スレイン法国関連はほぼ全てが捏造です。
ブルー・プラネットがスレイン法国に潜入してから数か月が経った。
ブルプラとネット、そしてブルーの3人はスレイン法国に拠点を築き、薬師としてまずまずの評判を得ている。事前にモモンガから聞いた話――冒険者モモンとして集めた情報――ではスレイン法国は周辺諸国とあまり良好な関係にないと聞いていたのだが、入国手続きは非常に簡単であり、「バハルス帝国の薬師、ブルプラ・ワン」の名を告げるとすぐに書類審査が完了した。その手際の良さは、まるでこちらの情報を事前に知っていたのではないかと思わせるほどだった。
今、ブルプラ達はスレイン法国の首都にいる。法国の人間たちはその町を「神都」と呼ぶ。
スレイン法国・神都――それは元の世界のアーコロジードームによく似た、天にそびえる大聖堂を中心とした宗教都市である。その大聖堂の外壁は過剰なまでに白く、日に照らされ輝く尖塔を町の全域から眺めることが出来た。
街並みはバハルス帝国より更に石造りの建物が多い。幾何学的に張り巡らされた道路とその脇に整然と並ぶ商店は、何か「お手本」を元に造られているようだった。町の裕福な商人たちは魔力で浮遊する板に乗り、清潔な石畳の道の上を滑るように移動している。
プレイヤーの影響を受けていることは間違いない。
――モモンガとブルー・プラネットはそう結論する。
機能的な神都の中でブルプラ達は割り当てられた区域に店を出している。店は狭く、空いたスペースに樹を置くことも出来ない。そのためブルー・プラネットの本体は近くの公園の樹に潜んでいる。
石造りの都市にあって、公園は数少ない緑あふれる場所だ。自然の林とは違い、数種類の樹が良く剪定され等間隔に並べられている。毎朝訪れる庭師の魔法によって樹の状態は良く保たれ、どの樹も春先の新緑を芽吹かせている。美しい公園に人々は集まり、樹々の中を散策する。
だが、ブルー・プラネットにとってこの自然は物足りなかった。
樹の枝で囀る鳥がいない。――よって糞も落ちない。果実からの種が運ばれてくることもなく、新しい樹が地面から芽吹くこともない。糞が落ちないのに<浄化>を繰り返したため、土から有機物が失われているのだろう。土の中には蟲もいない。
春だというのに公園の自然は沈黙している。
(清潔なのは良いが、まるでショーケースの蝋細工だな)
ブルー・プラネットはそんな感想を抱いている。
農村のような人と自然の触れ合いが感じられないのだ。食料品は周辺の都市から運ばれてきており、近くには畑も果樹園もない。
この世界で感じていた「不純物」は少ない。そのため過ごしやすいのは確かだ。
アーコロジーの雰囲気を残しているせいか、なにか懐かしい雰囲気があるのも確かだ。
だが、その雰囲気が逆にブルー・プラネットの神経を逆撫でしている。落ち着かない、と。
◇◇◇◇◇◇◇◇
スレイン法国に着いたばかりの頃、ブルー・プラネットは慎重に行動していた。思想統制の厳しい国家だという情報から警察国家のようなものを予測していたのだ。
「<伝言>……こちらブルー・プラネット、法国の首都に着きました」
「はい、こちらモモンガ。今日、皇帝が来て同盟を結びました。そっちはどうですか?」
「順調ですよ。店の場所を用意してくれるみたいです。そこを拠点に情報網を作って様子を調べますが、今のところ首都で混乱は見られません……何とか間に合いましたね」
「もっと早く行くべきでしたけど……仕方ないですよね」
モモンガとブルー・プラネットは<伝言>を通じて笑いあう。デミウルゴスの勘違いで隠密行動を思いついていなければ、スレイン法国行きはもっと遅れていたはずなのだから。
情報網はこれから構築する。ナザリックの防壁に引っかかって<爆裂>などが起きたら何かしらの反応があるはずで、そこからスレイン法国の実力も分かるだろう。
「……それで、スレイン法国の部隊が全滅した情報は?」
「まだ反応はありません……ごめんなさい、軽率でした」
ここ数日、毎日のように繰り返される話――ブルー・プラネットがスレイン法国へ向かう途中、エルフの逃亡奴隷を追っていた戦闘集団を全滅させた件だ。
あまりにも軽率な行為であり、ブルー・プラネットはその都度モモンガに詫びている。
だが、モモンガは「俺もその立場だったら切れますよ」と笑い、不問に処した。
マーレが捕虜にした人間を記憶操作してエルフの援軍に急襲されたと報告させた。他の死体はエルフたちが回収したように偽装した。監視用のシモベの報告では、スレイン法国の現場検証でもそのように結論され、エルフの国との捕虜交換が考えられているようだ。
「ははは、存在しない捕虜を巡って……それは揉めますねぇ」
「ええ、それでお互いに争って消耗しあってくれれば最高です」
「しかし……スレイン法国の検証能力もその程度ということですね」
「いやぁ、まだそう結論するのは……俺の方でも引き続き気を付けておきます」
災い転じて福となす。――これも良い撒き餌になったとモモンガは笑った。
翌日も連絡を行う。そして翌々日も。
「何か動きはありました?」
「ナザリックについては何も。……店を開きました。法国は私のポーションを知ってましたね」
「ふむ……それはどんな成り行きだったんですか?」
「店を開くとき、担当者がポーションのリストを照会してました。それで『ドルイドのポーションは?』と。バハルス帝国でのことを知っていたみたいですね」
「ほう……やはり、スレイン法国が色々とスパイを放っているってのは本当らしいですね」
「そうみたいですね。今のところ、私には好意的に接してくれていますが」
その時はまだ「ドルイドのポーション」を用意していなかったため、後日、材料を集めて作成し、あらためて提出することになった。
だが、ブルー・プラネットには一つ気に掛かることがあった。ブルプラが口にした「材料」という言葉に対して担当者から感じられた強い関心――アーウィンタールでは「トレント由来」としていたが、トレント程度でそこまで気になるものだろうか、と。
(どこまでスパイが入り込んでるんだろう?)
まさか、辺境の町で作った破格のポーションを?
