ファイター、鉄の城を駆ける   作:GENERAL

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ファイター、目覚める

 オラクル船団。

 それは惑星間を自由に旅する巨大な船団だ。その誕生と共に、外宇宙への進出が可能となり、新たな歴史は始まった。そして今や、我々の活動範囲は数多の銀河に渡る。

 ヒューマン、ニューマン、キャスト、デューマンの4種族が暮らすその船の中で第三世代アークスとして自分は産まれ、新人アークスとなり数々の星を巡り、強大な敵と戦い……大切な仲間を得た。

 

 「深遠なる闇」との戦いの後、膨大なダーカー因子を溜め込んでいた自分はコールドスリープに入り、目が覚めた時には浄化が完了している……

 

 

 

 

 

 

 

 ……筈だった。

 

 目を覚ませば目の前には草原が広がり、すぐそばでは青年2人が何やら原生種らしき生物を叩いている。

 ……どうやら自分は夢を見ているらしい。

 浮遊大陸と森林が混ざったような景色が何よりの証拠である。

 だがあの2人の青年は誰だろうか。

 一人はゼノに似た赤毛だが、髪を伸ばしその上からバンダナを巻いていた。と言うか何より体格が違いすぎである。ゼノはあんなに細くはない。

 もう一人は……アフィンを黒髪にしたらあんな感じになるだろうか?

 しかしあの青年は耳が丸い。つまりヒューマンだ。アフィンはニューマンであり、耳が尖っている。

 

 ……まぁ夢の中なら知らないアークスがいてもおかしくはないが、どうもあの二人は見ていて危なっかしい。

 一人は何故か石を投げつけているし、一人はおっかなびっくりといった体でソードを片手で振るい、悉く外している。

 あれではダメだ、と背中に手をやり――気付いた。

 服装がいつもと異なっているのである。

 その姿はまさに平凡、と言った感じで、どこにでもいそうな青年の姿になっていた。

 額に角は無く、背中には武器が無い。

 

 夢の中ならこんな事もあると自分で自分を納得させ、周りを見回して倉庫端末を探すが、フィールドにあるはずもなく。

 ……仕方がない。

 普段使わない素手の拳を構え、ステップを使って原生種に接近する。

 ある程度近づいたところで一度殴り、ナックルのPA(フォトンアーツ)であるダッキングブロウ……の真似事をJA(ジャストアタック)で叩き込む。 

 一度攻撃を避けるようなフェイントを入れ、恐らく弱点であろう顔面に一発。

 どうやら低レベルエネミーだったようで、謎の原生種は塵となって消えた。

 浮遊大陸の原生種のような消え方だったが、あそこに龍族以外の原生種はいただろうか?

 

「お、おい、あんた!」

 

 夢の中とは言え、 新種かもしれない原生種を始末してしまったのはまずかったかもしれない。

 幸いまだ周りに数匹いるようなので、早速調査を……

 

「なあったら!」

 

 目の前に長髪赤毛の青年が立ちはだかった。

 Eトラはもう終わったのではないのか?

 まさかチェンジオーバーか。

 だとしたら今は正直勘弁してもらいたいのだが。

 

「イートラ……なんだって?いやそれよりも!あんたすげぇな!ソードスキルも無しに倒しちまうなんて!」

 

 ――この初心者アークスは何を言っているのだろう。

 仮にも自分はレベルMAXのFi(ファイター)/Hu(ハンター)だし、それにあの程度のエネミーならレベルが10もあれば軽くあしらえる。

 それに援護が終わったら普通は礼だけ言って立ち去るものだ。

 こんな風に話しかけてくる者は珍しい。

 

 訝しげな顔をしていると、黒髪の青年も近寄ってきた。石を投げつけていた方だ。

 ランチャーの新しい武器迷彩か何かだろうと思っていたが、よく見ると彼も背中にソードを背負っていた。

 つまり二人ともHuか。大方オーザあたりが誘導したのだろう。

 「迷ったらハンター、覚えておくといい」というセリフは初心者アークスの誰もが聞いたことがあるはずである。

 かくいう自分も、最初はHuから始めたものだ。

 

「えっと……もしかしてベータテスター仲間か?さっきのって、エクストラスキルの体術だろ?一層の序盤で取れるなんて知らなかったな……」

「えぇ!?エクストラスキルってマジかよキリト!」

 

 エクストラスキル?体術?

