キリの良い三十話を持って小学生編は終わります。
次回から時間が飛んで中学に移りますので色んな場所に足を運ぶ事になるよ!!
小学生編ラストなので今回も後書きに番外。
三十日目 執念の理由
その日も、俺は雀荘で打って居た。
日付け的には先生1号の日ではあるが、前々から江崎・後堂は予定が入っていてすこやんは試合、面子が揃わなかったので休講になった、珍しく。
だから雀荘へと立ち寄ったのだけど、暫く打ち始めたら客の入りが疎らになり始めた。
なんとなくではあったが恐らく甲斐が来たのだろう、少ししか話していないにも関わらず俺は何故かあの人が来たのだと確信を持って言えた。
店内への出入り口から案の定甲斐正三が現れる、胸を張り、自信に溢れた足取りで俺の前へ。
『京太郎、ちぃっとワシに面ぁ貸してくれんかのぉ?』と、頼んでいる形ではあるが断わっても諦めるつもりは無いだろう、昨日も車の中で散々俺を勧誘してきたのだ、この男の執念深さは身に染みて居る。
餓鬼一人に態々御苦労な、そう思ったが以前先生2号に『用が有るなら己の足で来い』と言われたらしい、成る程俺も恐らく使い走り程度相手になら同じ事をいうだろうな。
無言で席を立った俺は根負けした様に甲斐の後に付いて行き車へと乗る、何処へ行くのかなどは聞かずに唯ぼーっと窓の外を眺めていたのだけど、甲斐は『これからお前さんにはオヤジに会って貰うけぇのぉ』と言い、其処で俺と卓を囲むらしい。
その言葉を聞いた瞬間、窓ガラスの反射越しに甲斐を見つめ反射的に正気か? と聞いてしまった。
俺と対局した者は一握りを除いて二度と卓を囲もうとは思わない、憧や赤土さんの反応がその証拠。
しかしこの男は俺と打つと言った、俺の麻雀がどの様な物かを知った上で、それでも尚打つと。
『おめぇさんも、竜も、命懸けよ、命懸けの麻雀を打っとるんよ、だったらワシも命張って打たにゃ筋が通らん、おめぇらを手に入れる為なら幾らでも命張っちゃるわ』
そう言われ、改めて俺は甲斐へと振り返り、勝負を受ける事を了承した、此処まで言われたのだから俺も受けねば筋が通らない。
その後俺達は言葉を交わす事なく桜道会会長の屋敷に着いた、下っ端が会長に挨拶をしろと怒鳴りつけてきたが構わずに雀卓の前に座る。
武家屋敷に全自動卓は似つかわしくないのか手積み麻雀、字牌を捲って北を引き席に座る。
半荘一回勝負、親は会長、南家は甲斐、西家は室田とか言う男。
東1局 会長がサイを振る前に俺は一つだけ甲斐に質問をした、最終確認みたいな物だったが。
『貴方は、命を賭けると言った、ならばこの対局で敗北し、その結果死ぬ事になっても構いませんね?』
そう言った、甲斐は大笑いしながら頷いて見せた、漢に二言は無い、そう言い切った。
実力としては先生達に遠く及ばない男、東1局で満貫手を和了しては居たが経験から来る所謂アナログ打ち、年配の雀士に多い形の麻雀、常識の範囲内での強者。
実際東3局に入ってからこの男は動き出した俺を止められ無かった、満貫、跳満、倍満と和了の度に上がる打点に追い付けて居ない。
けど、彼は命懸けで牌を切り替えして来た、俺の目線で麻雀を打ち返して来た、先生達以外の面子で初めて麻雀を打っていると言う感覚を覚えたんだ。
終わりは呆気なく、役満の狙い撃ちによって甲斐がトビ終了、しかし彼がトンだのは東4局では無く南4局、最後の最後まで争われ、充実した対局だった。
終わった後、甲斐は困った顔をしながらドスを俺に渡し、『ほれ、約束じゃ、ワシの命晒してみぃ』と言って俺の目を見てきた。
言われた通りドスに手を掛けたが辞めた、殺してしまうにはこの男は惜しい、久々に麻雀を打っていて楽しいと感じさせてくれた男なのだから。