――そう考えてブルー・プラネットは首を振る。いくらなんでもそこまでは、と。
「――では、ブルー・プラネットさんも偶にナザリックに帰還してくださいね」
「ええ、店の近くで公園があったので、そこで拠点設定したら今夜中にも一旦戻りますよ」
今は樹々を転移して神都から出たところの森で実体化しているが、神都内の公園に常駐すべきだと考えている。アイテムによる情報収集は範囲が限られているためだ。
その深夜、樹から密かに枝を伸ばし、王笏を地面に刺して拠点設定を行う。
これでナザリックと神都を簡単に往復できるようになった。早速、ブルー・プラネットは<帰還>の魔法によってナザリックに戻り、数日ぶりにモモンガと握手を交わす。
――これが数か月前のことだ。
今では、ブルー・プラネットはナザリックへは<帰還>の魔法によって頻繁に行き来している。第六階層の様子を見に。そしてトブの要塞へも。
トブの要塞の実験室ではこの世界の蟲達を飼育する研究が進んでいる。ナザリックの餌だけで育てることにはいまだに成功していない。
やはり、微生物には何かこの世界本来の栄養素が必要なのだろう。――ブルー・プラネットはそう結論しかけている。
第六階層に移したアルシェは元気だ。ナザリックの食事によって随分と貧血も改善したらしい。この世界の人間はナザリックの食事でも健康に過ごせることが分かった。
だが……先日、デミウルゴスからのプレゼント――見事な置物だった――が第六階層の新居に間違って運ばれてきたとき、アルシェは久しぶりに蒼ざめて倒れかけた。
あれは気の毒だったとブルー・プラネットは同情している。アルシェは「ブルー・プラネットの妻になるとはそういうことだ」と思い込んでしまったらしい。
誤解はなかなか解けないものだ。――ブルー・プラネットは溜息を吐く。
誤解の定着にはモモンガも一役買っている。
アウラの報告でブルー・プラネットとアルシェが結婚したという噂が広まった後、ブルー・プラネットはその噂を否定しようとした。しかし、モモンガが一言「照れないでくださいよ」と言ったことで、もう何を言ってもNPCたちの誤解は解けなくなってしまったのだ。
「モモンガさん……分かってて言ったでしょ?」
「はて? 何のことですか?」
モモンガが半笑いで答える。どうやらアルベドとシャルティアの騒動で冷やかされたことへの意趣返しのつもりらしい。
そして、もう一人の少女――ピニスンにもその噂が届いたらしい。ピニスンも何やら張り切っているらしいが、怖くて聞けないでいる。
世の中、誤解だらけだ。――ブルー・プラネットは今日も一人頭を抱える。
◇◇◇◇◇◇◇◇
大きな動きが現れたのは、スレイン法国に来て3ヶ月ほど経った春先のことだった。
スレイン法国の神都の中心に位置する大聖堂の中では行政機関の長たちが高位の神官たちと激しく議論している。そして、彼らの会話は「ドルイドの薬師」から献上された観葉樹の鉢植えに仕掛けられたアイテムからブルー・プラネットに伝わっている。
その会話からは、強大な魔法に恐れ戦くスレイン法国指導者たちの感情が読み取れた。
ブルー・プラネットはその理由を知っている。
モモンガが帝国と同盟を結び、魔導国の王「アインズ・ウール・ゴウン」としてリ・エスティ―ゼ王国の軍勢を壊滅させたのだ。
ブルー・プラネットは、その作戦を事前に知らされていた。
『――というわけで、超位魔法<黒き豊穣への貢>をブッ放すつもりです』
「ああ、アレですか。そりゃまた派手なことになりそうですね。見れないのが残念です」
『映像記録しときますから、あとで一緒に見ましょうよ』
建国記念の良い見世物になりそうだ、と2人の至高者達は笑う。
『それで、スレイン法国にもその情報は届くはずですから……』
「はい、任せといてください」
ブルー・プラネットは情報網を点検し、スレイン法国上層部の会話を拾う。
呆気ないものだった。重要な情報が会議場から漏れてくる。
『あれは、我らが神の力と同じ、第11位階の魔法ではないのか?』
やはり、な。――ブルー・プラネットはスレイン法国が過去のプレイヤーを神と崇める宗教国家であることを再確認する。
『ならば、神人を動かすことも……評議国へ了解を得なければならんな』
神と同格の王を抱く魔導国という強大な存在の誕生に、エルフの王国との戦いを先延ばしにすべきではないという決定が下された。
どうやら神人とは、ユグドラシルプレイヤーの血を引く者であり、その覚醒によって高レベルのプレイヤーと同等の能力をもつらしい。そして、過去のプレイヤー――スレイン法国にとって神の遺産である強力なアイテムを装備しているのだという。
ブルー・プラネットはその情報をモモンガに伝える。
『なるほど、その『神人』がワールドアイテムを持っている可能性が高そうですね』
「ええ、確定ではないですが、是非捕獲して情報を集めたいですね」
ブルー・プラネットの情報は限定的だ。大聖堂内に仕掛けたアイテムは限られている。
神官長たちは会議室を出て政府高官たちと別れ、廊下で歩きながら彼らの議論を続ける。議事録に残らない、残すべきではない、愚痴交じりの本音を吐露して。
その内容はブルー・プラネットには伝わらない。
「評議国の竜王たちは何と言ってくるでしょうね?」
「魔導王と神人との共倒れを画策するだろうが……第11位階の魔法を魔導王が行使するとなれば神人を『より小さな悪』だと見做し、力の制限付きで認めざるを得ないだろう」
火の神官長、ベレニス・ナグア・サンティニの呟きに、水の神官長、ジネディーヌ・デラン・グェルフィがしわがれた声で応える。
他の神官長たちも頷いて会話に参加する。公式の場では憚られる鬱積を晴らすように。
「彼らの尊大さ、狭量さには困ったものです。我らの神を『外から来た者』と蔑み、その力を穢れたものと決めつけているのですから」
「彼らは長命であるがゆえに考えが古いのだ。我らが神のお伝えになった魔法によってどれだけこの世界が豊かになったのかも認めようとせん」
べレニスの言葉に対し、光の神官長、イヴォン・ジャスナ・ドラクロワは陰険そうなその顔を更に顰めて吐き捨てる。
「ああ……どうせ『見守る』しかしないくせに……いや、愚痴が過ぎましたな。どうも年を取ると愚痴っぽくなっていかん」
「ははは、我々こそ『古くて頭が固い傍観者』と言われないようにな。ところで――」
最高神官長が他の神官長たちを窘めて話題を変える。
「――神は複数でご降臨されることも多いと聞く。他にも神々がいらっしゃらないか……」
「占星千里を何とかして……彼女の力で探してもらわないといけませんね」
まだ若い土の神官長、レイモン・ザーク・ローランサンが闇の神官長に目を遣る。「闇」の管轄である漆黒聖典の情報担当である“占星千里”の回復はどうなっているのかと。
占星千里――彼女の傷は肉体的なものではない。あまりに強大な力を目撃したことで衝撃を受け、カッツェ平野の戦いの後で部屋に閉じこもっているのだ。
「うむ……もう一度、わしが直々に説得してみよう」
闇の神官長、マクシミリアン・オレイオ・ラギエは丸眼鏡を直しながら漆黒聖典の元メンバーであるレイモンに頷く。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そして、闇の神官長は儀式を行う。神々の住まいであった尖塔を包む大聖堂の最奥、地下に設けられた秘儀の神殿で。
古の神々に捧げられた神殿の1つ、「闇」の神殿の中心に座るのは“占星千里”。魔導国の戦いを見て心が折れた彼女は、儀式の参加へ条件を付けた。
もし魔導国と戦うことになったら死なせて欲しい。死霊に食い殺され死の従者となるよりは、巨大な魔物に踏み潰されるよりは、自分で死に方を選びたい。
――それが彼女が示した儀式への参加条件だった。
魔法陣の周辺を神官たちが何重にも結界で固め、その中心で“占星千里”は神の遺物に手をかざし、精神を集中させる。水晶球に魂を移して啓示を得るとき彼女は無防備となる。そのため聖域の中で精霊の加護による防御が必要とされるのだ。