 まるで意味が分からない。

 今の会話で分かったのは、黒髪の青年がキリトという名前であることだけだ。

 

「……ひょっとして知らずに使ってたのか?」

 

 知らずも何も、さっきのはアークスなら誰だってできることだ。

 もっとも自分は今武器を持っていないから仕方なく使ったまでであり、普段はダブルセイバーを使っている――と説明したのだが。

 

「アークス……って何だ?それにダブルセイバーって……」

 

 話が噛み合わない。

 ここまで来るとこの二人がアークスなのかすら怪しくなってきたが、ここは夢の中だ。

 コールドスリープ中の自分は随分妙な夢を見ているなと思いつつ、二人にアークスのいろはを教えてやろうと口を開いた――その時。

 

「こりゃあ……鐘の音か?」

「何かのイベントかな……そういえばクライン、もう5時過ぎてるぞ?」

「え?うおぉマジだ!悪りぃ!今日はこの辺で……ありゃ?」

 

 クライン、と呼ばれた青年が素っ頓狂な声を上げたと同時。

 自分たちの体は突如光に包まれ――

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

「……中央広場?強制転移されたのか?」

「そ、そんな事よりキリト!ログアウトボタンがねぇ!」

「あぁ、それでさっき……要するに、致命的なバグが見つかった事に対するアナウンスだろ?運営直々に謝罪したいんだろうさ」

「な、なるほど……でもこうしてる間にも俺のピッツァが冷めて……」

 

 突如町中に転移させられ、驚きつつも周りを見渡す。

 アークスシップの市街地とは全く異なる雰囲気だが、これはこれで風情があって良い。

 ……それにしても随分と出来の良い夢である。

 周りには大勢のアークスがおり、それぞれか思い思いのことを喋っている。

 キリトと赤毛の青年……クラインと呼ばれていた彼も何かを話しているが、ログアウトだのウンエイだの、よく分からない単語ばかりだ。

 一先ず彼らは置いておいて、倉庫端末を探しに行こうとした、その時。

 空から血のような液体が垂れてきたかと思えば、それは瞬く間に赤いローブの形をとり、腕、いや袖を広げた。

 

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ」

 

 ……ローブが喋った。

 

「私の名は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」

 

 ローブは淡々とそう告げる。

 何故かその姿とあの科学者が重なって見えたが、気のせいだろうか。

 カヤバアキヒコ、と名乗ったそのローブは、さらに喋り続ける。

 ふと頬を全力でつねってみた。――HPが1削れた感覚がした。

 

「諸君は既にログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしこれはゲームの不具合ではない。繰り返す。これはゲームの不具合ではなく、ソードアート・オンライン本来の仕様である」

 

 そこからは、阿鼻叫喚だった。

 その後も続けて説明された大部分は自分では理解できなかったものの、周りの人々を絶望に叩き落すには十分だったのだろう。

 現実に返してくれ。死にたくない。こんな事認められるか。

 様々な罵声がローブに飛ぶが、何も反応を示さない。ただ黙って、顔無き顔でこちらを見つめているだけだった。

 

 もう一度頬をつねるが――痛い。

 

「最後に、ささやかだが諸君にプレゼントを用意した。確認してくれたまえ」

 