だから代わりにサングラスを貰った、甲斐は意表を突かれた様な顔をしていたが、『貴方は殺すには惜しい、しかし貴方は約束を反故にはしないでしょう、ですのでそれを対価に結果を保留としたいのですが?』と言って黙らせた、納得はしていない様だったが元々覚悟を問いただけで互いに奪い合いをする気だった訳じゃないしね。
帰りの車の中でずっと黙っていた甲斐が口を開いた『おめぇさんの麻雀は勝利を目的にしとると言っとったが、そんな理由で命刻んで一打一打を打っとる訳じゃねぇんじゃろ?』と、確かに勝つだけならこんな麻雀を打つ必要は無いかも知れない、その通りだ。 けど––––。
『皆まで言わんでいい、わかっちょるわい、おめぇさんの血が、宿命が、おめぇに勝利を求めさせとる、とどのつまりはそうゆう事じゃき』
反論はしなかった、まさにその通りだったから。
流れ行く景色、その中に見えた雀荘の二文字に視線が吸い込まれ、甲斐がまた笑いながらその店に車を向けさせた。
『まっことおめぇさんは雀鬼だのぉ、益々欲しくなったわ!! おめぇさんがどんな侠になるのか今から楽しみじゃて』甲斐の言葉を聞き流しながら彼から貰ったサングラスを掛けて入店、『まっ、私は実力で言えば小学100年生だから当然ね!!』と言って胸を張って居る少女の対面に『打てますか?』と聞いてから座る。
勝ちに勝ちまくって居るのだろう、近くに居た常連らしき人が『ボウズ、辞めときなって、この子この雀荘で一番強いからさ』と言って忠告して来たが余計なお世話だ。
付いてきた甲斐が俺の背後に立ち対局を見る、ノーレートの麻雀で俺がどう打つのかを見たいのだろう、なら魅せてやる。
対面の娘、大星は勢い良くボタンを押してサイを回す、他家は皆子供で大星の周りにも子供のギャラリーが居る事から身内達の中でもズバ抜けて彼女は飛び抜けているのだと感じた。
親の出目は大星、彼女が親になった瞬間周りの空気が一気に終わったな、と言う様な空気になった。
その理由を考える前に大星はダブルリーチ、そして山の最後の角から引いたツモで暗槓して、ダブリー嶺上開花自摸で満貫、裏ドラが四つ乗って倍満。
成る程、オカルト打ちか、そう思って点棒を支払いながら次の大星のツモを見てそっちも和了牌だと確認出来た、横目で後ろを見ると甲斐は愉快そうだ、何せ俺の配牌は悪過ぎて九種九牌で流せていた、流れを見たかったのでそのまま和了させたが。
一本場、二度目のダブルリーチ、山の角は少々遠い位置にあり五向聴以下の配牌ながら聴牌は可能と判断、一度見しただけでこの子には真っ直ぐ打っても勝てると判断し、ツモ切りマシーンと化した彼女の牌を鳴く。
一筒、二筒、三筒をそれぞれ一盃口から鳴いて三副露、4巡目以降にツモった一筒、二筒、三筒を配牌に抱えて字牌を整理して清一色聴牌、待ちは九筒単騎。
そして聴牌直後に大星が九筒を切り出したけれど見逃し、次の大星のツモが山の切れ目になる様に槓を三つ重ねる。
新ドラは一筒、五萬、五萬、嶺上牌は3枚とも八筒、槓する前にツモっていた白を切り出し 対々和 三槓子 清一色 ドラ四 数え役満を聴牌。
そして大星が引き、暗槓をした瞬間四槓流れが発生して流局、大星は『何それずっこい!!』とぷりぷり怒っていた。
流れと共に親が南家に移る、相変わらずの五向聴だけれど混一色 混老頭 七対子 の跳満を聴牌し、親を狙い撃ちして点棒と流れを奪い取る。
東3局 俺の親、大星がダブリーする、しかし元々甲斐との勝負に勝ち、流れを早々に付けていた俺はこの卓で他人の流れを食うだけでそれを支配出来る状態だった。
そんな訳で追っかけ立直、白中のシャボ待ち高目四暗刻の混一色 対々和 三暗刻の倍満確定の手、巡目が巡り山の角の牌をツモれる様に引いてきた槓材を暗槓、嶺上牌も同じく槓材で連槓、大星が涙目になったがコレは俺の二つの暗槓が彼女の和了牌だった為だろう。