水晶球が仄かに光り、“占星千里”のやつれた顔から表情が消える。魂が水晶球に移ったのだ。
水晶球の光が何かを探す瞳の様にクルリと回転し、突如揺らめいて消える。
そして“占星千里”の顔が歪み――ただ一声、喉が張り裂けるような悲鳴を上げて倒れた。
残された神官たち、そして儀式を見守っていた神官長は恐怖の表情を顔に貼りつけて立ち尽くす。
啓示は下された。儀式は終了した。だが、“占星千里”が見たものは何か。
――1人の神官が回復魔法を掛け、“占星千里”が目を開ける。しかし、意識が戻った彼女は宙を見つめてガタガタと震えたままだ。
「何を見たのだ?」
マクシミリアン神官長が肩に手を置き優しく問いかけ、“占星千里”はポツポツと呟く。
緑の奔流、炎の目、捩じれた蔦、軋む叫び、血と肉塊……文章にならない単語の羅列を。
「あれが、あれがこの街にいる……」
目の焦点の定まらない“占星千里”の呟きを聞き、マクシミリアンは溜息をつく。以前、破滅の竜王の復活を占ったときもこれほど取り乱しはしなかったのに、と。
“占星千里”が落ち着くまでに時間が必要であろう。だが、重要な情報は得られた。
マクシミリアンは判断を下す。
この神都に神が来ている。だが、魔導国の王、アインズと名乗る神が魔導国――かつてエ・ランテルと呼ばれた城塞都市から動いたとは聞いていない。それに、特徴が異なる。
アインズと同格の存在がもう一柱、すでに神都に入り込んでいるのだ。しかも、啓示によればその神は災厄をもたらす、と。
闇の神官長は他の神官長たちを緊急に呼び出す。話を聞いた神官長達は神人――“絶死絶命”を呼ぶ。評議国の了承はまだ得ていないが、神都の中で極秘に動く準備をせよと。
6つの神殿の儀式により、竜王の目から神都を――神人の力を覆い隠す結界が張り巡らされた。そして、漆黒聖典は一般人に偽装し、神都を巡回する。頑なに出動を拒否し、口を閉ざして再び部屋に閉じこもってしまった“占星千里”を除いて。
強大な存在を見つけたら決して手を出さず、直ちに“絶死絶命”に連絡する。そして隊長がもつ聖遺物――神すらも消し去るという伝説の槍と“絶死絶命”の力によって聖域に入り込んだ邪神を排除する。
それがスレイン法国最強の、つまりは人類最強の漆黒聖典に下された命令だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ある夜、ブルー・プラネットは公園の樹の中で異常を感じる。警戒心、そして敵意をもつ集団がこの公園に近づいている。
樹々に埋め込まれたアイテムを通じて会話が聞こえる。
「……話してみるが、邪神だと分かれば即座に消す。この神都を荒らされる前にな」
「隊長、でもどこで攻撃を判断するっすか?」
「そうだな……神官長の話では『神が動かれる前』だ」
クスクスと笑い声が聞こえた。あるいは苦笑が。
神か――どうやら目的は自分のようだとブルー・プラネットは判断する。そしてナザリックに加勢を頼む。
「<伝言> アルベドよ、スレイン法国の者に存在を感知されたようだ。戦闘が始まるかもしれん。捕虜を得るために加勢してくれ」
『はいっ、ブルー・プラネット様! 直ちに準備してまいります』
「ああ、私が敵を引き付ける。お前が後ろから奴らを捕らえろ」
『はいっ! 承知いたしました』
嬉しそうなアルベドの声がブルー・プラネットの頭に響く。
よし。――ブルー・プラネットはアイテムを通じて敵を観察する。
黒髪を長く伸ばした少年が長い得物――槍だろう――を肩にかけている。そして太い鎖を腕に巻き付けた男、大剣持ち、斧使い、盾持ち、聖女、いかにもな魔法使い……よく分からない女子高生のような恰好をした女や覆面もいるが、戦闘集団であることは間違いない。
こんな集団が街中で? ――そう訝るブルー・プラネットは彼らが<不可視化>によって一般人から姿を隠していることに気付く。
気がつけば公園内から他の人々が消えている。何らかの人払いがなされたのだろう。
魔法使いが公園の周囲に結界を張る。
<静寂>の魔法を公園を覆うほどに広域化する者がいるとは――レベルにして30台後半かとブルー・プラネットは推測する。
集団が<不可視化>を解き、金髪の美青年が懐から何かを取り出す。羅針盤のようなものだ。
「クイン、それが占星千里から借りたやつか?」
「ああ。昼間この公園で反応した。神が近くにいればその場所を指し示すというが……」
盾持ちの質問に答え、美青年は手の上に羅針盤を乗せて精神を集中させる。
羅針盤の針がクルリと回転し、ブルー・プラネットの宿る樹を指し示す。
それを見た黒髪の少年が頷き、樹の前で声を上げる。
「100年の時を経て降臨された神よ、我らの祈りに応え、どうかお姿をお見せください」
少年の後ろで聖女らしき女が手を組み頭を垂れている。他の者たちも同様だ。
場所がバレては仕方がない。――ブルー・プラネットは本体を樹から出現させる。
すぐにアルベドも来るはずだ。問題はないと判断して。
「おお、神よ! よくぞこの神都にご降臨くださいました」
「うむ……お前たちは?」
「はい、我々はスルシャーナ様の御教えの下、人類を守るために結成された者でございます」
威厳をもって問うブルー・プラネットの前で黒髪の少年が跪き、微笑んで答える。
「ふむ……それで、お前たちは何を求める?」
「はっ、まず御神名を享け賜わりたく……そして確認させていただきたいのですが、御身は先にご降臨されたアインズ・ウール・ゴウンと名乗られる神とお繋がりはございましょうか?」
「我が名はシャーウッズという。そして……アインズという神は知らんな」
ブルー・プラネットは偽名を名乗る。そしてアインズ・ウール・ゴウンとの関りを否定する。
それを聞いて少年は安堵の息を漏らす。この神を消しても魔導国が介入することは無いだろうと考えて。
「それではシャーウッズ様、御身を我らスレイン法国は歓迎いたします。今、我ら人類は苦境に立たされております。ぜひ、御身のお力によって我ら人類の苦境をお救いいただけますよう――」
「ふむ……具体的に何を求めるのだ?」
「はっ! 我らを苦しめる愚かな獣たち、醜い魔物たちの国を打ち滅ぼしていただきたく」
「先ほど、他の神の名を唱えたな……それは何だ?」
「アインズ・ウール・ゴウンのことでございましょうか。先日降臨され、今や魔導国を打ち立てられた神でございます」
「ふむ……では、お前たちはそのアインズ……とかいう神はどうするつもりだ?」
「はっ! その神に関しましては未だ正邪の見極めがついておらず、我々も関わりあぐねている所でございます」
「ふむ……」
ブルー・プラネットがさらに会話を引き延ばそうとしたとき、頭にアルベドの声が響いた。
『ブルー・プラネット様、準備が整いました』
ブルー・プラネットは頷き、目の前で跪いている少年に向かって言葉を投げかける。
「そうか……」
同時に、少年の頭を砕こうと枝を伸ばす。
だが、その枝は少年の持つ槍によって防がれた。少年は槍ごと後ろに吹き飛ばされるが体勢は崩れていない。
槍を構え直して少年はブルー・プラネットの胸を突いてくる。この世界の人間が見せたどの攻撃よりも鋭い動きだ。
しかし、ブルー・プラネットのから見れば遅い。枝で十分に防げる――はずだった。
「えっ?」
ブルー・プラネットは胸に鋭い痛みを感じて驚きの声を発する。
槍を払いのけたはずの枝は不可視の壁に阻まれ、槍はそのまま胸に刺さった。
そして、武器破壊効果のあるブルー・プラネットに突き立った後も砕けていない。
(必中効果か。それにかなり高いレベルで魔法強化されてるな)
ブルー・プラネットはあらためて警戒心を高める。先ほどの羅針盤もそうだが、この集団はその身にそぐわない高度なアイテムを装備しているのだ。
(……にしても、アルベドは何をしているんだ!)
