鷹と鍵盤   作:卵白

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鷹との出会い

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僕の小さな雌鳥は 世界中で一番かわいいんだ

お皿は洗ってくれるし お部屋を掃除してくれるし

水車小屋にいって粉をひいて

あっというまに運んできてくれるし

それでもってパンを焼いて ビールも作ってくれるし

暖炉のそばに腰掛けて お話もしてくれるんだ

 

 

 

出典:マザーグース「かわいい雌鳥」

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オーナー「お疲れ様」

 

 

少しくたびれたスーツの右肩を

 

ポンポンと優しく叩いて

 

労ってくれる、オーナー。

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「いえ、どうも。」

 

 

 

 

 

どうにも、言葉が少なくなってしまう。

 

元々喋るのはあまり得意じゃない。

 

いや、寧ろ「かなり」苦手な方だ。

 

特に、目上の方となるとそれが

 

顕著だから困る。

 

言葉が続かないんだ。

 

 

 

 

 

 

オーナー「まぁ謙遜しないで。

今日の演奏もとても良かったよ。」

 

 

 

 

 

 

そんな思いを察してか、すぐに

 

反応を返してくれるこのオーナーは

 

やはり出来る人だ。

 

助かる。

 

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「どうも…」

 

 

 

 

 

 

 

その時、バーのテレビから

 

雑音と共に緊急放送が流れる。

 

 

 

 

テレビ「本日の夕方頃、○○近海にて深海凄艦、駆逐艦4隻が

確認されました。艦娘により退ける事が出来ましたが

付近の皆様は、決して海に近づかないよう注意をしてください。」

 

 

 

 

 

ああ、またか。

 

 

最近、多い。

 

人を襲う、謎の海の化け物。

 

海の近くにある、この店も

 

お陰でお客さんの入りが

 

少なくなったような気がする。

 

 

 

 

 

 

オーナー「困るねぇ…。

まぁ、まだリピーターさんが多いのが救いかな。」

 

 

 

 

 

 

 

鼻の下に蓄えた立派な髭を

 

撫でながら、呟く。

 

僕の方を見て、柔和な笑みを

 

浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

オーナー「リピーターさんの中には、

君の演奏を楽しみにして

くれる人も多いんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

そんな馬鹿な…。

 

ピアニストに憧れていたが

 

大学にも行けず、独学にも似た方法で

 

身につけた演奏なんだ。

 

ハッキリ言って

 

評価される価値もない。

 

 

 

 

 

それでも、弾き続けるのは

 

僕を拾ってくれたオーナーの

 

ためでもあるけど…

 

 

僕自身が、ピアノが好きという事が

 

一番の要因なんだ。

 

 

…どうしよう。

 

褒められなれてないから

 

どう反応して良いのかわからない。

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「え…っと」

 

 

 

 

 

 

 

再び肩を優しく叩いてくれる

 

 

 

 

 

オーナー「無理に返事をしないでおくれ。」

 

 

 

 

 

オーナー「君は十分、自信を持ってくれて良いんだよ。」

 

 

 

 

 

オーナー「大学を出てない事もわかるし、

基礎がガタガタだと言うことだってね。」

 

 

 

 

 

心苦しい

 

 

 

 

 

 

 

 

オーナー「それでも、君は良く頑張ってくれているよ。

ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

オーナーには元々、息子さんがいたという。

 

大変ダンスの才能に恵まれプロにまで

 

のし上がった実力の持ち主だったが

 

フェリーで海外へ遠征する道中に、深海凄艦の

 

襲撃に合い、亡くなられた。

 

まだ生きていたら、今の僕と同じ歳だったそうだ。

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「…ありがとうございます。」

 

 

 

 

 

 

もっと気の利いた事は言えないのか、

この口は。

 

 

 

 

 

 

 

 

間もなく、午前の3時を回ろうとしていた。

 

僕の働くバーは、こじんまりした小屋のような

 

正に「隠れ家」と呼ぶに相応しい

 

