モンスターハンター ~その左手が握るもの~ 作:コクワガタ@休止
プロローグ 旅立ちの風
とある高原の村の夜明けのこと。一人の少年が今まさに村を旅立とうとしているところだった。
少年の服装は質素で丈夫な綿の服に麻のマント。そのほかに日用品や少しの現金の入った肩掛けの麻袋をかけ、腰には護身用の剣をつけている。
いや、ただの剣ではない。一般に護身に用いられるそれに比べその剣は大きく、さらに同じく大きな盾も付いている。「ハンターナイフ」と呼ばれるそれらの武装は、まだ十歳の彼が既にハンターの資格を有することを示していた。
「……今までありがとう、父さん」
昨日から自分の装備を整えてくれた、そして今自分を見送りにきている自分の父に声をかけると、
「いいか、ベルク。お前は史上最年少でハンター養成所を卒業した優等生だ。そのことを私も誇りに思っている。だが、それは実際に生活で生かしてこそ、意味を成すものだ。このことを絶対に忘れるな」
「……うん、分かってる」
「それと――」父親は彼の左腕を指差した。
「それを絶対に人前にさらすな。最悪の場合、命を落としかねん」
つぎを当てて長く伸ばした袖にすっぽりと隠されたそれには、誰にも見せられない秘密がある。
「分かってるよ」
突然、小さな女の子の声が割り込んできた。
「お兄ちゃん!!」
丘の向こうからやってきたのは今年七歳になる妹、ホルン。たった今起きてきたのだろう、寝巻き姿のままだ。その大きな眼に涙が浮かぶ。
「ねぇ、行っちゃうの?!なんで?なんで?」
「ホルン……」
「お兄ちゃんとおわかれしたくない!わたしもいっしょに行く!!」
そう言って抱きついてきた妹の頭をベルクは優しくなでる。
「……僕もホルンとお別れするのはつらい。でも、今の僕にはホルンといっしょに旅をするほどの余裕はないんだ」
「でもっ」
「じゃあ約束する。必ず帰ってくるから、そのときはいっしょに行こう」
「…………うん」
ようやく泣き止んだホルンから体を離すと、ベルクは父のほうへ顔を向けた。
「じゃあ、行ってきます」
日が昇り、風が吹き始めた。その風を背中に受けながら、ベルクは山道を下っていった。
時と場所を大きく隔てて、正午ごろ。
「ふう……」
あれから七年が経過し、ベルクは十七歳になっていた。
ベルクがいるのは遺跡平原と呼ばれる狩猟地区。その名の通り、各所に古代の遺跡が残る平原と起伏の激しい岩盤地帯からなる変化に富んだ場所だ。
その一角、ギルドが配布する狩猟区マップに「エリア2」と示された場所で、ベルクは先ほどから辺りを見回している。身にまとっている革と布が主体の軽量防具「ブレイブシリーズ」の背中には片手剣ではなく、最近開発された新武器「操虫棍」の雛形、ボーンロッドが背負われていた。
「ねぇ、ほんとにここで合ってるの?」
その後を追いかけるようにしてやってきたのはどことなく東方風の狩装束「ユクモシリーズ」をまとった少女だ。背中には小型モンスターの骨から作られた二本の短刀「チーフシックル」が帯剣されている。ベルクの隣まで来ると、少女は目を閉じた。
「心配するなよ、リナ。あのソフィアが言ってたんだから間違いはないだろ」
このエリア2には大型のつる性植物、ハタオリヅタが自生している。この植物は陽光を求めて傘のように蔓を広げる性質があり、それによって二人の頭上には蔦の天幕が広がっている。ソフィアが言うには、今回の狩猟対象はこの環境を好むらしい。
「でも、さっきから物音ひとつ聞こえないし、やっぱり居ないんじゃ……」
そうリナが言った、その時。
ガサッ。
不意にどこかで物音がした。場所ははっきりとは分からないが、どうやら蔦の上かららしいということだけが分かる。
「……ご来賓の入場だ。リナ、位置は分かるか?」
ベルクが小声で聞くと、すぐに返事が返ってくる。
「十時の方向に十七メーター。もうこっちに気づいてる」
さすがだ、と微笑む。リナの聴力は他人より優れていて、全意識を集中させれば音だけで相手の位置、挙動をつかむことができる。
「わかった。それじゃあ――」
言いつつ左手で背中のロッドをつかみ、展開する。リナも眼を開け、背中のシックルを抜刀した。
「……一狩り行こうか」
我らの団の二人のハンター、ベルクとリナの狩猟が始まった。
今回が初投稿となるコクワガタというものです。今後ともよろしくお願いします。
さて今回の小説についてなんですが――
ベルク「そんなあらたまんなくてもいいだろ、作者さん。もうちょっとフラットに話せよ」
……ベルクさん、いきなり出てこないで下さいよ。
ベルク「俺にまで敬語を使わなくでもいいだろ」
年上の人間に敬語を使うのが私のポリシーなんです。
ベルク「あんた、十七にもなってないのか。てかそんなことに変にこだわるな」
……はいはい。
ベルク「じゃあ次回もお楽しみに」