この程度のダメージなら心配はないが……それでも早く捕獲するならして欲しい。
――そう思って周囲を見渡すが、アルベドの姿は見えない。
「えっ?」
驚きの声を上げたのはブルー・プラネットだけではない。漆黒聖典隊長――黒髪の少年も驚きの声を上げていた。神々の遺した遺産、その中でも最強の武器、神をも殺すと言われる槍が何の効果も上げなかったのだから。
「隊長っ!」
腕に鎖を巻き付けていた男が叫び、少年が後ろに飛びのく。男は鎖をブルー・プラネットに向けて投げつける。鎖の先端に錘を付けた分銅鎖と呼ばれる武器だ。
だが、その効果はダメージを与えるためではない。鎖がブルー・プラネットの身体に纏わりつき、磁石の様に貼りついて行動を封じる。それはやはり高度な行動阻害系効果を付与されたマジックアイテムだった。
「くそっ!」
ブルー・プラネットは悪態をつく。この手のアイテムを外すには時間がかかるのだ。
鎖が外れない。鎖を握って離さない男を、鎖ごと振り回して地面に叩きつける。男は一声叫びを残して血を噴き上げる肉塊となった。
男の手が鎖から離れる。血が滴り肉片がこびりつく鎖をブルー・プラネットは外そうともがく。
「<三重化><魔法の矢>」
「<善の波動>」
周囲の魔法使いと聖女から魔法が浴びせられるが、それはブルー・プラネットの身体に届かずに消える。強化していないその程度の魔法が届くはずもない。
「邪魔だ」
ブルー・プラネットが枝で魔法使いたちを薙ぎ払おうとしたとき、その枝が突如として切り払われる。続いてブルー・プラネットの首に強力な一撃が浴びせられ、鋭い痛みにブルー・プラネットは呻く。
不可視化ではない。不可知化した敵がいる。
――高レベルの敵の存在を察し、ブルー・プラネットは一歩下がって樹に転移しようとする。
だが、樹に入れない。身体に纏わりつく鎖が転移を阻害しているのだ。
「報復の剣」
ブルー・プラネットの腕が鋭い剣となり、自動的に敵を追う。不可知化された敵に対しても追尾が効くスキルだ。見えない敵を追い、剣を生やした蔦が鞭のように撓り、縦横に公園を走る。そして、ついに空中で敵を捉える。
呻き声と共に、剣で抉られた腹部を押さえた少女が空中に姿を現す。強力な一撃を受けて不可知化を維持できなくなったのだろう。
ブルー・プラネットはそのまま少女を地面に叩きつけ――その一瞬前に少女は手にした巨大な十字鎌槍で蔦を切り、空中で体勢を直して着地した。
ブルー・プラネットは敵を観察する。黒と白に分かれた髪をもつ少女だ。
腹を裂かれて大量に出血しているが、笑っている。嬉しくてたまらないという様に。
「<大治癒>」
聖女が回復魔法を少女に飛ばし、地に膝をつく。魔力が切れたようだ。
少女の腹の傷が塞がるが、完全には回復していない。
ブルー・プラネットは少女の動きを見てダメージを計算する。あと2,3発イイのが決まれば倒せるだろうと。
そして自分は――ダメージはHPの1/3程度というところか。
これなら行ける。――ブルー・プラネットは戦闘を継続することを選ぶ。転移で逃げるために鎖を外す間の隙を与えるより確実だと。
<上位回復>のポーションを合成し、自分に注入する。そして敵の雑魚どもに邪魔されないよう王笏を公園の地面に刺して領域を設定する。
<トレントの群走>……無詠唱化した魔法により公園内の樹木が一気に成長し、60レベルのトレントとなって動き出す。通常のトレントのような穏やかな動きではない。
狂ったように枝を振りまわすトレントが数十体、公園内を渦を巻くように疾走する。その進路にあるすべてを踏み潰しながら。
「なっ……」
「きゃぁっ」
公園内の敵――漆黒聖典の隊員たちは叫びを上げて反射的に身を守ろうとする。落石の様に襲い掛かる数十メートルの巨木の群れから。黒髪の少年は隊員たちの前に立ち、槍の柄を杖のように使ってトレント達を薙ぎ払うが、出鱈目に駆け回るトレント達を完全に防ぎきることは出来ない。
大剣の男、魔法使い、斧使い、聖女、レイピア使い……次々と隊員たちは巨木の渦に飲まれ、枝で裂かれ、踏みにじられ、血と肉の入り混じった塊となって地面に貼りついていく。
黒白の髪の少女は仲間たちに目を遣ることもなくトレントの群れの中を縫うように駆け、ブルー・プラネットに襲い掛かる。
ブルー・プラネットは少女の鎌の柄を枝で受け止め、弾く。
(こいつ……かなり強い! だが……)
その能力とアイテムの性能に任せて振り回しているだけだ。黒髪の少年――いまはトレントの相手をしているが、そっちの方が戦いの経験を積んでいる。
(殺すのは簡単だ。捕まえるのはちょっとホネかな?)