そして俺のツモが山の最後に伸びる、まさかと言う顔をした大星の前で三度目の暗槓をしてそのまま嶺上開花、表も裏も全て乗ったが嶺上開花四暗刻、16000オールで上家がトビ終了。
御無礼を言い残して甲斐と共に退店しようとしたら大声で大星に名前を聞かれた、例の一件で顔は兎も角名が知れ渡っているので『雀鬼、と呼ばれています』と言って先生の持ちネタ使って帰った。
ps
対局中ずっと気になってたけど、確か大星って前に助けたおっちゃんだわ、今思い出したわ、家族写真も見せて貰ってたのにすっかり忘れてた。
なんでや!! 大星さん要らんかったやろ!! とか言ってる貴方、このアホの子が以前助けたおとっつぁんの娘です(白目
後個人的にあわあわ好きなので小学生時点で関係持たせておきたい、ヒロインレースがネリーぶっちぎりだから(震え声
以下番外。
『ネリー・ヴィルサラーゼの王子様』
世界ジュニア決勝、ネリーはあの日から麻雀を勉強し、漸く此処まで漕ぎ着けた。
始まりはたった一セントの硬貨に魔法を掛けてくれた魔法使い、彼女の王子様である彼が麻雀をやっていたから、そんな理由がきっかけだったはず。
あの裏の大会で彼女は泥沼の底から掬い上げられた、あたふたしている間に目も眩む様な大金が手に入り、何の事故も無く家族全員で安全な場所に移り住む事が出来た。
けど、あの日彼女はお別れを言う事が出来なかった、ありがとうを伝える事が出来なかった、名前すらも分からず、手に入れた馬券は異国の言葉で書かれていて読めなかった、それでも再会したいと言うその思いが麻雀へと彼女を誘う事になる。
ほんの少しでも、間接的にでも彼との繋がりをと言う思いで始めた麻雀だが、天運か才能か、彼女は世界の舞台に立った。
それは偶然だった、初めての大舞台に緊張し、飲み物を買おうと思って売店を目指した時、彼女はあの日出会った魔法使いを見つけてしまった。
歓喜、正に彼女の身体はそれで満たされるのに一秒と掛からなかった。
あの日から既に何年も経過していて、相手も成長しているのに見間違えなかった、彼も世界ジュニアに参加していたと知った今なら神の存在すら信じても良い。
今にも飛び出したい衝動に駆られた彼女だが、魔法使いの横顔を見て踏み止まる。
何故? それは彼の顔はあの時の大会の顔をしていた、ただそれだけの理由。
決してその鬼の圧に呑まれたのでは無い、彼女の王子様はその雀鬼の表情をした男なのだ、感謝こそすれ恐るなどありはしない。
だからだろう、彼女はその横顔から彼は満たされていないのだと理解した、強すぎる故の卓上での孤立感、勝利への尽き果てる事の無い執念、行き着くところまで行き着いたとしても彼は満たされない、世界ジュニアですら彼には狭すぎる、いや浅すぎるのだ。
そう直感的に感じたネリーはそのまま踵を返して己の戦場へと戻った。
自分のやるべき事、本当にやらなくてはならない事、それを今見つけ出した。
自分は彼のあの顔を知っている、他家が次々命を断つ中和了を続け、最後は自分の命すら晒されたと言うのに最後まで和了きったあの姿を。
彼が満たされないのは対等な立場の相手が居ない、その一点、ならば自分が其処まで辿り着けば良い、彼とまともに打ち合える様になればいい。
この命は彼に救われた、ならこの命この体は余すところ無く彼の物なのだ、人生を彼の為に捧げる事に躊躇いは無い。
貴方の孤独は私が必ず満たします、ですから今は我慢していて下さい、今度は私が幸せになる魔法を掛ける番です。
–––––この後、彼女はグルジアの雀姫と呼ばれる様になるのだが、それはまた別のお話。