 プレゼントを用意した、とは言うが、どこにも何も現れない。

 隣を見れば、キリトとクラインは何やら手を振り、空中に何かを出現させていた。

 ……ここまでくれば嫌でも分かる。

 恐らくここは、自分がいた世界とは違う世界だ。

 そしてここはその世界の中にある別の世界……ややこしいがそういう事なのだろう。

 HPがゼロになれば“現実”で死ぬ、つまりここはエクストリームクエストのような仮想世界という事か。

 遊びのつもりで始めたものが突如命がけになったのだ。そりゃあ困惑もするだろう。

 自分もカジノにいる時にいきなり拉致られたらどんな反応をするか分からない。

 

 ……と、思考に浸っていた時。

 隣にいた2人が光に包まれると同時に自分もまた光に包まれ、なにやら身体がむずむずとした感覚に襲われた。

 光が収まってみれば、目の前には何やら無精髭を生やした短髪の青年と、女顔の黒髪少年が立っていた。

 自分の姿も先ほどまでとは変わっており、深遠なる闇との最終決戦の時の服と防具、そして武器が装備されていた。

 具体的に言えばカイゼルハウトにサイキ一式(不可視状態)にコートダブリスである。

 額に手をやればしっかりと角が生えており、完全に元の体に戻っていることが分かった。

 恐らく瞳も変わっていることだろう。

 現に隣の2人がこちらを向いて固まっている。

 デューマンがあまり認知されていなかった頃を思い出すが、ひとまず二人を連れてどこかに行かねば。

 

「と、とりあえずこっちへ!」

 

 連れて行こうとしたら逆に連れて行かれてしまった。

 細い体の割に強い力で、キリトは自分を路地裏に連れ込んだ。

 クラインも一緒である。

 

「えぇっと……聞きたい事は山ほどあるというか、むしろそっちから話して欲しいというか……」

 

 ふむ。

 こういう時はこの言葉を使うべきだろうか。

 古来より伝わる、面倒くさい説明の類を一切合切省くことかできる最強の呪文――

 

 

 

           ――かくかくしかじか、と。

 

 

 

 

 

            ◆    ◆    ◆

 

 

 

 

 

「えぇと、つまり?」

「異世界人……いや宇宙人か?」

 

 イセカイジンだのウチュージンだのは知らないが、住む世界が違うことは確かである。

 彼らの住む惑星――地球にフォトンは存在せず、電気のエネルギーで生活が支えられているらしい。

 アークスシップではほぼ全ての動力がフォトンでまかなわれているため、日常で触れる電気といえばエネミーの攻撃かフォースが使う雷系テクニック、もしくは近接武器に付与された雷属性くらいのものだ。

 

「とにかく普通じゃないってことは分かった。角もあるし」

「おまけにオッドアイで髪は水色……しかもイケメンときてやがる」

 

 角と眼はともかく、髪は人によって色が違うものというのがアークスの常識である。

 それに二人とも顔は整っているし、自分の顔はデューマンの遺伝子によるものだ。気にするほどの事ではない。

 

「お、おぉ……男に褒められてもアレだけど、ありがとよ!」

「……それで、貴方はこれからどうするんですか?えぇと……名前聞いてなかったな」

 

 そういえば言いそびれていた。

 自分の名前は……

 

 

 ……名前、は……?

 

「お、おーい?」

 

 ……妙だ。自分の名前が思い出せない。

 他人と会話している場面を思い浮かべても、皆あなただのお前だの相棒だのと、しっかりと名前を呼ばれていない。

 どこからか安藤とかいう電波を受信したが、そんな名前でないことだけは分かる。

 

 ……まぁいい、今はこう呼んでもらうとしよう。

 

「ファイター……ファイターさんか。俺はキリト。これからよろしく頼む」

「俺はクライン!頼むぜ、ファイターさんよ!」

 

 名前はそのうち思い出すだろう。

 今はただ、この鉄の城でアークスとして人々を守ろう。

 

 

 

 

 

『――泣くな、笑え――』

 

 

 

 

 

 ――また再び、()()の笑顔を見るために。

 




反響があったら続く……かもです。
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