警戒すべきは2人。黒髪の少年と黒白髪の少女。あとの雑魚は肉塊となっており、回復役はいないようだ。トレントたちは少年にほぼ倒されたが、もう少し時間を稼げる。
自前で回復できる俺の方が有利。――ブルー・プラネットは余裕をもって捕獲に注力する。
少女は笑いながら鎌を振るってくる。
何がそんなに面白いのかとブルー・プラネットは感情を読み取り、理解する。
楽しんでいるのではなかった。何者かへの怒りが笑顔となって吹き出しているだけだ、と。
(あ、楽なタイプだ)
ブルー・プラネットは少女への評価を下げる。
この少年と少女にはユグドラシルで見慣れたのと同じ雰囲気がある。高レベルで高級なアイテムに身を固めた初心者キャラだ。ギルドのリーダーに煽られて、感情のままに突っ込んでくる捨て駒だ。怒りに任せて振るわれる鎌の一撃は地を抉り空を裂くが、大振りで躱すのは容易い。
ブルー・プラネットは少女の大鎌を枝で弾きながら捕獲の準備を始める。
こういう猪突猛進型のプレイヤーには――地面に這わした蔦で足を絡め、転ばせる。
やはり初心者だ。異形種と戦った経験が無かったのだろう。
――ブルー・プラネットの読み通り、見事に足を掬われて少女は公園の地面に頭から突っ込む。
そして俯せの状態で地面を削り取りながらブルー・プラネットの前に進み、ブルー・プラネットはそれに<蔓の檻>を掛ける。
「ほいっと、いっちょ上がりっ!」
ブルー・プラネットは檻の中に閉じ込められた少女を見る。
「この檻、壊そうとすると燃えるからね」
この世界では知られていないだろうけど――笑いながらそう忠告したブルー・プラネットは目を疑う。
少女は絡み合う蔦の檻に向かって鎌を振るい、吹き上がる猛火の中でけたたましく笑いながら檻を抜け、炎に身を包みながらなおもブルー・プラネットに向かって突進してきたのだ。
「あほか?」
ブルー・プラネットは呆れながら燃える少女を受け止め、炎を消して枝で手足と胴と首を締め上げる。
手足の骨が砕かれ、少女の手から鎌が落ちる。
檻で捕獲できないのなら可哀想だが「瀕死」状態で運ぶしかないな。
――ブルー・プラネットはゆっくりと少女の身体を締め上げ、少女が苦し気に呻く。
「ウッ……ゴッ……」
「番外っ!」
喉を締め上げられ断末魔の叫びを上げる少女に気が付き、少年が叫んで駆け寄ろうとする。
だが、その胴体が突如2つに断ち切られ、少年は斃れた。
「シャーウッズ様、お待たせいたしました」
<完全不可知>の膜が解かれ、病んだ光を宿すバルディッシュを片手に持つ黒鎧の戦士が少年の亡骸の後ろに現れる。
「ああ、えっと、ホワイト……遅かったな」
「はっ! 申し訳ございません。少々手間取りました」
アルベド――偽名でホワイトと呼んでいる――が頭を下げる。
「この女がスレイン法国の秘密兵器だったのでしょうか?」
「ああ、そうだろう。そっちの男もこの世界の人間としては強かったが、こっちの子は隠れていたからな」
「さようでございますね。では、スレイン法国の力はこの程度ということですね」
アルベドが近寄り、少女を眺める。
涙を浮かべてブルー・プラネットを睨み、砕けた手足でもがき続ける少女を。
「ああ、この2人は持って帰り、もっと情報を――」
ブルー・プラネットがそう言いかけたとき、アルベドはバルディッシュを両手で大きく振り回し、宙吊りにされている少女の胴を背中から断ち切った。
「グェッ……」
黒白の髪の少女は目を見開き、血を吐いて絶命する。
「な……もったいない! 折角の――」
バキッ
――捕虜を、と言いかけたブルー・プラネットに更なるアルベドの一撃が浴びせられ、ブルー・プラネットは後方に吹き飛ばされる。その勢いで少女――“絶死絶命”に絡みつく枝が離れ、上半身と下半身に分かれた少女の亡骸は宙を舞って地面に落ちる。
「予想外に弱かったのは残念でした。御身のワールドアイテムをお使いになるまでもないとは。それに、精神支配系のアイテムも持っていなかったようで――」
アルベドの手には、ブルー・プラネットの転移を阻害している分銅鎖の一端が握られている。
「――でも、ご安心ください。クズどもも良いアイテムを持っていたようです。これならば精神支配に替わり、御身をお縛りできます」
「な、なにを……」
「御戯れを。この鎖で御身をお縛りし、再生や転移を停止して次元の裂け目に御身をお送りすれば、ご復活はございません。そのためのアイテムも別途用意してまいりました」
慌ててブルー・プラネットは鎖をほどいてアルベドから逃げようとする。同時に回復ポーションを自分に注入してHPを回復させる。
「ブルー・プラネット様?」
黒い兜のまま可愛らしく首を傾げ、アルベドが不思議そうな声を出す。
なぜブルー・プラネット様は儀式を中断されるのだろうかと。
「ブルー・プラネット様、これで御身は天にお帰りいただけるのですよ?」
アルベドが優しく声をかける。
「御身がナザリックにご帰還なされてから114日間……ようやく御身の願いが叶うのではございませんか?」
アルベドが説明する間、ブルー・プラネットの鎖がようやく解かれる。
だが、転移して逃げるための樹はない。先ほどの魔法で公園の樹は全てトレント化し、それは少年によって倒されてしまった。
<帰還> <ナザリック>
バチッ! ――とりあえず逃げようとしたブルー・プラネットの魔力が弾かれる。
「はい、ナザリックとトブの要塞は現在、外部からの転移を禁じております」
アルベドが頷き説明する。優しい声だ。兜の下ではきっと微笑んでいるのだろう。
バルディッシュが振り下ろされ、ブルー・プラネットは肩に鋭い痛みを感じる。
さらにもう一撃――意識が遠のきかける。
その瞬間、ブルー・プラネットの身体が暖かい光に包まれ、全ての傷が癒された。
復活のアイテムが作動したのだ。
その様子を見てアルベドは頷き、説明を続ける。
「これで復活アイテムは消費されましたね。ブルー・プラネット様は即死耐性をお持ちですから私の攻撃では少々時間がかかってしまいます。御身のワールドアイテムをお外しいただければ私がすぐに――」
アルベドが選択肢を挙げていく。
だが、ブルー・プラネットは先ほど垣間見えた最後の希望を選択する。
<帰還> <聖なる森>
ブルー・プラネットの身体が消える。
アルベドは分銅鎖の一端を手に持ったまま兜のバイザーを上げ、呆然と周囲を見回した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ブルー・プラネットは聖なる森――最初に墜落した帝国領内の森に造った魔法の要塞に入り込み、一息つく。第10位階の<自然の避難所>で作られた要塞はダンジョン攻略時の拠点ともなることを思い出して。
だが、これからどうするか。
HPは満タンだが復活アイテムは消費された。これでアルベドと戦うのは危険すぎる。
――ともかく連絡だと考え、ブルー・プラネットは<伝言>を繋ぐ。
「<伝言> モモンガさん、助けて!」
『は、はいっ! ブルー・プラネットさん!? どうしたんですか!?』
いきなりの<伝言>に驚くモモンガの口調に敵意は感じられない。
ブルー・プラネットはアルベドの反逆が友人の指金ではないと知って安堵する。
「モモンガさん! アルベドが狂った! さっきスレイン法国で攻撃してきて……」
