なのに。限りなく音速に近い筈なのに。まるで走馬灯のように、ゆっくり、ゆっくりと。
「けど、避けられない速度じゃない」
レオは元の位置から一歩引く。その瞬間に、エルザの五感は本来の時間を取り戻す。
曲剣は空を斬り、エルザの腕をレオがガッチリと掴む。
「はい、捕まえた。もう逃がさないよ、おねーさん」
「ああ、素敵ね。惚れてしまいそ——」
エルザの言葉は最後まで続かなかった。否、続けてさせてはくれなかった。レオの腕が、エルザの額に移動する。
そして、中指を弾いた。
それによって生まれる衝撃波。盗品蔵は耐えられなくなり、崩れ始める。ただのデコピンではあるが、その質量は他人の比ではなく、大気を揺らし、大地を唸らせ、空間を軋ませる。揺れる。唸る。軋む。その衝撃を直に浴びたエルザは、盗品蔵の壁を突き破り、遥か彼方へと飛ばされる。
ここに、盗品蔵での決戦は終わりを告げた。
獣殿がみょうなるって言ったから、みょうなるなんだよ。