ここ、光都付属大学の図書室の奥の一角に青年が黙々と本を読んでいた。少し長めの髪に切れ長の瞳。誰もが羨むほどの美形だが残念ながら誰一人近づく者はいない。
なぜなら彼、烏真颯(からすまはやて)は猛暑と呼ばれるこの季節なのに黒いコートに黒いズボン、この黒一色に言われようのない不気味さを感じる。そして何より彼の醸し出す雰囲気はまるで誰も近づくなと言わんばかりに重苦しい。
まぁ単に彼が無表情で読書に集中しているからで本人からしたらそのつもりは全く無いのだが。
しかし、そんな彼に背後から近づく者がいた。その者は
ゆっくりと忍び寄り本を読んでいる青年の視界を手で覆い隠した。
「だ~れ~だっ !!」
「むっ。慈(めぐみ)か・・・」
声を聞くだけで分かる。後ろを振り向くと幼なじみの高原慈(たかはらめぐみ)が太陽のような笑顔で笑いかけていた。
「待たせてごめんね。颯君」
「気にするな、そんなに待っていない」
彼女がレポートを提出してくると言って軽く一時間以上は待っていたがどうということはないと颯は返す。
「それじゃ帰ろうか」
家に帰ろうと図書室を出ようとする颯に待って、と慈は引き止める。
「今からデパートに行かない?」
――――
颯と慈は大学の近くのデパートの中の服屋まで来ていた。
「何か欲しい服でもあるのか?」
色んな服を物色している彼女にそう訪ねる颯。女物の服を探している割には随分と男らしい洋服のようだが。すると慈はきょとんとした顔をする。
「え、違うよ。君の洋服を探しているの」
「お、俺のっ!?」
「だって君の服、全部黒しか無いじゃない。たまにはもっと違う物にしなきゃっ!!」
「え~」
彼女の答えに少しだけ嫌そうな表情になる颯。
これは彼等の平和な日常。そしてそれは何時までも続くはずだった。
突然、ぐしゃという耳障りな音が響く。その不快な音にデパートの中を歩いていた人達は怪訝な表情でその出所を見る。
音の方向には若い男女が抱き合っていた。何朝からイチャついてやがると周囲の若者からは嫉妬と羨望の眼差しでみていたがどうも様子がおかしい。
一見抱き合っているように見えるのだが女の人の方は力が抜けたように手がだらりとしていた。そして男の方は彼女の首筋に自分の唇を押し当てていた。
「・・・ねぇ何かおかしくない?」
「あ、ああ」
次第に嫉妬と羨望から怪訝な表情へと変わる人々を尻目に男の体がぐにゃりと歪む。男性はどんどん変形していき異形の姿に変化した。口元に光る長いキバと広げた両腕には黒い羽が付いていてまるで蝙蝠を思わせるかのようだ。
「いるな、いるな。人間がこ~んなにいっぱい」
怪物は持っていた女性を床に捨て、じゅるりとヨダレを拭う仕草をすると目の前の餌(人間達)を品定めするように見つめる。
「か、怪物だっ!!」
「キャアアっ!!」
漸く異変に気付いた人々が悲鳴を上げながら逃げ惑う。
「は、颯君っ!!」
「っ!!俺達も逃げるぞっ!!」
怯える幼なじみの手を掴むと急いでその場から走る。
―――――
人々が逃げ回る中、颯と慈は近くの物陰に身を潜めた。
「さ~て次の獲物はどれにしようかな~」
時折聞こえる悲鳴が聞こえてはすぐにぐしゃという音が響きながら怪物の楽しげな声がだんだんとこちらに近づいてくるのが分かる。
「ど、どうしよう颯君。私怖いよ」
ガタガタと体を震わせる慈に颯は唇を噛み、やがて何かを決心したように立ち上がる。
「颯君・・・?」
「・・・君はここで隠れていろ。絶対にこの場から離れるなよ!!」
「は、颯君は・・・?」
「俺はあの怪物をなんとかする」
「え・・・?颯君っ?!」
正気じゃないと慌てて彼の腕を掴もうとするが颯は既に物陰から飛び出していた。
―――――
颯が怪物を追いかけて広間に出ると怪物の後ろ姿が見えた。その周りには何人かの人が倒れていた。もう既に息をしていなかった。
「・・・そんな」
その光景に颯は呆然とした。同時に己自身にも怒りが沸き上がる。¨あの力¨を早く使っていればこれほどの犠牲が出なかったと。
「おい!!待てよ怪物っ!!」
「んあ?」
彼の怒りを含ませた声に振り向く蝙蝠の怪人。
「・・・よくもこの街の人をっ!!これ以上、人間を傷つけるのはこの俺が許さないっ!!」