『え? ま、まって、アルベドが? ブルー・プラネットさんは今どこに?』
「帝国の森です。場所は――」
――説明できない。ナザリックの遥か東というだけで、詳しい地理は不明なままだ。
『どこですか?』
「前に言った帝国の森ですが……すみません、詳しい場所は分かりません。ナザリックにも転移阻害されてて帰れないんです」
『わ、分かりました。どこかで落ち合いましょう、場所は……』
その時、アルベドの声が2人の会話に割って入る。
『ブルー・プラネット様、どちらにいらっしゃるのですか?』
アイテムを通じてアルベドも<伝言>に参加したのだろう。グループ通話モードだ。
『アルベドよ、何をしてる!』
モモンガがアルベドを叱責する。
『はいっ! 私はブルー・プラネット様のご遺志によりブルー・プラネット様を新たなる世界への礎とすべくブルー・プラネット様の御命を頂くところでございます。モモンガ様もぜひご一緒にブルー・プラネット様の最期をお看取りください』
アルベドは、愛する主人に幸せそうな声で歌う様に答える。
『落ち着け、アルベド!』
『はいっ! ご安心ください。確実にブルー・プラネット様を殺せるよう、準備をしておりましたから』
モモンガの背筋を冷たいものが走り抜ける。つい先ほどまで横で優しい笑みを浮かべていたアルベドの狂気を知って。
アルベドは狂ってる。だが、いつから狂っていたのか。
――混乱の中、モモンガはアルベドに向かって叫ぶ。
『アルベドよ! ナザリックに帰還せよっ!』
『はい、ブルー・プラネット様も』
「やだよ!」
ブルー・プラネットは話を振られて言下に否定する。
『モモンガ様、申し訳ございません。ナザリックにおいてモモンガ様の御隣に立ち、御身と結ばれるのはブルー・プラネット様の御用命を果たしてからとなります。今しばらくご辛抱ください』
アルベドもモモンガの命令に従わないようだ。――ブルー・プラネットは一計を案じる。
「わ、分かった。アルベド、私は今からナザリックに戻る。そこで話し合おう」
『はいっ! ブルー・プラネット様! それではお待ちしております』
アルベドが嬉しそうに答え、<伝言>が切れる。
だが、ブルー・プラネットの言葉は嘘だ。ブルー・プラネットは迷彩を施し、森からナザリックではなくトブの要塞に飛ぶ。その周辺でならモモンガを呼び出し、善後策を練ることが出来ると踏んで。
トブの要塞の上空で降下を始めたブルー・プラネットの身体は宙に漂う不可視の網に包まれて地面に墜落する。
トラップだ。――そう気が付いたとき、黒い甲冑のアルベドが駆けてきた。
「ブルー・プラネット様、お待ちしておりました!」
アルベドがバルディッシュを振り上げ、迷彩によって姿が定かではないブルー・プラネットに叩きつける。
「ゥグッ」
腹に衝撃を受けて呻きながら、ブルー・プラネットは網を切り開き、アルベドが投げかける鎖を避けて近くの樹に融け入る。
アルベドのスキルでは樹の中の自分は感知できないはずだ。――スキルを通じた感覚では、実際にアルベドは戸惑っているようだ。
だが、このままでは埒が明かない。
モモンガに救助を依頼するために<伝言>を掛けようとして、この周辺には<伝言>が妨害されていることに気が付いた。
この場所に誘い込まれた。――ブルー・プラネットはアルベドの手の内に落ちたことを知り、戦慄する。ウソを見破られたのではない。罠の設置には時間がかかる。先ほどの会話から全ては自分をこの要塞に誘導し、モモンガをナザリックに釘付けにするための計略だったのだ。
何とかしなければ――そう焦るブルー・プラネットの脳裏に援軍の姿が見えた。
ブルー・プラネットは要塞内に転移する。<帰還>ではない。拡張された意識の中に存在した味方――ザイトルクワエの苗木の1つに意識を移したのだ。
マーレは丁寧に世話をしていたと見え、4体のザイトルクワエは倉庫の地下で皆元気に育っている。樹高は10メートル程度だが、それではあまりに弱すぎる。
ザイトルクワエの苗木の1体に入り込んだブルー・プラネットは巨大な植木鉢から根を抜き、部屋の外に出る。そして、倉庫に積み上げられた召喚モンスターの群れに飛び込む。
「<植物成長促進> 成長せよ!」
ザイトルクワエの枝と根が伸び、周囲のアンデッドたち――数百体のデス・ナイトやソウルイーターの身体に食い込んでいく。そしてアンデッドたちはHPを吸収され、一気に灰となって崩れ落ちる。周辺の食料もその精気を吸われて萎び、腐り落ちる。
ザイトルクワエの身体が膨れ上がり、倉庫の天井を突き破って地面に顔を出す。
87レベルか。アルベドを倒すには足りない。しかし、HPが高いから数発分の盾にはなる。
――ブルー・プラネットの頭に自身が操るザイトルクワエのステータスが浮かぶ。
「ブルー・プラネット様!」
地面に顔を出したザイトルクワエに向かってアルベドが刃を振るう。姿が違っても気配を感じているのだろう。ザイトルクワエも枝を振ってそれを防ぎ、攻撃をする。
ザイトルクワエの枝が切り飛ばされ、次に幹にバルディッシュの刃が食い込む。――その寸前にブルー・プラネットは森の樹に転移する。
アルベドがザイトルクワエに向かってバルディッシュを振り上げ、その後ろからブルー・プラネットは剣を伸ばして渾身の一撃をアルベドに見舞う。
背に刃を受けたアルベドが弓なりに身を反らし……振り返る。
「失礼いたしました。そちらにいらしたのですか」
そして、疾風のごとくブルー・プラネットに駆け寄り、両手でバルディッシュを叩きつける。
ブルー・プラネットは後ろに下がってそれを避け、そのまま樹に融けて再び別の樹から現れる。
そして背後からアルベドに再び一撃を与える。
「ブルー・プラネット様! 何故ですかっ!?」
樹々を転移するブルー・プラネットに翻弄され、アルベドが血を吐くように叫ぶ。
何故と聞きたいのはこっちだ。――そう思いながらブルー・プラネットは攻撃を続け、薬草で回復したザイトルクワエも枝を振るい、砲弾を飛ばして加勢する。
黒い鎧の外層が崩壊する。その下から先と変わらぬ黒い鎧が現れる。
アルベドの鎧、ヘルメス・トリスメギストスは3層構造だった。残るはあと2層。それを破壊し終わるまでアルベドにダメージは与えられない。
――ブルー・プラネットが不利に焦って鎧の破壊に専念していると、アルベドが天を仰いだ。
アルベドが主武器――バルディッシュではなく、ワールドアイテム「ギンヌンガガプ」を天に向かって振る。
トブの森の紺色の夜空に亀裂が走り、蜘蛛の巣のようにひび割れて漆黒の次元の裂け目が姿を現す。
そして激しい嵐が巻き起こり、周囲の樹々を、要塞の破片を虚無の中へと吸い込んでいく。
対人武器としてはさほど威力はないが、対物としては絶大な破壊力をもつアイテムである。
やがて空の裂け目が閉じる。
依り代となる樹々を吸い上げられ、実体化したブルー・プラネットは呆然として荒野に残される。
アルベドがブルー・プラネットに分銅鎖を投げる。遮蔽物が無い今、投じられた魔法のアイテムを躱すことは出来ない。
払いのけようとしたブルー・プラネットの腕に鎖が絡みつく。
ブルー・プラネットはアルベドの身体を振り回し、何度も地面に叩きつけ、剣で切り付ける。
アルベドにダメージはない。鎧がダメージを全て吸収している。
