須賀京太郎の麻雀日記   作:ACS

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百三頁目

百三日目 ホンモノ

 

 

––––平山との再戦日、俺の対面に座った奴は自信満々に五百万を積んで卓に座っていた。

 

成る程それなりに打てるんだろう、それは認めるよ? ただ、今回ばっかりは相手が悪かった、まともに打つには後一桁は最低限用意しなきゃな。

 

何故なら、今回の相手は––––。

 

 

対面が俺、上家が先生一号、下家が先生二号だ。

 

 

…………………お、落ち着け俺、奇跡的な面子になったけど、マスターの話を聞いた感じじゃ平山が三人パンクさせたところで二人が入れ替わりに入ってきたらしい、あー不甲斐ない試合した俺を遂に殺しに来たのか。

 

だとしてももー少し待って欲しかったなぁ……。

 

チラッと持ってきた紙袋の中身を確認する、駅前のコインロッカーの中身を取り出して来たから数千万といったところだから、先生二人相手に夜明けまでってのはまず持たないわ。

 

平山を狩るつもりで来たのになぁ、今日は俺が狩られる日だったらしい。

 

 

無言でタバコを吸う先生二人に意識を向けながら卓に座る、合宿でもこの組み合わせで対局したけれど当たり前の様に結果は散々だった。

 

平山をトブか俺がトバされるかの勝負か……。

 

一度深呼吸し、アカギと出逢ってから不完全燃焼化していた闘争心に火を付ける。

 

サイドテーブルに紙袋を置いて意識を切り替え、対局を開始する。

 

半荘十回戦、レートは千点1万のウマ10・20、そしてビンタが50万とアリスが五万。

 

アリスとはリーチで和了った時にドラ表示牌の隣を捲り、その牌と同じ物が手牌にあった時に祝儀が付き、アリスが乗ったらまたもう一枚、無ければ終わりと言った一昔前に流行ったローカルルールだ。

 

今回のレートだと平山が作った五百万なんてのは容易く吹き飛ぶ、無論俺の数千万だって同じだ。

 

金が無くなって困りはしないけど、積んだ金は=勝敗と分かりやすいんだ、全額溶ける前に相手をパンクさせれば勝ちと言うシンプルな理屈。

 

レートの高さに平山が緊張してるみたいだけど、既に逃げられない状況なんだ腹を括って貰おうか。

 

東一局 親は平山 ドラは九筒。

 

ラス親が先生一号、そして俺の前に先生二号の親がある、一号の見はどうしようもないとしても、二号の哭きをケアしないと初っ端からリードを取られてしまう。

 

平山に関しては敵じゃないんだけど、一号の駒にされるのが目に見えてるんだよなぁ……。

 

どう打って行くか考えながら自分の配牌に目を移す、頭の中で理牌すると三・五・七・九萬、二・七・七・八筒、四・四・六・七索、北。

 

四索六索が手にあるから此奴らは二号の緑一色対策に握り潰すとして、本筋は678の三色手かねぇ。

 

平山の第一打は一索、理牌の動きと切り出し位置からタンピン系の手、同卓者がこの人ら以外なら普通の打ち筋なんだが、この人外二人には大甘な打ち方だ。

 

『––––ポン』

 

二号が親の第一打を哭く、タバコを指先に挟んだままで牌を晒して打五索。

 

この哭きで緑一色は消えた、けど第一打から哭きを入れるという事は相応の速さを持っている手だ。対々和、三色同刻、混一色、清一色、全帯、純全帯、混老頭、清老頭、三槓子、四槓子、なんだって考えられるし彼はそのどれもをやってのける男、対々和に重ねられて高打点に繋がる索子と么九牌が切れなくなった。

 

チーを入れて速攻勝負持ち込む事も出来なくは無いけど、その場合火薬庫状態のこの手では余程二号の切り出しが甘い物でないと危険牌を処理しきれずに放銃してしまう。

 

なので鳴きは見送って山へ手を伸ばす。 俺の第一ツモは四筒、元々先生二号のツモだからコレは切れない、哭き返して必要牌を喰い返される、この人に限ってはそれが暗刻ってた場合大明槓でドラがごっそり乗る事だってあり得る。

 