風体だった。

 

赤煉瓦を積み上げたような装飾の外壁

 

入り口であるモスグリーンの小さいドア

 

それを彩る、飾られたランタン

 

全てオーナーの趣味だけど僕自身も

 

気に入った趣だ

 

 

 

 

 

 

 

店の中は立ち飲み用の幾つかの丸いテーブル。

 

小さな木目調のカウンター。

 

窓には、ステンドグラスをあしらった装飾。

 

キャンドルと同じ光度の電飾。

 

 

 

 

 

 

そして、店の奥には重厚な質量。

 

黒光りする存在。

 

僕の商売道具である『グランドピアノ』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「今日は…少し、少なかったような、気がします。」

 

 

 

 

 

オーナー「曲がかい?お客様かい?」

 

 

 

 

 

オーナーはわかって聞いてるのでは?

 

 

 

 

 

ピアニスト「いえ…その、お客様の方で…」

 

 

 

 

やはり、上手く言葉が出てこない。

 

するとオーナーは己れの唇の前に

 

人指し指を立ててウィンクした

 

 

 

 

 

オーナー「大丈夫。良い接客、気持ちの込められた

演奏をしていれば、お客様だって

信じてくれるよ?」

 

 

 

 

 

 

途端に不安になる。

 

……僕の演奏は…伝わっているのかな…?

 

 

 

 

 

オーナー「安心なさいな。」

 

 

 

 

 

見透かすように、声をかけてくれる。

 

本当に、この人には敵わないや。

 

その洞察力、伝える言葉の取捨選択。

 

柔らかな物腰。どれを取っても一級品。

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「安心…しました。」

 

 

 

 

 

 

 

もっと…一言で感謝の気持ちを

伝えたいのに…。

 

しどろもどろしてると

 

突如オーナーが笑い出した。

 

 

 

 

 

オーナー「ハハハ!君は分かりやすいなぁ!

大丈夫さ。君の気持ちは良く分かるから。」

 

 

 

 

 

言うや否や、また笑い出した。

 

どういうこと?

 

 

 

 

 

 

 

オーナー「つまりさ、君は、言葉が少ないけど、

それ以上に『顔』が物語ってくれてるんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

……え?

 

 

 

 

 

 

オーナー「顔に出やすいねぇ。困ってる困ってる♪」

 

 

 

 

 

 

…やはりこの方には敵わないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォーン…ボォーン…

 

 

 

 

 

壁に設置された、ちょっと大きなノッポの古い時計が時を告げる

 

 

そのままお客様が入らないまま一時間が経過したようだ。

 

 

 

今は午前4時

 

 

 

 

オーナー「どれ…じゃあ、あとは任せたよ。」

 

 

 

 

 

オーナーは、自宅に戻る準備をし始めた。

 

そして、残りの閉店までの時間は僕が、切り盛りする。

 

 

元々、そんなに大きく無いお店だし。

 

 

 

『ジントニック』

『マティーニ』

『カルーアミルク』等々

 

僕でも、回せるくらいのドリンクメニューを黒板に書いて

 

残りの時間を過ごす。

 

 

 

 

 

 

カチ…コチ…カチ…コチ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…お客さん来ないな~。

 

 

 

 

カウンターに肘をついて、暇を持て余す僕。

 

 

 

ふと、目の端に僕の商売道具が入り込む。

 

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「…」

 

 

 

 

 

 

 

コツコツコツ…

 

僕はそれに近づき、優しく撫でる。

 

ここで共に働いてきた相棒。

 

 

 

 

そして、椅子に座って、

 

鍵盤に指を乗せる

 

 

 

 

 

息を軽く吸って、

オリジナルの曲を弾き始める。

 

 

 

鳥が羽ばたいて、

逞しくてそれでいて大らか、

優雅に飛び立つ様をイメージして作った曲。

 

 

 

 

でもまだ未完成。まだ、何か足りない。

 

 

 

 

 

お店を開いてからこの時間までは

 