鎧の第2層が砕け散り、最後の層も徐々に崩壊していく。
籠手が砕け、兜が砕け――幸せそうに微笑むアルベドの顔が現れる。
アルベドは地面に叩きつけられながらも優しい笑みを消さず、何かを呟きながら鎖を手繰り寄せて徐々に近づいていく。
「近寄るな!」
ブルー・プラネットは剣でアルベドに切り付け続ける。だが、すでに間合いが近い。ブルー・プラネットの腕に絡んだ鎖に誘導され、剣の軌道は簡単に読まれてしまう。
アルベドはバルディッシュでブルー・プラネットの剣を弾きながら徐々に近づき――
「さあ、ブルー・プラネット様!」
――自分の間合いに入ると、両手でバルディッシュを大きく振りかぶる。
鎧は既にボロボロであり、間もなく完全に崩れるだろう。しかし、その後にブルー・プラネットは無傷のアルベドと至近距離で対峙することになる。
アルベドの凄惨な笑みとともにバルディッシュが振り降ろされ、その隙をついてブルー・プラネットの剣がアルベドを撃つ。
鎧が完全に崩壊し、白い服をまとったアルベドが姿を現す。
その無垢な姿でアルベドは再びバルディッシュを振り上げ――
アルベドの脇腹が突如として爆ぜる。同時にその首が両腕と共に断ち切られ、地面に落ちる。
驚愕の表情を浮かべたまま地に横たわるアルベドの唇がわずかに動き、視線が何かを捉えて動かなくなった。その視線の先――<完全不可知化>を解いたデミウルゴスとコキュートス、そしてシャルティアを見つめたまま。
「遅くなり申し訳ございませんでした」
3人の守護者はブルー・プラネットの前に跪く。
取り返しのつかぬ不敬にデミウルゴスは震えていた。
まさかここまで狂っていたとは。
――アルベドの狂気に気が付いていながら、その心を読み切ることが出来なかったデミウルゴスは自分を責めていた。密かに避難先を準備しておき、さらにアルベドによる誘導先に伏兵を潜ませていたブルー・プラネット様に比して己はなんと無能であろうかと。
モモンガから連絡を受け、外部からナザリックへの転移が阻害されていることに気が付いたデミウルゴスはコキュートスとシャルティアを呼び、シャルティアの<転移門>によってブルー・プラネットのところまで転移した。不可知化した守護者達は、鎖で振り回されているアルベドの隙に乗じ、各々の持てる最大の一撃を――シャルティアが清浄投擲槍を、コキュートスは斬神刀皇を叩きつけ、一瞬の内にアルベドを滅ぼし去った。
だが、デミウルゴスは悔やんでいた。
一刻も早く駆けつけ、身を挺してブルー・プラネット様とアルベドとの戦いに割り込むべきだった。
――デミウルゴスは自身の不忠義を悔いる。確実な方法を選び、結果として遅くなったことを。
アルベドを止めるならばシャルティアだけでも良かっただろう。しかし、シャルティアには事情を伝えていない。守護者が至高の御方を襲うというあり得ない事態にすぐに対応できるようコキュートスも呼んだ。
その結果、至高の御方の身をかくも危ういところまで追いつめてしまったのだ。
「よい……助かった」
ブルー・プラネットはデミウルゴスたちを労い、<伝言>でモモンガにアルベドの死を伝える。そして、転移阻害が解除されるのを待ってナザリックに<帰還>する。
3人の守護者達とアルベドの骸と共に。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アルベドはナザリック第十階層で目覚める。
「ここは……ナザリック?」
ブルー・プラネット様を天に還す儀式の最中、デミウルゴスとコキュートスに殺されたはず。
――アルベドの記憶がよみがえる。
だが、それは夢であったようにも思える。どうも思考がハッキリと働かない。
周囲を見渡す。
デミウルゴスやコキュートス、シャルティアにアウラとマーレ……その他、一般メイドに至るまで、至高の御方に創造された者達が全て揃っている。
だが、誰も口を開かず、瞬きすらしていない。ただ彫像のように並んでいるだけだ。
玉座にはモモンガとブルー・プラネットも並んでいる。やはり彫像のように動かない。
「モモンガ様!」
玉座の下からアルベドが呼びかけるが、モモンガは視線も動かさない。
アルベドは玉座への階段に足をかけ……階下に止まる。玉座のモモンガの横にはブルー・プラネットがいるのだから。
それにしても変だ。――アルベドは疑問を感じ、再び第十階層を見渡す。
他の守護者もセバスや戦闘メイドたちも、アルベドを無視して固まっている。
全体的にどこか幻のようであり、その静けさ以上に何か――大切なものが抜け落ちている。
空虚さに耐えきれなくなったアルベドは第九階層に赴く。
そして気付く。その階層を満たす濃密な至高の御方々の気配に。
だが、モモンガやブルー・プラネットのものではない。2人は第十階層にいるのだから。
アルベドは首を傾げ、気配を辿って円卓の間に向かう。
円卓の間――至高の御方々以外に立ち入ることを許されなかった聖域中の聖域。
アルベドはその扉を開ける。
そして扉の向こうから溢れる強力な気配にアルベドは跪き、涙と共に呟く。
「皆さま……ここにおられたのですね」
円卓には第十階層にいるモモンガとブルー・プラネットを除く至高の御方々が、全員ではないが座っていた。しかし、彼らも第十階層の者達と同様に身じろぎ一つ、物音ひとつ立てずにただ座っている。
まるで彫像のように。
シャルティアとの戦いに赴くモモンガと交わした会話がアルベドの中に蘇る。
『他の至高の御方々はお亡くなりになられたのでしょうか?』
『それは……正解ではないな』
そうか、そういうことだったのか――アルベドは主人の言葉を噛み締める。
あのアヴァターラはこの場所を模したものだったのだ、と。
そしてアルベドは躊躇いがちに足を踏み入れ、最も大切な存在へと向かう。
「タブラ・スマラグディナ様……どうか、この哀れなシモベに一言、お言葉を……」
円卓の中央を見つめて身動ぎ一つしないタブラの足元に跪き、アルベドは懇願する。
「なぜ、何もおっしゃって下さらないのですか? 私などどうでもよいと……やはり私は必要とされない存在なのでしょうか?」
タブラから答はない。視線すら動かさず、タブラは座っている。
不敬であると知りつつ、アルベドはタブラの腕に取り縋る。
その瞬間――タブラに重なった指先からアルベドに膨大な情報が流れ込んでくる。
火花の様に一瞬の閃きの間に伝わったそれは、タブラの遺志だった。
情報の奔流からアルベドは自分に向けられた創造主の思いを掬い取る。
タブラの思い――それは愛ではなかったが、執着ではあった。
アルベドはタブラの理想の美として形作られ、その内面の葛藤もまた、タブラの理想であった。
「タブラ・スマラグディナ様……本当に恐ろしく、残酷な方ですね」
アルベドは称賛の眼差しを向け、手を放してタブラの傍に寄り添う。
タブラの思いを知り、アルベドの心は歓喜で満たされていた。
たとえ永遠の苦痛でも、それが創造主に望まれたものならば最大の喜びをもって迎え入れる。
それが創られし者なのだ。
(そう……タブラ様は脳を啜り、心を喰らうお方でした)
理想の美として創られた自分の苦悩は、タブラ様にとって極上の糧であるのだろう。
自分は見捨てられたのではない。創造主はこうして自分を思い続け、求め続けてくださっている。
