九十三日目 もう一つの顔・2
『打ちますか?』そう言った俺を見て完全に福路さんは怯えていた。
額の傷を放置しても麻雀を行なった事に対してなのか、今のこの状況に対してなのかは判断付かないけど、少なくとも俺個人を彼女は恐れている。
後輩を潰された怒りに燃えていた彼女からは想像も出来ない表情、生来の気質がそうなのだろう、このままでは椅子に座る事はおろかその場から動けそうにも無い。
そんな彼女を見ていると、『相変わらず麻雀第一ですねぇそんな事じゃ将来が心配ですよ?』と微塵も心に思っていない江崎の言葉が俺に向かって投げ掛けられた。
反社会組織の人間の癖に人を心配してんじゃねぇよ、と思いはしたもののグッと堪えて無視した後、答えを待つ。
俺の予想では後数分もすれば心配性の池田さんがこっそりとこの雀荘に様子を見にくるはず、その為に態々風越の帰り際に接触したのだから来ないと困る。
重い空気の中、返事を待っていると何を思ったのか江崎が『ふーむ、どうやらお嬢さんには今の須賀さんが怖いようだ』と言って福路さんの両肩に手を掛ける。
『そこで相談です、私もお嬢さん側に回りますので須賀さんには一対三で打って貰うと言うのはどうでしょう? 私は少なくとも先ほどの三人組よりは強いですよ?』と江崎は福路さんに笑いかけるが、胡散臭さがハンパない。
江崎の企みが何なのかを考えていると、どうやら俺の予想通りに池田さんが恐る恐る入店して来てくれた。
俺の状態や何気に福路さんの肩を掴んでいる江崎を見て、池田さんは『あの、コレって、どーいう状況ですかね?』と遠い目をしながら俺へ質問を投げかける。
『特に何も、面子が揃いましたので対局を始めましょうか』そう念押しすると、彼女は『はいぃ!!』と威圧された様な震え声で返事をし、俺の上家に座る。
その様子を見て福路さんも覚悟を決めたのかキッと顔を上げて対面へ、江崎は空いた下家へと座る。
やっと目的の対局が出来る様になった、そう胸を撫で下ろし、マスターの持ってきてくれた包帯を巻いていると、江崎が卓の端を指で叩いていた。
規則的な音にモールス信号だと気が付き、その内容を解読する。
内容は単純に『ビンタ500万で打ちませんか?』というもの、店内のカレンダーを横目でみると劉さんへの上納日が丁度明日、さてはまた摘んだな?
長い付き合いな為呆れも沸かなくなったが、OKの信号を返してやった。
すると奴はにかっと笑い『いやぁ、まさか通じるとは思いませんでしたが、やってみるものですねェ!!』と言った後、『では三対一となる訳ですから差し込み防止用に我々の点棒は共通にして打ちましょうか』とほざきやがった。
恐らく俺が福路さんと打つってなった時に思い付いたのだろう、江崎に言わせてみれば上納金の金策ではなく、単なる俺へ対するハンデ付と自分の遊びだったのだろう。
尚も江崎はモールス信号で『どうせその状態になったら傀サン見たいな麻雀しか打てないでしょう? でしたら多少は難易度がある方が楽しめるはずです。という訳で須賀さんは25000点持ちの50000点返しなんて如何です?』と江崎は返して来た。
確かに一理ある、どの道裏の顔を晒した状態で表の麻雀は打てないし、江崎の言葉に乗るのも悪くはない。
俺はそう結論付けた後、モールス信号を使って『分かりました、ではその条件で』と返事をして対局に移って行った。
江崎がチラッといい人ぶってますが、実際は遊びに来たついでにお小遣い稼ぎに来ただけっていうね(白目
さらに言うなら既に摘んだ上納金分は行き道にちゃっかりと京太郎の金から抜いてます(白目