お客さんのリクエストに従って

楽曲を弾いてきたけど。

 

毎晩、この時だけ

 

僕の好きな音楽を奏でられる秘密の時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

~♪~♪♪~♪

 

 

 

 

 

 

 

 

…ガチャ…キィ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然の訪問者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「こんばんは~…1名なんだけど…やってるかい?」

 

 

 

ここは主に『洋』に趣をおいた内装になっているがその訪問主は

 

装いは『白』『朱』といったどちらかと言えば『和』に近い印象を受ける出で立ちだった。

 

 

 

???「お~ピアノもあんじゃん♪

いいねぇ!たまにはこういう雰囲気もねぇ」

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「い、いらっしゃいませ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「あ、あのメニューはこちらに

なります・・・」

 

 

 

その『朱の彼女』はカウンターに座ると

 

その柔い表情をまるで子供のように

 

ころころと変えながら感嘆の声を上げていた。

 

そして

 

僕が差し出したタオルを手に取り

 

白い指先を湿らせた。

 

 

 

???「へぇ~、良いねぇ!メニューが最小限ってのが、なぁんか拘ってるって感じだねぇ!」

 

 

 

 

…っう!そんな…そんな意図はないんだけどなぁ…

 

 

 

???「んじゃあ、とりあえずナッツと…」

 

 

 

???「ジントニック!」

 

 

 

ピアニスト「・・・かしこまりました」

 

 

 

 

グラスにジンとトニックウォーター、そして

 

ライム果汁を入れて軽くステア(かき混ぜる)

 

そして、カウンターで両肘を着き目を瞑って鼻歌を歌っている彼女の前に差し出す。

 

 

 

 

 

ピアニスト「ジ、ジント…ジントニックです…どうぞ…」

 

 

 

 

???「ん、サンキュ」

 

 

 

 

 

それに、唇をつけて舐めるようにわずかに

口に含んだ。

 

そして、とろけるような笑顔になった、

 

言葉を出さずとも全力で『おいしい!』と

表現していた。

 

 

すごく幸せそう…

 

 

あ、そうだ…ナッツ、ナッツ…

 

 

 

 

 

~♪~♪♪~♪

 

 

 

 

店内のBGMとして普段から使用している

ジャズのCDをかける。

 

日本や外国多方面のアーティストの有名な

楽曲のジャズアレンジだから

 

外れはない…はず

 

 

 

カウンターに座った彼女はお酒が入ったという事もあってとてもお話し好きだった。

 

驚いた事に彼女は『艦娘』だった。

 

ここの港町のちかくの鎮守府に所属しているという話だった。

 

世間話から、鎮守府での生活、

提督さんと飲み明かしてお姉さんから

厳重注意を受けたこと、

…戦いの事

 

 

 

それからお互いの趣味の話しに入った。

 

 

彼女は普段からもよくお酒を飲むそうで

好きな日本酒の銘柄の話しもした。

 

それから僕の話題に移った

 

 

 

 

???「ねぇねぇ!あんたサ!」

 

 

 

 

ピアニスト「ええ、なんでしょう?」

 

 

 

 

???「さっき、あそこのピアノに座ってだろ?」

 

 

 

 

ピアニスト「…お恥ずかしながら」

 

 

 

 

???「あ~…もしかしてピアニスト?」

 

 

 

 

ピアニスト「まともな学もなく…下手の横好きですが…」

 

 

 

 

???「良いじゃん。弾けるんだろ?」

 

 

 

 

ピアニスト「はい」

 

 

 

 

???「リクエストしても?」

 

 

 

 

ピアニスト「…お手柔らかに」

 

 

 

 

???「じゃあ、何か『アップテンポ』の!