「何なんだお前?」
「俺か?俺は闇に潜む獲物を狩る狩人さっ!!」
颯はコートの中からバックルのような物を取りだし腰に押し当てる。するとベルトが伸びて彼の腰に巻き付いた。そして左側にあるホルダーから烏の絵柄が描かれているキーを左手で掴み、バックルの中央部にあるスロットに差し込んである言葉を発する。
「変身っ!!」
左手でキーを払いのけるように横に倒すと溝に合わせて押し込む。
《Your change!! クロウズ 闇を切り裂く黒い狩人~ 》
ベルトから流れる軽快な音声と共に颯の周りから黒い羽が無数に舞う。それが止むと黒い戦士が立っていた。
全身黒い装甲に鳥を象徴するかのように尖った耳、突起したかのような口元。そして赤い複眼。
「何者だ貴様っ!!」
「俺はクロウズ。さっきも言ったが貴様のような闇に潜む者を狩る狩人だ。さて――」
いきなり現れた黒い戦士に動揺する怪人に名乗り指をパチンと鳴らす。
「狩りを始めようか」
今ここに人々を守る戦士の戦いが始まった。
――――――
「ふっ」
「死ねぇっ!!」
怪物は黒い戦士―クロウズに己の武器である鍵爪を用いて攻撃を繰り出すが彼には全く当たらない。黒い戦士は繰り出される敵の攻撃を避け、又は払いのけ、攻撃をいなす。
「ぐっ、このっ!」
「甘い」
攻撃が当たらない事に苛立ちを覚えた怪物は大振りになっていくやはりが黒い戦士は当たらなかった。逆に颯はその合間にカウンター気味に拳や蹴りを叩き込む。その威力は絶大で怪物は徐々に後退していく。
「ここからは俺の番だ」
彼はその隙を見逃さず更に拳と蹴り技で攻め立てる。その華麗な戦い方に翻弄され怪物の身体の動きが鈍る。明らかにかなりのダメージを負っていた。
「そろそろ狩り時だな」
颯は怪物を蹴って吹き飛ばすと、一度キースロットを中央に戻し、三回プッシュした後再びキー溝に合わせて押し込む。
《 animalMaxpower!!ギルティストライク!! 超Coolに here we go !》
「ふんっ!!」
再びベルトから音声が鳴り黒い戦士の右足に黒いエネルギーが集約される。
「でぇいっ!!」
そして颯は飛び上がり、満身創痍の敵に向かって蹴りを叩き付けた。
「そ、そんな馬鹿な!!人間ごときにぃっ!!」
怪物はそう叫ぶと爆散した。颯は暫くそれを見届けるとやがて変身を解除する。
「・・・人間の力を舐めるなよ」
「は、颯君っ?!」
怪物の言葉に忌々しそうに吐く颯の後ろから聞き慣れた声が響く。その瞬間、颯の身体がビクリと強張る。
(しまった。見られたか)
内心冷や汗をかきながらも幼なじみである慈の方に振り向く。
「め、慈―」
「颯君っ!!」
颯が言葉にするより早く、慈は彼の身体に抱き付いてきた。
「大丈夫?怪我はない?怪物はっ?!」
「あ、ああ。問題ない」
早口で捲し立てる彼女を宥めながらも彼はそう返した。彼の言葉を聞き、不安に満ちた慈の表情が少しだけ安堵に変わる。
「よ、良かったぁ。貴方に何かあったらと思うと私・・・」
「・・・もう心配するな。怪物はいなくなった。黒い戦士みたいな奴が倒してくれたんだ」
自分が倒したことは伏せて安心感させるように彼女の頭を撫でる。すると慈は完全に安堵の表情になった。
「もうっ!!次からは危ない行動は止めてよね」
「すまない。気を付ける」
ぷりぷりと叱る彼女を再び宥めながら彼自身もホッ、と胸を撫で下ろす。
どうやら先の変身の事を見られていないらしい。恐らく心配性の彼女の事だ、自分が常にあの怪物と戦っているのがバレると止めさせようとするだろう。
だが、と彼は窓から見えるこの街を見回す。
例え、自分がいくら傷つこうともこの戦いを止めることはできない。何故ならこの街に住む人々のため、そして自分を大切にしてくれる幼なじみのため、自分は戦い続けていく。いつか闇に潜む者を狩尽くすその日まで―
颯は慈が通報してくれただろうファンファンという警察のサイレンの音を聞きながらそう胸に誓った。
はい、やっと投稿できました!物語を考えて文章にするのは難しいですねっ!!更新ペースはかなり遅いです。感想など書いてくださると嬉しいです。それではまたっ!!