――それを理解し、アルベドの魂は満たされた。
「しかし……女として創られた身である以上、女としても愛されたいものです」
アルベドは微笑みながらそう呟く。拗ねたような口調で少しだけ恨みがましく。
そして、そのまま口を噤み、聖女の眼差しでタブラを見つめて立ち尽くす。
全てが静止し、時の感覚が曖昧なこの世界で、アルベドはタブラの横で同じく彫像のように動きを止めた。
――どれだけの時が経っただろうか。一瞬のようでもあり、何年も経ったようにも感じる。
アルベドの名を呼ぶ声が響く。
それは水の中で反響するように曖昧ではあったが、確かに愛する主人の声だった。
「タブラ様……行ってまいります」
アルベドはタブラに頭を深く下げ、愛する主人の待つ第十階層へと向かう。
偉大なる創造主はここに居てくださる。おそらくこれからもずっと。
ならば、憂いなく守護者統括としての義務を果たします。
――そう思いながらアルベドは第十階層の玉座で待つ主人の下へと走った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そしてアルベドは目を開ける。
ここは第十階層の玉座の間だ。なぜ自分はここに居るのだろう。――アルベドは疑問に思う。
何か幸せな夢を見ていた気がする。だが、目を開けるとともにその記憶は消え去ってしまった。
夢というのはそういうものだ。私としたことが、つい眠ってしまったのだろう。
――そう考えてアルベドは身体を起こし、玉座にいる主人に微笑みを向ける。
だが、主人とその横にいるブルー・プラネット、そして周囲から感じる視線は警戒に満ちていた。特に守護者は皆、殺意まで込めて武器に手を掛けている。
アルベドはあらためて周囲を見回す。不思議そうに首を傾げて。
そして自分が何も身に付けていないことにようやく気付き、ハッと腕で胸を隠す。
「アルベドよ、答えよ! お前はなぜブルー・プラネットさんを殺そうとしたのだ?」
モモンガの詰問にアルベドは心臓を抉られる思いがした。守護者としての自分の存在意義を否定するかのような恐ろしい嫌疑を向けられて。
至高の御方を殺そうとするなど、あり得ません。――そう口にしかけ、アルベドは思い出す。
(そう、確かに私はブルー・プラネット様を殺そうとしていた。一体何故そんなことを……)
何よりも敬愛すべき至高の御方に何故殺意など抱いたのか。
――今のアルベドには幾ら考えてもその答は見つからなかった。
モモンガが階段を降り、困惑するアルベドの横に立つ。
「モモンガ様……?」
「アルベドよ、心の中を読ませてもらうぞ……<記憶操作>」
「はっ……ああっ!」
モモンガの手がアルベドの頭に置かれ、その感触に顔を上気させ官能的な喘ぎを漏らして身悶えするアルベドの記憶を読む。
やがてモモンガは疲れたように肩を落とし、それでも安堵した口調で報告する。
「どうやら本当に殺意はないようだな。……記憶も事件の数日前までしかない」
シャルティアの時と同じだ。――そう思い、モモンガはブルー・プラネットに向かって頷く。
「数日間……事件……何のことですか?」
「あなたは発狂し、こともあろうにブルー・プラネット様に刃を向け、わたしとコキュートスによって誅殺されたのですよ!」
事態を飲み込めず戸惑うアルベドをデミウルゴスが叱責する。
「許されざる大罪を犯しておきながらあなたは――」
「よい、デミウルゴスよ。それ以上言うな」
ブルー・プラネットはデミウルゴスを止め、階段を降り――それでも恐々とアルベドの前に立つ。
ブルー・プラネットは、アルベドが自分に向けた殺意の原因が、自分の言葉にあると薄々理解していた。アルベドの死体を回収し、この数日間、モモンガとこの事件の原因と善後策を相談した結果だ。
「ブ、ブルー・プラネット様……お、お許しください……この命で済むのでしたら直ちに自害を……」
ようやく何が起きたのか理解したアルベドが真っ蒼な顔でブルー・プラネットに詫びる。
自分が犯した罪は、自分ごときの命では到底償えないものだ。――そう理解しつつアルベドは平伏して罪を詫び続ける。
「アルベドよ、顔を上げよ。私の言葉が何か誤解を生んでしまったようだな。申し訳ない」
「そんな、ブルー・プラネット様! 至高の御方に非などあろうはずがございません。全ての非は私の浅慮によるものでございます」
「良いのだ、アルベドよ。お前の罪はその死と復活をもって不問とする。お前も忘れることだ」
ブルー・プラネットは罪を許す。元はと言えば自分が撒いた誤解が原因なのだから。
なおも平伏するアルベドにモモンガが手を伸ばす。
「アルベドよ……ブルー・プラネットさんが言っている通りだ。私からも命じる。自分を責めるな。これまで以上にナザリックに尽くせ。ナザリックにはお前が必要なのだ」
モモンガの言葉を聞き、アルベドの視界が歓喜の白い光に爆ぜた。
感極まってアルベドはモモンガに抱き着く。
戦士職のアルベドが全力で抱擁した結果、モモンガの肋骨が悲鳴を上げ、その何本かが折れる。
「アルベド、謹慎1週間! 自室で仕事をするように!」
しきりに頭を下げて謝罪するアルベドに、<大致死>で傷を治しつつモモンガは罰を下した。
八肢刀の暗殺蟲に取り押さえられ謝罪の言葉を叫びながら全裸で床を引き摺られていくアルベドを見て、ブルー・プラネットは枝で頭を押さえる。この先が思いやられると。
この先――
スレイン法国に残しているシモベの話では、どうやら大混乱が起きているらしい。一介の薬師には詳細は不明だが、スレイン法国の切り札であるあの2人が殺されたためであることは間違いない。戦力の拡大のためにスレイン法国の中では優秀な人材のスカウトが秘密裏に始まっており、ブルプラにもその話が来ている。
“神薬無尽”……そんな名前が用意されているらしい。
愚かな勘違いだ。――ブルー・プラネットはモモンガと大笑いする。自分のシモベがスレイン法国の工作部隊に入り込めば、謎に包まれた国家の実情が明らかになるだろうと期待を込めて。
だが、ナザリックの被害も大変なものだ。トブの要塞が台無しになった。ブルー・プラネットが森を修復させ、アウラが目下急ピッチで再建を進めているが、アンデッド兵団は全て灰となってしまった。食料や資材など戦略物資の確保の目途も立っていない。デミウルゴスはセバスと協力し、エ・ランテルから再び補給を始めているが再度大規模な作戦が必要だろうとも言っている。
そして、それらの報告書はアルベドが死んでいた数日間で山のように溜まっている。謹慎中にアルベドが処理するだろうが、ナザリックの体勢を立て直すには数か月は掛かるだろう。
スレイン法国への本格的な侵攻にはまだまだ時間が必要だ。人類を統合し、世界をあるべき姿に導いていくのは遠い道のりだ。
ブルー・プラネットは首を振って溜息を吐く。思い悩んでいても仕方がないと。
いずれにせよ、日常が取り戻された。
偽りの平穏――薄氷の下に隠されていたアルベドの狂気も暴かれ、消えた。
今夜は久しぶりに第六階層でゆっくりと休ませてもらおう。アルシェやピニスン、それにハムスケやリザードマン達……この世界の者達と共に星空を眺めながら。
これにて本編終了となります。
お付き合いいただき、本当にありがとうございました。