気分が上がるような…楽しいヤツな♪」

 

 

 

 

 

ピアニスト「…かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「その前に、グラスが

空いてますが…何かお作りしましょうか?」

 

 

 

 

 

 

???「ん、じゃあマティーニ」

 

 

 

 

 

ピアニスト「かしこまりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カチ…コチ…カチ…

 

 

 

 

ジャズアレンジのBGMを停止して、

代わりに店内に時計の音が響く

 

マティーニを『朱の彼女』にお作りし

グランドピアノに近付く

 

 

 

 

コツ…コツ…コツ

 

 

 

 

椅子に手をかけて、引く。

 

ゆっくりと腰を下ろして黒光りするそれを

眼下に息を吸う。

 

 

 

そして

 

 

 

 

♪~♪

 

 

♪~♪♪~♪

 

 

 

鍵盤に次々と乗せて、

水面に着水するように

奏でていく。

 

 

 

 

これは最初は眠くなるような

ゆったりとした曲調から始まり

次第に激しさを増していく

額に汗がにじんでいき

 

力が入る

 

そして曲のピークを迎えて

 

再び弾き始めの時のように

緩やかな曲調に戻り。

 

 

…鍵盤から指をはなした。

 

 

 

 

 

肩で息をするように上下させる。

 

 

 

パチパチパチパチ

 

 

 

 

グランドピアノ越しのカウンターから

 

1人分の小振りな

拍手が聞こえてきた。

 

 

 

呼吸を整え、カウンターに目を向けると

膝を組んだ『朱の彼女』が

目を輝かせていた。

 

その両手にはグラスは握られてはおらず、

手のひらを叩いて僕を暖かく賞賛して

くれているようだ。

 

 

 

 

 

???「感動したよ!アンタすごいねぇ!」

 

 

 

 

 

 

パチパチパチパチ

 

 

 

 

 

ピアニスト「いや…あの…どうも」

 

 

 

 

思わず、顔を伏せてしまう。

 

だから褒められなれてないんだよ…。

 

 

 

 

 

 

 

結局、『朱の彼女』は午前6時の閉店の時間までいてくれた。

 

『切ない』

『喜び』

『ちょっとコメディタッチ』

 

色々な曲を即興で考え、

その場で披露すると

彼女は感想を言ってくれて

何度も拍手で讃えてくれた。

 

 

 

 

…なんだかとても…

なんていったら良いのか…

『楽しい気分』だった

 

 

たくさん自分の思い通りの曲を退けたからなのか

それとも『朱の彼女』に聴いてもらえたから

なのかはわからない。

 

 

 

 

 

 

 

???「いやぁすっかり、明るくなっちまったね~」

 

 

 

 

 

 

 

ウンと背を伸ばす彼女の頬は

少し赤くなっていた。

 

 

 

お店にいる間、彼女は

カクテルはチビチビ飲んで

曲に耳を傾けていたためあまり

量を飲まなかった。

 

 

 

ピアニスト「…そうですね、今日は…、

良い天気のようですよ。お客様。」

 

 

 

 

 

???「そうかい!そりゃ良いねぇ!どれ

んじゃぁ鎮守府に戻ったら千歳と提督と、

また一杯やるかね!朝酒サイコー!」

 

 

 

 

 

お店をでて、お日様に向かって

ヒャッハーとテンションの上がるような

単語を口にした彼女の背にいつの間にか

僕は声をかけていた。

 

 

 

 

 

ピアニスト「あの…お客様、もし差し支えなければで良いんです」

 

 

 

 

???「なんだい?」

 

 

 

 

長い不思議な色の髪を揺らして

こちらを振り返る『朱の彼女』

 

 

 

 

ピアニスト「あの…お名前を、教えて頂けませんか?」

 

 

 

 

 

???「…」

 

 

 

 

???「…隼鷹」

 

 

 

 

 

 

 

ピアニスト「…え?」

 

 

 

 

 

 

???「隼鷹ッでーす!」

 

 

 

 

 

少し頬の赤い満面の笑みを浮かべる彼女は、

静かに清楚な物腰で唇にグラスを傾ける

彼女とはまるで別人のようだった。

 

『少女』と『淑女』の

二面性を持っているように感じた。

 

 

 

 

 

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