次に索子、么九牌を除いた状態で何を切るか? 七萬、七筒、八筒は三色に必要で九萬、九筒を引いた時に腐らせずに済むから外すとして……切れる牌が三萬五萬二筒の三牌、しかも二筒は四筒を引いて嵌三筒の受けが出来てしまった、切るとしても四筒を切りたくない以上五筒六筒のどちらかを引いてからだ、この時点じゃまだ早過ぎる。 まぁ七筒は対子だから一枚外してもいいかも知れないけど最悪断么のみで和了る事も考えるとまだ様子見だ。

 

そして么九牌の受けを考えると三萬が切り辛い、一索が鳴かれた以上断么は役に絡まない、この時点で切ったとしても当たる可能性は低いが一萬を引いた場合フリテンを引き戻さなくてはならない。

 

結果この時点で俺が切れるのは五萬しかない、本来なら初っ端から切る物じゃ無いんだが、先生達に対しては警戒し過ぎるくらいでないとダメだ。

 

幸い河に置いた五萬に鳴きの発声は掛からなかった、先生一号も流石に二号への見は必要だろうから無闇な鳴きは入れないだろうし、鳴かせる様な切り出し方はしないだろう。

先生一号は打四索、少し迂闊では?と思い掛けたが、鳴きを入れるか一瞬考えた事でチーの打てる三四索・四六索・六七索のいずれかを持っているということ、鳴きを考えるという事はそれなりに動ける形であり索子を切らずに動けるということ、そして俺自身が緑一色のキー牌を二号の様に抱えることがあること、その三つを読んでの打四索だろう。

 

コレを喰っても意味は無い、それどころか二号の鳴きでよれたツモを戻す結果になるからデメリットしかない。

 

そして二巡目に平山が手出しの西、鳴きを入れられる事は無かったけど奴の一打一打が心臓に悪い。

 

二号の第二打は五筒、これで益々染め手、全帯系が匂い始めたので一九牌が余計に切れなくなった。

 

俺の第二ツモは八索、索子である事に加えて緑一色のキー牌なので二号の配牌に対子・暗刻である可能性は高い、同じ理由で六索も切れないから索子の678は固定だ。

 

となると678の三色を目指しての決め打ち、四筒が来なかったら二筒を切ったんだけど仕方ないので打七筒。

 

『……チー』

 

………!?

 

一号が二巡目に鳴き? 789のチーだったから九筒の処理か? いや、そんな凡夫の様な真似をする様な人じゃない、相変わらず狙いの分からない仕掛けをするなこの人。

 

と、あの人の考えを読もうとしていると平山がツモ牌を見てニヤついた。

 

『ククッ、コレが俺の持って生まれた運!! リーチだ!!』

 

 

ああ成る程、ツモをズラして張らせたのか、平山の運じゃ三巡で聴牌は無理だと思ってたけど、二号が居るからなぁ。

 

平山のリーチ宣言牌は一萬、余程手が良いのか自摸る自信があるのか、と言うよりこの打一萬は一号の鳴きで張った手だからなぁ、釣り出されたってのが正解だろうな。

 

『––––カン』

 

先生二号が哭く、コレで二副露。

 

『––––カン』

 

嶺上牌一筒を暗槓。タバコの火が軌跡を描きながらドラを捲る、二号は嶺上牌五索をツモ切った。新ドラは三筒と四萬。

 

平山の視線が手牌へと移る、2枚とも乗ったのだろうな、満貫以上が確定したとして即ツモで跳満、役次第じゃ倍満まで伸びるな。

 

三枚目の嶺上牌を二号はツモ切り、切ったのは五索。

 

三色同刻は確定、ドラは乗ってないけど張ってると考えて良さそうだ。

 

その読みが合っていたのか俺のツモは四索、三色同刻が確定した瞬間に引いた四索だ、切る気にはなれないので打二筒。

 

三四筒を握ってたならロンだったけど、何とか通ってくれたか……。

 

一号は二筒を合わせ打ち、平山のツモ番に回る。

 

平山は舌打ちをしながらツモ切り、打一索。

 

『––––ロン』

 

 

倒された先生二号の手牌は二・三索、発・発。一・四索待ちだけど、一索は一巡目にポン、四索は河に一枚、俺の手牌に三枚、和了目はこの一枚だけだった。

 

『……全帯・三色同刻。80符3翻、満貫だ』

 

ツモがズレて二号が和了った、しかし一号が鳴きを入れなきゃこの和了は無かった筈、平山の点棒を削る為の鳴きかと思ってたけど……別の狙いがありそうだ。

 

 

そして、東二局が始まる。






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