モンスターハンター ~その左手が握るもの~ 作:コクワガタ@休止
本当に申し訳ありません…………
第一話 狐狩り(1)
風を切りながら、右から爪が迫ってきた。
ベルクはそれを後ろに飛び下がって回避しながら、目前の相手に正面から向かい合った。
現在彼らがいるのは「エリア2」――ではなく「エリア4」と示される場所。赤茶色の岩石でできたフィールドで、近くにある深い谷の向こうには立派な古代遺跡がある。見る限りではほぼ完璧な形で残っているそれは一見の価値があるが、今はそんなものを見ている暇はない。
(ここまで追い立てるのには成功したけど――)
ベルクは改めて目の前の獲物を見据えた。
(本番はこっからだな)
黄と橙の色鮮やかな体毛に覆われた巨体。鉤爪のような角質の突起の生えた尻尾。後脚に比べ長く発達した前脚には湾曲した鉤爪が生える。大きな耳とバクの様に伸びた鼻先を具えた顔が仕留め損ねた外敵を捉え、大きな眼が怒りと殺意に燃える。
今回の狩猟対象、「奇猿狐」ケチャワチャが鼻を膨らませ、今度は粘液の玉を三連射する。うち二発は当たらずに近くの地面に着弾、顔面に向かって飛んできた一発はボーンロッドの峰で弾き飛ばす。刃に多少の粘液が付着するが、まだ問題なく使えるだろう。
反撃しようと近づいたところでケチャワチャが両手を振り上げる。ケチャワチャの攻撃行動のひとつ、通称連続叩きの予備動作だ。まず最初に眼前の獲物めがけて両腕をたたきつけたあと、その場から左か右に逃げた獲物を追うように回転しながら叩き付けを繰り出していく。無論、巻き込まれれば重症は避けられない。
この攻撃を回避するには、後ろへ下がってやり過ごすのが手っ取り早い。だがベルクは違う戦法をとった。
一回目の攻撃をサイドステップで左にかわした後、その場に立ち止まり、タイミングを計る。鈍く光る爪が自分の頭上に振り下ろされてくるのを知覚しながら、彼はひたすらその時を待った。
爪と自分の頭の距離が縮まる。あと十センチ、五センチ、二センチ――
(ここだ)
その一瞬の後、ベルクの体は今までいた位置から大股一歩分、右に移動していた。先ほどまで彼がいた場所を、奇猿狐の爪が深くえぐる。
この連続叩き、威力はすさまじいのだが大きな欠点がある。この時のケチャワチャは前面以外は完全に無防備、おまけに勢いを殺しきれないのか途中でとめることができないのだ。
そのままケチャワチャがさらに左に向けて叩き付けを繰り出す。当たらない上に無防備な横っ腹があらわになり、そこへ、
「はあっ!!」
全体重を乗せた一撃を繰り出す。
刃は若干ぶれて左肩に命中し、肉を深々と裂く確かな手ごたえを感じた。半分以上食い込んだロッドを思い切り引き抜くと、傷口から一気に血が噴き出す。これで当分左腕は使えない。
深手を負わされ、怒りをたぎらせたケチャワチャが雄叫びを上げようとした、次の瞬間。
「ていやぁっ!!」
奇猿狐の後ろに鮮やかな影が回りこんだかと思うと、いきなりケチャワチャがのけぞった。
「はああぁぁぁ!!」
叫びつつ、ケチャワチャの後足めがけて切りつけまくっているのはリナ。相手が振り向くと同時に一旦攻撃をやめ、そのまま相手の懐へもぐりこんで再び連続切りを繰り出す。
肉薄されれば粘液弾も腕も使えない。たちまち奇猿狐の腹に何本もの赤い線が刻まれた。
(よし、今のうちに――)
ベルクはロッドのグリップを操作し、虫笛器官を開く。その状態で棍を振り、
「いけっ!!」
腕にとまらせていた甲虫――猟虫【マルドローン】を飛ばした。
操虫棍には、武器として使う以外にその名の通り「虫を操る道具」としての役割もある。虫笛と呼ばれる装置が出す音に反応し、虫は主の指示に従い飛翔する。
マルドローンは狙い通り奇猿狐の左肩に命中。モンスター特有の驚異的な治癒能力によって傷はふさがりつつあったが、それでも気をそらすのには十分だった。
「キュオアアアッ?!!?!!」
悲鳴を上げたケチャワチャが一瞬ひるむ。ボーンシックルが空を切り、返り血で真っ赤に染まったリナがつんのめった。肩で息をしている。
「もう十分だリナ、一旦後退しろっ」
「う、うんっ」
息を切らしたリナと入れ替わる形で牙獣に切り込む。
しかし、その交代の隙を突いて奇猿狐が滑空攻撃を仕掛けた。
「ぐぅっ!!」
「きゃっ?!」
ベルクは受身を取ったものの、リナはもろに食らってしまい転倒。さらにケチャワチャが追い討ちに入る。
リナに向かっての引っかき攻撃。だがとっさにリナを突き飛ばししたベルクが左手の手甲「クンチュウアーム」で受け、事なきを得た。
(ぐ……)
鉱石にも劣らない頑強さを持つ甲虫、クンチュウの外殻を使っているとはいえ、モンスターの攻撃は苛烈。腕にじんときた痛みをこらえながら、ベルクは後ろへ下がった。
「キュウウゥゥゥ…………」
ケチャワチャもだいぶ消耗しているらしく、それ以上の追撃をせずに引き下がると、翼膜を広げ飛んでいってしまった。
「あいたたた……」
リナがむっくりと起き上がった。幸い大きな怪我は見当たらない。
「わりぃ、ヘマした。立てるか?」
「立てるよ、これぐらい」
そう言って起き上がるリナ。が、右足を踏み出した瞬間に顔をしかめ、バランスを崩した。
「……ごめん、やっぱ足首くじいたみたい。あははは……」
「あははじゃないだろ、まったく」
「ちょっとこのまま狩りを続けるのはきつそう。しばらく休憩してるからベルク一人でやっててもらえる?」
こういうとき、リナはわりとあっさり割り切る。おかげで無茶をしないため、あまりひどい怪我を負うことは無かった。
少しだけ安心して、ベルクは答える。
「ああ、じゃあ先に行ってる。たぶんとどめまで刺しちまうけどいいか?」
「好きにしていいよ」
了解、と答えてベルクは獲物が逃げたと思わしき場所、エリア9へと走り出した。
登場人物紹介
・ベルク 主人公。とある高原の村出身の十七歳。”我らの団”に所属している。同い年のリナとともに狩りをしている。武器は主に操虫棍。
・リナ ヒロイン格。ユクモ村出身の十七歳。ベルクと同じく”我らの団”所属。ハンターとしてはまだまだ未熟だが双剣の腕はなかなかのもの。料理は大得意。武器は双剣。
次回もよろしくお願いします。
ベルク「……おい作者、今回は俺たちのあとがき出演はなしなのか?」
すみません、いいネタが思いつかなくて……
ベルク「ったく……次からこういうことが無いようにしろよ」
……はい。
リナ(私はいつ出演できるんだろ…………)